表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/24

20-読解

──昨日と同じ雑踏。


拓海は、ひとりで歩いていた。


昨日、ペットボトルの痕跡を見つけた場所。

あの“異物”が残されていた地点に、何か続きを感じた。

もう一度来れば、何かが変わっているかもしれない──

そんな気がして、足を運んだ。


だが、景色は何も変わっていなかった。

人の流れも、街のざわめきも、昨日とまったく同じに見える。

けれど、拓海の視界だけが──違っていた。


 


電柱に貼られた古びたポスター。

壁にこすれたように残った黒いスプレーの跡。

注意喚起の立て札。


それらの“背景”が、言葉として浮かび上がってくる。


──

「出ロ」

「マモレ」

「イマ、ミテイル」

──


見覚えのない記号。

でも、脳がそれを“意味あるもの”として受け取っている。


(……読める)


昨日はただの“違和感”だったものが、

今日は“言葉”として認識される。


(Lyra語……だよな、これ)


記憶の奥底に、同じ構造の文字列が引っかかっている。

かつて自分が使っていた──そんな感覚さえあった。


──


「拓海!」


突然、声がした。

振り向くと、井上がいた。


「……お前もここに?」


「ん? たまたま。昼メシでも探しててさ。こっちの方来たの初めてかも」

「……そうか」


軽いやり取りだったが、心の中では別の感情が渦巻いていた。

井上がここにいるのが、偶然とは思えなかった。


 


──

そのとき、視界の隅に黒い影が滑り込む。


雑踏の切れ目。

人波の一瞬の隙間に、黒パーカーが立っていた。


また──あいつだ。


黒パーカーは拓海をまっすぐに見つめると、

すっと何かを取り出し、足元に落とす。


そして、何も言わずに踵を返し、雑踏の中へと消えた。


拓海は駆け寄り、その“何か”を拾う。

それは、薄く折りたたまれた紙片だった。


裏返すと、やはり意味不明な記号が並んでいた──

そう“見えた”のは一瞬だけだった。


次の瞬間、それが自然に読めた。


──『ココカラハ、アナタシダイ』


(……ここからは、あなた次第)


喉の奥が震えた。

意味がわかる。それが自分に向けられた言葉だと、理解できた。


「なあ、井上……これ、見てみろよ」


拓海は紙を差し出した。


井上は一瞥し、首を傾げた。


「ん? 何これ? 汚れてんなぁ……なんか書いてんの?」


「読めないか?」


「いや、読めるって……文字じゃないだろ? ただの模様じゃん」


その瞬間、拓海の中で何かが音を立てて崩れた。


(見えないんだ……)


井上には、“そこに意味がある”ことすら見えていない。


「……ごめん、なんでもない」


「なんか変だぞ、お前。最近」


拓海は紙片をそっとポケットにしまった。

それは、世界の深さに触れた“鍵”だった。


 


──

もう、同じ場所にはいない。

同じ言葉を話しても、見ているものは違う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ