俺くんは国際交流委員25「俺くん溺死未遂事件」
バーベキュー会場は、かなり古びた施設でした。
火をおこすところから始まり、最後の片づけまで含めると、今回の遠足は、結局、バーベキュー大会だった、って感じがします。
何しろ、火をおこすのにまず時間がかかりました。
かかりすぎました。
午前中に山道を歩いたこともあって、みんな空腹で、なかなかおきない火に、しまいには殺気立ってました。
食材を鉄板に投入するそばから、半生のまま食べる男子もいました。
私もお腹がグーって鳴ってしまった。
ハズカシイ。
そうして事件が起こりました。
その全貌をご紹介いたします。
近年、キャンプばやり、グランピングばやりだそうですが、私は今まで一度もキャンプの経験がありません。
バーベキューの経験はあります。
でも、自分で火をおこしたり、食材を焼いたりしたことはありません。
それらは全部、パパの仕事です。
私はその様子を、椅子に座って優雅に眺めます。
パパは、「こうすると火がおきやすいんだ」と言って、新聞紙を軽く棒状に丸め、井桁に積み、その上に細い木の枝を積み上げて火をつけます。
木の枝に火がついた後は、細い薪をくべ、次第に薪を太くしていきます。
薪に完全に火がついて炎が落ち着いてから、食材を焼き始めます。
「金網に酢を塗ると、網に焦げ付きにくくなるんだ」とかいうウンチクを並べながら、パパは得意そうに楽しそうに作業を続けます。
いい人です。
ママはビール、私はジュースを楽しみ、パパは自己満足に浸ります。
パパと私はお肉が嫌いなので、お肉はママの専有物となります。
ママは、定期的にお肉が食べたくなるそうです。
どうやら時々ランチに出かけているようですが、お肉を食べているのでしょう。
パパと私は、主に野菜を食べます。
中でも、軽くふかしたジャガイモをアルミホイルに包み、炭火でホカホカに熱したものが大好物です。
皮の部分はカリッとし、中はホクホク。
そこにバターを溶かし、塩とコショーを振りかけて食べるのです。
このジャガイモ料理は、ママの実家のお祭り(十日市)のときによく売っていたもので、私も幼いころから好きでした。
我が家では「十日市ポテト」と呼んでいます。
こないだ東京に遊びに行ったときに入ったレストランで、同じようなポテトが出ました。
こちらもなかなかおいしかったのですが、やはり十日市ポテトにはかないません。
十日市ポテトも、上手に作ったものでないとおいしくないのですが、おいしく作るとメチャメチャおいしいです。
当たり前ですね。
あー、食べたくなってきた。
遠足のお昼がバーベキューに決まった時、私はさっそく家で十日市ポテト作りにチャレンジしました。
毎日自分でお弁当を作っている技が、ここで活かされると思いました。
この日のためのお弁当作りです。
満足できるレベルのポテトが完成しました!(パチパチ)
ところが今回、なかなかうまくいきません。
火にかけようとカバンを開くと、ジャガイモは中でぺちゃんこになっていました。
ごまかして形を整え、アルミホイルのまま焼き網の上に置きました。
奇跡的にいい感じで湯気が出てきたので、大丈夫かなー、食べよかなーと思って軍手をした手でアルミホイルを開くと、なかはベチャベチャでした。
「どうしてうまくいかないのー?」って思いましたが、うまくいかないものはうまくいかないものです。
せっかくアロハと俺くんにおいしいものを食べさせよーって思って、優しい気持ちで持ってきたのに。
こんなものは食べさせられません。
私の名折れになります。
ということで、残飯用のポリバケツに、泣く泣くそっと捨てました。
こんなことになるなら、一回ちゃんと炭火で練習しとけばよかった。
間際になって無理やりことを進めようとするところが、私のイカンところです。
それはたまに自覚します。
でも、その自覚は継続しない傾向にあります。
みなさんも、機会があったらぜひやってみてください。
「十日市ポテト」おいしいよ♡
ところで、みんながいい感じでお腹が膨れた後に、残った肉の脂身やら野菜くずやらオイルやら、何から何まで火の中に投入したバカ男子がいます。
面白半分です。
同窓会で必ず話題になる、バカな失敗です。
油をまとった炎が、バーベキュー会場の天井近くまで舞い上がりました。
慌てて先生や会場の人が消火器を持ち出し、火災訓練の実習と相成りました。
しかし、なかなか火はおさまらず、危うく消防車の出動騒ぎとなるところでした。
この後、バカ男子たちが、心が折れるほど先生たちに怒られたことは言うまでもありません。
ほんと、男子って、お調子者でバカばっかり。
キライ。
★★★★★
ここからやっと本題の、「俺くん溺死未遂事件」の説明に入ります。
俺くんが五色沼で溺れかけました。
委員長からの報告は、以上です。
つまらない?
しょーがないなー。
では、委員長じきじきにお話しするとしましょう。
あまり話したくないのだけれど……
私が優雅にバニラアイスを食べていた時のことです。
眼下では、庶民たちがそれぞれにボート遊びを楽しんでいます。
ふと、一艘のボートに、私の目は止まりました。
俺くんとアロハが乗っています。
その時のアロハの笑顔は、女子の私から見ても、とても美しいものでした。
美しい花が、今まさに開いたかのようです。
それに応えるように、俺くんも照れながら笑っています。
その微笑はとても自然でした。
今まで私が見たことのない純粋な喜びを表しています。
俺くんはゆっくりとオールを漕ぎます。
ボートの動きに合わせて、アロハが少し前後に揺れています。
美しい一枚の絵がそこにはありました。
高校生活を楽しんでいるふたり。
互いに好感を持っているふたり。
私の胸は、なぜかちょっと痛くなりました。
その時、疾風が吹き、アロハの帽子が飛ばされてしまいました。
それは、美しい花からちぎれた花びらのようでした。
俺くんは慌ててそれを取ろうとします。
オールで掬い上げようとしても、なかなかうまくいきません。
ボートを近づけて帽子を拾おうとした瞬間、バランスを崩した俺くんは、ボートから落ちてしまいました。
ボートが左右に大きく揺れています。
その瞬間、私は思わず悲鳴をあげて立ち上がりました。
周りのみんなが驚いて、私を見ます。
私は、俺くんの方を指さしました。
懸命にボートにしがみつこうとする俺くん。
うまくいきません。
慌てるアロハ。
片手でボートの縁を掴み、もう片手は精一杯俺くんの方に伸ばしています。
その時私はなぜか、物語の主人公が、運命に翻弄される一場面のようだと思いました。
そんな想像は、とても不謹慎だと自分でも思います。
どうしてそんなことをこの時思ったのかは、今でもわかりません。
溺れかけている俺くんに気づき、周りのボートが急いで近づきました。
そうしてようやく俺くんを救いあげました。
私は体から力が抜けて、その場に座り込んでしまいました。
安堵すると同時に、呆然としていました。
とにかく助かった。
良かった。
ただそれだけ思っていました。
地面に落ちたバニラアイスには、もうアリが集っていました。




