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異世界迷宮物語 ~剣聖少女はハーレムを夢見る~  作者: 綾女
二章 大魔王迷宮 その1
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第119話ちょこっと外伝『少年はモノから人に成れるのか』騎士見習い編①-10

 タメ吉達は『カンサイ』に来ていた。


 何故か? 少し問題が発生したからだ。


 『ガガシ』での魔物討伐ツアーに問題があった訳ではない。


 ツアー自体は順調に終わった。いや……順調過ぎた事が問題の遠因かもしれない。


 マミー達が沢山魔物を討伐したお陰で、タメ吉達の懐も重く、育成も大いに進んで良い事尽くめの筈だった。


 ただ……スケさん達は魔物を少々狩り過ぎた……



 夜中、二人が寝てしまうとスケさん達は暇だった。


 そこでスケさん達は、自由に狩って良いと言われた地上の魔物を狩ることにした。


 畑でなら草むしりやら色々やる事も有るのだが、ツアー中の夜中は他にやる事がなかったのだから仕方ない。


 魔物の討伐自体は、スケさんのウッカリが発動する事なく順調で、そこに問題は無い。


 ただ沢山狩った魔物の後始末に困った。地上の魔物は魔素に分解しない。


 高く売れる部位を剥ぎ取った後の、魔物の残骸をどうするか?


 迷ったスケさん達は、後で二人に相談しようと決め、それまで取り敢えずと『グランドタートル』の頭付近に一纏めにして積み上げていた。


 すると……それをヒョイッパクッと『グランドタートル』が食べたのだ。


 始末に困っていたので『グランドタートル』が食べた事に問題は無い。


 ただそれにスケさん達が盛り上がってしまった事が問題だった。


 ペットに餌を与える感覚で、幾らでも食べる『グランドタートル』に嬉しくなってしまい、周囲の魔物を狩り尽くす勢いで狩っては『グランドタートル』に与えいた。


 そしてそれを寝ていた人間達は知らなかった……


 ツアー最終日の魔物素材の買い取りで、大量の素材を売りに出して、その事が判明した時には既に手遅れだった。



 スケさん達はマミーの成長限界を超えて再び変化した。


 元々スケさん達はスケルトンの段階で亜種に変化していた。


 その為、マミーに進化した段階で、ノーマルのマミーでは無く、亜種のレアマミーになっていた。


 今回、それが更に変化して激レアなマミーになってしまった。


 『変化した』その事自体は仕方がない。だがその予想の斜め上の変化に、問題が続出した。


 与作の所のイッコは、変化の際に何故か金ピカで飾りのジャラジャラ付いた踊り子の衣装に服まで変化し、二刀流で舞い踊る舞姫型のマミー『ゴールデンダンサー』になった。


「何で服まで変わるんだ? 何処から湧いてきた?」


「タメ吉、それを言ったら、マミーになった時、包帯に覆われただろ? なら包帯だって何処から湧いてきたって事になるだろ?」


「って事は服も包帯と一緒で魔素から合成されたのか? 金ピカ……魔素から『金』が合成出来るって事か?」


「魔素だけじゃなく、周囲から取り込んでいるみたいだぞ」


「もしかして、お金が減ってるとか?」


「この金貨は保護の魔法が掛かってるから大丈夫らしい。多分、この付近の地下から砂金なり集めて合成したんじゃないか?」


 五街地域の貨幣は、鍛造段階で魔法陣が練り込まれ、偽造防止と硬貨の保護処置が施されている。


 この保護魔法陣がある為、魔物の生成の際に、取り込まれる事が無い。


「けど周囲からか……もしかして、これ利用したら延々と『金』が手に入る?」


「イッコの話だと無理っぽいな。魔力を大量に消費するから普通には出来ないらしい。下手したら魔結晶ごと消滅しかねない消費の多さだってさ」


「もしかして……危なかったのか?」


「まあ魔力が上限一杯まで貯まって、溢れ出した結果で変化したから……今回は大丈夫かな」


 魔物の持つ魔結晶には、種族や亜種毎に、固有の特徴が有る。


 又、大きさや許容魔力容量も上限が有り、上限を超えると魔結晶自体が変化する。


 この魔結晶の変化に伴って魔物は亜種に変化する。


 ただ、変化の際に魔力を大量消費する為、暫くは魔結晶内部の魔力が枯渇する。


 その状態で更に魔力を使うと、魔結晶が崩壊して魔物自体も消滅する。


「そうか良かった。変化して消滅したんじゃ罠過ぎるからな。けど大量に集めなくても良いんじゃないか? 少量を集めれるだけでも、『金』なら大儲け出来そうだけど」


 魔物は、その手に武器を手にして生成される事が有る。その際、その武器は魔素と周囲から取り込んだ物質から生成されている。


 では何かの要因でその武器を失った場合、例えば破損や紛失した場合はどうするのか?


 普通の魔物は武器屋で武器を購入する訳にもいかない。こういった場合、自らの意思で再度、生成出来るらしい。


 ただし、その場合でも魔力を大量に消費するので度々は無理だ。


「それが出来ればまさに錬金術だが、少量でも魔力消費がデカいらしい」


 『その魔力で魔物を狩った方が儲かる』とはイッコの談だ。


「そうなのか?」


「なにせ『金』だからな。近場に沢山埋まってる訳じゃ無いだろ? 広く周囲から集めるからどうしても燃費が悪い」


「それもそうか」


「それに今回は偶々周囲に『金』が有ったから良かったって話だ」


「無かったらどうなってたんだ?」


「多分だけど、『ゴールデンダンサー』じゃ無くて、他の亜種に変化したんじゃ無いか? 居るのかどうかしらないが『クロームダンサー』とかそんなのになったと思う」


「装飾品の原料になる金属によって名称が変わるって事か……」


「結局周囲から集めただけだからな。周囲に『金』が無ければ集められない。それにそこまで魔力を消費して集めても、今の布面積で精一杯なんだと」


「周囲に『金』が無いと、そもそも『ゴールデンダンサー』の成るのは無理って事か?」


「そうらしい。それにイッコの衣装は金ピカで一見豪勢だけど、普通の糸に金を蒸着させたものを織っている様だから、使用されてる金の量は少ないってさ」


「飾りの方は? あれは金だろ?」


「妙に軽いから素材の買い取りの時に序でに鑑定して貰ったら、あれは『合金』なんだそうだ。『金』の含有量は少ないって話だな」


「そっか、そりゃ残念だな」


「あのチャラチャラした飾りは魔法触媒らしいから、まあそれで良いんじゃないか? 純金とか重過ぎだし強度も弱いだろ」


「ヘェ~、思ったよりも実用性重視な格好なのか…………いやでもアレでか?」


「亜種への変化に伴っての衣装の変更だから、そうなんだろアレでも」


 衣装の下は包帯姿なので半裸と呼ぶのもどうかと思うが……際どい踊り子の衣装はその色と共に兎に角目立つ。


「そんな種類のマミーだってのは分かるが、目立つのが難点だよなぁ」


「他の服に着替えたら良いんじゃないか?」


「それがなタメ吉、この衣装じゃなきゃダメみたいなんだ」


「そりゃ又なんでだ?」


「さっきも話したが、この衣装が魔法触媒になっていて、この衣装でないと使えないスキルや固有魔法が多いらしい」


「単なる金ピカなエロ衣装じゃ無いって事か?」


「人間相手だと魅了系の技も使えるって事だから、このエロさも意味があるんだろうなぁ」


 単なる魔物のマミーなら、戦う相手が冒険者なので、魅了は脅威で、武器になる。


 だがイッコの戦う相手は、魔物だ。


「魔物相手に魅了系は意味有るのか?」


「亜人系なら意味ありそうだろ?」


 ゴブリンやオーク相手の、畑の案山子任務では大いに役立ちそうだ。


「でも……どうする? スッゴイ目立ってる」


「取り敢えず普段はローブを着て貰って、それで隠すしか無いかな?」


「まあそれしかないか」


 戦闘になったら脱げば良い。簡単な話だ。


 これが後に『戦闘の際に服を脱ぐマミーが居る』との噂になり、世の変態紳士達の心を揺さぶる事になるが、それは別のお話だ。



 同じくスニは白と白金のヒラヒラした衣装に変わり、キラキラしたロッドを手にした魔法少女型のマミー『マジカルプラチナ』になった。


 ボンキュボンな体型に、可愛い系魔法少女なミニスカ衣装で、目の遣り場に大変困る。


「何だかなあ……こう胸が……」


 タメ吉が思わず目を逸らしてしまうほど谷間くっきりだ。


 可愛い衣装だが、大きな胸の所為で胸のボタンが止められず、そこが開いている。


 その為、そこからムッチンプリンな胸の谷間が見えていた。


「だな……踊り子の衣装とは違う意味でエロい」


「踊り子の方は水着じゃないけど、ああ言った衣装だと割り切れる。けどこっちはなぁ」


「衣装自体は可愛い系でエロく見せる気が無いのに、中の人が、はちきれんばかりだからか、エロさが内から溢れ出してるよな」


 服のデザイン自体は可愛い系を目指しているが、中身がボンキュボンな為か、色々中が覗いていて、様々なボタンが止まって無かったりとセクシー系にしか見えない。


「スケさんが着れば、普通に『可愛い』だったんだろうけど、よりによって一番ボンキュボンなスニだものな」


 スニはマミー達の中で一番発育が良い。


 巨乳を通り越して魔乳に近い胸。安産間違い無しの形の良いプリンとしたお尻。


 アンデットなスニの年齢は分からないが、魔法少女なのに、明らかに少女では無い。


「はあぁ、まあ包帯姿だからまだマシだけども……」


 溢れそうな胸の深い深い谷間も、ミニスカートから覗くムッチリした太腿も、何方も包帯に覆われているので、まだマシだった。


 これで普通の肌の女性だったら痴女案件だろう。


「こっちも普段はローブを着て隠すしか無いよなぁ」



 ホネミは一見変化に乏しいが、何と透明に透き通る事が出来る様になっていた。


 実際に透明になっているわけでは無く、周囲の光の屈折を制御してそう見せているだけ『光学迷彩』というらしい。


 これがくノ一型のマミー『ミラージュクリスタル』の固有魔法だそうだ。


 常に透明な訳では無く、普段は何故かピンク色のくノ一姿。


 鎖帷子が網タイツのようで、大きな胸の所為か胸元が大きく開いて、その網タイツが覗く。


 我が儘ボディのくノ一姿は完全に何処かの対○忍……クッコロ待ったなしだ。


「なあ与作、ちょっと質問して良いか?」


「何だ?」


「何でお前の所の娘は変化が全員エロ系なんだ?」


「知るか! 俺だって何故か理由が知りたいわ!」


「お前がエロい衣装を着せてたからって理由じゃ無いのか?」


「エロ、エロ言うな! 人聞きの悪い……そもそもメイド衣装(砂漠バージョン)はエロ目的じゃない」


「エロかったぞっ?!」


「三人が着たら、何故かエロくなっただけだ。スケさんあたりなら普通に控え目なメイドさんに見える衣装だろ?」


「ああ、成る程。三人のスタイルを考慮し忘れたって事か」


「そもそもウチの嫁さんが用意した衣装だぞ。エロ目的な訳ないだろ」


 与作の嫁が、ホワイトブリムに合わせて用意した衣装だそうだ。


 スタイルがあまり関係ないフリーサイズな衣装なので、丈だけ合わせて作ったらしい。


 ただ……ボンキュボンな三人娘が着たら、何故かエロエロになってしまった……


「三人ともボンキュボンだものなぁ……前々から不思議だったんだが、マミーって包帯の下はミイラなんだよな?」


「そうらしいな」


「あの三人、アレでミイラか? おかしくないか? 特に胸とか、他にも胸とか?」


 兎に角胸がミイラに見えない。普通、脂肪の塊の様な胸は、ミイラになると真っ先に萎みそうだ。


 大変残念な事だが、干し葡萄の様にしなびているのが正しいミイラの在り方だろう。


 しかし、三人はボンキュボンで胸はプルンプルン揺れている。


 包帯で覆われて中身が実際にどうなっているかわからないが、包帯でビッタリ覆われているからこそ、より形が把握しやすい。


「お前の所の三人もそうだろ? ミイラにしては肉感的だろ?」


「ん?! だなぁ、小さくても胸がちゃんと有るものな」


「普通、ミイラなら胸なんて無い。アレは魔法で作られた擬似筋肉と一緒で、魔法で作られた擬似的な肉体らしい。その周囲を包帯で覆ってるって話だ」


 スケルトンは骨が動いているのではなく、骨の周囲に形成された魔法の擬似筋肉で動いている。


 同様にマミーはミイラな肉体で動いているのではなく、骨の周囲に形成された、魔法による擬似的な肉体で動いている。


 与作の所の三人のマミーは、包帯で周囲と区切り、それを体内として、はち切れんばかりの擬似的な肉体を形成していた。


「ならスケさんの胸も大きく出来るのか?」


 『擬似的なものならある程度自由になるのでは?』そうタメ吉は考えた。


「魔法の擬似的な肉体は、マスター登録している奴の好みや、本人達の嗜好によって変化するらしいから、アレがスケさんの好みじゃ無いか?」


 魔法によるマスター登録は、マスターと魔力のパスがゴーレムと繋がる為、マスターの嗜好がゴーレムの成長に影響する。


 ただ純粋なゴーレムでは無く、自分の意思も魂もあるスケルトンは、本人達の意思も反映されるらしい。


 マミーに進化しても、このマスター登録に変わりは無く、マミーの成長はマスターの意思とマミー本人の意思、両方に左右される。


「少なくとも俺の好みって訳じゃ無いな。小さくても良いけど、大きいのも好きだ」


 タメ吉は、自分の嫁が控え目サイズなだけに、大きな胸に憧れていた。


 ただスケさん達は同僚で、更にアンデット。別にイヤらしい目的や気持ちは無い。


 タメ吉に特殊な趣味は無いので、スケさん達はそういったものの対象外だ。


 だがそれでも、タメ吉は健全な男子として、目の保養的に大きいのは嬉しい。


「後、やっぱり骨格である程度の大きさは決まってくるらしいぞ。スケさん達は華奢だろ? 不自然に大きくは出来ないって話しだ」


 与作の集めた近隣の村々のマミー情報では、スケルトンであった時の骨格で、ある程度マミーのスタイルが決まるらしかった。


 胸が大きくなるにはそれなりの骨格が必要、そんな傾向が見られた。


 どうやらスケルトンから進化したマミーは、骨格自体はスケルトンの時の骨格を引き継ぐらしい。


 そもそも迷宮からランダムに引き抜いてゴーレム化しているスケルトンでは有るのだが、迷宮産のスケルトンには男女の骨格差だけで無く、細かな個体差が有る事が判明してきていた。


 スケルトンは骨格だけなので、差が分かり難く、今まで誰も気が付かない、気にも止めてなかっただけらしい。


 亜種というわけでは無く、生成時にランダムでスタイルに差が生まれるそうだ。


 『その魂の影響では無いか?』とも言われているが、今の所、原因究明には至っていない。


「でもイッコやスニやホネミはそこまでゴツくは無いだろ?」


「それでもスケさんほど華奢じゃない」


「って事はハツネやニコなら……」


「あの二人は前衛の戦闘志向だろ? 邪魔になるから、あの位の胸の大きさが本人も気に入ってる様だぞ」


「戦闘志向での胸のサイズ違いなら、イッコはアタッカーでホネミは斥候だろ? なのに何で大きいんだ?」


「イッコはアタッカーだが舞姫だからな、回転主体で胸の大きさが気にならないらしい。それにスニよりは小さい」


 マミーなイッコは、目が回る事が無い。だからか人間には不可能なほどの高速回転で相手を斬り刻む。


 腕を振るのでは無く、身体ごと回転する為、それ程胸は邪魔にならないらしい。


「ホネミは?」


「前衛ってわけじゃないし戦闘志向じゃないから、本人の好みもあってあの大きさらしい。それにイッコもそうだがマミーは包帯で胸を抑えて居るから邪魔になり難いそうだぞ」


 ホネミは斥候での索敵、周囲の警戒がパーティでの主任務だ。戦闘の際も、相手の行動抑制が主体な為、あまり胸の大きさが気にならない。


 それにマミーは、包帯である程度胸が拘束され揺れ難いので、走る際に邪魔にならない。


「その理由ならハツネやニコは胸が大きくても良いんじゃ無いか? 与作の所だけ胸が大きくてエロい衣装ってズルくないか?」


「だからエロいって言うな! エロいとは俺も思うが強調し過ぎだ。そもそも三人とも衣装自体はそれ程エロく無い!」


「アレの何処がだよっ!」


「ふむ、タメ吉。あの衣装を全てスケさんに着せた場合を想像してみろ」


「スケさんに? …………エロく無いなっ! 何でだ?!」


 スケさんにイッコの衣装だと、収穫祭の踊りに参加する村娘の衣装と色を除いて大差無い。


 やたらと胸が目立つのはイッコの胸が大きく、胸元が開いて谷間が強調されているからだ。


 スニの魔法少女風の衣装はそれこそ可愛いだけで、小柄なスケさんが着ると魔法少女まんまだ。


 その何処にもエロさが無かった。


 ホネミのくノ一衣装も、中身がスケさんだとごく普通の少女くノ一。エロさが無い。


「なっ? そうだろ。アレは組み合わせの問題でエロく感じてるだけだ。まあその組み合わせが悪いのが問題なんだが、エロを目指している訳じゃ無い」


 スケさん達マミーはパーティを組んで戦う内に、それぞれの個性や志向によって役割分担をして連携する様になっていた。


 そして今回、その役割分担に則した亜種に変化したようだ。


 ただ……その変化とスタイルの組み合わせが、与作の所のマミー達はエロ方向に突き抜けている。


「ん~?! けど変じゃ無いか? スニは魔法が得意で魔法火力だろ?」


「変? 変じゃ無いだろ? ちゃんと魔法火力じゃ無いか」


「いや、普通は魔法使いだろ? 何で魔法少女なんだ?」


「……あれ?!」


「ホネミも、くノ一で斥候なら普通衣装は黒じゃ無いか? 何でピンク?」


「んんっ!?」


「イッコも金ピカで有る必要があるのか?」


「……無いな」


「そもそもどの衣装も、スケさんが着れば普通かも知れないけど、胸や腰のスリットがキツくて、ボンキュボンな三人が着たら開くから当然だけどエロいぞ?」


「……」


「何故目を逸らすんだ与作?」


「くっ……確かにマスターで有る俺の好みに影響されているのかも知れん。だが男だぞ! 仕方ないだろっ」


「……まあ、そうだな。色々目立つけど、目の保養にはなるよなぁ」


「だろ? そうだよな!」


 与作は自他共に認める女好き。しかもオッパイ星人……三人がボンキュボンなのは、与作の願望の影響かも知れない。


 ただ、色々問題は多いが、与作の所はこれでもマシだった。三人は目立つだけで実害は無い。



 そう……タメ吉の所のスケさん以下三人は、実害が出る変化をしてしまった。


 具体的にはアンデットなのに聖属性に変化した。


 変化した瞬間、消滅しそうなっては流石に笑い話にもならない。


 ハツネは半透明な菱形の大きな盾が特徴的な騎士鎧姿に変わり、聖騎士型のマミー『ダイアパラディン』になった。


 そう聖騎士だ……アンデットなのに聖属性……もう意味不明だった。


 変化したその姿は優雅にマントを羽織った、凛々しい女騎士スタイル。控えめな胸とその格好は大変似合っていて、男装の麗人風でカッコいい。


 だがその聖属性は問題が多い。


「何で聖騎士なんだ? ハツネはアンデットだぞ?」


「スケさんを護って、良く盾代わりになってたろ? それでじゃないか?」


「二人は仲が良いからな……けど、それなら普通は盾騎士だろ? 何故、聖騎士なんだ」


「意味不明なんだよなぁ。けど『ステータス』魔法で確認出来るって事はアーカイブに登録されてるって事だろ? なら何処かの迷宮にそんなマミーが居るんじゃ無いか?」


「自分で自分にダメージを与えるマミーって、それ魔物としてどうなんだ? 冒険者が倒す前に消滅してるんじゃないか?」


「盾騎士だからマゾって事かも……」


「んなバカな! 少なくともハツネは喜ぶどころか困ってるぞ」


「村に戻る前に、一度『カンサイ』に寄って師匠に調べて貰うか? 他の二人もそうだが何か解決策が見つかるかも知れん」


 他の二人も同じく困っていた。


 ニコはミスリル合金製の『聖槍』を持った聖槍騎士型のマミー『ホーリーランサー』になった。


 こちらも女騎士スタイルに問題は無い。だが、その手に持つ武器が大問題だった。


 アンデット特攻のミスリルの槍。


 使用するだけで自らもダメージを負う『諸刃の剣』だ。何故ミスリルなのか? 小一時間問い詰めたい。


 まだ合金製だから良かったが、ミスリルの含有量多ければ、変化した瞬間、浄化されて消滅する所だった。


「この槍……これも魔素と周囲の物質から合成したのか?」


「どうなんだろうな? これ鑑定して貰ったら精霊の宿ってる本物の『聖槍』っぽいんだよなぁ」


 ミスリルの含有量は低いが、実際に聖属性の付与された『聖槍』で有るとの鑑定結果だった。


「魔素から合成して精霊が宿るのか?」


「分からん。この槍も調べて貰うしかないんじゃないか? そもそも普通、周囲に少量とはいえミスリルが有るか?」


「無いな! ならこのミスリルは何処から沸いたんだろ?」


「可能性の話だが、合成したのでは無くて、この周囲の砂漠に埋もれていた『聖槍』を召喚したんじゃないか?」


「そんなパターンも有るのか?」


「ハツネの盾もそうだが、この『聖槍』も明らかに他の武具と質が違う。合成したんじゃ無くて、この付近に埋まってた武具を召喚したと考えた方が自然じゃないか?」


「イッコの金が周囲に有ったから『ゴールデンダンサー』なのと同じパターンで、周囲に『ダイヤシールド』や『聖槍』が有ったから『ダイヤパラディン』や『ホーリーランサー』って事か?」


「そう言う事だ。ハツネの剣や鎧は普通の魔鋼製だ。精霊は宿っていない。けど『ダイヤシールド』には精霊が宿ってる」


「ニコの鎧も普通の魔鋼製の鎧だなぁ」


「だろ? それぞれ盾と槍だけ特別なんだ。それって不自然だろ」


「でも……何で周囲にそんな物が埋まってたんだ?」


「『ガシシ』の周囲は魔物が多いからな。冒険者が魔物と戦って落としたんじゃないか?」


「遺品って訳か?」


「『サンドワーム』あたりだと普通の冒険者じゃ太刀打ち出来ないだろ。運悪く食われた場合、砂漠にその武具が埋まる可能性は高いと思うぜ」


「『サンドワーム』か……あれは無理だな。そう考えると『グランドタートル』様々だな」


「だなぁ。遊牧民が一緒に居る理由も納得だよな」


 そしてスケさんは聖者型のマミー『セイント』になった。


 聖者の名が示す通り、アンデットなのに神官なのか、アンデットなのに加護が使える様になってしまった。


 無論、アンデットなので加護を使うと浄化されて消滅しそうになる。


 本当に意味不明だった。


 一応、無理に聖属性のスキルや加護を使わなければ問題は無い。


 そもそも三人とも、普通にマミーとして過ごすだけなら問題はない。


 ハツネは聖騎士としてスキルや固有魔法を使わなければ、自分に聖属性ダメージを受ける事は無い。


 ニコもその槍を使わずに、新たに購入した魔鋼製の槍を使えば、攻撃する度にダメージを受ける事はない。


 だがハツネと同じく、自分にダメージがあるのでスキルや固有魔法は使えない。


 スケさんも無理に加護を使わなければ、浄化される事は無い。


 ……それらのスキルや固有魔法、武器、加護に有用なモノが多く、使えないのが大変勿体無い事以外、特に問題は無い筈だった。


 問題は、三人が三人ともいざとなったら使ってしまう事に有る。


 スケさんは元々が『ドジっ子』で、更に人が良い。


 タメ吉や与作が怪我をしたら、躊躇いなく加護を使って治療しようとする。


『ついうっかり……テヘッ♪』


 そう言って誤魔化しているが、大変怪しい。


 ハツネは仲間を守る為なら、聖属性のスキルも固有魔法も躊躇いなく使用する。


 聖騎士に成る程なので、自分の身を犠牲にする事に疑問すら抱いていない。


『なんとかなったのだからそれでヨシッ!』


 何処ぞのネコの様に、取り敢えず消滅していないのなら全てヨシだ。結構男前な性格をしている。


 ニコの場合、その『聖槍』を二人が預かれば危険はなさそうなのだが、『聖槍』込みで『ホーリーランサー』なので、引き離すと存在が保てなくなるそうだ。


『何だか消滅しそうになるのっ!』


 との事なので仕方なく普段は布に包んで、背中に括り付けているのだが、ニコが危機感を抱くと、勝手にその手に転移してきて、使用してしまう。


『えへへ、槍に愛されてるって事かなぁ? 私ってばモテモテ!』


 こちらも非常に危機意識が薄い。


 流石にこのまま村に帰る訳にもいかず、『カンサイ』に寄って調べることにしたという訳だ。


 因みに『L・L』の首都『リトルモニカ』は工業は発展しているが、学術的な発展はまだまだなので調べ物に向かない。



「はぁ? これまたオモロイ変化したなぁ。エロエロに聖属性って何目指しとんねん自分ら?」


 開口一番、師匠の口から飛び出したのがこの言葉だ。


「師匠、別に目指してこうなった訳ではないんですが……」


「何故かこうなってるんだよなぁ」


「いや、こないにたわわに実って、目指してない訳ないやろ? なんやこの胸は……喧嘩売っとるんか?」


 師匠はスニの胸を視線で殺せそうな程睨む。


「コク……」


「ああぁ……」


「まあ……」


 そんな師匠の胸は……控え目サイズだった。


「なんや! 二人ともどこ見て納得してるん? ……戦争か? それ言ったら戦争やからなぁ!」


 タメ吉と与作、二人は『カンサイ』にいる知り合い。師匠の元を訪れていた。


 師匠は時々二人の住む村を訪れる、『カンサイ』の冒険者組合の幹部だ。


 『L・L』からの協力要請に基づき、二人の村に農業と畜産の指導に訪れて、その際に知り合った。


 人が良い師匠は、気軽に話せる事もあり、自警団の戦闘訓練の指導も行ってくれている。


 二人もその際に師匠から魔法や武技を習った。


 二人に『青銅』冒険者になるきっかけを与えてくれた恩人だ。


「師匠……取り敢えず胸から離れませんか?」


「エロい三人は、実害が無いから、まあ置いといて良いんじゃ無いか? 師匠」


「くぅぅ……まあええわ! でっ? 家畜の方の調子はどないなっとるん? 休暇取れる位余裕なんか?」


 師匠が胸の次に気にしたのは指導している村の様子だ。


 師匠は指導に当たって新種の家畜を持ち込んでいたので、その生育が気になるらしい。


「家畜の方は順調かなぁ。『コッコー』は卵も沢山取れるし、数も可也増えたぞ、師匠」


 『コッコー』は最近辺境で発見された家畜化された鶏で、卵と肉の美味しさ、そして飼育が楽な事が受けて、今、五街地域を中心に急速に普及している。


 家畜な鶏には『ラッシュチキン』など鶏型の魔物のベースとなった『キッカーチキン』や、家畜として古くから飼われている『ブロッカー』が他にも居る。


 『キッカーチキン』は『ラッシュチキン』のベースと言われているだけあって、シャモに似た鶏で、細身で大きく、気性が荒い。


 肉が美味しいので昔から広く飼われて居るが、養鶏家の生傷が絶えない為、大規模な養鶏に向いて居ない。


 一方の『ブロッカー』は小型で大人しく、ブロイラーに似た鶏だ。卵を良く産むので、卵用品種としてこの世界に広く普及して居る。


 こちらは飼いやすさから、大規模な養鶏に向いては居るのだが……味が卵、肉共に可もなく不可もなくで、飼いやすいから普及しているに留まっていた。


 そこで味の良い『コッコー』が最近注目されている。


 『コッコー』はヒナの頃から成体に至るまで一貫して黄色い綿毛に覆われていて、大きさ以外でヒナと成体の区別が付かない鶏だ。


 ウズラを横に広げて、大きくした様な鶏冠の無い鶏で、兎に角丸い。体長は40センチ程と『ブロッカー』と同じ程度なのだが、体重はその倍、8キロを超える。


 気性は多少荒っぽいのだが、体重の所為か動きが鈍く、元気が良い程度で余り問題にならない。


 そしてとても食欲旺盛で、生育が早く、メスは卵用、オスは肉用として出荷も早かった。


 愛らしい見た目から、タメ吉や与作の村ではペットの様に庭先で放し飼いにされている。


 雑草から小さな昆虫まで色々食べる雑食で、畑の除草や害虫駆除に役立ち、その糞も肥料になる。


 その為、村では師匠の指導の元、それを利用した『コッコー』農法が用いられていた。


 ただ、気を付けないと苗や葉野菜も食べてしまうので、ある程度管理して、作物に被害がでない様にしなければならない。


 まあ『コッコー』は魔物と違い、柵で囲めば簡単に侵入を防げるので余り問題になっていない。


 それに好みが若芽や昆虫なのか、ある程度生育した作物は食べないので、益の方が大きい。


 又、『コッコー』自身は人に害がなく、結界や柵に囲まれた人家近くの方が『コッコー』にも危険が少ないとの判断から放し飼いされていた。


 『ブロッカー』に替わって大規模な養鶏が計画されているが、今はまだ繁殖させて数を増やしている段階だ。


「『ピッグー』の方も春先に子豚が一杯生まれて、そこら辺を駆け回ってますね」


 こちらも最近辺境で発見された家畜の豚だ。


 イノシシ肉やオーク肉が多く出回るこの世界では、養豚自体が余り盛んでは無い。


 一応、『コモンビッグ』と呼ばれる豚が養豚されて居るが……この豚はとても大きい。


 下手な牛程も有る体長と800キロを超えるの体重の所為で、規模が大きくなりがちで気軽に養豚出来ない。


 昔、魔物を家畜化したのか、この厳しい世界で生き残る為に大きくなったのか……


 黒く大きな豚は、見た目の威圧感もあって余り普及していなかった。


 一方の『ピッグー』は小型で、丸い豚だ。


 ピンク色の愛らしい見た目と、丸い小さな身体。雑食で何でも良く食べ、とても飼いやすいと評判だ。


 犬より少し大きい位の大きさで、豚としては小型だ。ただし丸い体型のお陰で体重だけは300キロと可食部位が大きいのが魅力の豚だ。


 味の評判も良く、全身が豚トロに近い霜降りで、脂身の美味しさから、焼いてそのまま食べても、ベーコンに加工しても良いとされている。


 養豚に向いていると最近とても注目されていた。


 こちらも、タメ吉と与作の村で、現在養豚に向けて繁殖をさせている。


 丸い身体で転がる様に走る見た目の可愛さも人気で、こちらもペットの様に庭先で放し飼いされていた。


 以外と頭が良く、躾ると畑に入って作物を食い荒らす事がないからだ。


「『カウカウ』は?」


 『カウカウ』も最近辺境で発見された家畜の牛だ。


 既に察しているかも知れないが、師匠が持ち込んだ『コッコー』『ピッグー』『カウカウ』の三種の家畜は、五街地域の冒険者が最近まとめて発見した。


 飛空艇の定期航路を大きく外れた森の中にあった、外部と交流の無い秘境の村で飼われていたらしい。


 とても人に都合よく、更に家畜化されていた為『古代帝国時代に品種改良された家畜では無いか?』と推測されている。


 発見されたその秘境の隠れ里も『元は古代帝国の実験施設では?』との事だ。


 そんな経緯で世に出回る事になった家畜達だが、実際、とても優れていた。


 『カウカウ』は肉も中々美味しいと評判だが、乳牛として優れており、豊富な搾乳量を誇る。


 『レッドブル』を家畜化した『レッドカウ』なども肉牛として人気で、畜牛もされているが、搾乳量が少なく、乳牛には向いていなかった。


 その為、この世界では牛に変わってヤギの乳が一般的だったが、召喚者達からは飲み慣れた牛乳が望まれていた。


 そこに登場した『カウカウ』は、召喚者から注目されていた。


 ホルスタインより、一回り大きな身体で、体毛が茶色。絞った乳はジャージー牛の様に濃厚で甘い。


 アイスクリームに加工すると濃厚なのに口溶けがあっさりとして甘く、こちらは村の子供に人気だ。


 又、乳牛なのに、肉の味も良く。搾乳に用いられないオスの子牛は、種牛を残して食肉用に回されていた。


 温厚な性格で、いつものんびりと草を食む。バッファローの頭を更に大きくして平たくした様な見た目で、ツノも無く大きな割に大人しい。


 大変飼いやすいと評判になっていた。


 とても畜牛に向いて居ると、『L・L』では最近特に力を入れて繁殖させていた。


 アメリカ人召喚者の多いこの国では、やはり牛は欠かせないらしい。


 タメ吉や与作の村では師匠達の指導の基づき輪作が行われており、年替わりの四年周期で畑の区画毎に作る作物を変えていた。


 クローバーや牧草を植えた畑ではこの『カウカウ』が放牧されて、ゼリースライムと共に、土壌の改善に大いに役立ってくれていた。


「そちらも子牛が生まれて、元気に育ってます」


「土壌の改良が進んだのか、今年は単位面積当たりの収穫量が増えたなぁ」


「農耕地も又、大分増えたんやろ?」


「ですね。去年から更に増えてますね」


 周囲の魔物討伐が進み、農耕地がそれによって更に広がっていた。


「スケさん達の後輩のスケルトンも更に増えて、色々頑張ってくれてるぞ、師匠」


「コクコク」


 畑が増えたのに『コッコー』農法とスケルトンの案山子のお陰で、手間が増えるどころか減っていた。


 スケルトン達がペット感覚で躾けた『ピッグー』を連れ歩いて可愛がるので養豚も順調。


 『カウカウ』はただ草を食むだけで、それ以外は大体寝ているので手間がかからない。


 それに乳が張って苦しいのか、朝晩は『カウカウ』が自分達で搾乳場に集まるので本当に手間入らずだ。


 『カウカウ』も割と賢いらしい。


 そして搾乳作業もスケルトン任せで、人間のやる事は、健康状態の管理程度だった。


 その為、二人で長期休暇が取れる程の余裕がある。


「それやけど、女性型のスケルトンの育成頑張るんはええけど、男性型はどないなっとるん? 古参の男性型も多いやろ?」


「あっちはもう……なあ?」


「スケルトン系のまま進化して、既に『スケルトンナイト』が多いんだよなぁ」


 最終的にこちらも『レヴァナント』を目指す予定だが、現在はスケルトン系で育成が進んでいた。


「自警団の任務の時に、村の周囲のゴブリンの巣穴まで出向いて育成がてら潰して回ってます」


「もう余裕なのかアイツらだけで罠もなしでゴブリンの巣を潰してるぞ、師匠」


「そうなんか?」


「巣穴の出入り口を封鎖して、正面から侵入して潰せてますね。何せゴブリンの武器だとスケルトンにはダメージが無い。上位種が少し厄介ですけど、それ以外は無傷ですね」


「暗闇は問題無いし、休憩も要らないってんで延々とゴブリンを狩って育成出来てるんだよなぁ」


 スケルトンを案山子にした理由の一つに、暗闇でもその視界に問題が無い、暗視能力が有る。


 アンデットなスケルトンには闇は関係無い。昼と変わらない視界が夜でも有る。


 更に、生物の発生する『気』を感じ取るのか、真っ暗な洞窟はゴブリン以上に得意。


 スケルトンのアンチゴブリンとしての能力は高い。


 スケルトンでさえそれだ。ノーマルなゴブリンなど『スケルトンウォーリア』から、『スケルトンナイト』に進化した彼等の敵ではなかった。


「オークはどない?」


「最近は近くに全く居ませんね。群れ毎、大分山脈側に移動した様です。まあスケルトンに狩られまくったら普通は逃げますよ」


 骸骨が集団で襲いかかってくる。


 しかも倒しても倒しても、暫くしたら立ち上がって再び襲ってくる。


 オークからしたら悪夢以外の何者でも無い。


「ゴブリンが変わってるだけだよな。アイツら近所の洞窟に幾らでも沸くから、最近だとスケルトンが常駐して育成が捗ってるぞ、師匠」


 殲滅の終わったゴブリンの巣穴に、そのまま交代制でスケルトンを張り付けて育成していた。


「沸く端から狩っとるんか? 洞窟潰すか迷うとったけど、それなら残した方が魔素が減ってええかもなぁ」


 ゴブリンが沸くのに魔素を消費してくれた方が、他の魔物の発生が抑えられる。


「スケルトンはスケルトン同士で後輩を教育してくれるから、最近俺達の出番が無いんですよね」


 除草から害虫駆除までスケルトンがサクサク熟してくれる。スケルトン同士で指導するので、タメ吉や与作が教える必要すら無い。


 害魔物もサクサク退治して解体、『コッコー』や『ピッグー』のエサにしていた。お陰で最近は家畜が人よりスケルトンに懐いている。


「家畜の世話までしてくれるから、こんな風に休暇が取れて。本当に大助かりだよなぁ」


「お土産に、何か武器でも買って帰ろうってのも『カンサイ』に寄った理由の一つですよ」


「『L・L』でも武器は売ってるやろ? 品質もそこそこの筈やけど?」


「『スケルトンナイト』の連中はアレだと最近物足りないみたいですね。五街地域の武器に興味がある様ですよ」


「黒銀シリーズで揃えたけど、成長が遅くて……」


「なあ、それって自分らの武器よりエエのとちゃうんか?」


 タメ吉や与作の武器は『L・L』で量産されている魔鋼製の槍だ。一応精霊の宿ってる武器だが、品質はそれなりだ。


 『スケルトンナイト』の黒銀製の槍も同じ量産品だが、質はタメ吉達の物より良い。


 それもこれも最近やっと訴えてが認められて、スケルトン達にも給料が支払われる様になった結果だ。


 給料が支払われるのは良い。ただ……実際に給料を手にしても、スケルトン達には想像以上に使い道が無かった……


 衣食住、全て必要ない。


 着るものは古着で十分で、それもマミーが新品同様に修繕してくれる。


 食事はそもそも必要無い。それに案山子任務でほぼ野外生活だ。家を借りても寝る必要すらないので借りる意味が無い。


 日々の暮らしでお金を使う事がない。


 敢えていうなら水浴びの際のボディソープやタオルの購入位だろうか?


 そこでタメ吉や与作は武具を買う事を勧めた。


 『スケルトンウォーリア』や『スケルトンナイト』は進化した際に武具も生成される。


 『スケルトンウォーリア』は粗末な部分金属鎧と剣が、『スケルトンナイト』はそれよりマシな全身金属鎧と剣、盾などを手にしていた。


 だが……この武具は交換出来る。


 スケルトンに槍を装備させる事が出来る様に、武具の交換が出来た。


 当然、良い武具を装備させると攻撃力や防御力が増す。


 要らなくなったお古は後輩のスケルトンに譲る事も出来、無駄が無い。


 偶に街に買い出しに行く際に、徐々に交換して、今や『スケルトンナイト』は見た目だけは全身黒銀装備で『ダークネスナイト』の様になっていた。


「まあ俺達よりも強いですからね」


「最近逆に指導されてて……」


 最近二人は、槍の使い方を『スケルトンナイト』に指導されていた。


 進化した彼等は、その際に知識として武器の扱い方を獲得している。


 更にゴブリンなどの魔物を倒して、その知識を実戦で身に付けているので、本当に強い。


 農家と兼業で冒険者をやっている二人では太刀打ち出来ないほどだ。


「はぁ……まあ自分らがそれでええならええねんけど。って事は村の方は特に問題なくって事やな?」


 スケルトン達のマスターとしては少々情け無いが、それ以外に問題は無い?


「問題……無くは無い?」


「アレも一応問題ではあるんだよなぁ」


「何や問題って、何かあったんか?」


「家畜が……可愛すぎて」


「こう見た目が愛くるしいから、締めるのに忍びなくてなぁ」


「コクコク!」


 普及を目指している家畜達の唯一にして最大の欠点が、その家畜にしては可愛い過ぎる見た目だ。


 この問題は根深く、そもそも普及を図っている五街地域でも問題になっていた。


 家畜ではなく、ペットに飼い始める者が続出しているのだ。


「はっ? いや自分ら今まで他の家畜は締めとったやろ? 何やそれ?」


 羊やヤギは今までも飼っており、ごく自然に締めていた。


 それが農村の日常で、特に問題なかった筈だ。


「こう……スケルトン達も可愛がってるから目の前で締めると、スケルトン達の評判が悪くて……」


「コクッコク!!」


 スケルトンにとってヒナはヒナで、子豚は子豚。そこにオスメスの区別は無く、何方も可愛いペット代わり。


 オスは間引く為にも締めて肉にする。


 それがスケルトンには理解出来ない。自分達の可愛がっているヒナや子豚を殺さないでと訴えてくる。


「最近はドナドナして、解体済みの食肉で返してもらう事が多くなったなぁ」


「コクコク?」


 マミー達に分かり難い様に、敢えて『ドナドナ』と隠語をタメ吉は使う。


 そして目の前で締めずに、ドナドナして食肉業者に引き渡す事が多くなった。


「ドナドナって、それでええんか?」


 田舎の食文化を後世に伝え残す事も重要だ。


 生き物の締め方、解体の仕方を子供に伝える為にも、余り好ましい傾向とは言えない。


「近隣にゴーレムの屠殺場が出来たんですよ。纏めて処理した方が効率も良いって事です。実際便利ですよ」


 近隣の村々からドナドナされてきた家畜を、まとめて処理する屠殺場が最近出来た。


 他の村でも可愛い家畜を締めるのに困っていたらしい。


 それに加工工場も隣接して設けらている。小腸を加工してソーセージなどを作るのも、ベーコンに加工するにも、纏めて薫製した方が効率が良いからだ。


 近頃は近隣の村々から奥様達が加工工場にパートしに行っていた。


「ゴーレムの屠殺場? 又けったいなもの作ったな」


「最初はスケルトンに屠殺をさせようとしたらしいんですけど、拒否されまして。で、感情の無いゴーレムにさせる事にしたみたいですね」


「スケルトンの育成にもなるんじゃないかって期待されてたみたいだけど、精神が病むって事でダメだったらしいんだよなぁ」


「コク??」


 ゴーレム化直後のスケルトンは能力不足で難しい命令は実行出来ない。


 かといってベテランのスケルトンは自分の意思や感情があり、可愛い家畜を屠殺するのに抵抗がある。


 仕方なくそこは『ロックゴーレム』にさせていた。


 こちらは単なるロボットに近いので、黙々と家畜を定められた手順に従って締める。


 そもそも『ロックゴーレム』には可愛いさを感じる機能が備わっていない。その為、屠殺に対しての精神的な負荷も無かった。


 細々とした加工は職人が引き継ぎ、仕上げているが、精神的なストレスが減って歓迎されているらしい。


「スケルトンがストレスか……まあ自分ら見てると納得やなぁ。そもそも家畜を可愛がるスケルトンって……ほんまおもろい成長してんなぁ」


「コクコク♪」


「師匠、面白がらないで下さい」


「けど実際、当初の想定よりも育成の結果がバラエティに富んでるで? ペットの魔物と同じで、ゴーレム化したスケルトンも色々あっておもろいわ」


「ペットか……ゴーレムの場合、ペットと違ってマスターが強くなくても良いってのと、何体でも使役可能ってのは利点ですよね?」


「使役か……実際は同僚感覚でマスターってより仲間って感じだけどな」


「コクコク」


「その辺も良かったんかなぁ。自分ら善良やからな。スケルトンが大体善良に育ってるんや。当初懸念されとった暴走は一度も無いし」


「明確な利点が多いって事は、スケルトンのゴーレムは、これから他の国でも広まっていくんでしょうかね?」


「どうやろ? そもそも自分らみたいにスケルトンに抵抗無いのが珍しいんちゃうか? 他では中々厳しいんちゃうやろか?」


 スケルトンの様に簡単にゴーレム化出来る魔物は珍しい。


 見た目を改善する為に、直接『レヴァナント』をゴーレム化する試みは失敗している。


 どうやらスケルトンから進化した『レヴァナント』と、最初から『レヴァナント』で生成された魔物とでは、同じ『レヴァナント』でも違うらしい事がわかってきた。


 スケルトンから進化した『レヴァナント』は核や骨格を引き継いでおり、ゴーレムとしての機構も引き継いでいる。


 一方の迷宮などで『レヴァナント』として最初から生成された魔物は、ゴーレムとしての構造が存在しない。


 これはマミーでも同じで、最初からマミーとして生成された魔物は、ゴーレム化が成功しない。


 マミーの方には一応、核にゴーレムに似た機構は有るのだが、その魂から支配権が全く奪えなかった。


 結果、人が使役するにはスケルトンから育てるしか無いのが現状だ。


 ただ、他にもゾンビでゴーレム化が成功している。だがこちらをゴーレム化して使役しようとする者はいなかった。


 何せゾンビは匂いもキツく、見た目はスケルトンよりも更に悪い。


『進化させるとどうなるのか?』


 との実験目的で一部の研究者が育成を試してはいる様だが、順調とはいかないらしい。


 育成の為にゴブリンと戦闘させると、実際のダメージは無いのだが腐肉が傷む。


 腐肉など幾ら傷ついても問題は無い筈だったのだが……腐肉が全て腐り落ちるとゾンビは消滅する。


 この特徴がネックになった。


 腐り落ちる前に進化させ様にも、ゾンビは強く無い。動きが鈍く、足が遅い。


 その為、動作に全く関係無い腐肉が傷ついて、進化する前に消滅してしまう。


 ゾンビを進化させる事自体が困難だった。


 ならばと『フレッシュゾンビ』でも試そうとしたらしいのだが、こちらはマミーの場合と同じく、支配権が奪えずに失敗していた。


 様々な試みから、スケルトン以外はゴーレム化が難しく。スケルトンを受け入れる事が他国では厳しい状況だった。


「他……五街地域では余り誰も気にしてませんね。『ガガシ』もそうですけど、『カンサイ』でも皆んな普通に接してくれてますよ?」


「ここは今更やからな。そもそもペットどころか魔物がそのまんま出歩いとる街もある。アンデットごときは今更やなぁ。害が無い限り誰も気にせんわ」


「良く考えたら凄い街ですよね……大きな魚人族の人とか、最初、魔物かと思いました……」



 鯨人族などは巨人に分類される様な巨体だ。街中をのっそり歩く黒い四メートル超の巨人は威圧感が半端では無い。


 だが見た目に反して穏やかな種族で争いを好まない。


「わっ、えっっ!」


 喫茶店のテラス席で、スケさん達とふざけあっていたタメ吉が、身を躱した瞬間、硬い壁の様な物にぶつかった。


 ただ、そこには壁など無かった筈だ。


 一応周囲にも気を配ってふざけあっていた。そこは通りに面して居るだけ、しかもテラスは通りより一段、一メートルは高い。何もぶつかる様な物は無い筈だった。


 慌てて振り返るとそこに黒い巨人がいた。


「なっっ……」


 その巨人の姿は異様だった。


 頭髪の無いツルんとした禿頭、ザトウクジラの様な尖った顔に大きな口。


 そしてその頭部から滑らかにくびれの無い寸胴に繋がる。その寸胴から胸びれの様な太い水掻きの付いた腕に、こちらも尾びれの様な太い水掻きの付いた脚が生えていた。


 一応二足歩行の巨人では有るのだが、サギハンの亜種、そんな感じの鯨に手足をとってつけた様な姿だった。


 大きな貫頭衣を腰(?)辺りで太い麻縄で縛って着ているのだが、それがとても不自然に思える見た目だ。


 事前にそんな亜人の種族がいるとの知識が無ければ魔物にしか見えない。


「あっ……ああ、すいません」


 タメ吉はやっと謝罪の言葉が出た。暫く唖然として言葉が出なかったのだ。


 ただ巨人の目は手に持つ地図の様な紙に向いていて、タメ吉がぶつかった事にも気が付いていない様だった。


「ん~? おおっ、こちらこそすまんのう。道を塞いだか……怪我は無いかのう?」


 巨人は外見通り、いやそれ以上に太い、重低音な声で応えた。


「怪我は無いです。自分が後ろを確認せずにぶつかっただけですから、申し訳ない」


「な~に、お互い様じゃのう、怪我がなくて良かったわい」


 そう言ってペコリと頭を下げてノシノシと歩き去った。


 ただ……歩き方はノシノシなのに不思議な程気配が無い。


 巨体なのに周囲の空気の流れを全く乱さ無い。それに巨体なのに全く体重を感じさせ無かった。


 地上なのに水中にいるかの様に、泳ぐ様に、滑る様に移動していく。


「ん?! 何かの魔法を使ってるのか?」


「あの大きさだからなぁ、魔法の補助無しだと地上じゃ辛いだろ」


「成る程、けど全く気配を感じなかったな」


「コクコク」


「スケさんも気が付かなかって? あんな巨体なのに凄いな」


「滑る様に移動して来て、そこに居たからな。タメ吉に注意しようにも、間に合わないくらい自然だったな」


「コクコク」


「達人? 強そうだった? まあ実際勝てる様な気がしないよなぁ」


「冒険者なのかもしれないぞ。『カンサイ』には魚人族の冒険者も多いらしいからな」


 そんな光景が日常なのが『カンサイ』だった。



「獣人族も、人に近い姿の種族以外に、ほぼ二足歩行の獣な種族の人もいるんだよな」


 一見コボルトと見違える様な、狼人族の青年や、ワータイガーと言われても信じてしまいそうな虎人族の叔母さんが普通に街を歩いている。


「まあ『カンサイ』は色々おるからな。細かい事気にしたらあかんよ。中には魔物も混ざっとるかもやけど、気にしたら負けや」


 実際、スケさん達マミーが混ざっていたが、誰も気にしない。


 自分に害さえ無ければ、相手の種族など気にしていられない。それ程雑多な種族が入り乱れている。


「うっ……まあそのお陰で俺達も普通に過ごせてますけどね」


「マミーなのに誰も気にして無いんだよなぁ」


「まあ自分らは、普通に包帯巻いてる人にしか見えへんからな。怪我でもしてんねやろか程度やね」


 スケさん達はマミーなのに見た目が清潔で、更に肉感的。服も普通に着ているので『カンサイ』の街中では寧ろ目立たない方だった。

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