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俺くんは国際交流委員43「後夜祭2・アロハは俺の目をまっすぐに見つめた」

チア部の興奮から一息つき、静かな曲が流れ始めた。

中庭横にある建物のエントランスホールから聞こえてくる。

いつの間にかホールの大きな窓ガラスが開かれ、委員長がピアノを弾いていた。

彼女のピアノ演奏を聞くのは、これが初めてだった。


彼女は、いつもと違ってた。

音楽という空間にたゆたっている。

ピアノと戯れている。

県のコンクールで優勝したことがあるというのは本当だったんだと感じさせる演奏だった。


音が滑らかに響く。

一つ一つのフレーズを感じさせるとともに、曲全体のまとまりがある。

静かでゆったりとした曲のメロディーをスムーズに流れさせつつ、抑揚を軽く利かせている。

一音一音が粒立ってクリアに響き、それでいて自己主張が激しくない。


ピアノにうとい俺にさえそんなことを感じさせる演奏は、音の空間の広がりを感じさせ、心が豊かになる気がした。

生徒たちはみな、彼女の演奏にうっとりと聞き入っている。


司会「それではみなさん、委員長のピアノに合わせて、パートナーとのダンスをお楽しみください」


一瞬、ざわついた会場だったが、やがて恋人同士らしい男子と女子が何組か出てきて、ゆっくりと踊り始めた。

次第にカップルの数は増えていき、やがて会場は甘い雰囲気で包まれた。

中にはバカ男子同士のおふざけ2人組がいたのだが、おとなしく踊っているので、その程度の悪ふざけは許された。


会場のみんなはいま、楽しかった文化祭を思い返している。

カップルを見る視線もやわらかだ。


すると、俺の腕がつつかれた。

アロハが、いつの間にか隣に立っている。

「踊ろ」とアロハが言った。

「エッ」と俺は思った。

女子と踊ったことなど一度もない。

その時俺の頭には、なぜか、昔の映画「シャル○○ーダンス」が思い浮かんだ。

それが今は現実である。

まさか俺の身にこんなことが起こるとは。


ためらう俺。

その顔と心をのぞき込むアロハ。

しまいにアロハは俺のそでを引っ張り、中庭の中央に連れて行こうとした。

抵抗していいものかダメなのか迷いつつ、そのままアロハに引きずられる俺。

周囲の男子の冷たい視線。

だってアロハに引っ張られてる。


後でアロハに怒られたのだが、こういうダンスは男子が事前に誘うもので、当日も、男子が女子をエスコートしなければならないらしい。

いつまでたっても俺からのアプローチがないので、このままでは文化祭が終わってしまうと焦ったアロハは、仕方なく自分から積極的に行動したということだった。


この時の俺には、アロハを誘う勇気はなかった。

周囲の目も気になった。

だから、不格好に踊っている間もずっと、アロハの相手は俺でいいのだろうかと思っていた。

アロハには、俺なんかよりもっとかっこいい男子が似合う。


アロハは、俺の目をまっすぐに見つめた。


☆☆☆☆☆


委員長が奏でるピアノの曲調が変わった。

誰でも聞いたことのあるフラダンスの曲。

そうして委員長はよく通る声で、「アロハ!」と声を掛けた。

アロハは委員長の意志を理解してうなずいた。

俺から離れ、みんなの方を向くアロハ。

彼女はまた、アロハの世界に入っていこうとしている。


フラダンスの曲に合わせて、ゆったりと踊るアロハ。

その流れるような体の動きが、海を感じさせる。

みんなは、うっとりと、アロハのダンスを見ている。

緩やかに表現されるさまざまな手の動きと身のこなしは、その意味を知らない者にもなんとなく理解できた。


アロハを包んでいる何かが、次第に大きさを増していく。

波が周りに伝わるように、中庭全体に広がって行く。

みんなのこころにも、アロハの静かな波動が伝わって行く。


アロハが招くと、女子たちが進み出た。

そうして、アロハのしぐさをまねして、踊り始めた。

自然にその人数は増え、みんなはアロハと一緒にフラダンスを踊った。


文化祭の最中にかかっていた音楽は、どれも音が大きくビートの効いたものばかりだった。

興奮を湧き立たせるものとしては、それが合っていたのだろう。

今流れている委員長のピアノは、それとはまったく違う。

指が、鍵盤の上をなめらかに動く。

音と音とにゆったりとしたつながりがあり、これが本当にピアノで弾いているのだろうかと思わせる柔らかで甘い音を発する。

その甘美さは、音で鼻先をくすぐられるようだった。


委員長はアロハを見守りながら、その動きに合わせて曲を奏でている。

アロハもときどき委員長の方を見て、笑顔を浮かべる。

委員長はピアノで、気持ちを伝える。

それを受けとめたアロハは、踊りで自分を表現する。

それを見てまた委員長は、次のフレーズを奏でる。

ふたりは、音楽でしっかりとつながっていた。

やがてその会場にいるすべての人が不思議な何かの力でつながるような気がした。

文化祭の疲れが、委員長のピアノとアロハのフラダンスで心地よく癒された。


曲が終わると、自然と拍手が沸き起こった。

女子たちが、アロハに握手を求める。

アロハは笑顔でそれに応える。

調子に乗った男子も握手の列に並ぼうとするが、他の男子に止められる。

わが校の宝を、男子高校生ケダモノに触れさせるわけにはいかない。


続いて各種表彰が行なわれ、3年生がほとんどの賞を独占した。

やはりこういう時には3年生の底力を感じる。

結局我がクラスは何も賞は取れなかったが、それでも最後は全員笑顔で大きな拍手をした。

全校生徒が互いの労をねぎらい、文化祭の成功を喜び合っていた。


☆☆☆☆☆


翌日の月曜日は午前中に片付をし、それが終わると午後から火曜日までは振り替え休日になる。

校内には、制作物や入場門を壊したり、掲示物をはがしたりする音が、寂しく響く。

そこには、文化祭前のような浮かれた気分や華やかさがない。

「あぁ、楽しい時間ももう終わってしまった……」という寂寥感に満ちたみんなの表情。


作りあげるのは時間と手間がかかって大変だけど、壊すのはあっという間だ。

まるで人間関係みたいだと、がらにもなく思った俺だった。

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