拒絶 ①
「殺したい、ですか?
叶わない欲望は捨ててしまった方が楽ですよ
あなたに勝ち目はありませんもの」
「……殺人鬼の前でそんなセリフを吐くとはねぇ
さすがアタシと殺り合って生きていただけはある
だがそれも終わりだ……あの時から無意味に生き長らえてきたてめーの命……
今日、ここでブチンと切断してやるよクソアマ……」
「ちょっとキャシィ!
コイツの言う通りよ、私たちに勝ち目なんて……」
「てめーはソーニャ連れてスッ込んでろ!!
こんなヤツを二度も殺し損ねるほど落ちぶれちゃあいねーよ!」
メイドを何とか倒したとして……
ソーニャがいるのといないのとでは今後の戦況も変わってくる
しかし……とにかく今はこの絶対防御とどうしようもない攻撃をどうにかしなければ
「おいポンコツメイド、神父は元気か?
てめーもあの腐れ神父の刺客なんだろ?
さもなきゃてめーは今頃骨ひとつ残ってねーはずだ」
「く───?」
瞬間、メイドは動きを止めた
「てめーを殺せば次は神父サマを大嫌いな地獄に送ってやる
ま、地獄は大変かも知れねーが二人仲良く悶え苦しんでてくれや
アタシは神なんざ信じてねーから死んだら終わりさ
大変だなぁ、死んでも魂が残り続ける居残り組の皆さんは」
「そこまでにしろオオォォォ───ッ!!」
「なにッ───!?」
何故か、ルナは咆哮と共に暴れ始めた
「うおッあああ!?」
蹴りで壁を破壊し、手刀の衝撃波で照明を粉砕する
「がッ!?」
キャシィは治りかけの傷口を守るのに必死で反撃出来ない
もっとも、反撃しても無意味なことは証明済みだが
「キャシィィィッ───!!」
「コイツ……怒ってンのか!?
見境なしに滅茶苦茶やりやがってッ!!」
先程まで本気ではなかったということが分かる
「神父様に救われた身で……
神父様を……侮辱するかァァ───ッ!
ならばその肉体……粉々にしてやるッ!!」
「救われたァ!?
てめーがそんな醜いバケモノになっちまったのは
クソ神父のせいだってことが分からねーのかァァ!?」
「黙れッ!!
殺してやる……黙らせてやる……心臓を差し出せェェ───ッ!!」
このメイド……
キャシィは此方から攻撃さえしなければ問題ないと思っていた
しかしその考え方は甘かった
向こうからも当然のように攻めてくる
そしてその攻撃の威力は即死してもおかしくないレベルのものだ
明らかに人間離れしている
「くそ、暴力メイドめ……解雇されちまえ!」
破壊された壁から『部屋』に入り、更に部屋の窓から脱出する
一度狭い建物という空間から離脱しなければ確実に殺されると踏んだからだ
それに、ソーニャたちを引き離すことも考えなければならない
あのマヌケなメイドは全員殺すつもりと言ったが、最優先はキャシィだ
二人を殺すためにキャシィをここで逃すのはあのメイドにとってあるまじきこと
神父を侮辱された怒りで震えている今は尚更───
案の定、気の狂ったメイドはキャシィを追ってきた
建物を破壊しながら
大地を踏み砕きながら
死のオーラを纏いながら
「来やがったか……さっさとケリつけるぞボケ!」
「キィェェェェェェ───!!!」
やはり、ソーニャに傷をつけたあの能力がなくとも充分なバケモノだ
「……殺す方法は……ないようだな……だが……」




