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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅲ章 クラン作り
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第064話 ミシャラク城の主(1)


 ミシャラクエリアは起伏に富んだ土地だった。平地は少なく、山と谷がエリアの半分を占めていた。中でもエリア中央に位置する“恐山(おそれざん)”は“最も険しい山”として有名だった。この険しい山の山頂付近は僅かに(たい)らになっており、ここにミシャラク城は存在した。ミシャラク城は3方を崖に囲まれており、通行可能な道は城門前の一本しかない。この一本の道が山の麓まで続いていた。また城門の100m手前に更に“虎の壁”と呼ばれる30mほどの高さの城壁がそびえ立っており、侵入者の行く手を阻んでいた。


 荒れ狂う暴風雨の中、クラン「源氏」のリーダー【義家(よしいえ)】の声が“虎の壁”に響いた。


「構え!!」


 義家の号令で“虎の壁”の上に陣取る部隊が矢をつがえた。

 ミシャラク城を守る源氏は、“虎の壁”に攻撃を仕掛けてくるクラン「梁山泊(りょうざんぱく)」と交戦していた。


「放て!!」

 矢が一斉に放たれた。


「この風じゃ矢がまともに届かないと思って攻めたんだろうが……無駄だ。俺を舐めるなよ梁山泊!」


 矢は次々と梁山泊のメンバーに突き刺さってゆく。義家は風を読み切って矢を射る方向を手で指し示していた。クラン「源氏」はよく訓練されていた。特にこの虎の壁から矢を射る事にかけては彼等の右に出る者はない。勢い良く放たれる矢を前に、壁に近づく事さえできない梁山泊は、やがて城への攻撃を諦め、消えるように撤退していった。


 義家は側近のジブリールに勝鬨(かちどき)をあげることを命じた。


「エイエイ」「オー」「エイエイ」「オー」


 義家は、満足そうに敵をしりぞけた自軍を眺めた。もう何勝しただろう。義家は常勝将軍の名をほしいままにしていた。


「勝鬨を止め、全軍、帰城するぞ」


 義家は、全軍に帰城の命令を下すと、自分も虎の壁から離れミシャラク城へ帰ってゆく。

 城に入ると支配者の間と呼ばれる部屋に入り、重い兜を脱ぎ棄てると、まずベッドの上に寝転がった。戦いの疲れを癒す為だ。近くのテーブルに飲みかけのワインのグラスが置いてあった。戦いの前に飲んでいたワインだ。義家は手を伸ばしグラスをとった。一杯飲む。彫が深い顔立ちの義家は温かい息を吐く。美味い! ちゃんとワインの味がする。義家は時々ここがゲームの中だと忘れてしまう。認めたくはないが、それだけはこのゲームの長所なのだ。確かめるようにもう一杯飲む。やはり美味い。戦いを指揮した後は何もかもを自堕落に振る舞う。この城の権力者にはそれが許されていた。


 ――戦いのあとは酒と女だと古人は言ったらしいが……上手い事を言うものだ。


 義家は、もう一杯ワインを飲む。すると扉をノックする音が聞こえた。

 義家が誰だと聞く前にノックした本人の声がした。


「ジブリールです」

「入れ。で? 用件はなんだ?」


 扉を締め終わった青白い顔をした男ジブリールはやや暗い面持ちで口を開いた。


「義家様、食料のことです」


 義家は、途端に苦虫を噛み潰したような顔になった。


「今、しなければならない話か? ……せっかく戦いに勝った後だぞ」

「しかし」

「くどいぞジブリール! 下がれ!」


 ジブリールは、最後まで暗い顔のまま支配者の間を後にした。

 すると閉じた扉の外から密かに話す声が聞こえてきた。


「義家様に聞き届けてもらえたか?」

「どうなんだジブリール」


 ジブリールを担ぎあげている“城を放棄してでも食料を”と叫んでいる連中の声だ。一部では奴等は“放棄派”などと呼ばれていた。

 イライラした義家は大声で、「おい! 聞こえているぞ!」


 すると、あわてて逃げる足音が聞こえた。


「くそ! 何が食料だ!! あいつら何も分かっちゃいない!」


 義家はそう怒鳴ると、もう一杯ワインを飲んだ。グラスをテーブルに戻し、再び寝そべった。あいつら何も分かっちゃいない。今度は心の中でそう唱えた。かれこれもう数ヶ月もこのミシャラク城にいればこの城の欠点ぐらい嫌でも分かるのだ。


 ミシャラク城は確かに堅城だ。10倍の軍隊であったとしても難なく追い払う事ができる。恐らくこのキャッスルワールドにおける最高の防御力を誇る城の筈だ。だが……、この防御力を生みだす“恐山の険しさ”が、そのままクラン「源氏」にとって毒になっていた。険しすぎる山の山頂に城があるせいで平地にある街に支配が及ばないのだ。平地にある街は全部で4つ。北の街ベネディクト。西の港町マハーバリ。南の街コエントラン。東の港町フルブム。それらが源氏の影響をまるで受けていなかった。何故なら源氏はミシャラク城からあまり出てこないからである。山から源氏が出てこない以上、平地の街に住むクランは勝手にやる。当然のことであった。ジブリールが食料のことを進言したのはこのためだ。支配する街をもたない源氏は、自給自足に近い生活をしていたのだ。山に住むモンスターを倒し、その素材からクランの調理士が料理を作るのだ。人数分食事がある時もあるし、ない時もある。つまり毎日がSP値との戦いなのである。


 ジブリールをはじめとする部下の中では、ミシャラク城を放棄したとしてもどこかの街を支配して安定的に食料調達を出来るようにした方が良いという意見が多かった。だが、義家はこの案には絶対に反対だった。結局、このゲームは城を奪うゲームだ。その為にも城を3つ以上はとらなければならない。既にオリジンは、ライナル・キサラギ・バルダーの3つの城を占領している。源氏はまだ1つなのだ。それにジブリール達は勘違いをしていると義家は思った。ミシャラク城は守備側が圧倒的に有利な城なのだ。もし、一旦他の者に明渡したとしても、それを取り返せる自信は義家には全くなかった。


 ――ジブリールは俺達が強いから勝っていると思っていやがる。違う。このミシャラク城こそが俺達に戦術的勝利をもたらしているんだ。アイツはその辺りのことが何も分かっちゃいない。


 義家にとってミシャラク城は一度手放せば二度と手に入れることが出来ない城だった。だからこそ、この城を占領し続ける事は絶対に必要だった。義家は、イライラしながら鎧を脱いでアイテム欄に収納してゆく。


「ったく目先の利益に囚われやがって、戦いってもんを全く理解しちゃいねぇ!」


 かといって食料の不安を解消する良い方法が見つかったわけでもない。やはり、自給自足以上の解決手段がないのだ。


 ――せめて指導者を手に入れることが出来たなら……。


 現在、クラン「源氏」に所属する人数は89人だ。職業「指導者」を所有するプレイヤーがいたなら、最大300人までクランに登録できる。それが出来たならば、ミシャラク城を守る人員を残しつつ、平地の街のどれか1つでも支配できるのに……。


「ないものねだりをしても仕方ないか……」


 義家はそう言うと、アイテム欄からペンをとりだして上半身をおこした。次にベッドの脇のテーブルで手紙を書きはじめた。既に何度も打診している内容だ。


 我がクランに食料を提供したならば、指導者を得た時に真っ先にクランに組み入れる権利を授ける。


 と、いった内容だ。

 だが、この手紙はあまり効果がなかった。キャッスルワールドではこの手の約束が守られることは稀だったからだ。もしも交換条件をつけるなら……、今、この瞬間に有益な物と交換しなければならないのだ。つまり、よほどの利益でなければ“未来の利益の提示”は、交渉では無意味のないものだった。だがそれでも小クランなどが相手の場合、交渉は成功する事があった。ほとんど、未来に望みがないと思っているからだろう。今回もそれを狙って義家は手紙を書いていた。無いよりはマシだろう。そんな気持ちで書いていた。この手紙を書くテーブルの脇には小さな木箱に沢山の手紙が詰まっていた。主にミシャラク城に届く手紙だ。全部で30通ほどあった。


 義家は、手紙を書き終えると、木箱の中の手紙を1つ1つチェックした。本当は戦いに勝った日にこんな事をやりたくないのだが、リーダーとしてしなければならない勤めだった。


「ああ、くそ」


 義家は手紙を読む。様々な言葉が綴られているが、“食糧支援を断る”という内容の手紙だった。読み終わった手紙は床に捨てた。無意味だからだ。義家は無表情で次々と手紙を開けた。どれもこれも似たような内容だった。断りの手紙。たまに人材交流の手紙が来ることもある。ホラ来たぞ。


『名高き源氏のクランに入りたいという者が我クランにいまして、大変優秀な人材です。ただこちらから一方的に人材を供与するというのは損になるので、そちらからも人材をだしてもらい人材の交換をしたい』


 義家は少し笑い、首を軽く左右に振った。こんな手紙が増えてくると、こう思わざるを得ない。この手の詐欺が最近流行ってるのかと。第一、この文が既におかしい。この手紙によると「大変優秀な人材」を源氏にくれるのだと言う。血で血を洗う世界において優秀な人材は喉から手が出るほどほしいもの。その優秀な人材をわざわざ敵のクランに送り出す馬鹿なクランなどあってたまるか。義家はそう思った。これはつまり――


 ――罠だ。


 ふん。“虎の壁”を突破できないと見て内側から崩すつもりか……、それとも人質を得るためか……、恐らくその両方だろう。または、ただ単にいらない人材を送りつけたいだけかもしれん……。くだらん。義家は手紙を床に投げ捨てた。浅知恵の罠ほど義家から見て滑稽極まるものはない。


 ――馬鹿が多いのか……それとも俺が賢いのか?


 義家は面倒くさい手つきで次の手紙を開いた。お? 手紙を読む手がとまった。食糧支援を快諾する内容の手紙だった。義家はまず、このクランにどういう経緯で食糧支援を求める手紙を送りつけたのか思いだそうとした。


「M&J……たしか、ベネディクトで細々とやっていたクランだったかな?」


 義家も当時の状況を覚えているわけではない。一ヶ月ほど前に出した手紙だった気がするからだ。ほんの数人からなる小規模クランだったことは何となく覚えていた。よく見るとM&Jが条件を出している項目が目についた。


『1つ条件がある。どこかの中立地帯で話し合いをしたい。もしもそれができるならな保存食を100人分で3週間まかなえる食料を進呈する。マハーバリのM&Jより』



 義家は目を疑った。ハッタリかとも思った。100人分を3週間まかなえる食料……。そもそもM&Jは小クランだったハズだ。マハーバリを支配していたのは……プラウドと呼ばれるクランだった記憶がある。


 普段はこの手の手紙は詐欺だと一蹴してしまうのだが、それにしてはあまりにも魅力的な話だった。


 ――裏をとるぐらいならいいだろう。


 そう思った義家は、まずM&Jなるクランが本当にマハーバリを支配しているのか確かめる事にした。100人分を3週間まかなえる量を本当に用意できるクランか、そこを確かめるのだ。


「ジブリール!! ジブリールはいるか!!」


 義家の声を聞きつけ、ジブリールが飛んできた。


「は、ジブリールはここに」

「喜べジブリール。食料の話。どうやら突破口が見つかりそうだぞ」


 義家は、手紙をジブリールに渡し命じた。


「お前は今からマハーバリの様子を見てこい。本当にM&Jがあの港町を支配しているか偵察してこい!!」


 ジブリールは、短く「はい!」と言葉を切ると、足早に支配者の間から出ていった。残された義家は再びワイングラスを手にとり一杯飲む。先ほどよりも美味しい味がした。



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