アイドル☆クレア
長いことほったらかしてすみませんでした。
まだ、読んでください、ます?
繁忙期がコロナと共に去りまする
「は、あーーーっ♡」
「……わたくし、今日はお風呂入りません、入れま、せんことよ!」
約1時間
シュボッとまたたくフラッシュにさらされ、ポージング。
特訓の成果は身体に染みており、写真を撮るにつれ、ダンス部長のダメ出しがみるみる減っていく。
そして
一人また一人
クレアの腕の中でポーズをとる女子達が、ふにゃふにゃのコンブ状態で吐き出されていく。
クレア様のお、お体にさわ、触ってっ!
腕に、だ、抱かれ、と、殿方にも許してないのよ、わたくしっ♡
キャイキャイ桃色の会話と吐息が飛び交い、中には涙ぐむ少女までいる。
(何がいいんだろ)
なんで自分が男役すると、友達は女の子達は、恋人に見せる顔になるんだろ。
アゼリアがそうだ。あのもっさり王子を見る時、とろける様な華になる。甘い蜜をこぼすかのような吐息と共に。
恋人
女の子って、こんな可愛い生き物になるんだな。男の前で。
あ、そうか。
私は、その時のための、練習台ってことかな。本物の男と違って、害がない。はしたないと叱られることもない。安全な淑女の遊び。
うん。納得。
(あ、れ?)
じゃあ、婚約者のいるこの子は?
社交界デビューしてる、この人は?
なんで私にこんな眼差しを向けるんだろ。
「……納得がいかないようね、クレア。」
休憩!
の声が入って、せんせいがタオルと薄い紙を持ってきた。
「これはね、あぶらとり紙というものよ。金を伸ばす時に使う紙なの、顔の余分な脂をとってお化粧崩れを直すの。」
ペチペチと小鼻やひたいを叩いて、先生は顔を寄せてささやく。
「……女の子がどうしてクレアに惚れてるか、分からないのよね?」
「……は、い」
素直でよろしい。
先生はにっこりして、クレアに椅子を勧めた。衣装にシワが寄るのでスツールなのだが。
「女の子はね、サナギなの。いつでも蝶になる準備はできてるわ。」
でもね
「現実に飛び立つのは、とても難しい。愛する伴侶と、守るべき家と、子供と……現実の女の子は、重い荷物を背負って羽化できない。
純粋に恋心を楽しむ時間なんて、とても切ないくらいの刻。」
「不幸なのですか?」
「全然!幸せよ。そんな風に伴侶も家族も手に入る事はね。ま、中には伴侶に恵まれない場合もあるわよね。好きでもない男に嫁ぐ事だって、そりゃあるわ。」
やっぱり女は、窮屈で不自由だ。
「ふふ。貴女が思うより女はしたたかよ。男社会のこの世の中で、女は女のネットワークを脈々と張るの。男の庇護の中で籠の鳥のフリをして
、女は女の愉しみを持つの。……女の方がコミュニケーションが上手なのも、そういう背景があるわね。」
「女の子はね、純粋な恋愛を抱く生き物よ。恋に憧れ夢を見る時期が過ぎて、現実を知ってしまっても、心に抱く純粋さは失わない。どこかに垣間見えるコイゴコロを豊かに膨らます事ができるの。」
「……その対象が私だと?」
絶好の対象じゃないの、と、先生は微笑む。
「貴女は彼女たちを傷つけない。親しみと少しの垣根が守ってくれる。そして憧れの君としての振る舞いは、妄想、っと、想像を膨らませてくれる。自分のコイゴコロを純粋に昇華してくれる。」
みんな貴女が好きなの。
アイドルなの。
「偶像?」
「もっといいもの。」
そしてね、
「今まさに、衣装や化粧、ダンスを仕込んで、アイドルを育成している喜び。一石二鳥だったわあ。…アゼリアを救う事と彼女らの趣向と♡」
ううん……よくは分からないが、皆が満足ならそれでいいか。
そして、
私はアゼリアを救わなくてはならない。乙女の決闘の最中の彼女を。
「よし!おっけ。……っお、クレア、気合入った?」
クレアの瞳がキラキラ輝くのを見たリーゼンバーグは、おろっと変化を感じ取った。
「ええ。」
要は、彼女らの最愛に成る程の存在ならば、夜会で貴族達を納得させられるという事だろう。
私とアゼリアが相愛であってもおかしくない、そんな人物として、夜会に立つ!
「はあーい、では撮影を再開しまー、っす?……ぇぇえ、く、クレアっ!」
そして。
ヴァレリオーズ邸は、程なく少女達の悲鳴と阿鼻叫喚の渦が続いた。
無論
クレアが本気で彼女たちを陥し始めたからに他ならない。
にこ(君だけだよ、の微笑み)
「キャアアアァァ……うーん」
ちゅ(可愛い、食べちゃおうかな、の手の甲キス)
「……は、ぁぁぁん♡」
ふっ(いけない子だね☆と、微笑み返しの流し目)
「お、おやめに、ならないでえっ」
そして
「さ、流石。
……遂に全員腰抜けに、させたわね」
やはり人妻は持ち堪えた。
広間に無事立っているのは、言語学教師と写真家と、妖艶なクレアのみであった。
流石にうっすら汗をかき、その上記した顔も張り付く後毛も色っぽい。
「……これで宜しいですか?」
くる、と手首を返し、長い指を上にかざすキザな仕草も、なかなかだ。
女教師は、深く頷いて
「合格。少ない経験でよくやりました。素質で力業だったわね。」
では!
異世界転移で共有した碧の記憶を活用する時がやってきたわ…
「でも、クレア。あのアゼリアを落とし、周囲を魅了するにはもう一捻り」
そして女教師は死屍累々の部屋で、しゅたっと手を上げ、ポーズ。
「ビバ!宝塚!
ビバ!俺様!
クレア!最終形態よっ!」
……よく分からないが、取り敢えずクレアは、は、はい、と返事して従う事にした。
壁ドン、顎クイ、上から45度目線、肉食な笑みと子犬な笑顔…
ありとあらゆる手練手管が教師からもたらされる。
こうして。
クレア最終形態に引き合わされた王女が、卒倒しなかったのは、この国の行末にとって心強い事だと、宰相子息は本気で思った。
彼が、夜会に写真絵師を引き入れ、トールマーレ商会と生写真を売り出す事業を提案したのは、親衛隊によって、全面的に支持されたのは言うまでもない。
終わり、に、しましたー。
いじめ防止マニュアル
侯爵令嬢のスキャンダル!の方もご一読頂けると
こいつは何がしたいんだ?
が、お分かり頂ける、と思いたい!です。
闇妃ミッドナイトクイン
は、現実世界ではありますが、どっちかっていうと、
異世界とコラボしております。宜しくお願いします