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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅱ章 バルダー城の戦い
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第041話 ジュン編 第二次バルダー城の戦い(11)



 オリジンは城としての機能を取り戻したバルダー城を前に全軍を1kmほど後退させるという決断を下した……。それから実に3時間の時が流れていた。



 2060/06.24/16.40


 2060年6月24日午後4時40分。





 この間、城内にいる3クラン連合の兵士達は一時の休息を楽しみ次の戦いに備えていた。


「オリジンは止まったままか……」


 ジュンの前方1kmほど先にはオリジンの兵士500人程度の塊が陣取るこんもりした丘があり、ジュンとホークマンはそれをバルダー城の外壁北側壁上で見つめながら佇んでいた。


 ジュンは元来軍をどう動かせばいいかなんて事は分からない。しかし、ホークマンの策で跳ね橋を消し城門を石で塞いでからのオリジンといえば、ああやって矢の届かないバルダー城の北側で3時間も固まったままなのだ。ジュンはこのオリジンの動きを“困惑”と受け取っていた。ジュンの言葉にホークマンが例の笑みを浮かべて自身の見解を述べる。


「くくく。普通に考えりゃヴァシリーが跳ね橋を下げた時点で勝負があったようなもんだったからな。次の手を考えていなかった……ってところかな……。このまま引き下がってくれりゃいいんだけどよ」


 ジュンはホークマンに言われてハッとした。オリジンの指揮官の考えにもよるがこのまま戦わず尻尾を巻いて逃げ帰る可能性もあるのだ。ジュンは全くその可能性を考えていなかった。当然の如く戦いには続きがあると思っていたからだ。


「撤退するかもってことか?」


「……指揮官の考え方次第ってやつだな……この状況をまだ勝っていると捉えるか……それとも“もう策が無い”と捉えるか……半々って所だな。まぁこっちも城門で敵を押し返すのにかなりの死傷者がでたんだ。どれだけこちらの状態を掴んでるかはわからねーが、基本的にはまだまだオリジンの方が有利ってことには違いねぇ」


 なかなかに悲観させる言葉だ。つまりホークマンはまだ負けていると言っているのだ。ジュンは大きくため息をつくと壁上にある小石を堀に向かって蹴飛ばした。


「まぁそうイライラすんじゃねーよジュン。俺がこの3時間何もやってねーと思ったのか?」

「あ?」

「アレを見ろよ……時太郎をよ」


 ホークマンは人差し指を時太郎に向ける。時太郎はジュンの居る場所から20mほど離れた北西の塔の上から双眼鏡を構えオリジンを凝視し同時に何かをノートにとっていた。ジュンはさきほどから時太郎が双眼鏡でオリジンを覗いている事は知っていたのだが実のところ時太郎が何をしているかというのは知らない。


「時太郎に何をさせているんだ?」

「くくく、時太郎が現実世界では読唇術の講師をしているって本人から聞いた事はないか?」

「え?」


「アレは敵の唇の動きを読んでるんだ。で、使えそうな情報を集めている」


 双眼鏡と読唇術のコラボレーション……。1kmほど離れた敵の唇など双眼鏡で見えるものなのだろうか? ジュンはそんな事を思いながら時太郎の方を集中して見ると、確かに時太郎は何かを口ずさみながら双眼鏡でオリジンの方を見ていた……そして一心不乱にノートに何かを書きこんでいるようだった。その姿は傍目からみると少し不気味に映った。となりのマンションのカーテンを開けて喋っている女性を双眼鏡でケラケラ笑いながら観察する昔のドラマを思いだす。ジュンは時太郎とあまり親しくない為に彼のことをあまり知らないのだが、ジュンは初めて時太郎の個性を見たような気がした。

 するとジュンが時太郎を見ていた視線の先……つまり西側から一匹の鳩のようなモンスターがこちらに向けてゆっくりと近付いてくる姿を発見した。


「おい! ありゃなんだ?」


 ジュンが声を上げると、次の瞬間ホークマンが3クラン連合全軍にむけて大声で叫んだ。


「おい!! あのモンスターを射るんじゃねーぞ!!」


 ホークマンの叫び声を聞き弓で射ろうとしていた何人かはその動きをやめた。

 そのハトみたいなモンスターはホークマンの所にやってきて、足に抱えた筒みたいなものを落し、そのまま去っていった。


「今のなんだったんだ? ホークマン」


 ジュンは当然の疑問を口にした。ホークマンはそれに答える。


「モンスター郵便ってヤツだ……誰が最初に考え出したか知らないがああいうハトみたいなモンスターに命令して目的の場所や人まで手紙を届けるのだそうだ……。鷹の団はこのモンスター郵便の業者と契約しててな、鷹の団にまつわる手紙があればまずこの業者に届けられここまで送ってもらうようになっている。まぁ人が運ぶよりも遥かに早いし、籠城している場合でも届くという利点はある……。だが正直あのモンスターが来るたびに全軍に射るなと命令しなきゃならん……そこをどうにかしてほしいぜ」


 ホークマンはぶつくさ文句を言いながら落された筒を拾い中を確認する。


「おう? ……今回はやけに手紙が多いぞ?」


 ホークマンは幾つかある手紙の中の1通を手にとり目を通す。最初は普通の顔をしていたホークマンであったが手紙を読み進めるうちに段々と表情が変化していく。その顔はまさしく“驚き”といった表情だ。ジュンは手紙の内容が気になりホークマンに手紙をよこせと催促した。


「ちょっとそれよこせよ! 手紙!」

「……ほらよ」


 ホークマンは投げ捨てるようにジュンに手紙の中の一通を渡す。そこに書かれていた内容はまさしく予想外のことだった。


「キサラギ城には200人のオリジン兵がいた??」


 ジュンは声を出し驚きの感情を表に出したと同時にめまいに似た疲労を感じた。ホークマンはそのジュンの様子を見てもう一枚の手紙をジュンに投げつけた。


「クソッたれ、どうやらライナル城も同じみたいた。200人程のオリジン兵が潜んでいて、城を攻撃したクランは散々に打ち破られたらしいぜ」


【キサラギ・ライナル作戦】はキサラギ城とライナル城から出立した軍隊が出払った所を見越して各エリアのクランが城に攻撃を仕掛けるという作戦だった。ほぼオリジンの全軍以上と思われる600人がバルダー城前に集結している事を考えると、キサラギ城とライナル城はほぼ(カラ)と考えるのが妥当だった。だがそうではなかった。ほぼ(カラ)と思われたキサラギ城とライナル城には十分な兵がまだ残っており、ホークマンの攻撃要請を受け取った各クランはこれらの城を攻撃したのだが、見事に撃退されたのだ。


 ジュンは北側1km先に陣取る500人ほどのオリジンの軍を凝視する。彼等は一体何者なのか……クランリーダーの職業が“指導者”である場合、クランの最大登録人数は300人のハズである。最初にいた600人とキサラギ城とライナル城で待ち構えていた兵の数を足すと実に総勢1000人と思われる大軍がオリジンの兵士として行動しているのだ。


「ホークマン! こりゃどういうことだ!? やつら1000人で行動してるぞ!? “指導者”の最大クラン登録人数は300人じゃなかったのかよ!」


「俺が知るかよクソッたれ!!」



 ジュンはもう一度手紙をつぶさに見る。差出人はどうやらヤヨイという街のクラン“ブッチギリ”のリーダーの“与作”と名乗る男からの手紙だった。与作の手紙の内容を要約すると2つの不満をホークマンにぶつける内容だった。


 1つ目はキサラギ城からほとんどの兵士が出払ったというホークマンの情報を信じてキサラギ城を攻撃したのに。200人のオリジン兵に待ち構えられ散々に打ち破られ半分くらいの死人がでたこと。


 2つ目はヤヨイ街のクラン達だけでキサラギ城を攻撃すると約束を取り決めたハズなのに、キサラギエリアの他の街のクランも大量に来ていたこと。


 後の文章はこの2つの事に対する恨みつらみと、大量の“説明責任を果たせ”という文言が繰り返し書かれているだけだった。


 1つ目の不満はジュンには理解できたが2つ目の不満の意図をはかりかねた。ヤヨイ街のクランだけでキサラギ城を攻めるという約束は本当にあったのだろうか? ここに関してはホークマンも聞いていなかったようでスパイとの連絡係を務めていた板東を呼び寄せた。


「おい! 板東どうなってる!! この手紙のヤヨイ街のクランだけでキサラギ城を攻めるという約束だ! テンはそんな約束をしてきたのか?」


「え? え~とそう言えば……」


 板東はテンとの会話を頭の隅から引っ張りだすように思い出そうとしていた。

 するとテンとのある会話が鮮明に蘇ってくる。


『もう4日も前だ……。あの日は【キサラギ・ライナル作戦】を各クランリーダーに伝える為にヤヨイ街に一日だけ外泊した……。そこでヤヨイ街の連中は自分達だけでキサラギ城を攻めると言いだしたもんだから、まぁ話をまとめる為には仕方ないかなと思ってその約束をした。それで他の街のクランの集まりには行けないという断りの手紙をキサラギエリアの各クランに出して……え~それからすぐに帰った……。その時にはもう既にチャオズはいなくなっていた……』




『ヤヨイ街の連中は自分達だけでキサラギ城を攻めると言いだしたもんだから、まぁ仕方ないかなと思ってその約束をした』



 板東は首をコクンコクンと縦に振る。


「確かに言っていました。ヤヨイ街の連中だけでキサラギ城を攻めるって、あと他のクランには断りの手紙を出したとも……」


 ホークマンはこの言葉に激怒した。


「なんでそのことをもっと早くに言わねぇ!!!!」


 そういうとホークマンは先ほどの筒にある手紙の中の一枚を読み上げた。


「サツキ街のクラン“レンヌ”のデンベレです。鷹の団さんの言うとおりキサラギ城を攻めましたが、敵がウヨウヨいました。これはどういうことでしょう? わざわざサツキ街まで足を運んでくれた事は嬉しいのですが騙された気分です」


 ジュンと板東はその矛盾に満ちた手紙の内容を聞き、背筋がゾクっとするような感覚を味わっていた。テンが行っていない街から手紙が来ているのだ。一体だれがそこに行きキサラギ城を攻めるように要請したのか……。


「板東の言う事が本当ならサツキ街に行ってわざわざキサラギ城を襲うようにと言ったのはどこのどいつなんだ?? 何のためにワザワザそんなことをさせる??」


 ホークマンの問いに誰も答える者はなく、場を重い沈黙が包んだ。この理解不能な現象をどう捉えればいいのか分からないからだ。


 ジュンには策略のイロハというものが分からない、分からない以上どうすることもできないのだが……ジュンは時々野生の勘のようなものが働く時がある。その勘によるとこの不思議な現象はオリジンによって引き起こされた事が間違いないように思えた。根拠はない……だが偶然過ぎると思ったのだ。テンがヤヨイ街を回ったタイミングで同じ動きをしているものがいたというのが怪しすぎるのだ。


 その時、困惑の表情を浮かべた時太郎がジュンとホークマンと板東が座っている所にゆらゆらと近づいてくる。


「どうした時太郎?」


 そうホークマンが尋ねると時太郎は首をひねりながらおかしなことを言い始めた。


「すいません結局白老以外の幹部クラスが誰か分からず、敵の方針を探ることについて失敗しました……。白老も暗幕を張った影に隠れ、ずっと姿をみせませんでした……ただ変なんですよね……私はとにかく双眼鏡で口元が見える奴等の口の動きを追っていたのですが、オリジンの一般兵達はどうも我々と戦うというよりも別のクランと戦う意識が強くて……。それぞれに“リライト”には負けないだの“キューウェル”には絶対勝つだの“城を頂くのは俺達パラライトだ”だの訳の分からない事を口走る輩が多すぎて私には理解不能な連中でした……何というか……訳の分からんオリジン兵が多かったです」


 ホークマンは今の時太郎の発言に何かピンと来たのかアイテム欄から紙のようなものを取り出す。


「時太郎! もう一回今の話で出てきた名詞をあげてくれ」

「はい?」

「いいから!」


 またもや時太郎はホークマンの意図が分からず溜息交じりに先ほど自分が言ったなかで何が名詞にあたるか考えて発言していく。


「……双眼鏡……白老……」

「違う、そうじゃねーよ。クランの名前みたいなのを言ってたろ! それを言ってくれ」


 時太郎はホークマンの言い回しの困難さに文句を言いたい気持ちを抑えてクラン名とおぼしき名詞をあげていった。


「リライト、キューウェル、パラライト」


 ホークマンは大きく頷く。


「やっぱりな……情報屋が売っていたキサラギエリアクラン名簿にその名前がのっている。親オリジンクランとしてな。親ってことは、親しいって意味だ……それに時太郎! まだその兵士達は何か言ってなかったか?」


 ホークマンからの矢継ぎ早の質問に時太郎はノートを開き、あるキーワードを口に出した。


「そういえばどの兵士も殺した人数がどうのとかって言っていましたね。“沢山殺すと城を貰える”とか……“殺傷数で他のクランに負けられない”とかいうのも言ってましたね」


 今度はジュンもピンと来た。ホークマンとの会話の中に確かでてきていた。殺した人数を数える人生スキルを保有する男“会計士”の話を。



『オリジンの次の標的はバルダー城らしい。その為の作戦の要になる人生スキルを持つ“会計士”という男を近頃オリジンに入団させたらしい』


『会計士の人生スキルが分かった。ある一定の空間における誰が誰を殺したか数を把握するスキルだ。だがこれがどう使われるかは分からない……人を殺した数など数えてどうするつもりなのか?』


 ホークマンとジュンは今更ながらテンの獲得してきていた情報をもっと重要視するべきだったと後悔していた。テンは初めから言っていたのだ、会計士という男の人生スキルこそがバルダー城を攻撃する為の鍵になると。もっとこの事実に目を向けるべきだったのだ。その中でホークマンがおもむろに喋り出した。


「そうか……テンは初めからこの戦いの解答を俺達に与えていたんだな、そして分かったぜ奴等が600人という大軍で行動できていたわけがな。そして同時に分かったぜ奴等の致命的な弱点さえもな」


 ジュンは思わずホークマンの方を向く。それは板東も時太郎も同じだったようで皆一斉にホークマンの方を向いていた。ホークマンはその視線が心地良いのか例の不気味な笑いをさせながらオリジンが600人で攻撃してきたわけを語った。


「俺達はオリジンと戦っている……そうだなジュン?」


「はぁ? ……そりゃそうだろ」


 ジュンは今更ホークマンが突然何を言い出したのかと思った。だがホークマンのこの質問の意図はそこにはなかった。


「いや、違う。俺達はオリジンとは戦っていなかったんだ。今まで誰一人としてな」


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