24-ダレカ ガ キエタ
──教室には、いつもと同じ日差しが差し込んでいた。
静かだった。
それが、この空間にとって“通常”の状態だった。
けれど今日に限っては、その静けさが──不自然に思えた。
拓海は、席に着いたまま、窓の外を見ていた。
どこか、ぼんやりとした目で。
担任が来て、ホームルームが始まった。
「……あれ、井上は?」
誰かが、ぽつりと聞いた。
でも担任は答えない。
誰もそれ以上、口にはしなかった。
いつもの空気。
違和感だけが、そこに残る。
拓海は、何も言わなかった。
机の中には、昨日のメモと──
あの、Lyra語の紙がしまわれていた。
(……あいつは、もう、ここにはいない)
そう確信する理由はない。
でも、わかる。
“この世界の空気”が、微かに変わったことを。
黒パーカーの姿は、今朝、駅前にあった。
昨日までは“誰も気に留めなかった”存在が、
今日はすれ違う人々の視線を引いていた。
(変わっていくのは、俺たちだけじゃない……?)
放課後。
拓海は、一人で歩く。
駅前の喧騒も、聞き慣れたアナウンスも、
全てが“いつもの街”のはずなのに、どこか歪んで見えた。
そして──
交差点の向こうに、誰かが立っていた。
黒いパーカー。
フードを深く被って、こちらを見ている。
──違う。
昨日までと、何かが違う。
その人物は、自分ではない。
けれど、似ている。
とてもよく似ている。
気づいてしまった。
それが、自分の“後”にここへ来た者なのだと。
次のプレイヤー。
次の観測者。
あるいは、“かつての自分”。
誰が抜け出したのか。
誰が残されたのか。
世界は何も答えない。
ただ、静かに回り続けている。
──
この世界で、ダレカ ガ キエタ。
それだけは、確かだった。
【完】
この物語は、
“自由”を与えられたはずの世界で、
その“自由”に縛られて生きる人間たちの話でした。
学歴。就職。常識。ルール。
「選べるはず」と言われながら、
実際は選べないものに囲まれて、レールを走らされていく日常。
それを、ただ淡々と“普通”だと思っていた主人公が、
ある時ふと、「違和感」に気づく。
その違和感がやがて、
この世界が仮想であり、
“自由の皮を被った牢獄”であるという真実に繋がっていく。
けれど、知ったからといってすぐに動けるわけじゃない。
「知ってしまったこと」と、「動くこと」は、別の話だ。
井上のように。
拓海のように。
そして──
読んでくれた“あなた”のように。
誰かがいなくなった。
誰かが残された。
それが意味することは、きっと一つじゃない。
この世界の正体に気づいた者が、“どこへ向かうのか”。
それを決めるのは、この物語じゃない。
“あなた自身”だ。
この物語が、
あなたの中の“ノイズ”になってくれたのなら──
それが何よりの喜びです。
最後まで読んでくれて、ありがとう。
また、どこかの“レイヤー”で。




