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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅲ章 クラン作り
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第080話 策士(10)

今回の視点は阿南です。


 マオの人生スキル【異なる道(ディファレントルート)】によってミシャラク城、地下牢付近に円形の亜空間ができたのは、ちょうど阿南達が寝静まった頃の時間帯だった。バルダーエリア、キサラギエリア、ライナルエリアのそれぞれのモンスター牧場に集められたモンスター達は、マオが開けたこの亜空間の穴に勢い良く入り込み、そして出口であるミシャラク城の地下に獰猛な唸り声をあげ飛びだした。


「ぎゃあああああああああああああ」

「うぁわあああああああああああああ」



 ミシャラク城の地下牢の見張り番達を勤めていたM&Jのメンバーは突然襲い掛かって来た100体を超えるモンスターに一瞬にして食いちぎられた。モンスターはそのまま地下から駆け上がり、ミシャラク城を占領するM&Jに襲いかかっていった。


 その頃、ミシャラク城内一階の自室の布団で眠っていた阿南は、突然の悲鳴に飛び起きた。


「な? なんだ!?」


 悲鳴と唸り声の両方が阿南の耳に飛び込んできた。


 ――モトヤ殿のいない隙をついてどこかの勢力が襲って来たのか?


 阿南はまずそう思った。

 阿南は布団から飛び起き、素早く戦闘用の軍服に着替え、愛刀の「九五式軍刀」を握ると、自室の扉を勢いよく開けた。


「グルルルルル」


 目の前にいたのはモンスターの群れだった。まず驚いたのが城の中にこれらの敵がいたことだ。阿南は九五式軍刀を振りまわし目の前のモンスターの首をはねると、返す刀でもう一匹も始末した。しかし、モンスターは増える一方で全く前進ができない。このままでは埒があかないと思い、阿南は目の前の大型モンスターの顔面を思い切り蹴ると、自室に戻り内側から扉を閉めた。更にタンスを扉の前に倒した。これで少しは時間が稼げるだろう、と阿南は思った。扉をガリガリと爪で引っかく音がした。


「不覚! まさか寝ている間にここまで侵攻されていようとは!」


 廊下にあふれ出ていたモンスターの量は尋常では無かった。城の外から敵が来たと思いこんでいた阿南にとって、城の中まで蹂躙される現象は落城一歩手前の状態に近かった。


 阿南は「不覚!」と尚も呟きながら、城の外の様子を確認する為、窓から外を見た。すると不思議な光景を見た。城の外にはモンスターがあまりいない事に気がついた。敵と思われる兵士の影も無く、むしろミシャラク城を守護する外壁にあたる虎の壁はまだ攻撃されていないのではないかと思うくらい静かだった。


 ――なんだこれは? 一体どういうことだ?


 阿南の頭に巨大な「?」がぶらさがる。だが同時にこのキャッスルワールドにおいてはもっと考え方を柔軟にしなければならない時もあることを阿南は経験により知っていた。


 最早こう思う以外なかった。敵は外から来たのではなく、()から来たのだと。となると、活路は外にある! 阿南はずんぐりむっくりの体を窓にねじ込み、城の外に飛び出した。外には数十名のM&Jのメンバーと数匹のモンスターがいた。阿南は果敢にモンスターに挑み心臓を突き刺すと、城の外にいるM&Jのメンバーにむかって声を張り上げ号令した。


「一旦ミシャラク城より退避する! このままでは多勢に無勢である!」


「ま、待ってくれ!!」


 すると特攻服を身にまとった畑中が叫びながら城の中から城外に飛び出してきた。体は既に何か所も噛まれた傷がありHPバーも残り3分の1ほどになっていた。畑中は阿南の立つ場所まで走ってくると、いきなり阿南の胸ぐらを掴んで叫んだ。


「阿南さん!! あんた仲間を見捨てて逃げる気か!? 城の中ではまだ50人程のメンバーが戦っている!! この城から出た20人とあんただけ生き残るつもりか!!」


「馬鹿者!! 畑中よく見ろ! 気づかんか! このモンスターの量は尋常ではない!! このまま戦っても全滅するだけだ!!」

「そうじゃない!! 阿南さん! あんたは指揮する者としてここに残る責任があるはずだ!!」


 ――な、何ぃ!?


 阿南は息が詰まった。指揮する者の責任とは……、普段阿南が旧日本陸軍メンバーに繰り返し言い聞かせてきた言葉なのだ。指揮官はその場で指揮を続け、逃げ出すな、と。阿南は後ろを振り返る。そこには小鹿のように震える20名ほどのクランメンバー達がいた。


「我々はまず生き残らねばならない!」

「あんた言ってる事とやってる事が逆じゃないか!!」

「時と場合によると言っている!! 分からんか畑中!! この場に留まれば全滅は免れない!! お前と議論している暇はない!!」


 そう阿南が言い終った直後、畑中の目は大きく見開かれ軍刀に手がかかった。狂犬(畑中)の目は怒りに満ちていた。


 ――まずい!!


「ふざけるなぁあああああ!!」


 畑中は叫ぶと同時にその手に握られた赤く光る「九四式軍刀改」を阿南に向け振り下ろした。阿南は受け太刀した。


「指揮官への攻撃は重罪であるぞ!!」

「仲間を見捨てる指揮官なんて指揮官ではない!! 今から俺が指揮官だ!! 敵前逃亡は重罪だあああああ!!」


 最早何を言っても無駄だと悟った阿南は、自分の後ろにいる20人程のクランメンバーに城外に出てマハーバリに向かうように告げた。それを見た畑中は吠えた!!


「ああああああ!!」


 畑中は再度、阿南に斬りかかる。阿南はそれを寸前のところで回避する。畑中の剣術は鋭利な直角のように正直だった。ゆえに受けやすく、避けやすい。しかし、その重く鋭い振りは計り知れない威力を生みだしていた。特に刀身に与えるダメージは凄まじく、たった一度の受け太刀で阿南の九五式軍刀は、すでに深い刃こぼれをおこしていた。一度の衝撃でこれなのだ、となると刀と刀が当たる度に加速度的に刀の強度が落ちてゆくことは想像に難くなかった。畑中の刀はその弱点を補う為に、キレ味が鈍くても丈夫で折れずらいように作られていた。それが畑中の持つ「九四式軍刀改」だった。このまま戦いを続ければ阿南にとって明らかに不利だった。ゆえに阿南は畑中の頭の固さを逆手にとった。


「畑中!! お前が指揮官だというのなら仲間を指揮せず、こんなところで遊んでいるのはどういうことだ!? 味方を指揮するのが指揮官では無いのか!?」

「阿南さんっ!!! あんたって人は!!」


 畑中は明らかに軽蔑した目つきで阿南を見た。阿南は後ろめたかった。こう言えば畑中という男は引き下がれないと知っていたのだ。


 そこに城の外に飛び出したモンスターが一匹阿南に襲いかかった。攻撃する為に上段に軍刀を構えるが……遅かった。九五式軍刀と共に左手が手首辺りから噛みちぎられた。


「ぐあああああ」


 阿南が叫ぶ間に、畑中はモンスターの懐に入り腹を突き刺した。モンスターはなんともいえないうめき声をあげ、息絶えた。


「どっちみちこれでもう戦えないですね……阿南さん……。いいですよ、今日から俺が指揮官で」


 畑中はそう言い残すと、モンスターが尚も大量に増え続ける城内に戻っていった。指揮官として役割を果たしにいったのだ。阿南は噛みちぎられた左手に握りしめられた九五式軍刀を拾って右手に装備すると、すでに開かれた外壁の役割を果たす虎の壁の門から飛びだし、恐山から下山をはじめた。大きな後ろめたさを背負って。


 狂犬(マッドドッグ)これが畑中のあだ名だった。誰にでも自分の理屈を押し通し噛みつく、モトヤにもフィオナにも、その姿勢は変わる事は無かった。自分とは間逆だった。指揮官は現場に残って指揮すべし、阿南が与えた教訓を最も忠実に守ったのが畑中だった。なのに、自分は……いざとなったら指揮官の座を捨ててまで逃げ出す……、卑怯で臆病で傲慢な自分とは……全てが間逆……。


 ――畑中に比べ……醜い……何と醜いのだ……吾輩は……。


 阿南は自分の本質を見た気がした。そして、その闇が深い程、畑中の行動は阿南にとって眩しく映った。


「クソッ……クソッ……」


 情けなかった。部下に全責任を押し付け逃げてきたのだ。しかし、そうだとしても現実世界で待つ嫁と息子に会いたかった。死ぬわけにはいかなかった。阿南にとって二人は全世界の人々の命よりも遥かに重かった。


「許せ畑中……許せ……」


 恐山をしばらく下ってゆくと、下の方から何やら音が聞こえてきた。最初、逃げた20名のメンバーが自分を待ってくれているのかと思った……、だが不審に思い阿南は草むらに身を隠した。やがて月明かりが“ソレ”を照らした。


 ――あの旗は……オリジン!? 何故オリジンがここに!?


 恐山の麓にはいつの間にかオリジンの軍隊が蟻の這い出る隙間もない布陣で展開していた。


 ――ひょっとして恐山をぐるりと取り囲むように布陣しているのか?


 月明かりが無ければ阿南はうかつにも彼等の前を通っていたかもしれない。そして目にした……。彼等の足下には先ほどマハーバリに逃がしたハズの20名の死体があった。恐らく下山途中で奴等に殺されたのだ。


 上もダメ、下もダメ……。


 阿南は最早どうしていいか分からなかった。ミシャラク城という防衛施設があるならこの程度の軍隊を跳ね返せる自信があったのだが……、自分一人ではどうしよもない。


 しばらくここに隠れているしかない……。いや、もっと安全な草むらに……そう思って阿南は草むらから顔を出した。


 その時だった。


「みぃ~~~つけた★」


 阿南の心拍数は最高まで跳ね上がり体を震わすと、咄嗟に声がした背後を向く、そこには木にぶら下がった緑色の髪をした少女が一人いた。阿南は右手に持つ九五式軍刀を中段に構えた。左手はもう無い。その少女は木から下りると笑いながら一歩一歩近づいて来た。そしてマジマジと阿南のネームを見つめる。


「オジサンの名前……阿南っていうんだぁ。あ~~ビンゴォ! このリストの一番上に名前があるわね。ほらぁここ! ここよ!」


 緑色の髪をした少女はその紙に書かれたリストを広げ嬉しそうに阿南に見せた。5mほど距離があったが月明かりのおかげか……阿南の目にはハッキリとその言葉が見えた。そこには太い文字でこう書かれていた。


【 M&J抹殺優先順位リスト 】……と。


 阿南の顔は青くなった。


 ――敵!! 敵っ!!


「じゃあ、いくよん★」


 少女は忍者が使うクナイらしきモノを3つ投げてきた。阿南はそれを難なく()わした。


 ――このチビ女、そんなに強くはないぞ! 右手だけでもいける!


 阿南は二三歩前に踏み出し少女と距離を詰め、軍刀をねせた状態から突いた。少女はバックステップでこれを避ける。が、少女は足をつく際によろけた。阿南はこれを見逃さなかった。


 ――良し! 追撃だ!


 阿南は九五式軍刀を上段に構え突進した。


 僅かに笑う少女が見えた。




 次の瞬間、軍刀を持った阿南の右腕が肘のあたりから吹き飛んだ。



 ――!!!??????



 九五式軍刀は派手に回転すると地面に突き刺さった。

 右手は柄の部分を堅く握りしめたまま軍刀のオブジェとなり果てた。


 阿南は自分の身に何が起こったか分からなかった。なぜこんな現象が起きているのかというのも分からなかった。


 目を凝らし、自分の右腕が吹き飛んだ場所を見た。すると……木と木の間……僅かに赤い液体が滴る線みたいなものがうっすらと視界に映った。


「それはねぇ。わたしの人生スキル【斬れる鋼の糸(コリンワイヤー)】よ。ピアノ線よりも丈夫で尚且つ細ーい細ーい糸なの、そして触れれば刃物みたいに切れるって仕組み★ それをこの恐山の山中に張り巡らしているの、恐いでしょ~」



 両腕を失った阿南にもう戦闘の継続は不可能だった。

 阿南はすがる思いで少女に土下座した。


「た、助けてくれ!! オリジンなのだろ? 降伏する!! ゆ、許してくれ!! 吾輩はただ生き残りたいだけなのだ!! 本当にそれだけなのだ! 頼む!! な? な!?」


 山林の影に隠れ暗くなった少女の顔に、一拍おき、月明かりが射した。少女は笑っていた。これ以上ない笑顔だった。


「え? えへへ★ ダ~メ☆」


 その瞬間、例の“糸”が阿南の体中に巻きついた。


「待てっ!! 待てくれえ!! 吾輩は!! 吾輩はただここを守れと言われただけで!! 何でもする! 色んな情報を教えてやる!! 頼むちょっと待ってくれ!! 待ってくれええええええええええええ!!!!!!!」


 絶叫する阿南に対し少女は手を振った。その姿はあまりに無慈悲で残酷な光景だった。


「バイバーーーイ☆」


 少女は糸を一斉に引き絞った。

 左右の糸が交差し、引き千切られる刹那……阿南が最後に思考したことは、どこをどう間違えてこの道を選んでしまったのか……ということだった。


 畑中を置いて逃げてしまったからだろうか?

 マオの作戦にのってしまったからだろうか?

 マハーバリのキソンダを殺してしまったからだろうか?

 モトヤをリーダーとして仰いだ為だろうか?

 それともあの日ゲームセンターに行ってしまったからだろうか?

 いや、安田将軍がクーデターを起こし独裁政治をやりはじめた時……命がけで反対しなかったからだろうか?


 それとも――


 次の瞬間、阿南の体全体が微塵切りの玉ねぎのようにバラバラになった。糸が赤く染まった。少女は思いだしたように言葉を発した。


「あ、そういえば名乗るの忘れてたぁ。え~~っとねぇ……私の名前は…………エヴァっていうの……アレ? そういえばもう死んでたんだっけ? あはははは」


 そう言うと緑色の髪をした少女「エヴァ」は細切れになった阿南の死体を「汚ぁ~い」と言いながら飛び越え、また恐山の中に姿を消した。





 こうしてクラン「M&J」はミシャラク城を失った。


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