第二十九話 黒田と夕食
「キミ。動物園を打ち切ってまで、ここに来る?」
「ごめん。予約取っちゃってて」
「うーん••••まあ、奢りだしね!楽しみー!」
あの後、黒田と三時間近く動物園を見て回った。
そして今、俺達はレストランに来ている。
ここはプロテクト市の中心部にあるレストラン。
近くの窓からは、周囲を照らす街灯や光を漏らす闘技場が見える。
ちょっと高級めな所なので、あらかじめ予約を取っていた。
だから流石に、ぶっち切りは出来なかったのだ。
「恐れ入りますが、ご注文はこの電話からお願いいたします」
ウェイトレスの人が、テーブルの上に置いてある電話に手を向ける。
ついでに、彼女はメニューを俺達の前に置いていく。
「電話って!珍しいね!ボク、これで注文するの初めて見たよ!」
「俺も初めてかも。所でまず、何を食べたい感じ?おすすめはこのおすすめコースらしいよ。」
メニューを開き、黒田に見せる。
ぶっちゃけここもデート雑誌に書いてあった所で、その上自分でも下調べしてあった。
「ボクもそれにしよっかな!楽しみー!」
「これ美味しい!よく分かんない味するけど!」
黒田はスプーンで、前菜のゼリーを掬う。
そのまま、食べる。
これを見ながら、俺もそのゼリーを口に入れた。
ゼリーは少ししょっぱめで、旨味も感じる。
何かの出汁を固めた感じだろうか。
かなり美味しい。
「さっすがおすすめコース!ボクも他の人におすすめしたくなっちゃう!大空千晴くんみたいにね!なんちゃって!」
「本当にね。これだったら他の料理も期待出来そう」
こう下調べでは出てこなかったゼリーを食べながら、考える。
俺はこのタイミングで、黒田のプライベートについて聞く予定だった。
夕食まで行けば、ある程度話せてはいるだろうから。
その作戦は現在ガタガタになってしまったが。
しかし、このレストランには来てもらっている。
条件も揃っていた。
だったら、迷惑にならない程度にチャレンジしてみよう。
「そう言えば、そっちはこういう所に来た事がないんだ」
「まあそうだね。金もないし」
「寝る暇も無いほどバイトしているって聞いたのに。夢のために貯めている、みたいな感じ?」
「うーん。ま、色々」
「そっか」
誤魔化された。
無理に聞くのも良くないし。
この話題は諦めよう。
いや、後一回だけ。
俺の渡した五十万がある。
その分の使い方を聞くのは、平気なはず。
「と言う事は、親御さんに仕送りしていたりするの?俺の五十万も全然使って無さそうだけど」
「そんなにボクのこと気になる?••••じゃあさ!キミが恥ずかしくなるぐらいの言葉で!ボクを口説いてみてよ!そしたら教えてあげよっかな!」
ニヤニヤしながら、黒田がそう言う。
口説くか。
最初に聞いたのは俺だし。
やった事はないが、頑張ろう。
「分かった。やってみる••••••グヘヘへ。ここまで付き合うなんてよ!つまり!そう言うことだよな!ゲヘヘ!一夜の過ち的な事しようぜ!グヘヘへへ!」
「!!?。なんでそれが出力されんだよ!あの闇よりも黒くて美しい髪だーとか!この夜景よりも綺麗な瞳だよーとかさ!もっとこうあるでしょ!!」
黒田は大笑いし始める。
俺の見た中で唯一の口説き?成功例だったのに。
これは駄目だった。
「••••まあ、少なくともボク達に家族なんていないよ。生まれた時からずっと一人」
「本当に。それならごめん。聞いちゃって」
「キミが謝らなくていいよ。だからこそ自分の為だけに動けるから」
黒田は平然とそう言う。
思い返せば、ホワイトも同じ事を口にしていた。
この世界には、あのホワイトと同種族らしき人もいるっぽい。
だが、微妙に話を逸らされた気もする。
知れたしいっかって感じではあるけど。
「融解羊のスープです。イチジクのジュレと合わせ、召し上がってください」
「おー!良い匂いのスープ!」
ウェイトレスの人がやってきて、料理を置く。
黒田はすぐスプーンを持ち、スープを食べ始めた。
「上手い!でも何これ!スープに許されざる食感!」
「スープなのに食感が羊肉。初めて食う。不思議」
「いやー。美味しかった!あとはデザートだね!」
主菜の六浪羊のステーキを食べ終わる。
少し酸っぱいソースが掛かった、絶妙に固い肉のステーキだ。
結構美味しかった。
「デザートか。どんな感じなんだろう」
メニューには、デザートはティラミスと書いてあった。
ティラミス。
色々あるし、異世界型のティラミスでも出てくるかもしれない。
これを持ってきて貰う為、俺は電話をかける。
すぐデザートは来る事になった。
「でさー。大空千晴ちゃんは、もう女装しないのかなー?あんなに可愛い可愛いって他の人から見られてたのにー!」
「もうしない予定だから。触れないで」
「えー!また見たーい!ボクは!」
俺は、もう女装をする気はない。
確かに開放感はあって、良かったと思う。
だが、別にそれ以上でもそれ以下でもない。
お金も相当かかるし、姉ちゃんやホワイトに言える趣味でもない。
「ボクがお金を出してもいい!また見たーい!」
「良いです。本当に」
「えー!残念ー!」
このタイミングで、ウェイトレスの人が来た。
黒田の注意が逸れる。
「こちら、デザートのティラミスになります。
「おおお!これ、黒くて白いね!」
俺達の前に、ティラミスが置かれる。
これは、白い部分に黒い粉がかかったものだった。
よく見るティラミスだ。
—
電話で会計する旨を伝え、レジへ行き、お金を払った。
二人でニ万円近くした。
冒険者ギルドで他にも働いていなかったら、かなりキツかっただろう。
こうして、もう俺達の宿屋の近くまで来ていた。
今度こそ、解散だ。
「今日はありがとう。バーとかまで案内してくたりして。色々学べたし、楽しかった」
「こちらこそ!今日はありがとう!大空千晴くん!楽しかった!」
自分から人の事を知りにいくことで、より黒田の事が知れた。
大雑把な性格や家族の事、人間関係や黒田の現状など。
色々だ。
これで、俺は黒田に情が生まれた、のだろうか。
今一分からない。
まあ、行けたかな。
「ま、でも、キミはボクよりバーの人達に感謝しないとね。途中からあの人の情報通りに動いていたでしょ?」
「はい。その通りです。良く分かったというか」
「結構分かりやすかったよ。最初のキミはボク自身のことは考えてなかったから」
確かに、最初は雑誌に書いてある事をそのまま行っていただけだけだった。
黒田の言う通りだ。
反省。
「次他の人とする時には、相手個人がどう思うかもよく考えようね。じゃないと、どんな頑張りも誰の為にもならないからさ。ボクの言えた事じゃないけど」
「分かった。直す。今日は本当にありがとう」
「うん。ならいい。じゃ、最後に、と」
黒田は突然手を広げ、こちらを見た。
真っ黒な瞳と目が合う。
「ボクがこれ、何して欲しいって思ってるか分かる?デートの終わりにする事」
??。
何だろう。
デート終わりにする事。
もしかして、あれかな。
デート雑誌で読んだ。
だが、少し恥ずかしいし、駄目な気もする。
いやでも、外国だと普通らしいし、この世界でもそう言う感じなのかも。
「分かった。これで良い?」
俺も手を広げる。
黒田は頷く。
合っていたっぽい。
やったね。
「••••うん。そのまま」
そのまま、黒田とハグをする。
温かい。
「••••••ん、ん!??」
そして、軽く唇を合わせる。
さっき食べたティラミスの味がした。
「ちょ!ちょっと待って!そこまでじゃない!抱きしめるだけ!ボク!これファーストキスだから!」
「••••ち、違った?」
もしかして違ったのか。
勘違いしていた。
やばい。
「••••••ごめん••••本当に•••••」
あまりにもこれは洒落にならない。
というか、俺も家族以外とは初めてだった。
思ったより失った感もある。
「••••はぁ。ボクの言い回しも悪かったし。まあいいよ」
「••••ごめん••••」
「••••ま。誰でも最初は間違うから。ボクももう街を出るのに何やってんだって感じだから。じゃあね。大空千晴くん。今日はキミと遊べて楽しかった。また今度」
「••••ごめん。じゃあね。俺も楽しかった」
黒田は手を振りながら、去って行く。
すぐ見えなくなった。
—-
宿屋の一室に、帰ってきた。
俺達の部屋だ。
未だ明かりがついている。
「••••ただいま。ホワイト。そっちは何か収穫あった?」
ここにいたホワイトは、ベットで寝転び本を読んでいた。
今日は【プロテクト市歴史 多種多様な魔法の流入の及ぼす影響】と【街中鈍行恋愛模様】を読んでいる。
「••••••まあまあ••••そっちは楽しかった?」
「••••楽しかったと言えば楽しかったかな。学べることも多かったし」
黒田のお陰だ。
俺の間違ったスケジュールにも付き合ってくれたのもあるし。
本当にありがたい。
なのに、最後は失敗してしまった。
あのミスは洒落にならない。
黒田には悪い事をした。
猛省。
「••••••こっちきて」
「?。どうしたの?良いけど」
ホワイトは起き上がり、ベットに腰掛ける。
こうして、自分の隣を叩いた。
何だろうか。
言われた通り、俺はホワイトの隣に座った。
「••••••わたしをみて」
「?。良いよ。どうかしたの?」
ホワイトの方を向く。
その白い瞳と、少し見つめ合う。
「ん••••あまい」
「?••••!?。!?!?」
ホワイトと唇が軽く触れ合う。
特に味はしなかった。
「わからない事があったら、わたしにきいていい。一緒にかんがえよう」
目を見て、ホワイトは言う。
その手首には俺が作った蛇吉柄のミサンガを、付けていた。
もしかして、俺が凹んでいるのを見て、慰めてくれているのだろうか。
「••••••それと、ちはるが他のとするよていのあること••••余裕があったら••••ふたりでしよう••••••」
次は顔を逸らし、ホワイトはそう言う。
声もいつもよりボソボソ気味だ。
多分、慰めてくれているっぽい。
そっか。
「分かった。なるべくそうするね」
ちょっと、良い気持ちになる。
自分の為にしてくれて。
本当にありがたい。
「••••うん••••一緒によもう」
ホワイトはベットにまた寝転がり、本を立てる。
俺も一緒に寝転がり、その本を見た。
最近、これをよくやっている。
一緒に本を読んで、最後には感想を伝え合うのだ。
「へー。五属性魔法と全く同じ事象を起こす違う魔法を使ったとしても、五属性魔法の方が71%近く魔力消費が少ないのか。初めて知った」
「うん。それで、この現象がじんかく面に影響をおよぼしてる可能性があるらしい。その魔法はより魔力を使うから、よりみずからの身をささげてる感じがあって、意識のズレもうまれる。まえのあたりにかいてあった」
「面白いね。魔力の消費量の違いが似た行動でも異なる意識を与えるのか。これが歴史に影響も与えるんだね」




