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マヌケな刺客

「……やれやれ、風呂に入ったら染みるか……?

景色は大して良くねーし……やることもねーし……」


キャシィはベッドに横たわり、ゴロゴロと転がってみせた


すると───


「……何だ……ここはアタシの部屋だぜベイビー

切り刻んでフルコースに並べられてーのか家畜野郎」


───部屋に見知らぬ女が無言で入ってきたので、キャシィは不機嫌そうに罵る


「……てめー……アタシの声が聞こえねーのか、ああ?

だったらそのクソ耳にナイフぶっ刺して穴を拡張してやるよ」


「……弾は……一発で良い……」


「───あ?」


突拍子もないことを言う女


キャシィが呆気に取られた次の瞬間


女は持っていた拳銃を発砲した


キャシィは向かってくる銃弾を余裕で回避し、


女の首にナイフを突き刺そうとする


だが


「──うぐッ!」


銃弾は……キャシィに命中しなかったはずの銃弾は……


「な……んだ……これは!?」


何故か、キャシィの腕に命中していた


「うおおッ!?」


「弾は一発……スナイパーは弾を数発用意してはならない……

一発で仕留める狩猟者が数を『妥協』するのは……許されぬことだ

一発だ……二発も三発も間違っている……一発のみが正しい弾数……

これだけあれば私はお前の全身を撃ち抜ける……」


「……何者だ……てめー……何だこの弾丸は……」


理解が追いつかないキャシィ


ローレントたちを呼ぼうと思ったが、


「……くう、的が増えるだけだ……

コイツは本当にこの弾ひとつだけでアタシを殺しきる……

呼んだって全滅するだけだ……」


「……ひとつ言っておくと、私は耳は悪くない

むしろお前よりも優れている

だがそれは『代償』だ……失ったものの『代償』に過ぎない

私は全くものが見えないのだ……スラムに住んでいた頃に色々あってね……

幼くして視力を失ってしまったのだよ

だが……ある日、神父様が力を与えてくださった……」


『神父』


その言葉にキャシィが反応する


「ふぅぅ、空気の震え……

見えなくても分かる……やはりお前も神父様を覚えているな?

その空気の震えはそういう類いのものだ」


「テオドール……てめー……あの腐れ神父の手先か」


「そうだとも……お前を殺しに来たのだ」


「……そりゃどうも御苦労なこった

わざわざこんな辺鄙な場所まで来て返り討ちにされるってのは哀れなもんだぜ」


「忘れたの?

既に銃弾はお前を殺せる

少しずつ丁寧に『完成』させるだけだ

殺す前に名乗らせてもらう、我が名は『ホノカ』

地獄でその名を広めておけ」


「……ハジキ野郎……やるぞ」


キャシィは力なく応戦の意思を示す


だが、途端に脚を撃ち抜かれて倒れ込んだ


「だッ……ぐァ……!」


「軌道の終点はお前の『心臓』だ

ジワジワと終点に近づいている……分かるか、ええ?

薄汚れた殺人鬼……お前自身の『死』の快楽に悶えて逝け」


ホノカが撃った一発……ただの一発の銃弾は、キャシィを再び貫く


次は首


幸いにも直撃はしなかった


「か、かすっただけだぜ……だが次はやらせねェェェェ─────ッ!!!」


「……既に弾は私の思うままの軌道……

お前を確実に殺すという私の意思の上にある……

斬っても焼いても潰しても……この弾丸はモノに当たれば必ず跳ね返る……!!」


ホノカは宣言通り、少しずつキャシィを殺すつもりだ


動けなくなった虫を喰らう蜘蛛のように


……


……待て


モノに当たれば……


じゃあ、モノに当たらなくなれば?


例えば、この部屋の壁がなくなれば、ぶつかるものがなくなって命中は回避できるのではないか?


……ものは試し、だ


「神父様は……視力を失った私に力をお与えになった

お前を仕留めるには充分すぎるほどの力を……」


「へっ、殺人鬼一匹始末するために回りくどいことしやがるな

だがもうお前は死ぬ……弾の軌道とやらの話もおしまいだ」


「何……?」


「命が惜しけりゃ伏せな

『お焦げ』になりたくなけりゃあな!」


キャシィは何かのピンを外した


その瞬間───


耳をつんざく音圧


凄まじい風圧


「これは……手榴弾かッ!?」




・・・




ホノカは伏せるのが遅れて吹き飛ばされた


キャシィは物陰に隠れ、被害を最小限に抑えることに成功した




「……く……ふぅ……これは……!

だが……弾丸は破壊出来ないと───」


「バーカ、よく見ろよ

空気の震えを感じ取ってみろよ」


「……こ、これは……まさか……?」


「壁、なくなってんだろ?

おかげでこの壁めがけて飛んできた弾丸はそのままサヨナラしちまったよ

別れも告げずにお星様にでもなりやがったんだろう」


「……しまったッ!!」


「密室の中でしか使えねーようなヘボい能力でここまでやったのは……褒めるに値しねーな

ただの初見殺しだ、面白味なんざありゃしねー

てめーの知能がケナシザル程度だってことが分かったくらいだ……

……さて、次はアタシの番だぜヘナチョコ拳銃女……!」


この戦い、一撃で脳天を撃ち抜いていればホノカは勝っていただろう


しかし、そうはならなかった


ホノカはキャシィを殺すという時にあろうことか油断し、


何とも間抜けな形で敗北するに至ったのである


己の強さを過信した者は敗北する


この世に絶対的優位な戦いなどない


油断した時点でアウトなのだ


これこそがホノカの『弱さ』である


「ぐぬぬぬ……どうしたものか……

初めの一発で殺しておくべきだった

くそッ……殺されるぅぅぅ……!」


「どうしたもこうしたも、お前の弾道はただひとつ……

アタシにブッ殺されておしまいルートだけだ

汚物ブチ撒けてくたばれ、くらァァァァァ───ッ!」


「ピェェェェェェァァァァ──────────ッ!!!」


ホノカ・ダミアンズ


別名 『盲目の悪魔』『軍人殺しのエリート』『闇に潜む一発屋』


19歳 恋人おらず


好きなバンドはマッドサブウェイ


初歩的なミスにより、彼女はキャシィに敗北した

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