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アイビー  作者: 青木りよこ
10/19

食事に行こうと誘ったが夏葉は断った。

まあ断るだろうと思っていた。

夏葉の許容量は最早限界に達していた。

夏葉の顔からこれ以上一緒にいるのは酷だと言うのが面白いくらい伝わって来た。

俺も別に夏葉の顔を見ながら飯を食いたいなどと思っていたわけではなかったので自宅まで送り届けた。

俺達の間に挟まれた無機質な自転車が気の毒なくらいだった。

夏葉は何も話さなかったし、俺も何も話さなかった。

特に聞きたいことはなかった。

離れていた時間を取り戻そうとか空白の期間を埋めようとする必要などなかった。

俺の中に夏葉はずっといたし、夏葉の中にも俺が完全に住み込んでいた。

ならば離れてなんか一度もなかったことになる。

夏葉も使えない身体に戸惑ったことだろう。

それは俺以上だったに違いない。

夏葉は今も俺に寄って苦しんでいる。

自分の一部が俺であると認めることがどうしてもできないからだ。

まあ、それはいい。


何度かファミレスに通うと、当然夏葉のいない日もあった。

俺がこの間いなかったねというと夏葉は無言でバイトの一か月分のシフトを差し出し、連絡先教えてと言うと素直に教えてくれた。

余りにも従順なので可笑しかったが俺の目を決して見ようとしなかったので面白くて堪らなかった。

今夏葉の思考はどうなっているのだろうと思った。

相変わらず俺達に会話はなかった。

唯並んで歩いた。

自転車を挟んだのは最初だけだった。

顔をわざわざ見なくても声が聞こえなくても夏葉が傍にいるだけで奇妙なほど満たされるのを感じた。

この状態が恒常化する。

それが普通なのだと思えた。

何も特別なことじゃなかった。

俺は夏葉を別だと考えなかったからかもしれない。

夏葉を自分の続きだと考えていたから知る必要がなかった。

夏葉は俺に話したいことがあっただろうか。

恐らくないと思う。

俺も特に話したいことはない。

考えていること何でも話してほしいとは思わないし、俺も話したくはない。

唯夏葉は俺のものだし、俺は夏葉のものだった。

時の経過は俺達を近づけるだけだった。

夏葉の世界はどんどん狭くなった。

俺との再会がそうさせたと言うより、俺を知った時からそれは始まっていたのだろう。

だから同じ次元にいない女の子達に傾倒し、その世界ですら異性に目を向けることができなかった。

夏葉は俺への感情にどう対処していいかわからずいつも黙っていたし、俺はそんな夏葉が面白くってたまらず、ずっとこのままでいいと思ってもいた。

俺が戦闘中に目をやられたのはそんな小康状態の時だった。

その言い方は正確じゃない。

穏やかで安定していたのは俺だけだ。

夏葉は嵐の中にいた。

今も夏葉は嵐の中に一人でいる。

夜になると俺の傍に来て雨宿りし、朝になると自ら暴風雨の真っただ中に飛び込んでいくのだ。

そして俺はそれを見てこらえきれなくなって笑うんだ。

これが夏葉。

俺の夏葉だと。










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