俺くんは国際交流委員15「英語部のお姉さまがた」
高校生活4日目。
アロハと席をくっつけたままの俺に対する男子の脅迫的視線を痛いほど感じた一日も無事に終えた。
(国際交流委員の特権もとい仕事だからしょーがないよ、男子諸君)
この日の放課後は、3人で校内を見学する予定だ。
俺と委員長は、初日に担任の誘導で校内施設を見て回ったが、アロハはまだだったのだ。
1年の教室は3階建て校舎の3階にある。
校舎自体も町から上った高台にあるため、教室から外を眺めると、まるで山頂から下界を望む趣がある。
眼下には町の家々が広がり、その中に駅が見え、時折電車が走っている。
俺はこの眺めがとても気に入っていた。
休み時間などには、外の景色を、よくボーと眺めたものだ。
遠くには、海が見える。
白い波の列が遠くからこちらに押し寄せている。
水平線には、大型貨物船の影が、止まっているように見える。
隣で一緒に眺めるアロハと委員長について少し説明しよう。
ふたりは、他の生徒がいる時と俺たち3人の時とでは、雰囲気がまるで違う。
アロハは日本語がまだよくわからないので、みんなの前ではただただ笑顔を浮かべる美人さんを演じている。
それが、俺たちだけになると、気が強くて意外にしっかりしたところを見せるので、そのギャップが面白い。
委員長は、ふだんはしっかりしているように見え、実際そうなのだが、実はおっちょこちょいでドジなところがある。
そのキリッとした外見からは、なかなか想像できないだろう。
つまり、とても危険なことに、2人に対して「ギャップ萌え」しそうな俺だった。
女性の奥深さは測り知れない。
2階は2年生、1階は3年生の教室がある。
俺たち新入生にとって上級生はとても大人に見え、実際の年齢差よりもはるかに歳が上のように感じた。
教室棟の隣には管理棟があり、職員室、事務室、保健室、図書館、音楽室、美術室、書道室、情報処理室、家庭科室が入っている。
各部屋では部活動が行われており、見学期間のためドアが開放されていた。
音楽室では吹奏楽部、書道室では書道部、美術室では美術部が、それぞれ活動していた。
部屋の入り口には、部活動紹介のパネルが掲示されており、活動時間、曜日、活動内容などが、イラストとともに描かれていた。
どれも工夫の凝らしたもので、こんなところにも手を抜かない高校の部活動のすごさに、改めて感心した。
音楽と墨と油絵具の匂いが、それぞれの教室の外に流れ出てくる。
どの部も活動が盛んで、勉強も部活動も頑張るという生徒が多い高校だった。
談話室では、英語部が活動していた。
入り口に、英語で書かれた紹介パネルが置いてある。
アロハが中をのぞくと、中にいた数人の女子生徒がすぐに反応した。
(以下、部員は英語、アロハは日本語)
女子1「アッ、もしかしてアロハちゃん?」
アロハ「ハイ」
女子2「ようこそ、英語部へ。アロハちゃん、中にドーゾ」
女子3「入って入って!」
女子1「早く早く!」
アロハ「オジャマシマス」
日本人は英語でしゃべり、アロハは日本語でしゃべる。
妙である。
既に彼女は全校の有名人となっていた。
それにしても、よくもまーヤツらは、あんなに英語でペラペラしゃべるものだ。
みんな話が止まらない。
委員長の英語は本物。
お姉さまがたはこれ幸いと、英会話の実習。
アロハも久しぶりの英語での女子会に、会話が止まるわけがない。
またしても俺だけが、蚊帳の外に置かれた。
仲間外れ、イジメだ。
英語部見学は、お姉さまがたの熱烈歓迎で始まり、英語部の活動紹介、年間計画の説明、みんな仲良しであること、などなどの話があり、最後はどーやら英語部への熱烈勧誘で終わったようだった。
アロハはどうしようか、ちょっと考える表情だった。
俺は思った。
アロハにとってここは、居心地のいい場所になるかもしれない。
英語で楽しそうに話しているアロハ。
その姿を見て、「そりゃそーだよなー。自由に思いっきり話したいよなー。」と思った。
アロハと俺は、幼稚園児のような会話しか交わすことができないでいる。
言葉だけでなく、俺の話題がとても貧弱で、日米の文化、歴史、思想、政治などに話が及ぶと、とたんにお手上げになる。
アロハはとても聡明な子で、それらについて俺ととても話したがっていた。
話したいのに話せない、自分の考えを相手に伝えることができないもどかしさ。
会話が成立しない切なさがアロハの表情に浮かぶと、俺もどうしようもなく悲しい気持ちになる。
そうすると、沈黙がふたりを包む。
うまくいかない腹立たしさのようなものを抱きながら、黙り込んだ。
そんな時俺は、英会話の向上といろいろな知識を蓄えることを強く思っていた。
ところで、会話の最後に聞こえてきた言葉が、俺はちょっと気になった。
「英語部と国際交流委員は自動的に兼務だよ」
エッ、そーなの?




