第五十八話 帝都の冒険者ギルド
帝都の冒険者ギルド内には、余り人が居なかった。
数人がエントランスの椅子に座り、談笑しているぐらいだろうか。
ユア?という名前の少年と、女性は適性検査を受けに行った。
俺達は良い感じのクエストが無いかと、クエスト掲示板を見ている。
「••••キメラ••••」
「うお。凄い量。全部キメラの依頼書か」
この掲示板には、びっしりと依頼書が貼られていた。
その殆どがのキメラ?関係の物である。
主な例を挙げると【推定直角蛇と蛇人族のキメラ。討伐依頼。合計Sランク以上】【推定鬼人族と婉曲猿のキメラ。討伐依頼。最低Sランク】みたいな感じ。
これらのクエストの難易度と報酬は、他のクエストの比べても段違いに上だ。
ついでに言うと、Eランク以下が対象のクエストは全く無かった。
「ホワイト。少し関係ないけど、一緒にDランク昇格試験を受けてみない?旅費もどこでどれぐらい使うか曖昧だし。稼げる量は増やしたいなって」
ランクが上がる毎に報酬も上がっていくし。
こう考え、ホワイトに提案してみる。
昇格試験は試験日の前日までに予約を取れば受けられるらしい。
そして、俺達が受けるDランクの昇格試験は、最低限の強さ、最低限のクエスト達成率、最低限の面接技術さえ有れば100%受かるとの事。
師匠が前に言っていた。
「うん。わかった」
「了解。じゃあ二個ぐらいクエストを達成しないと。まず残っている【変な雀。討伐依頼。合計Dランク】を受けようぜ」
ホワイトは頷く。
許諾を貰えたので、冒険者カードを借りクエスト受付と書かれた机に近づいていく。
受付には、筋骨隆々の男性が立っていた。
「すいません、二人で変な雀の討伐依頼を受けて良いですか?これはカードで」
「了解しました。問題はございません。そして、こちら側としては、討伐するのは合計十匹までとしております。もし破れば最大で十万の罰金を、必ず。受けます」
「はい。分かりました」
「更に今回の依頼地は近辺のため、地下の転移システムにより直接向かう事が可能です。機器の再起動のため多少の待ち時間がありますが。いかがしますか」
「そんなのがあるんですか?是非お願いしたいです」
「は。準備が出来次第、アナウンスでお呼びします」
「あと、追加ですいません。変な雀について調べた本を貸して欲しいのですけれど。ここでは貸し出しとかはやって無いですかね」
プロテクト市ではそれ専用の本棚があり、いつでも討伐対象の生態について調べられた。
なのに、ここには無い。
「ここに。これが近辺の討伐対象生態書になります。冒険者ギルドを出る前に、必ず返却するように。最大五十万の罰金が、何処まで逃げようと、必ず課せられます」
図鑑が受付の机の下から出された。
男性からその図鑑を受け取る。
少し脅されてもいた。
まあ取り敢えず、パラバラと全体を読んで、何となく本の内容を把握する。
「一応詳しく読んでおかない?特に変な雀の所」
「うん」
大まかに内容は把握できたので、ホワイトと共に近くの椅子に座った。
そして、二人で変な雀のページを読み始める。
こうやりながら、考えた。
まだワンチャン、少年達と友達になれる気がする。
転移システムが作動するまで時間があるし。
とりあえず、あの二人は冒険者ギルドに用事があるっぽい。
それ関係なら、誘っても迷惑をかけないだろうか。
俺は少し友達が欲しかった。
「••••きた」
ギルドの階段から少年達が降りて来た。
二人は無言で俺達の近くの席に座る。
特に少年は気まずそうだ。
チャンスだ。
話しかけてみよう。
俺は本を読み終わったし。
「すいません。どうでしたか?適性検査」
「ぼ、僕はギルドの超科学を浴びて驚いたぞ!驚き桃の木洗濯機だ!」
「カメラの事ですか?あれで取るだけで、潜在魔力量まで分かるらしいんですよね。ハンパないというか」
「超テクノロジー!!僕の家にも欲しい!分かるのか!こんな簡単に!僕の潜在魔力量!どのくらいかなー!」
テンションが高めの少年と、暫く会話する。
これは要求を通す前段階だ。
「それで良かったらですが。二人も一緒にDランクのクエストを受けませんか。自分はランクはEで。来たばかりでもあるので、自分達だけで受けるのは不安でして」
そして少年に、言ってみる。
一応嘘ではない。
本によると、特に森にキメラは多いらしいし。
その時に結構強そうな少年が居れば、ある程度安心だ。
「おお!いいぞ!空いてる時に、、僕としては、、僕としては、、」
少年は女性の方をチラチラと見る。
女性は眉間を抑え、悩み始めた。
「••••••問題ありません。空いている時以外でも。では明後日の午前七時にここ集合でも宜しいですか?」
「俺は大丈夫です。ホワイトは大丈夫?ごめん、勝手に保険かけちゃったけど」
「••••わたしもだいじょうぶ」
「おおー!!いやー!エゼルワイス様と二人は気まずくて!ありがたいな!二人一緒か!••••あ」
「•••••はぁ。偽名、考えましたよね」
女性は少年を見て、ため息をつく。
少年は顔を真っ青にして、黙り込む。
銀髪の女性。
エゼルワイス。
思い出した。
神聖ウェートンゼンエルマウ共和国の聖女?だ。
目の隅で見た記憶がある。
その国では、聖女は最高権力者だったはず。
かなり偉い人だ。
まあ隠しているっぽいし、聞かなかったという事で。
一緒に行けることになってやったね。
この間に色々聞けて、友達が増えたら良いな。
—-
「『壊笏』。やっと当たった」
一旦、俺とホワイトだけでクエストをしに来た。
転移システムは十分ぐらい待ったら使えたのだ。
今は公園で変な雀を攻撃している。
変な雀は餌を食べる時、鋭い嘴を高速でカクカクさせるらしい。
それに人が巻き込まれ、手や足に嘴が貫通する等の事件が偶にあり、割と危ないとの事。
が、逆にその時が殺すチャンスでもあるらしい。
なので餌を撒き、それを食べに来た変な雀を『壊笏』で、消し炭にしている。
「••••••『光線』」
ホワイトは微妙そうな顔で、空中の変な雀を打つ。
変な雀は地面に落ちて来る。
更に本にはこう書いてあった。
変な雀は、カクカクに巻き込まれないよう遠距離から倒すのが良いと。
「次は『光線』。今度は、一発で当たった」
そのついでに俺は遠距離攻撃の練習をしている。
命を弄んでいるようで、少し良くない気もするが。
ちょうどいい。
「『大雷』。お。凄い。五匹ぐらい気絶したかな」
また雷神?が使っていた雷魔法も使ってみる。
これで、五匹ぐらいの雀が気絶した。
そうやって気絶した雀に触り、『変革』の能力で即死させて行く。
『変革』は触った物の一部を変える能力らしい。
能力の使い方は、フレジア本にに聞いたら教えてくれた。
「••••そろそろ十匹。もどろう」
「了解。落としたのはこれに入れよう」
『変革』で作った土の柱で雀の亡骸を持ち上げ、レジ袋に入れていく。
このレジ袋は冒険者ギルドで売られており、さっき五円で買った。
破れづらい上、中から血も溢さない優れものだ。
「近くに転移システムはないし、冒険者ギルドへは徒歩で戻るか。地図もあるしね」
「••••わかった」
—-
帰って来て雀の亡骸を、クエスト完了受付の人達に渡した。
転移システムの待ち時間まで含めると、合計でかかった時間は四十分ぐらいだろうか。
これで合計五千円だ。
結構良い感じだ。
「ホワイト。何か食べて帰らない?今五時だしさ。色々あるから」
少年達は講習中の為か、一階のロビーにはいなかった。
だから、こう言う。
ホワイトは討伐依頼の後は何故か毎回少し機嫌が悪そうになるし、食事で良い感じになって欲しい。
本人曰く、気にしなくていいらしいけど。
「••••あれ食べたい」
ホワイトは近くの看板を指差す。
それには、大きいステーキの写真がデカデカと載っていた。
「良いよ。食べよう。えーっと。直進で徒歩三十分か。遠い」
かなり遠かった。
走れば近いだろうけれど、周りに人も結構いる。
ならば、今度こそタクシーかな。
「遅くなると治安も怖いし、今度こそタクシーでいい?」
「うん。タクシー」
「了解。すいませーん!お願いします!」
車道を走っている遠くのタクシーに向けて、手を振る。
すると、近くのタクシーが急ブレーキと荒い運転を駆使し、目の前に止まってきた。
何か全力だった。
そのまま、タクシーのドアを自分で開けた。
こうして、二人でタクシーに乗る。
「ぐへへへ。坊ちゃん達。サービスしてやるよ。なんでも言ってくれ」
すぐ、運転手の人がニヤニヤしながらそう言ってくる。
普通に不審だ。
「代わりに弾んでくれよ。これ。ぐへへへ。チップ。ぐへへへ」
運転手の人は親指と人差し指で、円を作る。
チップが欲しいらしい。
「あ。はい」