第七十五話 vs『傲慢』
イリスが空から向かってくる。
今回はその動きが見えた。
それだけだった。
「強くなってるねぇ。『融合』を使っただけはある。おら」
俺は何とか両手と「結界」で防御態勢を取る。
「勇気」は使う暇が無かった。
「ぐ、」
ただの殴りで「結界」を破られ、殴られた手は折れる。
あまりのパワーに、俺は隙だらけになった。
「ほい。これで終わりっと」
直後の着地したイリスから、腹へ蹴りが放たれた。
それをもろに喰らい、俺は吹き飛び、城の壁に激突する。
蹴りの衝撃と壁に当たった衝撃で、全身がぐちゃぐちゃになった。
「良い判断力。殺す前に血でも貰うか。このスペックなら君のクローンも絶対使える」
イリスが白衣をたなびかせ、歩いてくる。
彼女は手元に現れた黒い穴から、注射針を取り出した。
「ま、待て!貴様!は!」
その前に青白い剣が割り込む。
すぐに俺にユアが駆け寄って来た。
「大丈夫か!大空!ちょっと待ってろ!僕が治してやる!僕が使えない神魔法に傷を治すものがあるからな!気合いで使えるはず!」
「あ。クローン同士交配もさせるのも良いか。テェフルかミュズティス辺り、子供欲しいがらないかな。ほい」
青白い壁は軽い拳で破壊される。
そのまま、近づいて来た。
「『森の光芒』。ちはるは「透明」で隠れれてて」
ホワイトはイリスに向けて光の柱が落とす。
それと同時に空いている周りの人達が、イリスに向けてありとあらゆる魔法を放つ。
これに対し、イリスは周囲に出した黒い穴で魔法を吸い込んだ。
「は?ホワイト。無視してんのに構ってくんなよ。返す」
「そういう能力••••『凄い風』」
最後、イリスは大きな黒い穴を出す。
穴から、先ほど吸い込まれたありとあらゆる魔法が飛んできた。
それらと強い風が激突する。
直前に、風が『停滞』で止まり、魔法を一方的に弾く。
弾いた後、風が動き出す。
「読めてんだよ。ホワイト。カスが」
イリスはもうホワイトの上空に移動していた。
ここから急降下する。
「おおー!!見えないけど纏めて!!は!!「神の霊剣」!!あ」
ユアが空を覆い尽くすほど大きくした青白い剣を振るう。
だが、イリスに片手で止められた。
「••••••まにあわない••••」
「消えろ!てい!」
イリスはホワイトに飛び蹴りをする。
これで、ホワイトの腹に風穴が空いた。
その穴からは大量の光る粒子が吹き出した。
「二度と顔見せんなバーカ。死ね」
倒れ込んだホワイトへ、イリスが少し足を振り上げる。
踵で頭を潰そうとしていた。
「「身代わりの術」!」
ホワイトの隣に移動し、こちらに引き寄せる。
この真横に踵が落ちて来た。
城の床に穴が開く。
「「身代わりの術」!ごめん!判断間違えて!制限してたら無理だった!ホワイトだけでも逃す!友達になれそうなのが居たらごめん!」
もう一度「身代わりの術」を使い、イリスから離れた。
とりあえず、城のテラスの端まで来た。
『融合』を解いて、ダメージの半分をキメラに押し付けた。
だからまだ動けている。
「••••••ちはる••••」
この上魔力をホワイトの物に変え、ホワイトに魔力を注ぐ。
次善の方法だが、これで良い。
風穴ぐらいなら、ホワイトは大丈夫なはず。
「君。やっぱり勇者か。本当にタフだね。面倒くさ。カス」
瞬時に俺の脇に現れたイリスは、何かをした。
腹あたりに激痛が走る。
下半身に力が入らなくなった。
「あーあ。蹴りに力入れ過ぎた。下飛んでっちゃったよ。絶対血取った方がいいのに」
ホワイトを抱き止めたまま、倒れ込む。
それでもまだ意識はあったから、ホワイトに魔力を注ぐ。
ホワイトの傷も治って来た。
あとちょっとしたら、風魔法で堀まで投げよう。
これでホワイトだけでも助かる可能性はある。
俺は今度こそ終わりな気もするが。
「•••••••ひとりで、命すてないで••••ほしいのに•••••」
「家族、みたいに、思ってるから••••生きて幸せでいて欲しいから•••••••」
今回は、無理だった。
もう捨てる方法しかなくなってしまったから。
いや、そもそも?
「は?気持ち悪。想ってくれる奴まだいんじゃんか。ホワイト。腹立つ」
注射をした後、イリスは足で俺の上半身を踏みつけてくる。
けれど、この隙のお陰で「透明」と風魔法でホワイトを飛ばせそう。
俺は呼吸も怪しくなって来ているけど。
魔力パワーで、まだ生きられている。
「こいつを潔く血の塊にしてやる。ホワイトもよーく見て。覚えとけよ」
「透明」の魔力をホワイトに流そうとした。
その前に、柔らかい物に俺の頭が抱き止められる。
見たことのある人だった。
『万事順調••••か。復活の時は近い••••今すべき事は••••」
「••••は?え?なんで?おかしくね?」
俺は地面に置かれる。
そして、固まって行く。
最期に大人のホワイトが立っている姿が見えた。
『『傲慢』を処刑すること、か』
—-
『停滞』で固まった千晴を、大人になったホワイトが見下ろす。
それを見て、困惑顔になるイリス。
『おーい。その姿にならないよう細工してたはずなんだけど。おかしくね?』
『••••何の能力だ。聞いた事もない』
『は?え?何だろ!心当たり私にも無いな!何だろー?』
イリスは誤魔化すように、捲し立てる。
冷や汗を流していた。
ホワイトはそれに冷たい目を向けている。
『は!?何だその目!私本当に分かんなーい!バーカ!アホ!!おい!多分瀕死な時に魔力注入されて狂ったってだけだろ!!死ね!『天地に火風齎す空』!!』
イリスがまた魔法を飛ばす。
落ちてくる隕石の上に、もう一つ隕石がぶつかる。
隕石はさらに加速し、城へ落下していく。
『『光子状の剣』』
ホワイトは手元に光る剣を出現させる。
隕石に向かって剣を振るう。
剣が触れた空気に魔力も流す。
二つの隕石を真っ二つになる。
半分になった隕石達は、堀へ落ちた。
その振動は帝都を揺らす。
『••••『変異』。手早く終わらせよう』
『もしかして!?その状態でも私に勝てるつもり!?この!!魔力強奪剣!私発明のこの剣で!!殺しちゃう!!』
純白の羽を生やしたホワイトは、光る剣を構える。
イリスも黒い穴から謎の機械の剣を取り出し、それを構えた。
直後、剣同士が激突する。
轟音が辺りに響く。
イリスが一方的に吹き飛ばされた。
『『革命前夜の火』!これが私の魔法!死ね!』
吹き飛ばされながら、イリスは何百何千もの小さな火の塊を放つ。
それら全ては大人のホワイトの元へ向かっていく。
この火の塊らは直後、止まった。
『『一物も飛ばす空の風』』
ホワイトは風魔法を放つ。
この風魔法は円を描きながら、『停滞』の解かれた火の塊達に突っ込んでいく。
火の塊は消化され、火の粉となり辺りに舞い散る。
その隙に、イリスは遥か上空へ飛び上がって行っていた。
『喰らえ!ホワイト!!おら!!』
こうして剣を振り下ろしながら、急降下する。
ホワイトはそれを剣で防ぐ。
衝撃が城を揺るがす。
『教えよう!撃ち合えば撃ち合うほど私の有利!この私謹製!魔力強奪剣の前ではね!故に皆今の私をこう呼ぶ!!悪魔の天才科学者とね!凄くね!!?』
『私に言ってどうする。『溢れ出る光線』』
ホワイトは鍔迫り合いの状態で、片手から太いレーザーを発射する。
レーザーはイリスの方へ向かっていく。
しかし、突如現れた黒い穴に吸い込まれる。
『もしかして私の能力も忘れた!?封印されすぎてボケたのか!?ほい!』
直後、再度現れた黒い穴から、また太いレーザーが発射される。
ホワイトは鍔迫り合いをやめ、光るレーザーへ剣を振るった。
光るレーザーと黒い穴は真っ二つになった。
『ラッキー!!死ね!』
隙をイリスはホワイトの肩に剣を入れる。
切られた場所から、剣によって魔力を吸われた。
ホワイトはそれを無視し、刀を振り上げる。
イリスの顔の一部と腕が、切り飛ばされた。
強奪剣は無い方である。
『この程度。致命傷にならん。鈍ったか』
『わお。そういやそうだ。ミスった』
ホワイトは、蹴りもイリスの腹に入れる。
イリスは顔の一部と右手のあった場所と腹から、黒い粒子を吹き出す。
一方、ホワイトの傷はもう塞がっていた。
『こりゃ正攻法だと無理か。調子乗り過ぎた。ま、準備もして来てないし、仕方ないね。可哀想だがこれで行くか』
『ならば早く散れ』
吹き飛びながら、イリスは翼を振るわせ、加速する。
それに追い付いてきたホワイトが剣を振り下ろす。
『一旦さよなら。ここでもやるね。私の『収納穴』』
イリスは真後ろに出現させた黒い穴に入る。
黒い穴はホワイトに切られ、塵と消えた。
すぐ後、イリスはキメラが出て来ている穴から現れた。
加速したスピードのまま、ホワイトの方へ飛ぶ。
魔力を地面に向けて、大量に放つ。
『おら!喰らえ!不意打ちの『想定し得ぬ地震』』
突如帝城が縦に揺れ始める。
城の壺や灯りなど、全てが倒れていく。
「何だ、、この規模の魔法、、「神の霊剣」」
ユアが青白い剣を空に広げ、落下物から他人を守る。
何とか動いたテェフルは、気絶しているフレジアの上にのしかかり、落下物から庇う、
その他色んな人も自らの能力や魔法で身を守る。
しかし、ユアも彼らも立っていられなくなっていた。
『『地を揺るがす火の爆裂』!庇い切ってみろ!ホワイト!』
追加で、イリスは混合魔法を放つ。
大爆音と共に、イリスから噴火が起こる。
炎や噴煙やマグマが吹き出した。
それらはイリスの正面にあるほぼ全てに襲いかかる。




