第二十三話 vs謎の生物達
四人で洞窟をうろうろし、出口を探す。
犬の亡骸はすぐに黒い粒子となり消えた。
そして一応、ひらめの付けている謎の腕輪による通信機能で、さっき情報と救援要請を送ったらしい。
これで、クエストは完了だ。
後は帰るだけ。
やったね。
「その光魔法、凄いっスね~~。どうやって身に付けたんスかね?後学のため教えて欲しいっス~~」
「••••そう」
こんな中、ひらめがホワイトに話しかける。
それにホワイトが回答しない。
先程から何度も繰り返していた。
「会長~~。ホワイトちゃんが冷たいっス~~。なんとかして下さいよ~~」
「ホワイトはさっき逃げられかけたのを怒っているんじゃない?諦めた方がいいと思う」
「いいじゃないっスか~~。人間命が一番っスよ~~」
ひらめはそう言い、ホワイトに一歩近づく。
ホワイトは少し後退した。
ひらめはえーっ、という顔になる。
「まあ、俺と話さない?そっちはどうなの?勇者連盟だっけ。結構忙しい感じ?」
姉ちゃんも所属していると聞いた勇者連盟。
加入している人達から、どんな組織なのか聞いてみたくはあった。
図書館である程度は調べてはいるが。
「自分と話したいっスか!?会長!!」
「結構そんな感じ」
「分かったっス!!少なくとも!自分は大変っスよ!最近勇者連盟自体が人手不足で!自分とか護送任務終わって、すぐ異変調査にこさせられたんス!だから自分今二徹っスね!ブラックっス!!」
「?。あれ?場所の調査自体は、俺と会う前に終わったって言ってなかったっけ?」
ここに来る前にそう言っていたような。
だったら、その間は暇だったと思うのだが。
ひらめは口笛を吹く。
「ひゅ~~。誰も危な過ぎるって理由で、依頼を受けてくんなかったんスよ~~。暇で暇で~~。寝ずに情報収集していていたんスよね~~」
しれっと嘘をつかれていた。
高校生時代から何も変わっていない。
「••••••ねぇ。あいつは勇者じゃないの?どんな関係?」
イリカが近づき、俺に話しかけてくる。
何処か恐る恐るという感じだった。
「同じ場所で学んでいた仲かな。割と嘘付くから、あんまり信用はしてない感じ」
「え、え?そ、そうなの?」
「会長!オルキデさんと何話してるんスか!!自分にも教えて欲しいっス!!」
次の瞬間、近くの壁に魔力が流れ始める。
地面に穴が空いた時と、同じだ。
「••••なんかくる」
「予告しときます!ヤバそうなんで一旦自分は逃げるっス!さよならっス!」
大声で宣言し、ひらめが透けていく。
視覚でも魔力感知でも捉えられなくなった。
何処にいるか全く分からなくなる。
それを、ホワイトとイリカが何か凄い目で見ていた。
直後、目の前の壁がゆっくり開いていく。
壁の奥は暗闇で、よく見えない。
けれど、ピタピタと何かが歩いてくる音はした。
ついに灯りの元に、何かが出てくる。
それは女性だった。
蛇の髪を持ち、口には牙の生え、金色の翼を持つ。
要は、メデューサ。
こんなのもいるんだ。
「目が合ったら石になるかも!注意して!」
そう言い、メデューサの視界から離れようとする。
だが、足も体も動かない。
何故。
メデューサは大口を開けた。
こうして、一番近くのイリカに噛みつこうとする。
尖った歯がイリカに迫る。
イリカは一切喋らず、動こうともしない。
あっちは完全に止まっているのか。
急いで魔力をホワイトのものに変えた。
そして、『停滞』でイリカの服を止める。
ガキィンと、メデューサの歯とイリカの服が接触した
メデューサは戸惑った顔をする。
「『レイ』••••よけた」
光るレーザーがホワイトから放たれる。
メデューサはそれを難なく避けた。
ホワイトも意識はあるっぽい。
その上、止まった状態でも能力や魔法は使える。
良かった。
「『光線』。それなら当たるまで打とう」
「わかった。『光線』」
二人でレーザーを乱射する。
メデューサは体をくねらせ、これらを避けていく。
すぐ、メデューサは標的を俺に変える。
大口を開け、頭に噛みつこうと迫ってくる。
俺は能力を切り替え、「結界」を頭の前に貼る。
「『光線』••••あたらない」
メデューサは「結界」に噛み付いた。
「結界」にヒビが入っていく。
数秒後、バギィンという音と共に「結界」は破られた。
眼前に、メデューサの口内が広がる。
「よく分からないけど!お前が敵ね!!は!」
直後、イリカの踵がメデューサの顔を潰す。
助かった。
発動条件は視界内で合っていたっぽい。
時間を稼いだ甲斐があった。
メデューサは顔から血と黒い粒子を吹き出させる。
その顔は苦痛に歪んでいた。
こうして、倒れ込む。
「あ、あれ?こ、これ、人間?じゃないわよね、?全力でやっちゃったわよ、?」
イリカが冷や汗を流し、地面に着地する。
次の瞬間、ゴオと音がなる。
「かはっ!」
棍棒が振るわれていた。
イリカは腕で防ぐが、吹き飛ばされる。
『危なかったですね。ノウェム。逃げなさい』
牛の頭と木の棍棒を持つ男が、立っていた。
近くの壁にはこの男が来たと思わしき、穴が空いている。
『なにもの』
『気になりますか。私はトレース。貴方達を殺す者、といった所でしょうか』
牛頭は棍棒を振り下げる。
一方、俺も動けるようになっていた。
ポケットから木の枝を出す。
『ウィギンティの仇も討たせてもらいますよ。は』
木の枝と棍棒が接触した。
直ぐに木の枝が折れる。
「あ。駄目そう」
木の枝で時間が稼げ、ギリギリ棍棒が避けられた。
だが、もう木の枝の在庫はない。
次は受けられないだろう。
「不味い!少し逃げよう!ホワイト!」
『逃しませんよ!侵入者達!』
牛頭は棍棒を振りかぶる。
これは避けられない。
ならば。
「『凄い風』。引きつけよう。あれ」
『何ですかこれは!』
強烈な風が吹き、牛頭を止める。
ならば、をする必要がなくなった。
俺はホワイトを抱えて、逃げ出す。
「いつの間に風魔法使えるようになったんだ!ホワイト!」
「れんしゅうした。うしろ。きをつけて」
俺の魔力感知にも反応がある。
棍棒を構え、猛スピードで迫る人型が来ていた。
どうしようか。
速さでも負けている。
ならば先程やるつもりだったガード方法をしよう。
能力を『停滞』に変え、ホワイトを抱きしめる。
上に背中を向けたままジャンプし、服を『停滞』させた。
『ぐ、貴方の能力は、やはりバリアを貼るだけでは無いのですね』
棍棒が、服に直撃する。
止まった服により、棍棒は折れた。
だが、俺もかなりやばい。
振動が体に伝わり、ぐちゃあと音がした。
力なく地面に落ちていく。
「え、ちはる、、だいじょうぶ、、?」
俺の下にいるホワイトが、動揺している気がする。 割と、魔力のお陰で平気ではある。
予想通りだった。
ホワイトを抱え、そのまま地面を転がる。
『逃しませんよ!もう一発!』
「まだ、まだ!」
牛頭の拳を転がってかわす。
ギリギリ避けられた。
バゴォンと、拳で地面が凹む。
凄まじいパワーだ。
けれどあんまり射程が長くないので、いくらでも避けられる。
『ちょこまかと!仇を取らせなさい!』
「喰らいなさい!」
牛頭が、くの字で吹き飛んでいく。
イリカが背中から蹴りつけていた。
「ひどい怪我ね!大空!!大丈夫!!?」
「意外と平気。作戦立て直そう」
「大丈夫よ!あの程度!身体能力だけよ!私がやるわ!待ってて!」
倒れている俺達へ、イリカがそう叫ぶ。
一方、牛頭はそのまま着地し、俺達へ振り向く。
『魔力感知に引っかからずにスペック。厄介ですね。ですが、私の方が身体能力は上ですよ』
牛頭は走り出す。
イリカも走り出す。
「何を言っているのか分からないけど!意味ないわ!」
拳と拳がぶつかり合う。
一方的に、牛頭の拳は逸れる。
その拳は地面に当たり、凹みを作った。
『ぐわ、』
逸らした直後、イリカは回転し牛頭の脇腹を蹴る。
牛頭は横に吹き飛んでいく。
『が、は、何が起き、』
「は!」
牛頭は洞窟の壁にぶつかった。
そして、すぐイリカが腹を殴る。
牛頭は血を吐いた。
『ま、まだまだ!』
牛頭はそのまま、何とか拳を振り下ろす。
その拳へイルカの上段蹴りが炸裂する。
「は!もう何も出来ないわよ!」
蹴りと拳がぶつかる。
イリカの蹴りが一方的に勝った。
押し合いに負けた牛頭は、体勢を崩す。
『な、ならば、ぐ』
追加で、イリカは牛頭の足を蹴る。
牛頭の足からは、ボキという音がした。
牛頭は倒れていく。
「普通に勝ってる。武術って凄いね」
「••••うん」
粘った甲斐はあったが。
思ったより普通にイリカが勝てている。
武術って、凄いね。
「あなたじゃ私に勝てないわ!降参しなさい!」
『なに、言ってるのか、分かりませんよ、、』
「私も分かん」
突如、イリカが止まる。
片目が潰れたメデューサがこちらを見ていた。
『ノウェム、、今の内にって、、逃げなさい!!!後ろに!』
「チャンス!良いとこ取りしちゃうっス!グサーっ!」
メデューサの後ろに突如現れたひらめが、小刀をその頭に差す。
黒い粒子と血がメデューサから大量に吹き出した。
『待て!お前!私のが危険だ!優先的にトドメを指すべきだ!やめろ!』
牛頭はやぶれかぶれで、止まったイリカに対し拳を振りかぶる。
ここでまた『停滞』だ。
『ぐ、』
止まった服と牛頭の拳が当たり、牛頭の手が折れる。
このタイミングで、メデューサが目を閉じていく。
「ミノタウロスも!この隠密の勇者の名にかけて!逃がさないっスよ!!評価upのチャンスっス!」
ひらめが小刀を構えた。
次の瞬間、ひらめも含め全員が止まった。
メデューサのほぼ亡骸が、未だこちらを見ていた。
『に、逃げろ、、ってそんな、、ノウェム••••』
「鬱陶しいっスね~~。はい!」
ひらめは何故か少しだけ動き、メデューサの首を切る。
メデューサの頭が飛んだ。
『も、、申し訳、、ありません、、』
牛頭は高速で地面を這いずり、逃げ出す。
これでも俺では追いつけないスピードだった。
「『光線』。あ。外した」
しかし、また襲撃されるのも嫌なので、光るレーザーでとどめを刺しにいく。
レーザーは、牛頭の肩から足まで貫通した。
これでも牛頭は這いずって逃げる。
実は頭を狙っていた。
しかし、速くて躱されている。
要は実力不足で外しちゃった。
「「神速」っス!自分が!怪我してしまった会長のミスと!尻拭いしてあげるっスよ~~!!」
ひらめは突如牛頭の上にも現れる。
そのまま、小刀を振り下ろす。
ここで、地面に謎の魔力が流れる。
地面に穴が空き、牛頭は落ちて行く。
そのすぐ後、穴は閉まった。
「あ。逃げられたっス」
ひらめが地面に着地する。
穴は完全に閉まっていた。
「まあ、あれだけの傷を負えば、しばらくは動けないはず。逃げられたのは俺が外したせいだけど」
「なに!?何があったの!?急に牛人間がいなくなったわ!」
「••••••」
—
『••••私のせいだ••••判断が遅かった••••最初から、、最初から、連携していれば••••』
牛頭は地面に倒れ伏す。
そのまま、こう呟く。
目には涙を浮かべていた。
『ふむ』
その眼前に、お父様と呼ばれる男性が歩いて来た。
今度は黒い杖も持っている。
こうして、ミノタウロスを見下ろした。
『それも、否定はしない。だが、違うな。お前自身に力が足りなかっただけだ。己の願いを通せる程の、力が』
言い聞かせるように、男は言う。
ミノタウロスは恐れたように男性を見上げた。
『••••••はい••••おっしゃる通りです••••お父様••••』
『しかし。私ならばその力を与えられる。迷宮完成に用いているリソースをお前に割けば。あの中々の連携に対応出来るようにさせれる。お前はどうしたい』
男はミノタウロスに語りかける。
ミノタウロスの目に、光が宿った。
『•••••お願い、します。力が、、』
『ならば、死ね。『束ねた闇』』
男が自らの魔法を使う。
杖から放たれた漆黒のレーザーが、ミノタウロスの頭を貫く。
黒い粒子と血が飛び散った。
『••••な、何故••••』
『ふむ••••冥土の土産に教えてやろう。他の生物に頼って己の願いを叶えようとする。そんな弱い意思も持っている奴は強くなれん。以上だ。次に期待するとしよう』
ミノタウロスの目は光を失う。
全身が黒い粒子となって溶けていく。
血も辺りに撒き散らされる。
その瞳からは雫が溢れた。
『最後だ。私が出よう。貴様らはどう対処する』