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9 回復術師のソロプレイ

11万文字まで執筆済み。★毎日更新予定です。 《 》内はルビです。


*黄泉世界=現世と来世の間にある世界です。

*討伐者=冒険者みたいな物で妖怪を滅する者です。

*術=魔法みたいなものです。

職業(クラス)防御盾術士(タンク)槍剣術師(アタッカー)/結界術師(防御魔術師)/回復術師(ヒーラー)/陰陽術師(攻撃魔術師)

9 回復術師のソロプレイ


 境界域は妖怪が来ない分安全域ではあるが、視界があまりない。

 だからあまり長くいるような場所ではないが、神城かみしろ疾風はやても生気をある程度回復する必要があった。


 たけるは自分のリュックから、白雪しらゆきもらった触媒を二人に分配した。


「ありがとう、でも、多神たがみさんは、大丈夫なの?」

「うん、満杯だよ。これは、白雪しらゆきって子にもらった予備だからね」

白雪しらゆきちゃんと知り合いなの?!」

「いや知り合いというか、その白雪しらゆきさんって子に依頼されて来たんだ。ハルちゃんを救ってほしいってね。それがまさか神城かみしろさんだとは思わなかったけれど」

「そうだったんだ!もう、帰ったら抱き着いてキスしちゃうよ!」


(えっ、俺に!あっ違うか……白雪しらゆきさんね)


「おい、お前、ほかのやつらはどこにいるんだ?」

「えっ?他の奴らって?」

「きっと五層でキャンプ張ってるんじゃない。ねえ多神たがみさん?」


「そうなのか、何人できた?フルパーティーか?結果術師はいるのか?」


 疾風はやてが鬼気迫る形相で詰め寄る。

 それは生きて帰れるかどうかにかかわることだから当然のことだ。


「えっと、ごめん、俺一人なんだ。ハハッ」


 多神たがみはクスクス笑って、冗談に決まってるでしょうという顔をした。


「もう、また冗談ばっかり、ここ五層だよ。ソロで来れるわけないじゃない」


「……ごめん」


 たける苦笑いを浮かべ頭をかいた。


「えっ……」

「はっあ?」


 神城かみしろ疾風はやては顔を見合わせて、目を丸くした。

 二人とも、冷や汗がおでこに現れる。


「うそ、多神たがみさん、回復術師だよね?どうやってここまで来たの?」

「じゃあ、ろくろ首を滅したあれは、お前の術なのか!?」

「えっ、ろくろ首を多神たがみさんが滅したの!?」

「うん、まっ、まあ」


 神城かみしろは上気した顔で目をキラキラさせて、たけるに尊敬のまなざしを向ける。

 たけるは、その視線を少しくすぐったく感じた。


(やっぱり神城かみしろさんかわいいよなあ……)


 だが同時に疾風はやての存在を知り、少しがっかでもあった。


(やっぱり、デートに誘ったりしたら痛いことになってかも……)


 バイトの時に神城かみしろを誘えなかったことを思い出して、見事に振られるというシーンを想像する。


 疾風はやては背も高くなりのイケメンだった。

 元々たけるは自分に自信のない男だったが、疾風はやての容姿を見たとき、秒で勝ち目がないと感じていた。


「おい、なに勘違いしてんだよ。春香はるかは俺のもんだからな!」


「もう、ちょっとヤメテよ疾風はやて、私がいつからあんたのもんになったのよ!勝手に決めつけないでよね。ごめんね、多神たがみさん。この子の言うことあんまり真に受けないでね。私フリーだからね」


(フリー?えっ、それって、少しは俺にもチャンスがあるってことなのか……そうなのか?もしかして、俺でもいいってことなのか――いやいや、そこまでは言ってないじゃないか)


「おいお前、じゃどうやって帰還すんだよ。近接職なしじゃ無理だろうが」


 たけるは頭の中で、『フリーだからね』という言葉がなんども繰り返し木霊していた。

 疾風はやてが言う言葉が耳に入っていない。


「おい、聞いてんのかよてめー!」


 疾風はやてが立ち上がって来てたけるの耳元でどなった。


「うわっ、あっご、ごめん。考え事してた」


「ちっ、浮ついてんじゃねえよ。無事に帰って初めて助けたってことだろ。ここまで来たからって、春香はるかを助けた実績にはなんねーからな!ノーカウントだぜ。だいたいここまで春香はるかを守ってきたのは俺だからな、いい気になってんじゃねーぞ!」


(いやそもそも、帰れなかったら死んでるってことで、カウントあるなし意味いなんじゃない?)


「それは本当に感謝してるわ。逃げずに守ってくれたんだもの。ありがとう。疾風はやて


 神城かみしろは真剣な顔でそう言い、疾風はやてに向かって頭を下げた。


「きっ気にすんな。俺が今も生きてるのは春香はるかおかげだからよ。こっちこそいくら感謝しても足りねーんだから。俺はお前のためなら命だって惜しくないんだ」


「それは、だめよ。もっと自分を大切にして。そうしないと、現世であなたを助けてあげた意味がなくなっちゃう。それにあなたが命張るほどのことは私はしてないわ」


(そうか……こいつも現世で色々あって、神城かみしろさんが連れてきたってことか)


「いいんだよ、お前を守りたいってのは俺が好きでやってることだからよ。ただ、俺を子ども扱いすんなよ。たった二つ差なんだからよ」

「そんなことないわ、十六歳と十八歳の二つ差ってかなり大きなものよ。まあ成人したら、二つ差なんてあってないようなものだろうけど」


(えっ?どういうこと)


「えっ、同級生なのに二つ違う?」

「えへへ、私一つダブってるか、まっそのうち詳しく話すね」


 神城かみしろは恥ずかしそうに、今その話はあまりしたくなさそに頭をかいた。


「あっ、うっうん」


 たけるそれを察して、それ以上問うことはしなかった。


「で、話もどっけどよ。どうやって、五層を突破すんだよ。てっか、お前どうやって五層突破してきたんだ。もしかして山姥やまんばに斬られながら回復しまくってたどりついたとかじゃねーだろうな」


 山姥やまんばとは五層にいる妖怪で、両手自体が出刃包丁で、斬りつけながら攻撃してくる。

 ろくろ首のような射程はないが、足が速く、しかも複数体で行動していることが多い。

 つまりすぐ距離を直ぐに詰められてしまうのが厄介なのだ。

 普通は防盾術師が敵視上昇術を使って、自分に攻撃を集めているうちに槍剣術師が攻撃し、陰陽術師が援護するという戦い方になる。


「いや、距離を詰められる前に滅するから大丈夫。過剰回復を使って即座に動けなくできるから」

「「過剰回復?」」


 ほぼ同時に、神城かみしろ疾風はやてが言った。


「奴らの傷を過剰に回復させるんだ。ケロイドを起こして柔軟性をなくし動けなくなる。あとはほっておけば全身ケロイド状態になって自然と滅するから」

「うわー、回復術ってそんなことができるんだ、すっごーい!」


 神城かみしろはさらに尊敬のまなざしでたけるを見つめた。


「確かにそんな感じでろくろが滅せられるのはみた。――いや、だが、そんなこと信じられねえ。俺、五級の回復術師知ってけどよ。どんなにレベル上げても、妖怪を滅することはできないって言っていってたぞ」

「えーっじゃあ、多神たがみさんて、六級以上ってことじゃない!」

「まさか、そんなの奴いるかよ。眷属以外で六級以上の回復術師なんて噂でも聞いたことねえ。てかよ、それがマジだとしたって、同時回復って二人が限界なんだろ。山姥のやつらたいてい三体以上で来んだぞ。どう考えたってやべーだろう」

「そうだよね。ここに来た時五体同時とかあったよね。あれはやばかったもんね」

「うん、それぐらいなら大丈夫」

「嘘こいてんじゃねーぞ、てめー!」


「いや、ほんとだよ。確かに普通は手の平から生気を出して治療するから、左右の手で同時2人の治療が限界。それも止血、沈痛、消炎、切除、再生、縫合など行うからそのたびに生気を切り替えるから時間もかかる。そこで鍵盤を頭にイメージして、ドは『再生』レは『消炎』ミは『沈痛』など鍵盤一つ一つに出す生気の種類を記憶させたんだ。その音を弾いたとき、無意識にその生気を出せるようにね。そして受けた傷も妖怪ごとに多少治療順が違うから、一層の一つ目妖怪なら、『レ・ミー・ファ・ド・ソー』というメロディーで治療とか。それぞれの妖怪に合わせて手に覚えさせている。だからほぼ瞬時に治療できるんだ」


「なんだそれ……でもそれで妖怪が束になってきても間に合うのかよ」


「妖怪を過剰治療する場合は、治療順番なんて関係ないから、メロディーでなく和音を押すんだ。妖怪によって、コードCとかFとかAmとか違うんだよ。それはイメージでそのコードじゃないかって感じられるので、それを言葉で説明するのは難しいんだけれど、その層の妖怪にあったコードを見つけれてしまえば後は簡単。両手が空いていれば二体攻撃するのに二秒程度。ああ、動けなくなるまでの話ね。過剰回復しても滅するまでは、さらに十秒以上かかってると思う。けど、過剰回復が始まったらもう動けなくなるから危険はないんだ」


「なっ――」


 さすがの疾風はやても言葉が出てこなくなった

 

「えっと、ごめん。私にはよくわかんなかったけど、なんか凄そうだね」


 神城かみしろは目を丸くして、わくわくするような顔になった。


「ごめん、これっておなじ回復術師ならなんとなく伝わるんだとおもうけど、他の人にはなかなか理解できないと思う」

「ちっ、まあ、信じてやるが、そんなに早く片付けられるってのは、この目で見るまでは信じられねえ。おれは、春香はるかしか守らねーからな、そのつもりでいろよな」

「こら疾風はやて、回復術師優先に守るのが、結界術師の原則でしょう!」


「いや、いいんだ。そうしてくれ。疾風はやて君は消耗してるし、結界の中からの回復術は結界通過の時の同調に数秒使うから、俺には邪魔になるんで、張らなくてOKだよ」

「その言葉忘れんなよ」


「こら疾風はやて、あんた多神たがみさんに失礼ことばかりいうのやめなさいよ。まずその言葉遣いやめなさい。だいたい年上なんだから、失礼でしょ。そうだ、お兄さんって呼びなさい。」

「えーっ、それは無理だよ」

「いいわよ、だったらあんたのこと嫌いになるから!」


 その言葉に疾風はやては本気で慌てた。

 神城かみしろに嫌われるのが相当怖いらしい。


「だったら言ってごらんなさい。おにいさんって!」


「くっ……おっ、くそ、だめだ、気持ち悪い」


(いや、神城かみしろさん、それ俺のほうも気持ち悪いたんだけど……)


「じゃあ、嫌いになるわ」

「あっ、兄貴! こっこれが限界だ」


(おっそう来たか、それはまあ悪い気はしいな)


「うん、まあよろしい。許してあげる」


 疾風はやては、深くため息をついた。


(こいつ、ほんとに神城かみしろさんにぞっこんなんだな……)


「それと、多神たがみさんも、私のことは春香はるかって呼んでよ」


(うわっ、それ結構嬉しいけど、照れそう……呼び捨てとか無理だし)


「あっ、うん。じゃあ春香はるかちゃん、てことでいいかな……」


(ヤバいなんか顔赤くなってないか俺)


「うーん、ちゃんとかもいらないんだけど、まっいっか」

「えっとじゃあ俺も、たけるってことで、お願いします」

「うん、じゃあ、たけるさん」


(なんかこそばゆいなあ。女子に下の名前で呼ばれたの生まれて初めてかも……)


「ちっ、浮かれやがって」


****


 しばらく横になって、3時間程度休息し携帯食料で昼食をとった。

 この世界で売られている生気メイトとか、生気バーといった、表世界でも似たような形のすぐ食べられ、日持ちする携帯食料だ。


 食後、たけるが回復術師の能力を使って二人の回復具合をみた。

 二人とも三パーセントぐらいの回復だった。


 もっと回復させたいが、境界域では効率が悪すぎる。


(オアシスまで行って少しでも回復したほうがいいよな)


 オアシスは妖気が少ないので、少しではあるが生気の回復が見込める。

 妖怪達が入れないわけではないが、自ら近づきはしない。

 こちらが引き付けなければ入っては来ない。そのためキャンプ場所として利用される。


 日中でも薄暗い森だが、日が落ちると全く光がなくなので、妖気が濃くなり、夜のほうが妖怪の力も強くなる。

 だから討伐者もよほど急いでいない限り、夜間はキャンプを張って生気を回復させるのだ。


「まだ、つらいと思うけど、そろそろ行こうか」

「うん、そうね」

春香はるか、大丈夫なのか?」

「うん、歩けると思う。大丈夫よ」


 春香はるかは立ち上がってその場で行進してみせた。


「ほら、平気」

「あまり無理すんなよ。だめそうだっら、今度こそ俺がおぶってやっから」

「えっー、疾風はやてのおんぶはなんかやだなあ……」


 いたずらっぽく笑う春香はるか


「なっなんでだよ、こいつには、いや兄貴はよくて、なんでお俺だめなんだよ」


 こいつっといったところで、春香はるかに睨まれたので、疾風はやては兄貴と言い直した。


「ふふふふっ、なんでって、さあ、なんでかなあ?」


 自分で言っておいて、自分でも本当にわからないようだった。


(えっそうなの、俺もその理由ちょっと聞きたかいかも……)

最後までお読み頂きましてありがとうございました。

次話もお読み頂ければ幸いです。

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