エピローグ
アルレイエス教が“憑代の祝印”を成就させた古い遺跡。かつてレイエスとアルヴァルトが戦ったというその遺跡の真下には、洞窟があった。
その洞窟は入り口も狭く、中は真っ暗。しかしその奥には、幻想的な青に包まれる大きな地底湖がある。
「よかった、まだ残ってました」
「うん、崩落していなくてよかったよ」
その地底湖に、ツユキとエレクティオはやってきた。
そう、この場所こそが、2人が約束をした場所なのである。
「__あの日の約束、果たせましたね」
湖を眺めながら、となりの少女がぽつりと呟いた。
『約束しよう。また2人でここに来るって』
『いいね、それ!約束する!!ぜーったいまたここに来ようね!』
名前も知らない、金色の瞳の少年とやんちゃな少女がした、守られるはずのない約束。
初めての友達を忘れないための方便だったそれは、ついに約束として守られることになった。
「覚えていてくれて、ありがとう」
「エレク様こそ。また一緒に来てくれて、ありがとうございます」
ツユキははにかみながらそう言うと、照れ隠しに湖のほとりに駆けていく。
「……おや」
湖を覗き込んだツユキが小さく呟いた。
エレクティオも覗き込むと、湖の様子が違うことに気がついた。地上での戦闘のせいで天井が崩れ、差し込む光が多くなったようだ。
夜のような深い藍色だった湖は、雲ひとつない青空のように鮮やかな青色に煌めいていた。
「ここの景色も、変わったね」
「十年以上も前ですよ、変わるのも仕方ないです。眺めているわたしたちも、こんなに変わったのですから」
その言葉は、湖に反射する自分の姿に向けられていた。
聖女が嫌いだった少女は、最後の聖女となってその役目を終え、木の陰で泣いていた少年は、今ではこの国最強の魔術師として名を馳せている。
2人とも、変わった。
見た目も、立場も、関係性も。
「でも、きれいだね」
「そうですね」
エレクティオは湖を見て言ったのだが、隣の少女は少し違ったようだ。とても視線を感じる。
「エレク様、魔色を見せてくださいますか?」
エレクティオをじっと見つめていたツユキが、突然お願いをしてくる。エレクティオは頷き魔力を外に放つ。湖に負けない青色の髪は黒く染まり、その瞳が金色に変わる。
ツユキはその瞳を覗き込む。ずっと目が合っていて、少し恥ずかしい。
「……今のあなたの瞳は、太陽みたいですね」
「え……」
突然のツユキの一言に、エレクティオは自分の顔が紅潮していくのを感じる。
「君は、また……!」
「ん?思ったことを言っただけですよ?」
なんでもないといった様子で言うツユキに、エレクティオは頭を抱える。
「もしかして照れました?」
「照れるに決まってるよ…綺麗になった君にそんなこと言われたらさ」
「き、きれい……っ!?」
直球でそんなことを言われ、今度はツユキの顔が赤くなる。
しどろもどろになってしまった2人は、しばらく顔も合わせられず、無言で湖を眺めていた。
そうしていると自然と口角が上がってくる。どちらともなく吹き出し、2人は笑いあった。
こういうところは、彼女も、自分も、変わってはいないようだ。
「__また、ここに来ようか」
湖を眺めながら、そう口にする。
「いいですね、次の約束です」
ツユキはキラキラとした顔で右手の小指を差し出した。エレクティオは微笑みながら、そこに小指を重ねる。
「ああ、約束だ」
これからも、2人は指切りをして、それを守っていくのだろう。
ツユキとエレクティオにとって、約束はもう守れないものではないのだ。
__だって、ずっと一緒にいられるのだから。
おしまい
あとがき
この度は、拙作「教会から逃亡した聖女は、氷の魔王に拾われる」を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
投稿を始めてから3作目、始めて完結させることができてホッとしております。
この作品は2年前、別のサイトのコンテストに出そうと思って書き始めたものでした。ですが当時は間に合わず、つい最近までお蔵入り状態に……。
そんな作品を引っ張り出してきたのは、ツユキたちの物語をしっかり形にするべきだと思ったからだと思ったからです。
物語の登場人物は、その世界を生きている人々です。だから書くのをやめてしまったら、彼らの人生は止まってしまうのではないかと思います。
私が始めた物語、されどそこに生きる人々がいるのならきっちりと完結させるべきだ。そう思い、約2年進んでいなかった作品の時間を動かしました。
物語はこれでおしまいですが、ツユキの人生はこれからも続いていきます。きっと彼女はエレクティオと共に、トパーズとの約束を果たしていくのでしょう。
改めまして、聖女ツユキの物語をお読みいただき、誠にありがとうございました。




