第五十一話 通報
雷神?と戦ってから、三十分ぐらい経った。
俺は黒田とフレジアを含めた、三人でホテルに向かう。
二十分ぐらいしたら、俺は回復し動けるようになったので、そうしていた。
一方、ホワイトとイリカはビルに置いてきたラミ?という少女の無事を確認しに行っている。
イリカは兎も角、何故ホワイトもなのか。
その理由は謎だ。
「どこまでも平地、、大丈夫かな、、ボクのバイト代••••」
「ま、まあ、ビルはまだ遠くだし、セーフの可能性はあるよ。確率で」
「んな、曖昧な、、ま、確率はあるね。大空千晴くんのおっしゃる通り。気にしても仕方ないか」
俺と黒田の目的は、ホテルの金庫に入れていたお金を取りに行く為だ。
フレジアは何か着いてきた。
「でさ。キミはさっきから辺りをチラチラ見てるけどさ。どうしたの?すっごい不審だよ」
「公衆電話がないかなって。フレジアの事を通報したくて」
「え?キミ、本気?あの子、キミを助ける為に相当頑張ってたよ?透明な竜出したりさ」
フレジアに聞こえないよう、小さい声で黒田へ返答する。
俺は虐殺の事を警察に通報するつもりだった。
流石に、凶悪犯罪過ぎる。
だが、新しい情報も聞けた。
透明な龍ってフレジアが出したのか。
あれのお陰で、雷神?も倒せて俺も助かった。
本当にありがたい。
「そっか、けど、これはこれ。それはそれじゃない?」
「えー。大空千晴くんも他者の車、勝手に使ってたじゃん。よくないよそう言うの」
「た、確かに、そうだけど」
ついでに、俺は無免許運転もしている。
割とアウト側だ。
けれども虐殺は、流石に。
通報するのが、社会通念的に普通だと思う。
「なにを二人で話しているのかしら。千晴。私とも仲良く会話しましょう」
「に、日常会話かな~~。大空千晴くんの女装用服も燃えてないといいなって話。だよね、大空千晴くん」
「あなたには、そんな癖があるのね。驚きよ。本当に気持ち悪いわ」
「い、一回試しただけだから、、趣味では無いとちうか、試しただけというか、」
女装用の服は他の趣味探しに使えるかもと、一応丁寧に鞄で保管している。
雷神のせいで、金庫に入れた俺とホワイトの1950万円とDX刀諸共、燃えたきもするが。
「そうなのね。だったら、今度私が服選びを手伝ってあげるわよ。私の方がセンスは上のはずだもの」
「に、二度とする気は無いから。大丈夫かな、」
「そうなのね。まあ良いわ。けれど、いつか服選びは行きましょう。千晴に合う、今より良い服を選んであげるわ」
「わ、分かった。いつか行こうぜ」
何か、追加で約束が出来た。
もし釈放して貰えたら、の話だけど。
「••••••突然ごめん。ボクがイちゃん達を助けて事も考慮して、答えて欲しい」
突然黒田が俺の耳元で囁いて来る、
耳に息が当たり、むず痒い。
「••••キミが通報する前に、キミからあの子に頼んで欲しい事があるの。あの子、ボクの事嫌いそうだから」
「全然。良いよ。なんでも言って」
俺も小さく返す。
というか、フレジアって黒田の事が嫌いなのか。
確かに、全然黒田の方は見ないけど。
「••••反勇者同盟の、拠点まで案内してと頼んで欲しい。これも悪い事なのは分かってるけどさ、、ボクの使命というか絶対やりたい事だから」
黒田は耳元で強く言った。
何か大事そう。
「実際にやって貰うのは、あの子が釈放された後でもいいから。絶対にやって欲しい」
「良いよ。聞いてみる」
フレジアは、果たして反社会的組織らしい反勇者同盟の拠点を知っているのだろうか。
そして、何故黒田はそれに行きたいのだろうか。
「ちょっと関係ない話だけど、反勇者同盟の拠点まで黒田を連れて行って貰う事は出来る?何か用事があるらしくて」
「••••••いいわよ。用事のついでに連れていってあげるわ。暫く後になるわよ」
フレジアは絶妙に嫌な顔しながら、そう言う。
成功したっぽい。
やったね。
「ほ、本当に!?ありがとう!無駄になるとこだったよ!なるべく早くしないといけないのにね!!大空千晴くんも!!本当にありがとう!!」
「あなたの感謝なんて、少しも嬉しくないわ。願いが叶ったのなら、早くどっかに行きなさい。しっし」
「それは勘弁して欲しいかな。まだ大空千晴くんとしたい事あるし」
黒田が行きたい理由も、フレジアが知っている理由も、何か気にならなくはない。
まあでも、人それぞれ色々あるよね。
ヤクザの事務所を見たがるお年頃だった的な感じかも知れないし。
聞いても良さそうだったら、尋ねてみよう。
「あっそ。それでだけれど。私はあなたの願いを叶えたわよね?これの甲斐もあって、あなたは幸せな気持ちになったわよね?」
フレジアは一気に俺の方を向く。
こうして、念押しするようにこう言ってきた。
「?。願いを叶えてくれてありがとう、って思ったよ?」
「だったら、恋人ごっこを再会しましょう。手を出して。あなたの目的も少しは果たせるはずよ」
「?。良いよ」
フレジアには龍で助けてくれた恩もあるし約束もあるので、言う通りにする。
手を差し出した。
「だけど目的?何でそれでこれをまた?」
俺は友達が欲しかった。
それと恋人ごっこは少し違うような。
「私があなたともっと仲良くなりたいからよ。悪いかしら?」
フレジアがそう言いながら、俺の手に指をからめてくる。
何か更に腕に胸も押しつけられた。
今までの欲張りセットだ。
でも、そうなのか。
「そっか••••俺も。あ、でも、途中公衆電話を使うかもだから、その時だけは離して欲しいかも」
「キミ、その二つは両立するんだ••••何と言うかぶっ飛んでいるというか、バグってると言うべきか、」
ボソっと黒田が呟く。
だから、俺は急いで黒田の方に振り向く。
「何処か変だった?直すよ」
「そ、そんな気にする?、、ボクとしては、、良いと思うよ、、キミのやばい所、、様々な面で、、例えば、、」
「いいから、あなたも私の手を握ってきなさい。俺も、という発言は嘘だったのかしら。鈍いわね」
イライラした様子でフレジアは言う。
また言われた通り、俺からも手を握った。
温かい。
「遮られた••••まあ、好きなのには最期まで••••いや、いいね。大空千晴くん!早くホテルに行こう!もしかしたら崩れてるかもしれないし!」
——
「ばっちり崩れてる••••溶けてもいる••••••頑張ってバイトで稼いだボクの金••••」
五十三階まであったホテルは、瓦礫の山と化していた。
その上、これら瓦礫も雷の熱により、多くがくっ付いてしまっている。
俺達の1950万と、DXコロスンジャー刀が。
不味い。
「まだ、まだ可能性はある。金庫なら恐らく平気なはず。きっと」
「そ、そうだね!これ目的でわざわざボクはこの高いホテルに泊まったんだから!!ボクは魔法で壊す!キミは能力で何とかして!二人で協力してこの多い瓦礫を撤去しよう!『全てを有する闇』!」
黒田はかなり遠くの瓦礫へ、魔法を使う。
そこに向けて走り去っていく。
「私達も早くやりましょう。能力を使えば、手を繋いだままでも撤去出来るわよ」
「あれ?フレジアも手伝ってくれるの?」
「当然よ。あなたの物は、私達のせいで壊れたじゃない。私がお母様からやれ、と言われていた事とはいえね」
やれと言われた、の箇所をフレジアは強調する。
こう言いながら、フレジアは足元から二つの石の柱を出し、ぐにゃぐにゃさせた。
手伝ってくれる気満々である。
本当にありがたい。
「ありがとう。じゃあまず目の前の瓦礫を無くすわ。一応気を付けて。『範囲融合』」
瓦礫の石の部分を、空気と『融合』させる事で、石以外を狙って出す。
それにより、一つの金庫と複数の人骨が落ちてきた。
「かなり他のも落ちて来て来たわね。金庫を開けるのは私がやるわ。私の方があなたより効率的に開けられるもの」
「そ、そっか。じゃあお願い」
フレジアは足元の石の柱で、金庫を引き寄せる。
その後、金庫に足で触れた。
すると、金庫はパカっと自ら開く。
「中身は指輪ね。高級そうよ。千晴は金に困ってるのよね?持って行ったら?」
この金庫の中には、指輪が入っていた。
指輪には、非常に大きいダイヤモンドっぽい物が着いており、凄まじい値段がしそうである。
「完全に犯罪だし大丈夫。この分だとまだ俺達のお金が残っているかもしれないし」
「そう。分かったわ。だったら次はあの岩を消しましょう」
他の瓦礫に向けて、フレジアは石の柱を伸ばす。
次の瞬間、何かが目の前に降って来た。
魔力感知の範囲外から。
轟音と共に、砂煙が舞い散る。
「こんにちは。日刊勇者新聞です。お時間宜しいですか?」
降って来たものは、俺達にマイクを差し出す。
砂煙で顔はよく見えない。
ただ声と動いている魔力の形的に、女性ぽかった。
「???。どなたですか?」
「日刊勇者新聞、記者の四季です。お時間宜しいでしょうか。雷神カルミナを討伐した現在のお気持ちをどうぞ」
「???。???。みんなのお陰で勝てたので、嬉しく思います?」
「成程。そちらの方は彼女さんでして?」
「彼女というか、、友人で、、友人で良い?」
友人になれていたら良いな。
結構色々遊んだし、お互いについても話したし、可能性はあると思う。
「良いわよ。けれど、新聞には出たく無いわ。私は絶対に」
やった。
いえい。
友達が増えた。
フレジアが友達だ。
「成程。であれば、大空さんは友人と火事場泥棒をしていたと言う解釈で宜しかったでしょうか」
「じ、自分はここに泊まっていて。でも、それが崩れてしまって。探しているというか。」
「成程。そちらの人骨を見れば分かる通り、今回は非常に多数の死者が出ています。すなわち、大空さんは人命救助より、自分の金を取り戻す事を優先したという解釈で宜しいでしょうか」
結構、痛い所を突かれてしまう。
その通りだった。
言い訳をするなら、他の市からの救助隊が色々してくれるのではと考えていたのもある。
「そうですね、、その解釈で合ってます••••」
「成程。分かりました。写真、良いですか」
「写真は少し、、服もボロボロで」
結構雷の熱で一部が焼けていた。
服も魔力で強化していた為、全裸になると言う程ではないが。
だからホワイトや黒田やイリカやフレジア辺りから少し服を借りていた。
そのせいで、余り大勢の人の目には晒せないファッションになっている。
「成程。了解しました。ですが、考慮して頂きたい事柄が。この日刊勇者新聞は全世界で読まれております。もし写真を取らせて頂ければ、お姉さんが大空さんの居場所を認知するきっかけとなる可能性も」
「姉ちゃんも見る可能性があるんですか!?是非お願いしたいです!今すぐ!お願いします!」
「私は写りたくないわ。今すぐはやめて」
「問題ありません。編集で消せますので。はいポーズ」
「??。え?あー」
目の前の人は手を横に振る。
直後風が吹き、周囲の砂煙が一瞬で吹き飛んだ。
その隙に、俺は写真を撮られてしまう。
元気さアピールの為、良い感じのポーズを取ろうとしたのに。
またこれか。
「取材は以上となります。取材のご協力、感謝します。では、大空さんのご友人。お名前を聞いても宜しいでしょうか。そして、貴方とよく似た顔の指名手配書が出回っている件については、どうお思いですか」
目の前には、スーツ姿の女性が立っていた。
25歳ぐらいだろうか。
目が死んでいる点と、マイクとカメラを持っている点が特徴的だ。
「答える気はないわ。消えて」
「成程。私が貴方を通報し、逮捕させる事は容易です。それを理解の上でそうおっしゃっている、という解釈で宜しいでしょうか」
「そうね。消えて」
「取材拒否ですか。了解しました。では。失礼します。雷神カルミナの事は、不特定多数に漏らさないように。謝礼と口封じとして瓦礫は撤去しますので」
女性はマイクとカメラを下ろし、そう言う。
何か、終わりっぽい。
どんな事を書かれるか分からないが、俺が出た新聞を、姉ちゃんが見てくれると良いな。
それで、最後にこれも言わなければ。
「ありがとうございます。所で、あの、お手数をかけますが、この友達を通報して欲しいです。彼女は今回の事件の元凶な部分もあって」
「え、?」
「成程。ですが、現在昼休憩中の為、失礼します。その事実は直後来る勇者連盟医療部門主導、災害対応ボランティアの面々にお伝えください。先刻呼び付けましたので」
こう言いながら、女性は指を鳴らす。
すぐに、上空からヒモが降りてきた。
何か音もする。
見ると、上空にヘリコプターが来ていた。
そのヘリコプターからヒモが降りて来ている。
「全てが吹き飛びますのでご注意を。解放。では、失礼します」
突如、爆風が下から吹き上がる。
目の前の瓦礫や、金庫、人骨、大火傷した人、それらが空へ飛んで行く。
これらを華麗にすり抜け、女性の人とヘリコプターは去っていった。
一方、フレジアはこちらを目をじっと見てきた。
その目は少し潤んでいる。
「••••もしかして、まだ私が殺そうとした事を怒っているの?忘れるって約束したじゃない」
「い、いや、そっちじゃなくて。流石に他人の虐殺はラインを超えているかなと」
「••••たかが百人程度じゃない。それに、四天王の奴の方が殺してるわ」
フレジアは俺の手を強く握りしめ出す。
少し痛い。
そんな中、フレジアは石の柱で大火傷した人と金庫をキャッチする。
俺は『融合』で、落ちてくる瓦礫を消す。
「ま、まあ、一人一人に家族とか友達が居るわけだし。宜しくないかなって。常識的に。法律的にも良くないし」
「•••••••そうね。宜しくないわ。言う通りよ。それはそれとして、あなたを許せないわ。私を裏切ったのね••••いや、裏切ってもいないわね。約束は守ってる••••」
「しゃ、社会通念的に良くないってだけで、フレジアと個人的に仲良くしたいのは本心だから。本当に」
「••••本心かしら。本当に」




