とある人形の物語。
とあるお屋敷には一体の人形が働いていた。
ただ淡々と命じられたことをこなす人形は、とても手の掛からないことと、美しい物が好きな旦那様の琴線に触れていたためか、特に好かれていた。もちろん旦那様だけじゃない。奥様も子供達も。
そんなあくる日のこと、旦那様は一人の娘を連れて帰ってきた。まだ年若く、成人すらしていないことは一目で分かった。
「今日から我が娘となる××××だ。お前の従うべき存在の一人となる」と旦那様に言われた。
彼は娘に一礼した。するとその拍子に傍にいた旦那様の猫が肩に飛び乗る。
「自分に出来ることがあれば、何でもいたします」と娘に言った。
けれどもちらと猫にだけ目をやった娘は、その硝子の様に透き通った青い眼を彼に向けなかった。
娘はあまり口を開かない、大人しい子であった。しばらくの間、静かに過ごすのを人形はただ傍で見ていることしか出来なかった。
やがて娘がここに来てから三年が経とうとしていた。
「ねえ、アナタはもしも大切なモノが目の前で消えたら、どうする?」
娘のために茶を用意していた時のこと。
人形は少し目を瞬かせ、
「どうもしません。助けを命じられた時のみ、救出に向かいます」
「あら、自分の意思では助けないの?」
不思議そうに彼女が訊くから、彼は言った。
「意思とはなんですか?」と。
やがて娘は黙り込み、しばらくしてから「なんでもない」と言ってくるりと彼に背を向けた。
それから数日後のことだ。
人形はやけに騒がしい屋敷の中で、ただ黙々と娘のために茶の準備をしていた。
「ねえ」
背後から聞こえる娘の声に彼が振り返ると、娘は血塗れたナイフを手に、血だらけになって佇んでいた。
娘は嗤っていた。嗤いながら、屋敷の者を一人残らず殺していた。
「アナタはアタシに言ったよね? 自分に出来ることは何でもやるって」
口の端を上げ言う娘に対し、彼はいつも通り「はい」と答えた。
「ならば」
――アナタ自身で、アナタを壊してごらんなさいよ
ああ、なんと残酷な命か。
壊れれば彼は人形としての機能を失う。
けれども自分に出来ないわけでもないこともまた事実だし、何より娘も従うべき主だ。
「仰せのままに」
彼はそう言うと、娘の目の前で自分の体を分解した。
足も手も、指も、胴体も、首も。
全て全て、バラした。
「アナタのことはキライじゃあなかったけれど、ここでお別れよ」
娘はそう言うと、初めて彼にだけ優しく笑んだ。
人形はそれを見ただけで、ああ、と嘆息する。
――ああ、最後にこの笑みを見られたのならば、今まで長らく動いてきたのも悪くはなかった、と。
この日、主のいなくなった屋敷で、一体の人形が息絶えた。




