第119話ちょこっと外伝『少年はモノから人に成れるのか』騎士見習い編①-11
「で、師匠。マミーの聖属性の件ですが、何か解決策はありますか?」
「ん~、シズ姉。どないなん?」
師匠がお姉さんに尋ねる。
師匠のお姉さんのシズカ様は『風と商売の神』の高司祭。『カンサイ』の神殿のトップだそうだ。
今回、スケさん達を色々調べるのに、出向いて来て調査を手伝ってくれていた。
因みに、師匠の実の姉なのだそうだが、胸のサイズは全く違う。スニ並みの魔乳の持ち主だ。
「ふむ、そうやねえ。特に問題無いんやない? そもそもマミーは聖属性が強い魔物やさかい。気にする事あらへんよ」
「えっっ! 元々聖属性が強いってアンデットですよね」
「マゾ説が正解だったのか?」
「ふぅ~、あのな……自分らミイラってどないな理由で作られるか知ってるか?」
「ミイラな理由?」
「何だろうな?」
「コク?」
「元々ミイラは、王様や聖者が信仰の対象として、死後に祭られる為に加工されるもんや。分かるか? 信仰の対象……元々聖属性やろ?」
「そうなのか!」
「知らなかったな」
「コクッコク」
「その信仰の対象のミイラが、手違いでアンデット化したんが本来のマミーや。聖属性のままアンデットになってはるから、元が聖者のマミーは加護が使える。不思議やあらへんね」
「けど……加護を使うと浄化されて消滅しますよね?」
「スケさんはそうなんだよなぁ」
「コクコク」
「聖属性に対する抵抗値が低いんやろなぁ。元々が聖者のマミーとちごて、元がスケルトンやさかい、聖属性に馴染んどらんのやね」
「元が聖者なマミーは加護を使ってもダメージが無いって事か?」
「そうなのか……けど神様的にアンデットに加護を授けるってのはどうなんだろう? 問題無いのかな?」
「スケさんやったか? この娘に加護を授けとるんは『大地母神』様やから、全く問題ないなぁ」
「『大地母神』様だったのか……」
「でも何でだ?」
「コク??」
「マスターはどっちや?」
「俺です」
「あんたはタメ吉やったか? タメ吉は『大地母神』様の信徒やろ、違うか?」
「俺は信徒ですけど……スケさんは特に信徒じゃないですよ?」
「コクコク」
「あんたがマスターやから、当然スケさんも信徒や。他の神様やったら違うって分けはるかも知れへんけど、『大地母神』様はそんなん気にしいへんわ」
「割と大雑把なのかな?」
「『大地母神』様ってそうなのか?」
「コクコク?」
「信徒が魔物だろうと魔族だろうと全く気にしいへんのが『大地母神』様や。『割と』やのうて大雑把やね」
「うっ……そうなんだ」
因みに与作も『大地母神』様の信徒だ。
「けど……何でスケさんは『セイント』に変化したんだ? 加護を授かったからか?」
「コク?」
「そうなんじゃないか?」
「ふむ? まあそれもあるんやろうけど……そもそも加護を授かるって事はや、何か功徳を積んだって事や。心当たりがないか?」
「功徳? 畑仕事だろうか?」
「家畜を可愛がってたからか?」
「コク……?」
「それでは弱いなぁ。他とちごて『聖者』認定されてるんや。もっと他に何かして無いか?」
「えっ……『聖者』認定されてる?!」
「スケさんアンデットなのに『聖者』なのかっ?」
「コクッ!?」
「さっきから言うてるやないの。『セイント』はまんま『聖者』やろ。ならスケさんは『大地母神』様が『聖者』認定してはるんやね」
「元々スケルトンなアンデットを『聖者』って……流石に大雑把過ぎるんじゃ無いですか?」
「『大地母神』様って大丈夫なのか?」
「コクコクッ?」
「はぁぁ……アレやね。アンタ、農業指導だけやのうて、説法もした方が良かったの違うやろか?」
「シズ姉、ウチが説法苦手なの知っとるやろ? そんなん無理やで」
「ほな今度から、ウチもついていくしかないなぁ」
「何か間違ってましたか?」
「うちは農家で代々『大地母神』様を信仰してただけで教義とかはなぁ」
「俺も良く知らないんですけど……」
「コクコク」
タメ吉や与作の村には神殿が無い。そして当然の様に神官も居ない。
二人とも『大地母神』様の信徒ではあっても、代々口伝で伝わっている儀式を少し知っているだけで、祝詞すら我流だ。
教義など知り様も無かった。
そしてマスターのタメ吉がこうなのだから、元スケルトンなスケさんは祝詞すら唱えた事がない。
「そもそもの神様の捉え方の問題やね。六柱神様は有名やけど、それ以外にも神様がいる事は知ってるか?」
「色々いるってのは聞いた事があるな」
「六柱神様も良く知らないけどな」
「コクッコク」
「ん~……そないな認識か……なら、神様には邪神って呼ばれる神様もいる。それは知ってるか?」
「それは知ってるな。ゴブリンを創り出したとか?」
「村でも子供に説教する時に『悪い事をすると邪神に目を付けられてゴブリンにされるぞ!』って脅しますね」
「コク?」
「まあその邪神も六柱神様も同じ神様や。違いなんてあらへんよ」
「同じ?!」
「えっ?!」
「コク?!」
「ええか? 人間に都合が良えのが六柱神様で、人間に都合が悪いんが邪神や。そう人間が区別してるだけで元々違いなんてあらへんよ」
「人間の都合……」
「違いが無い……」
「コク……」
「邪神にも色々おるんやけど、アンデット、不死者を司る『冥府の神』様も一応、邪神扱いやね」
「そうなんだ」
「冥府?」
「コク?」
「冥府ってのは死者の国や言われてるな。でもって『冥府の神』様と仲が良えのが『大地母神』様や」
「なっっ!」
「マジか!」
「コクッ!」
「輪廻転生で言うたら、命生み出す母なる大地と、死者の魂を癒す冥府は表裏一体やで。姉妹みたいなもんで仲は良えよ」
「そうなんだ」
「勉強になるな」
「コクコク」
「せやから『大地母神』様はアンデットでも信徒ならかまへんのやね。アンデットを嫌ってないんや。冥府にいようが現世にいようがそんな細かい事どうでも良え」
「輪廻が狂いませんか?」
「だよなぁ?」
「コクコク?」
「違うで、自分らの勘違いや。アンデット言うても滅ぶやろ? 消滅したら冥府に行くやんか、遅いか早いかの差や。そんなん神様の尺度からしたら誤差やな」
師匠が二人の勘違いを指摘する。
「永遠不滅なんてあらへんよ。アンデットは一度死んでも現世に留まってる。それだけやね」
「でも……アンデットが加護を使うと浄化されますよね」
「神聖力はそう信仰されて、そう望まれた力やからな。当然やね」
「望んだから?」
「信仰?」
「コク?」
「元々の『力』そのものには色なんて着いてへん。『力』は『力』で何かを起こすエネルギーや。魔法は魔物も人間も区別せんと使えるやろ? 魔力に色なんて着いてへん、それと一緒やね」
「魔力は分かるけど……」
「神聖力はどうなんだ?」
「コクッ?」
「神聖力の元になってる『天蓋の力』言うんは、普通の人間が扱うには強過ぎるさかいな。せやからそれを神様が、自分を通して加工して、人に扱える様にしてはるんが神聖力や」
「そうなんだ」
「加工?」
「神様言うんは、人々の信仰、人々の望みや願望がその根幹になっとるんや。せやから神聖力も、その求めに応じて形を変えるんやで」
師匠が説明を足し、それをお姉さんが引き継ぐ。
「『大地母神』様に人々は豊作と癒しを求めるやろ? せやから『大地母神』様の神聖力はその力が強い。同じ様に『光と太陽の神』様には正義と浄化を求める。せやからその力が強い。分かるか?」
「って事は『大地母神』様の神聖力は浄化作用が弱い?」
「弱い感じはしないけど……」
自警団の任務で、ゴブリンの巣穴討伐などで傷を負うと、先ずは消毒で『浄化』を使う。
何せゴブリンの巣穴は汚い。消毒しないと傷が化膿して治らない。
普通はそのまま『回復』も使うべきなのだろう。だがタメ吉達は『浄化』だけで、ある程度、血が止まるのでそのままにしていた。
だから『浄化』の効果が弱いと思った事が無い。
「比較したらの話やさかい。弱いわけやあらへんよ。それに癒しと浄化は似た様なもんやろ?」
「そうなのか?」
「どうなんだ?」
「コク?」
『回復』と『浄化』は違う加護で、効果も違う。一緒と言われても理解し難い。
「『治癒』言うんは治す。怪我も病気も、正常な人の状態やない。せやからそれを正常な状態に治すんや。な? 『浄化』と似た様なもんやろ」
「んんっ!?」
「ふむ、さっぱり分からん。与作は理解出来るか?」
「見縊るなよタメ吉! 俺がそんなに頭が良いわけ無いだろ!」
正直『どこがやねん!』と突っ込みを入れたい気分だ。師匠の姉で無ければ既に入れている。
「はぁ~、まあ良えわ続けるで? 『浄化』は祓う。穢れや異常を祓って清める。これも言うてみれば異常な状態を正常に戻してるだけや。細かい違いはあれど根本的には一緒やね」
「ん~~? 分かるかタメ吉」
「ふっ、俺に分かる訳ないだろ」
さっぱりわからない。
「しゃあないな。簡単な例を出したるわ。アンデットに『浄化』掛けたらダメージくらうのは知ってるやろ?」
「あっそれは聞いた事がある」
「でや、『回復』もそうやけど『治癒』をアンデットに掛けてもダメージくらうで」
「アンデットの傷は魔法や加護では治せないってヤツだな」
「コクコク」
これには何時も苦労していた。
物理攻撃に強いスケルトンも無敵では無い。骨自体は物理的にそこに有るので、オークの棍棒で骨を砕かれると、回復するのに時間が掛かる。
ゴブリンも上位種のホブゴブリン辺りだと、同じ様に骨を砕かれる事がある。
スケルトンは、骨を砕かれても時間さえ掛ければ、その骨は元に戻り、死ぬ事はない。
だが回復までは片手が使えない、片足が使えないなどの状態になりとても不便で苦労する。
タメ吉達もなんとか治療してやりたいが、添え木を巻くくらいしか治療出来ない。
アンデットなスケルトンに『回復』は逆効果でダメージを与えるので仕方がなかった。
「何でダメージになるんだろうな?」
「そう言えば不思議だな」
「コク?」
「アンデットってのは死んでるんや。死んでるのに魂が骸骨や死体に宿って動いとる。ゴーストっておるやろ。あれが物に取り憑いた様な状態やな」
「ゴーストとの差は何ですか?」
「ゴーストってのは魂だけや、器があらへんから不安定なんやな。で、安定する為に器が有ると入り込む。地上で発生するスケルトンなんかはそうやな。骨とゴーレムの様な動く為の機構、器が準備されとるから、それに宿って魂を安定させとるんや」
地上でスケルトンやゾンビが発生する場合はこのパターンが多い。
遺体と魔結晶が融合し、核が形成されると、付近のゴーストがそれに宿って動き出す。
ただ迷宮で発生する魔物のアンデットは、なんの魂なのか、そもそも何処から来た魂なのか全く不明なのでこのパターンに当てはまらない。
魔物として生成された段階で、何らかの魂を宿して動き出す。
「ヘェ~、で、師匠。それと『回復』でダメージ受けるのがどう繋がるんだ?」
「『回復』は正常な状態に戻す作用が有る。アンデットの魂にとって正常な状態ってのは成仏して冥界に行くことや。スケルトンも仮初の器に魂が宿っとるだけやから、『回復』掛けたら、魂が成仏しようとする。それがダメージにみえるだけやで」
「って事はスケさん達も、本当は成仏したいのに、無理矢理この世に止まらされてる?」
「まあこれは一般論や。ただのスケルトンは意思が弱いやろ? 意識もはっきりせん。その状態言うんはほんまに仮初に宿っとるだけで、魂は直ぐに成仏したいんやろな」
実際その状態のスケルトンは『浄化』どころか『回復』であっさり消滅する。
「はあ、ではスケさん達は?」
「本人に聞いてみたらええやんか?」
「コクコク!」
「成仏したいとは思ってない? そうなのか?」
「コクコク」
「まあここまで意思が強うなって、意識もはっきりしたら、生きてるんと大差ない。器と魂の定着も進んどるから、もう仮初や無いな」
「なら大丈夫なのかな?」
「コクコク?」
「ただな、アンデット言うんは元々精神体に近づいて行くもんやねん。器は器で、本体は魂や。ヴァンパイヤなんかそうやろ。肉体は飾りや、本体は精神体やで」
「えっと、師匠、それは如何いう意味ですか?」
「アンデットとしては器に魂が定着し過ぎるんも良し悪しって事や。今後進化するにあたってそこら辺がどう作用するんか……まあ今から気にしてもしゃーないか?」
「ううっ……」
「まあ今後の進化次第って事ですか?」
「まあそうや。でな、話が逸れたけど、『回復』と『浄化』の話に戻るで。『回復』と同じでちょっとした傷なら『浄化』しとけば綺麗に治る。どっちも効果は違うけど似た部分があんねん」
これは実感している。ちょっとした傷なら『浄化』だけで時間は掛かるが綺麗に治る。
無駄に加護を消費しない為に、タメ吉達も『浄化』だけで済ます事が多い。
「そうなんだ」
「ヘェ~」
「コク~」
「一応勘違いを少し訂正しとくけどな。アンデットの傷も魔法や加護で治せるからな? 人間とは治す魔法や加護が違うだけや」
今度は師匠のお姉さんが説明を引き継ぐ。
「そうなのか?」
「えっと、じゃあスケルトンやマミーの傷も癒せるってことか?」
「自分らはアンデットの世話しとんのやさかい、しっかり覚えとき。ええか、魔物言うんは魔素が基本になっとる。魔結晶を持っとるんは知ってるやろ」
「はい」
「それは知ってる」
「コクコク」
「正確には違うんやけど、魔素は魔力の状態違いみたいなもんや思うとき。魔結晶言うんは魔力の塊や、せやから魔物は言ってみれば魔力の塊やね。ならその傷は魔力を注げば治る。分かるか?」
「そうなんだ?!」
「なら魔力を渡す魔法で癒せるって事か?」
魔法の発動自体で魔力を消費して、効率が良くないので余り使われないが『魔力譲渡』の魔法がある。
「そうや。魔物は魔力を吸収する事で傷を癒す。他にもアンデットなら、それこそ『冥府の神』様の信徒になれば、アンデットにとって『回復』と同じような効果がある加護も有るなぁ」
余り知られていないが、『魔力回復ポーション』をアンデットの傷に振りかけるとその傷を癒す事が出来る。
『魔力回復ポーション』は魔力そのものを触媒を利用して、ポーションに込めている。
だからポーションの飲めないスケルトンにも、振りかける事で同様に魔力の補給効果が得られ、それで傷が治るのだ。
逆に『回復ポーション』と呼ばれる、人間の傷を治すポーションは、アンデットにダメージを与える。
これは『回復』などの加護と同様に、正常な状態に戻す作用が、アンデットの魂を成仏させようとするからだといわれている。
又、『冥府の神』の加護にはアンデットを癒す回復の加護がある。これは魔力を注ぐのと同様に、『力』そのものをアンデットに注いで傷を癒す加護だ。
「そうなんだ……でもスケさんもう『大地母神』様の信徒ってか『聖者』だからなぁ」
「なあタメ吉、スケさん女の子なんだからこの場合は『聖女』じゃ無いか?」
「そうなのか!?」
「コク?!」
「まあ『聖女』でも、『聖者』でも、何方でもかまへんよ。同じ意味やさかい」
女性の場合、特に『聖女』と呼ぶだけで、元々意味は一緒だ。
「ならスケさん『聖女』か、立派になったなあ」
小柄な『ドジっ子』スケルトンが今や『聖女』様だ。
「コクコク?!」
「何も変わってないって? でも『聖女』だぞスケさん。『大地母神』様の神官のお偉いさんじゃ無いか?」
タメ吉にとって『聖女』の認識はその程度だ。そもそも村には神殿すら無い為、『聖女』など居ない。
タメ吉も与作も『聖女』には会った事が無かった。
「タメ吉、神官はそないに甘ない。スケさんは『聖女』になって、加護を授かっただけや。他の神官見習いよりスタート地点が有利なだけやで」
「『聖女』なんは加護の効果が高こうなって有利やけど、それだけやさかいな。そもそも基本を何も知らん状態で、神官のお偉いさんには成れんなぁ」
師匠とお姉さんから認識違いを正される。
「けど師匠、『聖者』ってのは特別では?」
「他は知らんけど五街地域には『聖者』なんて掃いて捨てる程いるで? そもそもウチも『聖女』やし、シズ姉も『聖女』やな」
「えっっ! お姉さんは兎も角、師匠が『聖女』!」
「うっわ……『聖女』のイメージが……」
お姉さんであるシズカ様は『聖女』にしては妖艶過ぎる気もするが、目を見張るほどの美女なので『聖女』も納得だ。
だが師匠は美人では有るが、活発なイメージが強く、『聖女』から想像される清純な乙女のイメージからは程遠い。
「なんやて! 失敬なっ……もういっぺん言うてみい。ふふふっ、地獄の特訓をもっかい味合わせたるっ!」
「ううぅ……失言でした」
「もう二度とごめんです。勘弁してください師匠」
そう……それに、二人にとって師匠は鬼教官の印象が強く『聖女』とイメージが結び付かない。
本当に血反吐を吐くほどの特訓……二度も経験したいとは思わない。
「まあ戯れ合うんはまた今度にしとき。タメ吉、勘違いしてるから正しとくけど、『大地母神』様の信徒でも、『冥府の神』様の信徒になれへんこと無いからな。別に神様はなんぼ信じてもかまへんのや。一柱の神様しか信仰したらあかんやなんて、そんな決まりはあらへんよ」
「そうなのか? って『冥府の神』様って一応邪神では?」
六柱神の『大地母神』様と、仮にも邪神を一緒に信仰する事は許されるのか?
「アンデットに手を貸すから邪神言われとるだけやな。最初に言うたやろ、同じ神様や違いなんて無い。人間の勝手な都合だけの話や」
どうやら許されるらしい。
「なら悪い神様なんて居ないって事か……」
「違うで……与作やったか? 与作、人間に都合の悪い神様ってのは居る。その程度もそれぞれ違うんよ。そもそも『人間なんて滅ぼしてしまえ』思うとる神様もおるからな。それは人間とって良い神様か?」
「色々神様が居るってのはそう言う事か」
「それで同じ神様なのか?」
「神様ってのは人間だけの味方ちゃうからな。魔物の味方する神様だって居る。魔物にも神官いてんねんで」
「神官が?!」
「魔物の神官……ってスケさんがそうか!」
「そうや。そもそも家畜にとって人間はどうや? 殺して食うて利用する。ならそんな家畜に味方する神様にとって人間は滅ぼすべき悪やろ?」
師匠がタメ吉達にも分かり易い様に、家畜を例えに出して説明してくれる。
「確かにそうだな」
「家畜にとって俺達は……」
ただそれは、例えが悪過ぎた。
それまで、それが当たり前だと家畜を締めていた。そして家畜を解体して肉や皮を利用する。そう親から教えられて育ってきた。
だがスケさん達スケルトンに殺さないでとお願いされて、それが当たり前では無い人も居るのだと知った。
そして今、家畜の味方の神様の話を聞いて思う。家畜の立場に立てば、自分達は……
「はぁぁ~、アンタは例えが悪過ぎや。全く……ホンマ説教に向いてへんなぁ」
「ちょっとセンシティブやったか? 日常で分かり易う例えたつもりやったんやけど」
「まあ良えわ。立場が違えば、敵味方も見えて来る景色も違う。良えか? そうなんやって知ってるだけで良え。何も自己嫌悪する必要はあらへんよ。皆それぞれの立場で一生懸命生きとる。それだけの事や」
「神様は神様やけど、人とは相容れん神様もおるんや。そんな神様に従う必要はない。自分らは自分らで都合の良い神様信仰したら良えだけやで」
「身勝手に聞こえるかも知れへんけどな、別に人間以外は身勝手や無い訳ちゃうやろ? 神様だって身勝手やさかいな。それぞれ折り合いつけて生きてるんや。なら自分らもそうしたら良え。そやろ?」
「はあ……世の中って結構複雑ですね」
気候が穏やかな『L・L』の、更に長閑な農村生まれ。
日々のんびりと畑仕事に勤しんでいた二人にとって、世の中は単純だった。
作物や家畜の育成に気を配り、嫁の機嫌を損ねなければ良い。
それだけで世は事も無し。そんな世界で生きてきた。
「今までそんな事考えた事もなかったからなぁ」
「コクコク」
「まあアレや、普通はそないな事考えんから気にせんとき。こんなん考えるんは神官だけで良え。神官っちゅうのはこんなのばっか考えて信仰を深めてんねや。全くご苦労様やなぁ」
「あれ? 師匠も神官でしょ?」
一応、師匠は神官の筈だ。
何時も軽装で神官服を着ているところを見たことが無いが、初対面のとき、神官だと自己紹介された記憶がある。
「そもそも師匠は何の神様の信徒なんだ?」
「ウチは『風と商売の神』様と『大地母神』様の神官やね」
「二つ?」
「両方なのか、師匠?」
「別に珍しい事ないで? ウチは二柱やけど、シズ姉は六柱神全部の高司祭やからな」
五街地域では神殿間の交流が盛んで、神官同士が各神殿を行き来している。
複数の神殿の高司祭になる神官は珍しく無い。
まあ……六柱神全部の高司祭は流石に珍しいが……
「お陰で『カンサイ』の神殿、全部押し付けられてもうたけどな……」
「あれっ『カンサイ』の神殿のトップって……」
「マジで『カンサイ』の全部の神殿のトップなのか?」
「そうやで? 最初にそう紹介したやろ?」
「ホンマは『風と商売の神』の神殿だけの筈やったんけどな……はぁ~、全く嫌んなるけど、他の神殿の神官長はんらが、序でや言うて押し付けてきたんや」
「一ヶ所引き受けたら、他所も序でや言うて、結局全部やで。シズ姉も断りや、普通引き受けんで?」
「まあ『カンサイ』の神殿は面倒やさかい、中々神殿長の成り手が居らへんのは知ってるからな。それにや、事情も知らへん人に引っ掻きまわされても余計に面倒やろ。アンタも居るんやから、かまへんやろ」
「『カンサイ』の神殿は面倒なんですか?」
「何か問題があるのか?」
「ん~、問題やのうて多種多様過ぎて収拾が付かんだけやなぁ」
「海の民は『海王神』様を信仰してるのが多いやろ? けど別に『海王神』様以外も信仰してるのも居る。例えば『炎と戦いの女神』様やな」
ただ獣人族も『炎と戦いの女神』を信仰している者が多く、更に『海王神』を信仰している者も居る。
この二柱の神の信徒は、何方も血気盛んで荒っぽい事で知られている。更に両方信仰している信徒も珍しく無い。
そんな具合で多種多様な種族が居る『カンサイ』では神殿が乱立して、それぞれに主導権争いをして収拾が付かない状態だった。
「色んな種族が入り乱れて、色んな神様信仰してる。でもって種族同士で主導権争いしたり、神殿をあちこちに建てたりな。色々面倒やねん」
「それは……大変そうですね」
「問題だらけじゃないのか?」
「基本的にこの地域の神官やからな。『うっさいわボケェ! ゴチャゴチャぬかすな!』言うて強制的に大人しゅうさせれば良えだけや」
神の神託を受ける事が出来る神官が多いのも、この地域の特徴だ。
それはとりも直さず、神様を味方に付けれる事を意味する。
神の信任を得た者が『神託に従え』と指示すればそれに逆らえる神官いない。
それが嘘ではない事は、自分達で神託を受ける事で確認出来る。
そして神託に逆らえる者は神官では無い。
「要するに有無を言わせん強権と、腕っ節が必要なだけやね。まあ面倒やけど簡単は簡単やわ」
神の神託による信任を得ても、不平不満は残り、強権を振るう者を排除しようとする勢力は多い。
神官は兎も角、信徒である各種族の幹部は、神官程素直に従いはしない。
彼等は直接神託を聞くことが出来ない。その為、神託を信じようとしない。
故に邪魔者を排除する為に、暗殺などの実力行使に訴える者が多い。
それを跳ね除ける実力が、『カンサイ』の神殿のトップには必要になる。
そしてその実力がシズカ様と師匠の姉妹には有る。二人は超武闘派の神官だった……
「流石、師匠のお姉さんだな」
「鬼教官のお姉さんは同じく鬼か……」
「コクコク!」
「誰が鬼やねん! しばくぞ自分!」
「鬼か……おもろい事言う子やね。ならホンマに鬼かどうか試してみるか?」
師匠は言葉は荒っぽいが半分冗談だ。しかし、お姉さんの方は、笑顔なのに目がマジだった……
「うぅ……失言でしたっ!」
「ごめんなさい。もう言いません!」
「コクコク……!」
「まあ冗談は置いといて、スケさんの件やけど、ホンマに功徳の心当たりは無いか?」
「拘りますね? 何か解決策と関わりが?」
「重要なのか? う~ん、何だろ」
「解決策はもう分かってる、それはどうでも良え。それよりもや、『大地母神』様が『聖者』や認める功徳が知りたいんや」
「えっ? もう分かってる?!」
与作達にはそちらの方が重要だ。
「それは『大地母神』様に直接尋ねたらダメなのか?」
「コクコク」
「『大地母神』様は大雑把なのに頑固やねん。功徳は利己的な目的持ってやるもんちゃう言うて、『聖者』への功徳の条件とか教えてくれへん」
「でも師匠、『聖者』は特別では無いんですよね? なら別に条件とかは気にしなくても良いのでは?」
「だよなぁ」
「コクコクゥ」
「『聖者』は特別やない。けどなぁ有利ではあるんや。頑張ってる神官見習いの娘らは『聖者』にならしてやりたいやんか?」
お姉さんはどうやら後輩の育成の為に、その功徳の条件が知りたいらしい。
「スケさんの様なアンデット、『聖者』のミイラでも無いマミーが後から『聖者』になれるんなら、生まれは関係無いってことやろ」
師匠の言う様に、スケさんは元々迷宮生まれのスケルトン。『聖者』のミイラでは無いし、血筋どころか素性すら元々無い。
「本人の性根やらが関係してんのは知ってる。けどウチでも成れんねんで、他にも良え娘は沢山おんねん。その娘らに功徳積ませて『聖者』にならしてやりたいやんか?」
師匠も目的はお姉さんと一緒らしい。
「それは同意します。けど……スケさん他に何かあったかなぁ?」
「スケさんは人が良いから、俺達が知らない所で何かしてたとか?」
「コクコク?」
「覚えが無い? う~ん困ったな。『グランドタートル』にエサをやってたみたいに何かして無い?」
「コク……」
スケさんは頭を捻って居るが何も思い付かないらしい。
「『グランドタートル』にエサやりって何やそれ?」
「初耳やなぁ、何で黙っとったんや?」
「アレ? 言ってませんでしたっけ?」
「俺達が寝てる間に、マミー達で魔物狩って、それを『グランドタートル』にエサとして与えてたみたいなんだよなぁ」
「結果、魔物を狩りすぎて亜種に変化したんです」
「魔物を狩りすぎて亜種に変化したんは聞いたけど、それを『グランドタートル』に与えてたんは初耳やなぁ」
「『グランドタートル』にエサか……それはマミー全員か?」
「ん~? どうなんだろう?」
「みんな、魔物狩ってたのは全員だよね?」
「コクコク」
「えっ? 面白がって一杯あげてたのはスケさん?」
イッコがそう主張する。
「コクコク~」
「投げて口でキャッチさせてた?」
スニからもそう報告がある。どうやら本当に遊び感覚でエサを与えていたらしい。
「コクコク!」
「コックコク」
「はあ、完全に飼い慣らしてた? なにっ……芸まで仕込んだ……スケさん何してんの?」
ハツネやニコからそう申告があった。どうやら二人はスケさんの所にエサの魔物を運ぶ係だったらしい。
「他所の『グランドタートル』なのに……まあ、でも特に問題は無いか?」
近所の犬に勝手に『お手』を仕込む様なものだが、それに飼い主が気が付かれなければ特に問題は無い様に思えた。
「コクコク……」
「涙の別れ? 再会を誓い合うって……ホネミ、それ……」
「コクコク♪」
「それもスケさんかっ! あの『グランドタートル』は、多分、遊牧民の大事な財産だから、あんまり勝手したら不味いよ」
「コクコク!」
「『いつかあの子は私が買い取る』って、与作、『グランドタートル』って買えるものなのか?」
「待てタメ吉、そもそも『グランドタートル』なんてどこで飼うんだ? 砂漠に住むつもりか?」
「だよなぁ。スケさん『グランドタートル』は大き過ぎてウチの村じゃあ飼えないよ……諦めない?」
「コク……」
物悲し気な顔でタメ吉を見つめる。スケさんに目があったら、間違いなくウルウルさせている。
「まあ『グランドタートル』を『L・L』で飼うんは無理やな。けどなぁ与作、タメ吉。そもそも『グランドタートル』は地竜やから、売買するもんと違うで」
「そうなんですか?」
「遊牧民の財産じゃ無いのか? 師匠」
「財産ちゃうで、自分らとマミーの関係はどうや? マミーは自分らの財産か?」
「違いますね。同僚……どっちかと言うと家族?」
「そうだなぁ、家族が近いかなぁ」
「それと同じやなぁ。『グランドタートル』と遊牧民は家族みたいな関係や。けどなぁ中には契約しとる連中もおる。スケさんを地竜が認めた言うならそっちやろな」
「地竜と契約?」
「なんだそれ?」
「コクコク?」
「幾ら遊牧民と『グランドタートル』が家族や言うても、養いきれる数が有るやろ? ぎょうさん生まれて、養いきれん様になったら、その子は自分で養ってくれる人を探して契約するんや」
「地竜の契約は一年更新やから、その『グランドタートル』も、どんなに遅くても一年待てば自由やな」
「けど『グランドタートル』が他に行ったら、遊牧民は困りませんか?」
「大丈夫やで、空いとる『グランドタートル』はようけおるからな。甲羅の上の家、引っ越せば良えだけや」
「そうなんですか?」
「簡単に引っ越せるのか?」
「そもそも『ガガシ』の周囲に居る遊牧民は、あの魔物討伐ツアーの為におるだけや。ホンマは『グランドタートル』ようけ引き連れて、もっと郊外を遊牧しとるんや。空きなんざ幾らでもあんねん」
「あの甲羅の上の家は組み立て式や。『グランドタートル』も偶には自由にしたいやろ? せやから常に同じ子の上ばっかり居られへん。それでそうなっとんや」
「コクコク♪」
「いや、スケさん。それでも『グランドタートル』を飼うのは無理だからね」
希望の光が見えて、スケさんは上機嫌になるが、それでも『グランドタートル』を飼うのはハードルが高い。
「あの大きさはなぁ。そもそも移動が……」
「コク……」
『グランドタートル』はほぼ砂漠特化の地竜だ。
一応泳げるらしいので、海を渡れば『L・L』まで連れ帰れない事は無いが、『ワビ砂漠』とは環境が違いすぎて、不幸になる未来しか見えない。
「ほな、普段はウチとこで面倒みたる。偶に会いに来たら良え」
「コクッ!」
「そやなぁ『ガガシ』までの輸送に丁度良えな。中々『グランドタートル』とは契約出来んからなぁ。これは良えチャンスや」
『ガガシ』までの物資の輸送は、飛空艇の定期便か遊牧民に依頼して『グランドタートル』で運んでもらうしかない。
『カンサイ』から『ガガシ』の往復では飛空艇が貿易風を利用出来無い為、コストが割高で、荷物の輸送より人の移送が主だ。
遊牧民への依頼は、遊牧民が訪れるのが不定期で、到着日が見通せない。
ならばと『グランドタートル』と独自に契約したくても、『グランドタートル』は遊牧民以外に殆ど懐かず、遊牧民が独占状態だ。
今まで遊牧民以外に契約出来た者はいない。
契約の主体は地竜側、『グランドタートル』に有るので、『グランドタートル』が認めれば契約出来る。
今回本当にスケさんが懐かれていて契約出来れば快挙だ。
一度契約出来れば、信頼が生まれて、他の『グランドタートル』とも契約出来る可能性が高い。
そうなれば危険な砂漠の輸送が定期的に出来る様になり、物資輸送の利便性が格段に上がる。
「うっ……」
「なあ師匠達は何でそんなに協力的なんだ?」
タメ吉には『グランドタートル』の世話がそんなに簡単とは思えない。
自分達で家畜を飼って居るからこそ、その世話の大変さが良く分かる。
スケルトンがお世話してくれなければ、とても休暇など取れない。何せ相手は生き物だ。普通世話を休む事など出来ない。
利便性だけでそう易々と引き受けるとは、タメ吉には思えなかった。
「そんなん『聖者』の功徳の為に決まっとるやろ?」
師匠のこのあけっぴろげな所は、短所でも有り長所でも有る。
ただ、全く隠し事をしないので、二人の田舎の村人からは絶大な信頼を得ていた。
スケルトンのゴーレムについても、長所も短所も隠す事なく話すので、村人も短所を理解した上で受け入れる事が出来た。
「スケさんが、エサ与えて功徳積んで『聖者』になってるやろ。なら試してみる価値はあるなぁ」
お姉さんも師匠と同類らしい。自分の目的を一切隠そうとしない。
「本当にそれだけで『聖者』に成れるのか?」
「だよなぁ、それだけなのかなぁ?」
ただそれだけに、ダメだった時にどうなるのか? 少し不安だ。
「分からんわそんなん。でも試してみれば良え。そしたら分かるやろ?」
「まあ損は無いさかい、かまへんやろ。何せ試すんはタダや」
どうやらこの二人は、神官を扱き使って世話をさせる気満々だ。
「うっわ~」
若干……いやかなり神官達は苦労するだろう。それが今から思いやられ、与作は見たことのない神官達に同情する。
「タダか……そうなのかな?」
「それにな、地竜、特に『グランドタートル』は地属性や、『大地母神』様も地属性やからな。そこら辺が『大地母神』様的にビビッときたのかも知れへんやろ? 見込みは有るんや」
「そうなんですか? まあ俺達もその方が助かりますけど」
「ダメだった時はどうなるんだ?」
「言うたやろ、損は無い。『グランドタートル』と契約出来れば快挙や。定期的に『ガガシ』と往復出来るだけで、間違いのう大儲けやな」
「エサも魔物狩って与えれば良え。大物はそれこそ『グランドタートル』が狩ってくれる。安全に魔物が狩れて荷物の輸送も出来る。何の問題も無いな」
「遊牧民の利権を侵害することになりませんか?」
「ならんな。そもそも輸送をする気が遊牧民にあまり無いから困っとるんや。人の良え遊牧民が偶に依頼受けてくれるだけで、他は興味すらあらへん」
「何でだろ? 儲かるんだよな、師匠」
「儲かる儲からんはどうでも良えってのが遊牧民やからなぁ。自由なんや。風の向くまま気の向くまま、遊牧して暮らしたい。そんな連中ばっかりや」
割と自由な師匠が呆れる程、遊牧民は自由な民らしい。
「『ガガシ』の魔物討伐ツアーの人手の募集すら苦労してるからな。若い遊牧民の子が、小遣い稼ぎで協力してくれてるだけや。他はホンマ自由やさかい一つ所に居たがらへん」
遊牧民は自分達でも魔物が狩れる。その為、その素材を売って、資金を得ているのでお金に余り不自由していなかった。
だからこそ、色々拘束される輸送の仕事に魅力が無い。その仕事で稼ぐ必要が無いからだ。
同じ様に魔物討伐ツアーの仕事にも魅力を感じていない。
若者が、『ガガシ』の街で遊ぶ金欲しさに協力してくれる程度で、他は非協力的だ。
「結構苦労してんだな師匠」
「コクコク」
「分かってくれるか? 『ガガシ』はオアシス都市やけど、遊牧民にはオアシス、水さえ有れば良えねん、街は要らんのや。けどなあの辺りは『L・L』との中継地として便利やからなぁ」
「距離的にも補給基地としてもな。南を大回りするよりもコストもかからへん。『カンサイ』としては『ガガシ』は維持したい」
「けど『ワビ砂漠』は魔物が多て、さらに大物も多い。『ガガシ』は人間のオアシスやけど、魔物にとってもオアシスなんや」
「せやから特に街周辺は魔物が多い。討伐せなあかんけど大物が邪魔やろ? そないな理由で『グランドタートル』の協力が必要なんよ」
「あのツアーには、そんな事情が裏にあったのか……」
「けど実際儲かるやろ? あの辺りは珍しい魔物も多い。素材は高う売れる。問題はその移送だけや」
「師匠、今はどうしてるんだ?」
「定期便に積んで運んだりしてるけど、大半は巡回輸送船で運ばれとるで」
「巡回輸送船?」
「貿易風を捕まえて、東から西へ世界を巡る大型の飛空艇の事や。貿易風を利用出来るから燃費が良えねん」
「それで運ばれてるなら良いんじゃ無いか?」
「はぁぁ? 良えかタメ吉。巡回輸送船は東から西へ一歩通行やで? 『ガガシ』の品物が『カンサイ』に届くんは世界一周せなならんやろ」
「なら師匠、『L・L』に売れば良いんじゃ無いか?」
「アホ、それやと『カンサイ』が儲からん! 『ガガシ』維持しとるんは『カンサイ』や! 『カンサイ』が儲けんでどないすんねん」
「『L・L』は素材を加工して、巡回輸送船に載せて世界中に売れる、そらボロ儲けやろな。けど、『ガガシ』の素材を『カンサイ』に運んで、『カンサイ』で加工して巡回輸送船に載せたら『カンサイ』が儲かる。分かるか?」
「五街地域と『L・L』は協力関係では?」
「与作、協力言うんはお互い様やろ。一方的に相手だけに儲けさせてどないすんねん」
「『L・L』にはようけ投資しとるから、『L・L』が儲かれば五街地域も儲かるし『カンサイ』も儲かる。けどな『カンサイ』としては一方的なんは面白う無いんや。『カンサイ』は商人の街や。儲けさせてやらな不満が溜まるやろ」
「俺達は『L・L』の人間なんで、どう答えたら正解なんでしょうか?」
「自分らの村周辺は一応『L・L』やけど半分以上『カンサイ』の所属やで? ごちゃごちゃ言わんと『カンサイ』に協力しとき」
衝撃の事情が明らかになった……しかもあっさりと。師匠が指導に来ていた事情もその辺りにある様だ。
「そやなぁ、ウチとこの旦那は『L・L』の幹部やけど、それとこれとは話が違う、別問題や。『L・L』には協力する、せやけど『カンサイ』の儲けは儲けや、一緒にしたらあかんなぁ」
師匠のお姉さんの旦那は『L・L』の幹部。それでも商売は別らしい。
あくまで『カンサイ』の利益を一番に考える。二人は紛れもなく『カンサイ』の幹部だ。
タメ吉も与作も、正直怖かった。これ以上の深入りは何としてでも避けたい。
「所で師匠、ハツネの盾やニコの槍は何か分かりましたか?」
だから与作はサクサク話題を変えた。
「あれか? あれは冒険者の落とし物やったで」
「落とし物? では持ち主が居る?」
「ああ、返そうとか思わんで良え。持ち主も諦めとった物やし、精霊がもう二人を主人や認めてるからな」
「でも持ち主が居るんですよね?」
「両方とも『ガガシ』周辺で『サンドワーム』に襲われた時に、『サンドワーム』に喰われた武具や言うてたわ。事情を話したら二人に譲るから大事に使ってや言うてたで」
「良いんでしょうか?」
「何かお礼した方が良いのか?」
「コクコク!」
「両方とも二十年以上前の話やで? 気にせんで良えって。そん時も一応探したそうやけど、砂漠の底に沈んどったから諦めたんやそうや。こないな形で出てきて驚いとったけどな。同時に喜んどった」
「喜ぶ?」
「何故?」
「コクコク?」
「大事にしとった武具やで、見つかったら嬉しいやろ。それにふさわしい使い手が見つかったら更に嬉しいわ。大事にしいや」
「コクコク!」
「コックコク!」
ハツネもニコも何時も大事に磨いている。そこら辺はバッチリだ。
「けど両方とも一度鍛冶師に預けてメンテナンスせなあかんな。何十年も放ったらかしやったさかい、仕方ないわ」
「コッ……」
「クッ……」
お姉さんの言葉に喜んでいた二人が固まる。
「あの、ハツネもニコもこの武具が無いと存在が保てないらしいんですけど……」
「ああ、それは違う。この武具やのうても良えんや。重要なんは聖属性の『ダイアシールド』と『聖槍』やから、代わりの物を持したったら良え」
「代わりの?」
「って聖属性の武具とか売ってるのか? 見た事がない……」
「コクコク」
「心配せんでもその位、貸したるわ。それにどっちにしろ予備武器も無しでどないすんねん。他の武具も含めて纏めて揃えな。鍛冶師も紹介したるから、皆んなそこで一通り予備含めて揃えや」
「けど師匠、借りても返せる当てが……」
「師匠、今回結構儲かったけど、そこまでじゃない」
「どない想像しとるんか知らんけど、聖属性の付与位、ウチでもシズ姉でも出来るからな? そないに高う無いで? それに『グランドタートル』の件もある。『聖者』の条件の情報料だけでも結構な額や、お金の心配は要らんで?」
「まあ自分らに先行投資や、しっかり装備固め。それに聖属性に対処するにも装備整えなあかんからな」
「そうなのか?」
「えっとそれってどう言う意味ですか?」
「ふぅ……アンタら察しが悪いなぁ。マミーは魔物や、分かってるか?」
「はあ?」
「一応、分かってます」
「コクコク」
「なら魔物が一番発生しとんのは何処や?」
「迷宮かなぁ?」
「迷宮だよなぁ?」
「コクコク?」
「そうや、迷宮は魔素が濃いやろ? せやから迷宮なら魔物は直ぐに回復する。良えか? 聖属性のスキルや加護、なんぼ使うてダメージ受けても回復するんや」
「ん?!」
「それって……」
「コク……」
「今回はスケさん達マミーに地獄の特訓やなぁ。聖属性の抵抗値が低いなら、聖属性のダメージ受けまくって抵抗値上げたら良えだけやなぁ。って事で気張りや」
「コクッコクッ!!」
「ウッ……スケさん頑張ろうか?」
「メッチャ嫌がってる。普段はうっかり使うのに……」
「何でや? 回復するやから良えやろ」
「コクコク!」
「一応、聖属性のダメージは痛いらしいです」
「痛覚ってわけじゃ無いそうなんだけど、何かが痛いって」
「アンデットやろ? 気の所為や思うて頑張りや」
お姉さんはどうやら無茶振りがデフォルトらしい。
「普段使ってたんやろ? イケるイケる!」
師匠は気軽に励ます。因みにイケる根拠は無い。
「コクコクッ!」
「偶に痛いのと、連続で痛いのは違う? う~ん」
「まあ連続で痛いのは拷問みたいなモノか……」
「ハハッ、上手いこと言うな与作。まあマゾに目醒めん程度にしとき」
「目醒めてもかまへんやろ? 美少女なマゾやで、ご褒美と違うか?」
お姉さんのシズカ様は、鬼どころか間違いなくサドだ。
『聖女』なのにサド、神様の『聖者』の基準が二人には分からない。
「これ以上スケさん達に属性は要らないかなぁ」
「今でも属性てんこ盛りですよ!」




