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第十一章 十一人目 雷の魔法使いと謎の大爆発

 血の色のような真っ赤な空、荒れ地にそびえ立つ魔王の城。

勇者や戦士や数々の者が挑み、そして姿を消した。

魔物に虐げられている人々を救うため、

そこに今度は一人の雷の魔法使いがやって来た。

たった一人の老年の男だった。


 雷の魔法使いとは、文字通りに雷を扱うことに長けた魔法使いのこと。

雷を扱うとはいうものの、雷を完全に制御できるわけではない。

自然の雷を支配するのは魔法をもってしても至難の業。

雷の魔法使いは、雷や稲妻を発生させる条件を魔法で整えることができる。

魔法で雷雲を発生させたり、

あるいは物に含まれる雷の要素を取り出し増幅する、

それが雷の魔法使いである。

発生した後の雷や稲妻がどこへ向かうか、それは魔法の範疇外。

その時の状況によって異なる。

発生させた雷や稲妻を標的へ誘導することも、

雷の魔法使いに必要とされる能力といえる。

手練れの雷の魔法使いであれば、遠く離れた標的に雷を落とすこともできるし、

未熟な雷の魔法使いであれば、

自分が発生させた稲妻に自分自身が打たれることもある。

雷の魔法使いは、まず雷や稲妻から自分自身を守ることが求められる。

そのために雷の魔法使いは、樹液や樹脂から作られた衣服や靴をまとっている。

それでも絶対に安全だとは限らない。

威力と危険が隣り合わせであることが特徴なのが雷の魔法。

では、その雷の魔法使いの男はどうかというと、

年齢的には老年だが、魔法使いとしては成熟期といえる。

体の動きはやや遅くとも、魔法の詠唱の速さは衰えてはいない。

雷の性質についても深く理解していて、

この世界で知られている雷の性質についてはほぼ理解している。

もちろん、自分自身が雷の魔法の影響を受けないよう、

樹液や樹脂で作られた法衣と靴で全身を覆っている。

何よりたった一人で魔王の城までたどり着けたことが、優秀さを証明していた。


 その雷の魔法使いが魔王の城へ近付こうとすると、

近くを彷徨っていた骸骨の魔物や岩の魔物などが立ちふさがった。

雷の魔法使いは億劫そうに口を開いた。

「無駄な戦いは避けたかったが、やはり魔王の城。

 何の邪魔も無しに近付けてはくれないようだな。

 どれ、わしが相手をしてやろう。」

その雷の魔法使いは何やらムニャムニャと魔法を唱えた。

すると、頭上に黒々とした雷雲が集まり始めた。

黒い雲はどんどん広がり、中に稲光が見えるようになった頃。

ドーン!と大きな音とともに、一つの落雷が起こった。

落雷が落ちた先は、その雷の魔法使いを倒そうと魔物たちが集まっていた場所。

魔物たちは落雷を受け、バラバラになって吹き飛ばされた。

たった一度の落雷で多くの魔物が倒れ、

それを見た他の魔物たちはもうその雷の魔法使いを邪魔しようとはしなかった。

「ほっほっほ。では通らせてもらうとするか。」

そうしてその雷の魔法使いは、魔王の城の門を悠然と通り過ぎていった。


 魔王の城の内部は、捻くれた骨のようだった。

壁も床も柱までもが捻れていて、見る者の心を歪ませようとする。

しかしその雷の魔法使いは動じず、穏やかな微笑みすら浮かべていた。

ゆっくりと、しかし確実な足取りで魔王の城の内部を進んでいく。

すると、奥の方から何やらガシャガシャとたくさんの気配がする。

見ると骸骨の魔物や鎧の魔物たちが押し寄せてくるところだった。

魔物が集まっているところには雷を落とせばいい、と言いたいところだが、

しかしここは魔王の城の内部。雨雲も雷も入ってはこられない。

建物の内部での戦いは、雷の魔法使いには不利だった。

だが、それは戦いの要素の一つでしかない。

雷雲を呼べなければ、直接稲妻を起こせばいい。

そのために雷の魔法使いは、魔法の杖を取り出した。

その杖には、金属片や獣の毛皮などが埋め込まれている。

雷の魔法使いがその杖を撫でながらむにゃむにゃと魔法を唱えると、

杖の表面にまばゆい稲光が発生し、近付いてきていた魔物に渡っていった。

するとパーンと音がして、稲妻に打たれた骸骨の魔物はバラバラになった。

しかし魔物たちは後から後から押し寄せてくる。

だからその雷の魔法使いは、ムニャムニャと口と手を動かし続けた。

先程よりも速く複雑な魔法がその口から紡ぎ出される。

すると今度は複数の稲妻が同時に発生して魔物たちを続けざまに打った。

稲妻に打たれた魔物たちは、衝撃で体をバラバラにされていった。

辺りにバラバラになった骸骨や鎧が積み重なっていく。

やがて周囲に動く魔物がいなくなった後も、

積み重なった魔物の体からも細かな稲妻がピリピリと立ち昇っていた。


 押し寄せる魔物たちを打ち払い、

その雷の魔法使いが魔王の城の内部を先に進むと、

やがて行く手に三叉に分かれた通路が姿を現した。

通路は正面と左右の三つに分かれている。

いずれの道に進むべきか、その雷の魔法使いは知識に基づく思考を巡らせた。

城であるからには、最も重要な魔王の玉座はその頂上にあるのだろう。

外部から軽く見たところ、城の頂上と思われる部分は、

城の中寄りに位置しているように見えた。

「と、いうことは、ここは真っ直ぐ進むのがいいかもしれんの。

 間違っていれば、次は左右のどちらかを調べようか。」

のんびりとそう呟きながら、その雷の魔法使いは、

三叉の通路の真ん中をゆっくりと進んでいった。


 その雷の魔法使いが三叉の通路の真ん中を進むと、

行く手に魔物たちの集団パーティーが待ち伏せしているのが見えた。

骸骨の魔物に鎧の魔物、法衣を纏った魔法使いの魔物たちが集団を成している。

今度は今までとは違う、お互いの役割分担を意識した編成だった。

悠長に雷の魔法を唱えていれば、標的以外の魔物にやられてしまう。

かといって二つや三つの魔法を同時に唱えても、やはり数が足りない。

多数の魔物を同時に、少なくとも足止めすることが必要になる。

だから、その雷の魔法使いは、魔法の杖を取り出して撫で続けた。

魔法を唱え、杖を撫で続ける。

すると、杖に埋め込まれた金属片や毛皮の表面に、

パチパチと小さな稲妻が弾けるようになってきた。

だがまだ魔物へ向けては飛ばさない。さらに稲妻を蓄えていく。

そして杖に蓄えられた稲妻が十分になったところで、

その雷の魔法使いは魔法とともに手を魔物の集団の方へ伸ばした。

すると、杖の表面に蓄えられていた稲妻が雷の魔法に増幅され、

大きな稲妻となって魔物の集団へ向かっていった。

まだ異常に気がついていなかった魔物が、真っ先に稲妻に打たれ動きが固まる。

それだけでは終わらない。

稲妻に打たれた魔物の体から、近くの魔物の体へと、稲妻が渡っていく。

すると稲妻が渡った魔物もまた動きが固まった。

そしてさらにその魔物からも近くの魔物へ。

稲妻が魔物から魔物へと渡っていき、網を成していく。

自然の雷を超えた、雷の魔法の効果によるものだった。

稲妻は魔物たちの体を渡り、何度も何度も魔物を打っていく。

そうして耐えられなくなった魔物は、体がバラバラになったり、

あるいは立ったまま意識を途絶えさせていった。

さらにその雷の魔法使いが二度三度と雷の魔法を唱えた後、

魔物たちはもう動かず、

小さな稲妻をその身に宿らせるだけのものになっていた。

「ふぅ、やっと終わったか。

 流石にあれだけの魔法を一度に使うのは、体に堪える。

 今度は、次の戦いに備えて準備をしておかねばな。」

そうしてその雷の魔法使いは、倒れた魔物の体に杖を向け、

そこに残る稲妻を杖に蓄えながら、三叉の通路の先に進んでいった。


 その雷の魔法使いが三叉の通路の真ん中を進んだ先、

そこには大きくて豪華な扉があった。

中には余程に重要なものがあるのが容易に予想できる。

しかしここは魔王の城。

もちろん、タダで中に入れてくれるほど抜けてはいない。

大きくて豪華な扉の前には、同じくらいに大きな魔物が待ち構えていた。

大きな大きな、見上げるほどに大きな鎧の魔物だった。

その魔物を下から上へ見上げ、その雷の魔法使いは口角を下げた。

「やれやれ、また厄介そうな魔物がいるな。

 見ているだけで体の節々が痛んでくるわい。」

首と腰を擦りながら、そんなことを呟く。

厄介なのはそれだけではない。

この魔王の城で今までに相手にした魔物たちは複数だった。

そこに雷の魔法で増幅した稲妻を渡らせて攻撃手段とした。

ところが、今度の魔物は、一体きり。

大きな大きな魔物だが一体だけで待ち構えている。

あれでは雷の魔法で増幅させた稲妻を渡らせ続ける先がない。

雷の魔法は複数の魔物を相手にするのには有利だが、

一体の強力な魔物を相手にするのは不得手な魔法だった。

「どんな魔法を使っても、何でもできるわけではあるまい。

 とは言え、儂もこの歳になるまで雷の魔法を修練してきた。

 タダで引くわけにもいかんな。」

だからその雷の魔法使いは、準備をすることにした。

腰に手をやり、その雷の魔法使いは辺りを見渡す。

すると魔王の城の内部には、いくつかの壺が飾られていた。

手近な壺の中を見ると、水のようなものが溜まっていた。

それを片っ端から倒してこぼしていく。

すると床に水溜りが広がっていった。

しかし大きな鎧の魔物はそれに気がついていない。

きっと、その大きな魔物には、

足元に僅かな染みができた程度にしか見えないのだろう。

特に警戒する様子も見られなかった。

もちろん、小さな雷の魔法使いの姿にも気がついてはいない。

だからその雷の魔法使いは、次に何度も何度も魔法を唱え続けた。

金属片や毛皮を表面に埋め込んだ魔法の杖を擦り、魔法を唱える。

それを何度も何度も繰り返した。

その度に、魔法の杖の表面には小さな稲妻が蓄えられていった。

魔法の杖に小さな稲妻が蓄えられていっぱいになっても、まだ続ける。

何度も何度も、さらに何度も雷の魔法を唱えて稲妻を蓄える。

そんなことができるのもまた、

その雷の魔法使いほどの魔法の能力があるからだった。

長年の修練が、雷の魔法を重ねて蓄えることを可能にしていた。

やがて魔法の杖の周囲には、

蓄えた稲妻が目に見えて有り余るようになっていった。

「これくらいでよいかな。

 儂もここまで雷の魔法を重ねて蓄えたのは初めてだ。

 こいつを、あのでかぶつにぶつけてやろう。」

もちろん、いくら数を重ねても、

あの大きな鎧の魔物を一撃で倒せるとは限らない。

だから、その雷の魔法使いは準備をした。

大きな魔物の足元に広がる水溜りは、稲妻を渡らせるための相手。

いくつもの水溜りを作り、雷の魔法で増幅した稲妻を走らせ、

あの大きな魔物に何度も何度も稲妻を渡らせ打たせ続ける。

そうすれば、仮に初撃で仕留め損なったとしても、

稲妻で動きを止めて打たせ続けることができる。

その雷の魔法使いが長年の修練で身につけた戦い方だった。

だからその雷の魔法使いは、満を持して、稲妻を放った。

標的はあの大きな鎧の魔物。

魔法の杖に蓄えられた稲妻は雷の魔法によって増幅され、

大きな鎧の魔物を打ち、さらに近くの水溜りを何度も往復し、

何度も何度もその大きな鎧の魔物を打ち、最後には倒す・・・はずだった。

しかしその時、その雷の魔法使いには思いも寄らないことが起こった。

雷の魔法によって蓄えられ増幅された稲妻が、大きな鎧の魔物を打った。

それはいい。

その後に、水溜りを打った時、大きな爆発が起こった。

大きな大きな爆発だった。

それが雷の音なのか、それとも他の何かか、それすらもわからない。

それ程に大きな爆発だった。

大きな鎧の魔物は砕け散り、

それどころか、魔王の城すらも揺らぐような大きな爆発。

その雷の魔法使いが咄嗟に守護の魔法を唱えなければ、

きっと自身も無事では済まなかっただろう。

そうでなくとも、守護の魔法があっても、

無事では済まなかったくらいだったのだから。

大きな爆発によってその雷の魔法使いは、守護の魔法ごと吹き飛ばされた。

吹き飛ばされたその雷の魔法使い宙を飛び、三叉の通路まで飛ばされ、

体をあちこちにぶつけてさらにふっ飛ばされ、

ついには魔王の城の入口付近まで戻されていた。

遅れて全身を痛みが襲う。耳がキーンとなって音が聞こえない。

もしかすると骨を傷めたかもしれない。それ程の衝撃。

あまりの爆発に、大きくて豪華な扉は半開きとなっていたのだが、

遠くまで飛ばされたその雷の魔法使いからは見えなかった。

「な、何が起こったんだ?

 とにかく、このままではまずい。体が、動かない・・・。

 どうやら骨をやってしまったな。

 こうなっては仕方がない。

 帰還魔法、我を安全な場所に運び給え・・・。」

魔法を唱え終わると同時に、その雷の魔法使いは意識を失った。

しかし帰還魔法は無事に発動したようで、

風がびゅうびゅうと吹いて寄り固まってきた。

そして寄り固まった風によって、その雷の魔法使いは運ばれていった。

魔王の城から、遠く安全な王都まで。

そうして意識もなく帰還魔法によって王都に戻ったその雷の魔法使いは、

人々によって見つけられ、治癒師のところへと運ばれたのだった。



 そんなことがあって、その雷の魔法使いは大怪我を負った。

怪我は治癒師の治癒術をもってしても、治るのに長い時間がかかった。

しかし問題はそれだけではない。

あの魔王の城での戦いで、大きな謎が残った。

何故、爆発が起こったのか。

それは経験豊富なその雷の魔法使いにもわからなかった。

事情を伝え、他の魔法使いや学者たちも協力し調査を行ったが、

しかしやはり、雷の魔法が何故爆発を起こしたのか、その原因は不明だった。

ある時には、厳重な防護の下、

実際に魔王の城での状況を再現して爆発を起こしたこともあった。

再現することには成功したのだが、しかしそれでも、理由はわからなかった。

何故、雷の魔法が爆発を引き起こすのか。

爆発の正体は何なのか。

それは今のこの世界の人々にはわからないものだった。

制御できない魔法は、魔法使い自身にも危険を及ぼす。

雷の魔法が爆発を引き起こす理由がわからなければ、

軽いものならまだしも、強力な雷の魔法は使えない。

強力な雷の魔法がなければ、強力な魔物と戦って勝てる見込みはない。

そうしてその雷の魔法使いは、魔王の城への再訪を断念せざるを得なかった。


 それからさらに時は過ぎ去って。

雷の魔法が何故爆発を引き起こしたのか、今もなお、

今のこの世界の人々には理解不能なままだった。

再現はできるが理由はわからない、雷の魔法による爆発。

人々にはその利用方法もわからなかった。

魔物との戦いに使うには大きすぎる爆発。

だから人々は、雷の魔法によるその魔法の利用方法を考えた。

そうしてたどり着いた一つの見解。

それは、爆発による爆風で風車を回すこと。

風車を回し、小麦を製粉し小麦粉を作ること。

それが今のこの世界の人々が考えついた唯一の答えだった。

夜の闇を蝋燭や松明の明かりで凌ぐ人々には、

この程度の答えにしかたどり着くことはできなかった。

そうしてその雷の魔法使いは、今日も雷の魔法を唱える。

魔物との戦いではなく、爆風で風車を回すため。

今のところ、雷の魔法による爆発を再現できるのは、

その雷の魔法使いくらいのものだったから。

ドーン。

人里離れた遠くの平野で、今日も爆発が起こる。

遅れてやって来た爆風は風車を回し、

小麦から小麦粉を製粉することで人々の生活を支える。

魔物との戦いではないが、しかし人々の命を守る毎日に、

その雷の魔法使いは生きがいを感じていた。

しかし今でもふと思うことがある。

この魔法の利用方法は本当にこれでいいのだろうか。

遠くで風車が回っているのが見える。

だが、爆風で回る風車は、疑問に答えてくれることはなく、

ただ風の吹くままにその身をクルクルとひるがえすすだけなのだった。



終わり。


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