第042話 ジュン編 第二次バルダー城の戦い(12)
「いや、違う。俺達はオリジンとは戦っていなかったんだ。今まで誰一人としてな」
ジュンも時太郎も板東もこのホークマンの言っている意味が分からなかった。そこでジュンはホークマンに尋ねる。
「もっと分かりやすく言えよホークマン……。俺達はオリジンと戦っていたじゃねーか、つい3時間前までな……で、今も俺達の前に見えてるじゃねーか1km先にオリジンの旗を持ってよ」
ジュンの言い分に、時太郎も板東も首を縦に振った。これに対しホークマンは“くくく”という独特な笑い声をあげジュンに語りかけた。
「くくく、じゃあ逆に聞くが奴等がオリジンであるという根拠は何だ?」
「根拠も何も奴等はオリジンの旗をもってるし……それに白老やらシオンだっているんだろ? ならオリジンじゃねーか」
ジュンの回答にホークマンは人差し指と中指をそろえたポーズをし、北側に1kmほど離れた500人程いる塊に向けてその指をさした。
「それだぜ。オリジンの旗とシオンと白老……つまり俺達がこの“500人程の塊”をオリジンだと思い込んだ理由はつまるところそれだけだ。別に奴等が本当にオリジンかどうか確認したわけじゃねー」
「だから?」
「俺達はオリジンが大軍勢に膨れ上がったと錯覚していたが……そういうことじゃねー。ここに来た連中……つまり1km先のあの500人程いる塊は別々のクランの合同軍ってことだ」
「はぁ???」
「え?? そんな筈は」
ホークマンの衝撃のセリフに一同驚き“信じられない”といった表情でお互いを見た。
そして、このホークマンの答えに納得がいかない時太郎は冷静な口調で反論する。
「その話、あきらかな矛盾点があります……。なんといいますか……不可能なのです、その話……。複数のクランでバルダー城を攻めるという……その話は……明らかに無理があるんです。何故なら勝った“後”の“城の所有権”が問題になるからです」
この時太郎の反論を聞きながらも依然ホークマンはニヤけたままだ。この様子を見ながら時太郎は反論の続きを説明する。
「私達のクラン鷹の団、ジロンダン、ボコットケモンスターも3クランが合同してバルダー城を攻めベストコンボイを倒しました……。しかしその後我々は“城の所有権”で揉めませんでした。何故なら我々は300人以下という人数だったからです。この300人という数字がどんな意味を持つかわかりますよね? “指導者”という職業についている者がリーダーになるとクラン最大登録人数の枠が100人から300人になるからです。つまり300人以下であればクラン同士が共同で城を攻めとったとしても“やがて指導者の下で一つのクランとして行動することが可能なのだ”という希望的観測を持てるからそこ、我々は城の所有権について揉めずに済んだのです。実際に鷹の団、ジロンダン、ボコットケモンスターはそれぞれ“あとで指導者を必ず探しだし、その指導者をクランリーダーにする”という事を確認しましたよね? だからこそ3クランは合同でバルダー城を攻めました。なので実際に城を攻める場合にはまず、勝った“後”の話が入念になされるものなのです」
次に時太郎は遠くにいる500人程の兵士の塊を指さした。
「奴等を見てください。今は500人程ですが戦争が始まった時は600人でした。もしも彼らが別々のクラン同士であるとするならば、勝った“後”の“城の所有権”をどうすればいいかという話が必ずあったハズです。もしも城がオリジンの所有物になるなら複数のクラン達は最初からバルダー城攻めに協力なんてしないでしょうし、もしも集まったクランの中のどれかのクランが城を占領しようものなら、他のクランが黙っていないでしょう。つまり彼等は300以上という人数のおかげで戦う前に必ず決めなければいけない“勝った後、城をどのクランが所有するか”という問題について話がまとまる可能性が限りなく低いのです。よってあの500人程の兵士の塊は複数のクラン同士によって成立しているという可能性がないと私は考えます」
実に分かりやすい説明だ。ジュンはそう思った。“指導者”がリーダーになることによってクラン最大登録人数は300人になる。バラバラのクランで行動していても300人以下であれば“いずれ指導者を外部から引き入れたなら一つのクランになれるので共に行動しよう”と説得することができるが……300人以上の軍隊での城攻めとなると確かに勝った“後”にバルダー城をどのクランが占領するのかという事で揉めることは間違いないように思えた。
ホークマンは時太郎のノートをさして答えを示す。
「くくく、謎は一個ずつ解いてくか……。時太郎……自分のノートを見ろ、ヒントが書いてあるぞ?」
時太郎はホークマンに促されるように自分のノートを開く。だが時太郎には何がこれらのヒントなのか分からない。この困惑する時太郎の様子をホークマンは満足そうにニヤケながら観察している。そして多少挑発する口調で時太郎に向けて言葉を発した。
「仕方ねーな……大ヒントだぜ? これを見ろ!」
そう言うとホークマンは時太郎からノートを横取りし、3つの言葉にマークをつけ、それを時太郎に見せる。時太郎はそのマークがついた部分の言葉を凝視した。
“城を頂くのは俺達パラライトだ”
“殺傷数で他のクランに負けられない”
“沢山殺すと城を貰える”
これを見て時太郎はあることに気付いた。
「ま、まさか!!」
ホークマンは人差し指を時太郎に向ける。
「正解。ようやく気付いたようだな時太郎。3つ目のヒントなんてそのまんまだよな……“沢山殺すと城を貰える” ……つまりこいつらはお互いに競い合っているんだ。俺達を何人殺せるかという事をなぁ……で、最も多く俺達を殺したクランこそがバルダー城を獲得できるってワケだ。殺人の数をまるでボーリングのピンを倒した数みたいに競うだなんて、なかなか不謹慎な奴らだ(笑) だが何故これで600人で行動しているか分かっただろ? こいつらは“あらかじめ決めたルールに乗っ取りそれをお互いが納得することで勝った後の城の所有権をどのクランが獲得するのか……というのを決めているんだ”」
そのホークマンの言葉はなかなかに衝撃的だった。ホークマンは笑っているが、今までの戦いが殺人を競い合うゲームであったという事実にジュンも板東も愕然とした。
「……」
「……」
ホークマンはジュンと板東の方は見ず時太郎の方を見て自分の考えに対する同意を求めた。
「なぁお前はどう思う? 時太郎」
盲点。時太郎の頭にはそんな言葉が浮かんでいた。確かにホークマンの言うとおり、この方法にクラン同士が納得しているのであれば、勝った“後”に“城がどのクランの所有物になるのか”という問題で揉めずに済む可能性は高い。ただ同時にこのプランを完成させるには“あるピース”が絶対に必要であることも時太郎は感じていた。
「確かに“あらかじめ決められたルールの下に城の所有権を決める”という事であれば600人の別のクラン同士達を管理できるかもしれません……。ただし、それには“ある条件”が必要だと思います。それは“誰が誰を殺したか”“誰がどのくらいの人数を殺したか” という情報が“正確”かつ“公平”でなければいけません。更に決まった結果を覆させないという“安心”と“信用”も必要になるでしょう。もしも殺人の数において不正確か不公平であるならば、複数のクラン同士が共にバルダー城を攻めるという話は成り立たないでしょう」
ここでジュンがハッとしたような顔をした。殺人の数をカウントするという人生スキルを所有する男の話を前もって聞いていたからである。しかもその男はテンがこの作戦の最重要人物だと名指しした人物だったからだ。
「殺した人の数を数えるスキル……その“正確性”と“公平性”を保つ為の“会計士”だったのか!!」
「くくく、そういうことだぜジュン。会計士とやらの“ある一定の空間における誰が誰を殺したか数を把握する”という人生スキルによって“俺達を殺した数を競う行為”は“公平な審判つきのエクストリームスポーツ”になったわけだ。勝者はバルダー城を獲得できるという特大商品つきのな。恐らくデモンストレーションでもして、その会計士とやらの人生スキルを披露したんだろうよ。そこでここに来ている敵の複数のクラン連中はその人生スキルの“正確性”と“公平性”を知ったんだろうな。……そこでだ……皆ちょっと考えてほしいんだが……この集団の弱点はなんだと思う?」
こうホークマンに聞かれ、他の時太郎や板東が迷う中……ジュンだけは瞬間的に答えが分かってしまった。ジュンには時々こういう瞬間があった。何故かという過程を全てすっ飛ばして答えをみつけてしまうのだ。これはいわば数学の問題で式をちゃんと書かないのに答えだけが先に分かってしまった瞬間に似ている。
ジュンがゆっくり頭をあげるとホークマンと目があった。ホークマンはそのジュンの確信に満ちた目を見て、ジュンが答えに辿りついた事を知った。
「答えが分かったみたいだなジュン……言ってみろよ」
ホークマンにそう促され、ジュンは瞬間的に辿りついた一人の人物の名前をあげた。
「会計士……つまりこの500人の集団はこいつ一人を殺せば空中分解する。そういう事を言いたいんだろ?」
「くくく、ははははは」
ホークマンは立ち上がり拍手をする。
「お前もそう思ったみたいだなジュン。そうだ、この500人程の塊はつまり殺人の数を会計士が保証してくれていると思うからこそお互い仲良く行動してるわけなんだ。じゃあ、もしも会計士が俺達の手によって殺されたならどうなるんだろうな? バルダー城を攻める為に集まった一つ一つのクランはどうなるんだろうな? くくく、そんな事決まっている。周り全てが敵になるのさ」
「殺人の数を数えてくれる存在。つまりボーリングなら点数を数える機械がイカレちまったようなもんだ。ピンが何本倒れたか分からないのにどうやってボーリングの勝ち負けを決める? その時点でゲームセット、試合は途中で終わりだ。いくら俺達を殺しても城が自分達のモノにならないとバルダー城を攻めてるクランが知ればこれ以上の戦闘の継続は望まないだろう。なにせ戦闘を継続させるという事は自分達の死者を増やすことでもあるからな。バルダー城を占領できるという果実があればこそ喜んで城を攻めたが、その可能性が無いのならバルダー城を攻める行為は無意味だ。あとの行動の予測はつきづらいが戦闘継続ならバルダー城を攻める為に集まった一つ一つのクランは自分達以外の全てのクランと対決する覚悟が必要だろう。まぁ俺がクランリーダーならばそんな愚かな行動はとらないがな。少なくとも今までどおり仲良しこよしで並んでバルダー城を攻めるという事はないだろうな」
今度は、板東も時太郎もこの場にいた4人全員が頷く。
会計士……こいつを殺せばこの戦いは終わるのだ。
3クラン連合の殺すべきターゲットが一人に絞られた瞬間だった。
会計士というのは人の名前で職業ではありません。会計士の職業は戦士です(笑)




