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Alternative  作者: コヨミミライ
La's Bathos—仕組まれた賛美歌—
113/113

Cr's are Thinkerー深く、淀みへー

 火を付けていない煙草を咥えて立ち上がる。体にはダルさばかりが残留し、感覚が散らばっているようだ。

 寝台に横たわったリーシャは安らかに寝息を立てている。いつも凜として強気なリーシャからは考えられないほどに年相応な寝顔。きつい目元も和らぎ、静かな寝息が耳に心地よかった。

 このまま朝まで眠っていたいが、使用人に見られてしまったら事が事だ。早めに退散しなければいけない。

 リーシャに掛布をかけ直して、そっと一度頭を撫でてやる。

 微かにリーシャの瞼が揺れ、口元が動く。

 呟かれたのは俺の本当の名前だった。

 思わず頬が綻んでしまうが、すぐに表情を引き締める。

「無粋な奴だな」

 振り返らずに言うと聞き慣れた胸くそ悪い笑声が耳を撫でた。

「私は情緒を全くもって一切合切含めて一番に尊んでいる。邪魔をしなかっただけ有り難く思ってほしいものだ」

「そうかよ。今度からは余韻も大事にしてほしいもんだな」

 窓際に目を向けると、そこには月明かりに翳る人の形があった。マントを羽織った人型をしたそれの姿は定まらないが、ドミノマスクの奥の目だけが金色の光を放っている。

「舞台が入れ替わった後の余韻は邪魔でしかない。何事も切替は肝心であろう?」

「俺は舞台に立っているつもりはねぇし、俺の人生は連続してんだよ」

「そうか、それは知らなかったな」

 またランタンは喉の奥で嗤う。

 いつ聞いても耳障りな笑い声だ。

 リーシャを一瞥する。穏やかな寝息を立て、安心しきった顔で眠っている。

「場所を変えようぜ。女の部屋でする話でもねぇんだろ、どうせ」

「よかろう。情事ではなく、情緒のある場所に行くとしようか」




 ランタンの転移魔術によって行き着いた先は見慣れない風景だった。

 開けた空間だった。高いドーム状の天井を左右に等間隔に並ぶ柱が支えており、その先には限りなく星辰瞬く空が続いている。

 白く滑らかな龍石が敷き詰められた床は円状となっており、あまり広くはない。続く地面もない。民家一軒分くらいの広さだろうか。

 唯一外壁があるのは奥の部分で、そこには豪奢なパイプオルガンと美しい女性の横顔が描かれた絵画だけがある。

 耳に吹き込んでくるのは荒れ狂う風の音。しかしこんな遮蔽物もない空間なのに体へ打ち付けるはずの風はない。

「ここは、どこだ……?」

「大聖堂。塔の最上階だ」

 ランタンはさも当然のように答えると、ぱちんと指を鳴らす。渇いた音に答えるようにランタンの隣の空間が歪み、豪奢な椅子が出現した。道化師は俺に向かい合うように椅子へ腰掛け、足を組んで頬杖をかく。

 灯り一つない空間だというに、足下の龍石が淡く光っているために暗さを感じない。経年劣化もせず、滅多なことでは傷のつかない龍石。竜よりもさらに上位の存在である龍からしか得ることのできない石が贅沢なほどに使われているっていうのはすげぇな。

「宗教的重要地点だぞ。いくらなんでも無理がある」

「なぁに、問題はないさ。この世の全ては私の舞台だ。好きに使おうではないか。それに、《創世種エレメンツ》など宗教的存在以外の何者でもあるまいよ」

 こいつは自分が正しいと思えば、それが正しいのだ。

 誰に何と言われようと、昰であることは決して変わらない。

 ランタンが再び指を鳴らすと、俺が咥えたままだった煙草に火が灯る。

「さぁ、では煙草でも味わいながら、楽しい話をしようではないか」

 一体こいつはどういう心算で俺を呼んだんだ。

 こいつの行動原理は常に予測できない。

 勝手に体が強ばってしまう。

「てめぇと話すようなことはねぇぞ?」

「私にはある。それでいいだろう」

 ランタンが大仰に手を広げて肩を竦める。

 こいつがいいと思えばいいんだろうな。知ってたさ、そんなことは。

 火の灯された煙草から紫煙を吸い込み、思考を巡らせる。

 考えろ。こいつの思惑を考えろ。

 呑まれるな。思考を止めたら一瞬で絡め取られる。

「戦動者よ。君の行動原理と価値観のズレは実に興味深い。森の奏者の子を庇い自ら傷を負い、しかしそれでいて目的のためなら命の貴賤を判断し、無関係の人を殺めることを厭わない。口でも心でも命を尊んでいるようで、必要に迫られれば冷徹。君の心はどうなっているのだろうな?」

「在り処も分からないものの形を問われてもな。知らねぇとしか言い様がないぜ?」

「無論。心の形を最も知らないのはいつだって自分自身であろう。だからこそ、私を通して君に君の心の片鱗を見せてやろうではないか」

 ランタンがもう一度指を鳴らす。

 渇いた音が響き渡り、ランタンの両隣の空間が歪んだ。二つの歪みの中から現れたのは人影。

 片方は老い果て、杖で自重を支えるのがやっとという、白髪も残り少ない翁。

 もう一方はまだ幼い、透明感のある五歳ほどの少女。パジャマ姿で素足のままだった。

 どちらも漂白されたように表情がなく、瞬き一つしない目は虚ろだ。意識を失っているのだろうか。

「今にも死にそうな老人と、生を受けて間もない幼子。君はどちらを生かし、どちらを殺す? 選べ」

 椅子に深く凭れ架かり、尊大に頬杖をかいたランタンが問いかけてくる。その唇には嘲るような笑みの形が見えた。

「何を馬鹿なこと言ってやがるんだ。どちらか片方を見殺しにするなんて選べるわけがねぇだろ」

「その必要性を理解し、そして現実に今日してみせたのは君のはずだろう? さあ、選べ。不測の事態。どちらか一つの命しか取れない時、君はどちらを選ぶのだ? 君の天秤にとって、より重いのはどちらだ?」

 言葉に詰まる。必死に考えを巡らせる。

 どちらを助けるのかではない。何故こいつがこんな問いかけを投げてくるのか。その真意を見抜かなければならない。

「…………」

 咥えた煙草を噛む。

 俺にこんなことを答えさせて、一体何の意味があるのか、全く見えてこない。

「時間だ。迷いは君を殺す。今回は君の心の機微から、より生かすべきだと思った方を救ってやろう」

 大仰に手を広げて、芝居がかったセリフを吐いたランタンの左の指先が、ふっと指揮でもするように振られた。

 白銀の軌跡を描く指先に従うように老人の骨と皮しかないような首に赤い一筋が走る。まるで最初からそうであったように首がずれ、重々しい音を立てて頭部が床に転がり落ちた。

 重量感のある確かな音は、しかし命一つの重みとしては何とも軽々しいものに思える。

 頭をなくした首から噴出した鮮血が、俺とランタンの間で紅の驟雨となって降り注ぐ。老人の体はゆっくりと傾いで倒れていき、後に残ったのは鮮血に濡れそぼってなお、微動だにしない少女だけ。

 一瞬の空白。龍石を汚して倒れる老人の死体が再び空間ごと歪み、転がる首と血痕ごとどこかに消失した。

「……な、何やってんだよっ!」

 ようやく頭が事態を理解し、俺は引き抜いた銃をランタンに向けていた。椅子に腰掛けた道化師は驚く様子もなくゆったりと足の上で手を組み合わせている。

「ふむ。将来的な生産性のない、ただ限られた資源を浪費するだけの老人よりも、未知の可能性を秘め生産性のある子供を選ぶ。妥当な選択だ」

「そういうことじゃねぇ! 何で殺したんだっ!」

「殺さなければ意味がなかろう? 次に行こう。次は君が選ばなければ両方殺すことになっている」

 ランタンの親指が再度鳴らされる。

 ただの無味乾燥とした音がここまで残酷に聞こえるとはな。

 血濡れた少女の隣、先程まで老人がいた場所に今度は栗毛の少年が現れる。年齢は少女と同じくらいだろう。

「さあ、選べ」

 ランタンに向かって撃ったところで無意味に終わる。

 ここでは逃げることもできない。

 選ぶしかないのか。見知らぬ人々の命の貴賤を俺が決めなければいけないのか。

 一人を選ばなければ、二人が死ぬ。最も多くの命を助けるためには、殺さなければならない。

 銃を下ろし、俺は二人の幼子を見つめる。

「生きるべきは少年だ」

「ほう、その理由は?」

「残り僅かで終末を迎えかけている今じゃ、どちらも有用性はないが、もし終末を乗り越えた場合、世界の立て直しには男が必要だ」

「なるほど。では撃て」

 ……優しくねぇな、心底。

 子供を手にかけろっていうのかよ。

 視線を銃に向ける。握る手は震えていた。

 力を込め、銃把を握り締める。

 守るために得たはずの力。それは今までどれだけ撃ちたくないものを撃ってきただろうか。

 眼球の裏にこびりついて離れない、今はもうどこにもないとある村の宿にいた純朴な少女の笑顔。

 銃を誰かに向けるたびに今もなお鮮やかに思い出す。無残に変わり果てた有様と、それでもなお人として懸命に生き、最後の最後に呟いた言葉が今も俺の胸に呪いのように突き刺さって外れやしない。

 どちらかを殺さなければ、どちらも死ぬ。

 ならば殺さなければならない。

 老人の命を代償に生かした命を、今度は代償として捧げなければいけない。

 口に詰まった唾を飲み込む。

 心を殺せ。非情に徹しろ。

 中途半端な倫理観が全てを奪い去る。

 俺は一度深呼吸をして、銃を構えた。

 引き金を引く。

 少女の小さな頭が弾け飛ぶ。

 西瓜のように中身をブチ撒け、少女の体が後ろに倒れる。

 死体の周辺が歪み、血痕もブチ撒けた中身も、全てが消失していく。

「では次だ」

 指を鳴らすと、少女と同様に少年の姿も歪みの中に消え、新たな人影が現れる。

 現れたのは平均的な体つきの中肉中背の成人男性と、素朴な印象を与える黒いロングヘアの成人女性。

「選べ」

 年齢はそう変わらない。そして恐らくは一般市民。戦力としての期待度は低い。

 俺は深呼吸をして、銃を構える。

 撃ったのは男。

 また同じような光景が繰り返される。

「女性が子を産む回数は有限だ。なるほど、なるほど。将来性を加味したよい判断だ。幼子であれば生き残るのは男、大人であれば生き残るのは女。奇妙なものだが、分かりやすくもある。では次だ」

 次に現れたのは互いに豪奢な衣装を纏った、気品高い男女。一人は初老を迎え、もう一人は若い娘だった。

「貴族の父とその娘。さあ、選べ」

 俺が撃ったのは娘の方だった。

「地位ある者の死は世が揺れる。貴族であれば子供などいくらでも増やせばよい。なるほどな。では次だ」

 次は煤けたぼろぼろの服を着た大人と子供。

「貧困層の父と息子。選べ」

 俺は父親を撃った。

「貧困に苦しむものに将来性はない。ならば、まだ生産の可能性がある子供を生かす。よかろう。では次だ」

 今度は二人ではなかった。

 三人の成人と、五人の成人。それぞれ男女が入り交じっている。

「選べ」

 俺は三人を殺した。

「数量による判断。では次」

 五人の成人から二人が消え。今度は五人の老人が現れる。

「三人の成人と、五人の老人。選べ」

 俺は五人の老人を殺す。

「数量的価値よりも総合的な生産性による判断。なるほどな。君にとっては、数よりも可能性の広がりが優先されているようだ。では次」

 今度は人が現れない。ランタンが立ち上がり、三人の成人と反対側の場所に歩を進める。

「三人の人間と、一人の《創世種エレメンツ》。さあ、選べ」

 ……俺は三人を殺した。

「数量的有利、将来的可能性よりも《創世種エレメンツ》という存在は優先される。《創世種エレメンツ》は世界を救う重要な戦力なのだからな。君がいくらこのジャック=O=ランタンを憎み忌もうと、君は私を殺せない」

 転がる五つの死体が消失し、ランタンは再び椅子にゆったりと腰掛けた。

「どうだ? 少しは分かってきただろう? 君の中にある命の価値、君の天秤の性質、少しずつ浮き彫りになってきたではないか」

「こんなことをさせて、何の意味があるってんだ」

「私の中の意味を君が知ったところで何も意味はあるまい」

 ランタンは足の上で絡め合わせた指をしきりに動かし続けている。どこか不規則に動く虫の足めいていた。

「君の倫理観の天秤が計っているのは数量と可能性の乗算の解だ。大前提として可能性の合計値を尊び、同程度の可能性がそれぞれに含有される場合はその数量による計測で最終的な数値が引き出される。故に数量的には不足するはずの《創世種エレメンツ》は、終末の回避という未来の可能性を形作るために必要な存在のためにあらゆる存在に対して可能性的有利を持っている。しかし、将来的な可能性という数値は現時点での有効性という数値からは優位を取られる。即時的な戦力は終末を回避するのに必要だろうからな」

 俺の中の命の価値が、俺以外の他人に明かされていく。

 死んでもいい人間と、生かすべき人間の判断が暴かれていく。

 どんな道徳的な言葉を吐いても決して消すことの出来ない、社会で生きる全ての存在が抱え持つ禁忌の領域に、道化師が土足で踏み込んでくる。

「そして、これが君の倫理観の穴だ。この問いかけに使われた人間の合計は二十三名、そして君が殺したのは十六名。君の判断によって半数以上の人間が死んでいる」

 心臓に突き刺すような痛み。

 その場その場の最善が全体の最善などという保証はどこにもない。

 俺がより多くの命を救うためにと従った行動とその判断は、結果的に半分以上を殺すこととなった。

「可能性は相対的な計算はできても、絶対的な数値とすることは決してできない。君も策を弄し、人の心理をつくことに長けた戦動者ならば、それくらい分かるだろう。生き残った彼らの可能性と人数による乗算の解は、果たして死んでいった彼らの可能性の合計値を本当に上回るものだっただろうか?」

 十六人を殺し、生き残ったのはたったの七人。

 その七人は十六人を犠牲にしてまで生かす価値のあった者たちだったのか。

 誰にもそんなことは分からない。人の天秤によって、その答えは変わってしまう。

 それでも、俺がその七人のために十六人は死んでも仕方ないものと判断してしまったのは純然たる事実なのだ。

「それを踏まえた上で、君の心の中枢を私は暴いてみせよう」

 渇いた音。残酷な音。あまりにも断罪めいた音が大聖堂に響き渡る。

 ランタンの両隣の空間が歪み、先程同様人型が現れた。

 どちらも細く華奢な体をしている。そして揺れる紅と橙の髪。

 紅い髪に紛れる銀のピアスと、橙の髪の中の碧い宝石が嵌められたネックレスが月光を受けて淡く輝く。

「さあ、選べ」

 そこにいたのはセシウとリーシャだった。

 リーシャは俺が最後に見た時と同じ純白の服を纏い、セシウは長い髪を解き半袖のシャツに黒いスウェットを履いている。

 二人とも俺が知る通りの姿だ。

 炎深紅と水浅葱の瞳は変わらず虚ろだというのに、どうしてか刺すように俺を見つめているように感じてしまう。

「どうした、戦動者よ。未来の可能性と有効性の相対的比較、乗算の解を以て選ぶがいい。会って間もない体を重ねた女と長い時を共に過ごした家族同然の或いは家族同然まででしかない女。さあ、選べ」

 あまりにも非情な謎かけ。

 さんざん無関係の人を撃たせておいて、今度はこれかよ。

 俺にどちらかを殺せというのか。

 選ばなければ二人が死ぬ。一人を選べば一人が死ぬ。

 選べるのはただ一人。

創世種エレメンツ》であるセシウを選ぶのが正しい選択なのか。それとも貴族の娘であるリーシャを生かすべきなのか。

 今までの俺の判断に準ずるならば、俺はセシウを助けるのが正しいのだろうか。

 いや、違う。セシウを生かそうと思うのはセシウが家族同然の存在だからなのか。ならば、あれほど心を向けたリーシャは家族に劣る存在とでもいうのか。

 違う。そうじゃない。どちらを助けるのが最善なんてことを考えるべきではない。

 俺は二人を救う方法を考えなければいけない。それが正しい判断のはずだ。

 正しい? 正しいってそもそもなんだ。

 一体誰に向けて正しい判断をする必要があるんだ。

 誰も見ていない。誰にも知られない。何者かに強要されたこの状況で正しく在り続ける意味はなんだ。

 一体どうしたらいい。俺は何として考えればいい。セシウの幼馴染みとしてただ一人の人間とし考えるべきなのか、世界の命運を背負った《創世種エレメンツ》の一人ガンマとして考えるべきなのか、リーシャが慕ってくれた一人の男として考えるべきなのか。

「どうした? 決めないのであれば、二人とも死への旅路へ送り届けてやってもよいのだぞ?」

 歯を食いしばる。

 決めねばならない。選ばなければならない。

 一度ゆっくりと深呼吸をし、俺は銃を構える。

 迷うな。

 覚悟を決めろ。

 恐れるな。

 選んだのなら、もしもを考える必要はない。

 俺は引き金を引いた。

 渇いた銃声が耳を打つ。腕にのしかかる重み。

 銃口から放たれた銃弾が螺旋を描きながら、虚空を穿ち突き進む。

 同時に俺は駆け出していた。

 ランタンを狙って放たれた銃弾は、しかし道化師の目前で見えない壁に阻まれる。

 姿勢を低くして走り込み、俺はリーシャを担ぐように抱え上げ、そのまま肩からランタンに突っ込んだ。ランタンを球状に覆う不可視の結界が俺の体を阻む。肩に鈍い痛み。

 叫ぶ。体の奥底から声を絞り出す。

 動じることのないランタンに放った蹴りはやはり結界に阻まれ、体勢が崩れた。

 弾かれた足を反動のままに後ろへ引き、倒れ込みそうになる体を支える。空いた右手で銃を構えた瞬間、目の前を黒い弧が走った。

 はためくマント。ランタンの回し蹴りが俺の手を蹴り上げ、銃が虚空へと舞い上がる。

 怯んだ瞬間、さらに道化師が肉薄する。風を孕んで翻ったマントに絶望を見た気がした。

 必死の抵抗で殴りかかるが、ランタンの体が左肩を手前にするように流れ、左の掌が突き出した俺の拳の甲を叩き、力を下へと流す。前のめりになった俺の顎先に右の掌底が叩き込まれた。

 世界が明滅するような感覚。自分の頭がどちらを向いているのか一瞬分からなくなる。

 自身の体の状態を素早く理解し、左肩に抱えたリーシャの存在を再確認したその時、貫かれるような痛み。

 さらに踏み込んだランタンの肘が俺の腹部にめり込んでいた。視界が再び掻き回される。

 床を転がり、吐き気と気怠るさを抑え込みながら立ち上がろうとして、リーシャがいないことに気付く。必死に周囲を見回す俺の目の前にランタンが歩み寄ってくる。

「君の探し物はこれだろう?」

 立ち上がりかけた姿勢のまま目を向けると、リーシャが襟首を後ろから掴まれ、猫のように持ち上げられていた。

「ほら、返してやろう」

 ランタンがリーシャの体を放り投げる。

 視線を巡らす。争っているうちに、いつの間にか大聖堂の屋根の下から出ており、頭上には星辰瞬く夜空が広がっていた。

 空に舞い上がった細すぎる体が落ちていく先には何もない。落ちていく。あのままでは落ちていく。

「リーシャッ!」

 つんのめりそうになりながら駆け出し、飛ぶ込むようにリーシャへと手を伸ばす。床の果てを蹴って飛び上がりリーシャの腕を確かに握った。

 両腕の関節と肩から痛みが駆け抜ける。

 右手にはリーシャの腕の感触、左手の指は大聖堂の縁にかかった状態。下から吹き上げてくる風が途端に頬を叩き、全身から血の気が引く。

 クソッ、なんだよ、この展開。さんざん物語で見てきたシーンだが、まさか自分が当事者になるとは思わなかったぜ。

 縁が平坦すぎて、指に力が入りきらねぇ……。

 絶体絶命のこの状況、やはりと言うべきか、歩んできたランタンが俺を見下ろす。

 ドミノマスクの奥には金色の光が宿っていた。

「君はもう幾分かは賢い男だと思っていたのだがな。そこまで身の程を弁えていないとは知らなかったよ」

「生憎、クール気取ってる割りに熱血漢の正義バカとずっといるもんでね」

「伝説の切れ端、か。何ともおぞましく美しい呪いだな」

 ランタンを浅く息を吐き、縁にかかった俺の指に足を置いた。

「君が両方を助けるなどというつまらない選択をするとは思わなかったよ、正直な」

「ああ、俺もだね」

「その迷いはいつか君を殺すぞ」

「そりゃもう今、この時点で文字通り痛感してるっつぅの」

 万事休す。絵に描いたような有様だ。

 分かっていた。俺がどれだけ抵抗しようとランタンに勝つことはできない。

 それでも分かったようなフリをして、どちらかに引き金を引くような真似が、俺は出来なかった。

「まあ、いい。君の心がまた一つ分かったな」

「分かったような口をきかれたところでな。俺だって自分がこんなことするとは思わなかったもんだぜ?」

 俺は笑ってみせる。こんな状況だからこそ、勝利者のように笑ってみせる。

 銃器の扱いに関するあらゆることを教えてくれた、あの人のことを思い出す。本当にヤバい時こそくだらないジョークと大胆不敵な笑みを忘れるな。その教えは今もしっかり俺に受け継がれてるようだ。

「心の形を最も知らないのはいつだって自分自身だと言ったはずだがな。戦動者よ。君は何故、今ここで私に抵抗しようとしたのだろうな?」

「どういう意味だよ? お前が言ってることはよく分からねぇな」

「目を背けるなよ、戦動者。何故、先程までは抵抗せずに殺し、今は抵抗してでも殺すことを避けたのか、私はそれを訊ねているのだよ」

 心臓が跳ねる。

「君は何よりも明らかに物語っている。君が尊ぶ命は関わりを持った者たちであり、それ以外の人間を根源的に死んでもいい人間と考えている。人としては上等だろうが、果たして勇者一行の一人としてはどうなのだろうな?」

「……違う」

 声を絞り出す。掠れきった声はあまりにも弱い。

「違わないであろう。君の心にある計算式の根を辿ればそこに行き着く。確かに今の時代に即した妥当な計算式に思えて、それはただ単に自身に最も近しい存在を守る理由をつけるための計算式だ。君にとっての謂わば大切な存在とされる存在を守るために《創世種エレメンツ》が最も優先される式を用い、さもそれが必要なことだと、正しい判断だと自分に言い聞かせることで、君は仲間を守る理由を作っている。視点を変えて見れば、世界は答えを簡単に提示する。君は仲間というものを助けるためには他の誰かが犠牲になってもいいと考えており、現に今、その式の妥当性を崩してしまわぬために十六の命を自らの判断で葬った」

「違うっ!」

 こんな言葉にどんな力があるというのか。

 否定するだけではだめだ。そうではないと照明する論理が必要だ。

 なのに、どうしてこんな言葉しか出てこない。どうして反論するための言葉が見つからないんだ。

「そして何より君は何故、そこの貴族の娘を助けようとしたのだろうな」

「何が言いたい?」

「君は何故紅き風を守らず、何故茨の姫を優先したのだろうな?」

 ……理由……。

 どうしてだ。

 どうして俺はリーシャを真っ先に助けなければいけないと思ったんだ?

「私は、君にとって茨の姫の方が大切だったから、ではないと考えている。今までの計算式に則るのなら君は《創世種エレメンツ》である紅き風を守るのが正しい。何より実際、君の天秤はあらゆる角度から計算しても紅き風を生かすべきだと判断した。だからこそ、選ばれない茨の姫を助けようとしたのではないか?」

 やめろ。

 それを言うな。

 あってはならない。

 体を重ね、想いを向けた気になっていた相手を、俺は選べなかったというのか。

 死んでもいい人間に分類したというのか。

 右手に感じる温もり。力なく項垂れているリーシャ。

 俺はこいつを……。

「戦動者よ、無力とは全くもって残酷な選択を迫るものだな」

 ランタンが指を鳴らす。

 空間が歪む。俺のすぐ側、虚空が歪んだ。

 ああ、クッソ……。

 手を伸ばせば届く距離、セシウが中空に現れる。

 魔術によって浮遊させられているようだった。

 紅い髪が翻り、大きく広がっている。

「選んでもよいのだぞ?」

 右手にはリーシャ。左手は縁に掴まったまま、ランタンに踏まれ固定されている。どちらかの手しか、取ることはできない。

 助けは、来ねぇよなぁ。

「私が《創世種エレメンツ》や政治的重要人物を殺さない、などという予想は捨てた方がいい。もともと《創世種エレメンツ》は代替可能な兵力であるからこそ意味がある」

 人の思考を先読みしないでもらいたいね。

 一度決めた覚悟だ。迷ったら負けかね。

 幸い、塔の側面には足がかかる。

 ゆっくり呼吸しろ。肺に溜まった空気を全て吐き出せ。そして夜の冷たい大気をそっと体に取り込め。

 全身で呼吸しろ。体中の全てを循環させ、行き渡らせろ。

 瞬きを一度——迷わずやるしかない。

 俺は体を揺さぶり、反動をつけて塔の側面を蹴り抜く。捻られる全身。ランタンの靴と龍石で作られた縁の間で俺の手が力任せに動こうとする。

 軋む骨。強引な力に引っ張られ、関節が音を鳴らす。

 全身を捻り体が強引に周り、骨が砕ける。指先が熱量の塊と化す。

 痛みに顔が歪む。それでも構わず、引き抜いた左手をセシウへと伸ばす。空中に漂うその腕を掴み、支えを失った体は急激に降下していく。

 頬を叩く冷たい風。顔が引き攣る。指先だけが熱い。

 胸を張れ。着地地点を見極めろ。どこに落ちたところで死にそうなもんだが、最後まで諦めるな。活路を探れ。

 何か、何か、ないのか。

 眼下に広がるのは月光を受けた灰色の雲。シルクのように滑らかな表面が受け止めてくれればいいのにな、なんて思う。いつだかの勇者さんと同じようなことを考えていて嫌になるね。

 耳元で風が唸り続けている。

 ああ、クッソ。バカやってんなぁ本当。

 ロクなもんじゃねぇ。

 大体なんで仲間のはずの奴にこんな痛めつけられてんだ、俺は。

 いろいろおっかしいよなぁ。

 雲が迫ってくる。あそこを抜ければ、街並みも見えてくるだろう。

 雲に俺たちの影が映ってやがる。

 いや、違う。あれは俺たちの影じゃない。

 何かが、いる? 雲の中に?

 雲を突き破り、何かがやってくる。

 黒い影。白銀の煌めき。銀色の、翼?

「ガンマッ!」

 裂帛の叫び。

 銀の翼の羽ばたきと共に舞い上がってきたのはクロームだった。

 俺の脇を抜ける寸前、クロームの腕が伸び、俺の後ろ襟を引っ掴んでいた。喉に服が食い込み、一瞬息が詰まる。

「カエルのような声を上げるな。黙っていろっ!」

「なんでテメェがここにいるんだよっ! つぅかなんで飛んでんの!?」

「決まっている! 勇者だからだ!」

 何その超理論っ!

 よく見るとクロームの背中から生えた銀の翼は、左右ともに三つの剣の片刃によるものだ。

 これも【旧きアカシックブレイド】の力だっていうのか。

 俺たちの体は急速に高度を上げ、塔の最上階へと駆け上がる。

 垂直に上昇していた体が途端に前方へと動き出し、慣性に足先がひやっとしてしまう。

 進行方向には驚いた様子もないランタンの姿があった。

「これはこれは、『ゆうしゃ』殿。またお会いできて光栄で——」

「囀るなっ!」

 大聖堂へ文字通り飛び込みながら、低空飛行のままランタンへ斬りかかる。

 ランタンを覆う結界と、デュランダルがぶつかり合い、火花と眩い光が散った。

「仲間が手を煩わせたようだな」

「いいや、そこそこ楽しめたよ。最後の大立ち回りも、まあ、なかなかに面白いものであった」

「うちの策士は面倒くささだけは天下一品でなっ!」

 クロームが一気に剣を振り抜く。結界に切れ目が走る。

 そのままランタンの横を抜け、クロームの体が反転、地に足をつけ床を滑る。デュランダルの切っ先が龍石と触れ合い火花が散っていく。

 大聖堂の天井部分を支える支柱の目前で体は停止し、宙ぶらりんだった俺のケツもようやく地についた。

「すんげぇ地面恋しかった……」

「大丈夫か聞くまでもないようだな」

 剣を構えたクロームが目だけで俺を見て、微かに唇の端を吊り上げる。

 背中の銀の翼が白く輝く破片となって消え失せていく。

 触れることもできない雪の結晶のような剣の成れの果ての中、傍らには床に倒れるリーシャとセシウの姿がある。

 生きてる。生きている。俺も、こいつらも、生きている。

 手を叩く渇いた音。大聖堂の中心に立つランタンが拍手をしていた。

「まさか『ゆうしゃ』が来るとは、これはいやはや予想外だ」

「貴様の話し口に乗ってやるとすれば、劇は予想外の展開が面白いのであろう?」

「随分と短絡的な発想だが、物事は分かりやすい方が面白いのも事実ではあるな」

 クロームの足が地面を擦り、少しずつ間合いを計っている。

「おい、眼鏡」

「なんだよ」

「よく耐えたな」

「あ?」

 聞き返した瞬間、クロームの姿が霞む。轟音。

 大聖堂の中心でクロームの剣とランタンの結界がぶつかり合っていた。

 剣と結界が互いを弾き合い、二人が引き下がる。着地した足で即座に地面を蹴り、クロームが一瞬で距離を貪る。

 眼前に迫った剣をランタンの人差し指と中指が受け止め、金属がぶつかり合うような甲高い音が鳴り響いた。

 勇者を目前にして、ランタンは哄笑していた。

「よいのか『ゆうしゃ』殿! 同胞を殺すのか!」

「貴様は同胞と呼び続けられるほど俺も悪趣味ではないっ!」

「フハハハッ! 随分と嫌われたものだ!」

 クロームの切っ先と、ランタンの指先が何度もぶつかり合う。数え切れないほどの邂逅と軋轢と別離。

 舞うように動き、間合いを確かめ合うように円を描き、奏でるように打ち鳴らす。黒いマントの翻り、白銀の髪の煌めきが複雑に絡み合う。

 間合いを取るように後ろへ飛び下がったクロームの左手に白い煌めき。精製された身の丈以上もある両刃の大剣をクロームは軽々しくランタンへと投擲する。

「おっと、これはいけない」

 くるりと踊るように後ろへ下がったランタンの指先が虚空に縦一線を描いた。空に描かれた黒い軌跡が傷口のように広がり、生み出された空間の裂け目に大剣が飲み込まれる。

 その間にクロームはすでにランタンへと肉薄していた。デュランダルを鞘へと収め、両手には大きく曲線を描く細い刀身の剣が二振り。

 大剣の影に隠れるように迫り、空間の裂け目を飛び越えるようにクロームが斬りかかる。中空で横になった全身を回転させながらの斬撃。ランタンが咄嗟に後方へと飛び下がり、着地と同時にクロームが今度は飛び上がりながら横回転。

 逃げ遅れたマントの裾を二振りの曲刀が切り裂く。引き下がったランタンが即座に距離を詰め、指先を振るった。振り抜くよりも先にクロームの足がランタンの手の甲を蹴って、後方へと宙返りしながら二振りの剣を同時に斜め下方のランタンへと投げる。

 必要最低限、数歩横に動くだけでランタンは剣を躱し、地面に突き刺さった剣は即座に光の破片となって消失した。

 クロームの手にさらなる剣が顕現。今度は倭国の刀と呼ばれる剣に似た刀身だが、柄の反対側からも同様の刀身を持っていた。

 両手で器用に槍にも似た剣を回転させながら、ランタンへと急降下しつつ斬りかかる。

「これは怖い怖い」

 ランタンの指先が空中に円を描くとそれは即座に魔導陣となり、紅い光を放つ。吐き出された三つの火球がクロームへと迫った。

 直撃、爆発音、炎が酸素を喰らう。塵埃が巻き上がり、クロームの姿が見えない。

 塵埃を切り裂き現れたのはクローム。次いで、ランタンが現れる。

 ランタンの周りに三つの魔導陣が展開され、無数の氷の矢がクロームへ放たれた。虚空に舞い上がったクロームの前方で無数の白い光、クロームを守るように横一列に並んだ剣の壁が生み出され、凍てついた矢の全てを弾く。剣の群れが光となって消え失せ、螺子のように螺旋を描く剣がクロームの周囲に五振り精製。その切っ先の全てがランタンに向けられている。

「征けっ!」

 それぞれの剣が外側に広がるような軌道を描いてランタンへと突き進む。ランタンの人差し指と中指が光を纏ったかと思うと、光が巨大化、ランタンの身長の二倍はあろう光の剣と化した。

 一薙ぎで迫り来る螺子型の剣が切り落とされ、俺が背中を預けていた支柱にまで傷跡が刻まれる。ちょうど頭の数センチ上の部分だった。

 硬質だった光の剣が今度は撓り、鞭となってクロームへ叩きつけられる。

 龍石のパネルが叩き割れ、舞い上がる塵埃と轟音。

「そぉら、もう少し激しく奏でてみようか?」

 鞭を振るうランタンの周囲に魔導陣が展開。赤、青、緑、金、色とりどりの元素が集約し、火が、水が、風が、土が、多種多様な形となりて逃げるクロームを追いかける。

 竜の頭を模すように組み合わされた岩石が魔導陣から首を伸ばし、着地した直後のクロームへと噛み付く。即座に飛び下がったクロームへ火球が迫り、咆哮を上げた岩石の竜は大口を開いた。その土石の口腔では魔導陣が光り輝く。

「クロームッ!」

 危機感を覚え叫ぶ。クロームも岩石竜の行動に気付き、咄嗟に身構える。

 同時に岩石竜の口から放たれたのは極太の熱線。炎の柱などというものではない。高熱量を伴った真紅の光の一撃。

 熱風が頬を叩き、髪をかき乱し、目に映るもの全てが橙に染まる。

 岩石竜は自身の放った魔術の熱量によって溶解していき、紅い液体が零れ落ちていく。

 夜空を切り裂く紅い一筋はやがて収斂していき岩石竜もろとも消え失せる。

 直撃した支柱はバターでも切り抜くように抉れ、両隣の柱の側面も液状化していた。

 湯気が湧き上がり、熱せられた空間には陽炎が生まれている。

 視線を巡らせるとクロームは天井に鎖つきの剣を突き刺し、ぶら下がっていた。

 プラナも化け物レベルの魔術師であるはずだが、ランタンはその比ではない。魔術師の枠に収まらず、クロームともやり合えるほどの体術を持ち、魔術の詠唱省略、高速展開を行った上で常人を上回る威力を誇る魔術、さらには個人で扱える範疇を超えた複数人による儀式を要するレベルの戦略級火力を持つ魔術を平然と放ってみせる技術力。

 セシウ以上の体術、プラナ以上の魔術、さらに俺を遙かに上回る策略家。こんな存在が物語を面白くする、そんな意味不明な行動原理のままに動き、しかもそれが野放しになっている。

 危険すぎる。あまりにも危険すぎる。

 一見、クロームとランタンの実力は拮抗しているようにも見えるが、クロームは【旧きアカシックブレイド】の力をフルに使っている。対してランタンは最初、積極的に魔術を使うようなことはせず、あえてクロームが得意とする距離で戦い、魔術を使い始めてからはクロームの防戦一方。

 クロームも攻めあぐねている状態だ。

「どうしたのだ、『ゆうしゃ』殿。まだまだ夜は終わらないぞ?」

 ランタンの指先に灯った光が再び巨大な光剣へとなる。あの剣では天井にいるクロームまでも届いてしまう。クロームが表情を歪めている。あの状態では一太刀は避けれても、すぐに詰められてしまう。

 後がない。

 最悪の道化師が剣を振り抜こうとした刹那、黒い影が大聖堂の側面を埋め尽くした。

 一見すれば黒い塊。黒い羽が羽ばたき、影の中心には宝石のように輝く紅い目がある。

 烏——黒い鳥、巨大な黒い鳥が翼を広げ、大聖堂の中を覗き込んでいた。

「そこまでだ、道化師」

 低く恫喝するような声。凜とした声には聞き覚えがあった。

 指先に宿った光の剣を消し去り、ランタンは大聖堂の奥へと目を向ける。パイプオルガンの前には、腕を組んで誰かが立っていた。

「貴様の手助けは受けん!」

「落ち着け。状況が状況だ」

 怒鳴るクロームを冷たい声が制す。

 白い素足、膝下まで届く長く黒い艶やかな髪、滑らかな肌は月光を受け、より怪しく艶めかしい光沢を宿していた。

「おおっと、これはこれは」

 ランタンがマントについた埃を払い、粛々と頭を下げる。

「誰かと思えば、貴女でしたか」

 間違いない。一糸纏わぬその姿を忘れるわけがない。

 でも、どうしてあいつがここにいるんだ。

「《魔族(アクチノイド)》の一人、言霊の魔術師キュリーではありませんか」

 戯けたランタンの挨拶にキュリーは眉一つ動かさない。俺が知っているいつもキュリーとは違う鋭い眼光と険しい表情。ランタンは俺に、キュリー、勇者をそれぞれ見回し、途端に笑い出す。

「なるほどなるほど。ずっと腑に落ちていなかったのだ。何故ここに『ゆうしゃ』が現れたのか。予想外なことも起こるわけだ。まさかお前が手を引いていたとはな」

「貴様の戯れ言には付き合わないぞ」

「『ゆうしゃ』殿にも余程嫌われているようだ。倒すべき敵である《魔族(アクチノイド)》の話を信じて、よもや私を殺しに来るとはな。人の恨みは買うものだ。こうも簡単に面白くなっていく」

 ランタンが笑っている。この危機的状況を前にしても、あいつにとっては一切危機ではないのかもしれない。

「言霊の巫女よ。何故ここにいる? あの《魔王》の計略というわけでもあるまい」

「答える義務はないな」

「聞くまでもないことであったか。あの《魔王》ならば、真っ先に自ら私を殺しにくるだろう」

 くつくつと喉の奥から響く不快な笑い声が大聖堂内に響く。

 一瞬、キュリーの殺気立った双眸が俺を一瞥する。普段の優しく理知的なものとは異なる、冴え冴えとした冷たい瞳。

 表情を崩すこともなく、キュリーはすぐにランタンへ目を戻した。

「貴様のくだらない三文芝居もここまでだ。いくら貴様と言えど、勇者と《魔族(アクチノイド)》を一度に相手取るならば、無事では済まないだろう?」

「脚本家が死のうと物語は語り継がれるものさ。私がどうなろうと終幕は訪れない。とはいえ、余興としては幾分筋書きを外れているのも確かではある」

「《隠遁の元素》——貴様のことは今すぐにでも縊り殺してしまいたいところだが、貴様を殺すべきはカルフォルだ。大人しく退け。それならば見逃してやる」

 大聖堂の外に滞空する巨大な鳥は片時も目を離さず、ランタンを凝視している。少しでも不穏な行動を見せれば襲いかかってくるだろう。

 勇者に《魔族(アクチノイド)》とは何とも末恐ろしい組み合わせだ。決して相容れないはずの存在が並び立ち、たった一人に夥しい殺意を向けている。

 流石のランタンとはいえ、この状況では下手に動くこともできないだろう。鷹揚とした態度は虚勢でしかないのか、それとも何か策があるのか。

「だ、そうだが、どうするんだね、『ゆうしゃ』くん」

 ランタンはゆったりとした動作でクロームへと目を向ける。

「貴様は道を踏み外しすぎている。いくら同族と言えど、貴様は度し難い悪だ」

「ほう? それは今が《魔族(アクチノイド)》の一人を屠る好機であってもか」

 ぴたりとクロームが硬直する。

「今、私と『ゆうしゃ』、そしてそこの戦動者が力を合わせれば、魔女を倒すことはできるのではないか?」

 まずい。

 思わず顔が強ばる。

 その言葉はまずい。

「クローム! 騙されんな! そいつの言葉を鵜呑みにするなっ!」

「仮にも私は《創世種エレメンツ》が一人。道は違えど、君たちと志を同じくする者であろう? そこな魔女の甘言を鵜呑みにする方が愚かではないか?」

 いくら俺たちが憎む者とはいえ《創世種エレメンツ》のランタン、対して人柄もよく分からぬ《魔族(アクチノイド)》のキュリー。

 キュリーのことを少なからず知る俺からすれば、どちらを信じるかは簡単だが、《魔族(アクチノイド)》という存在そのものを殺すべき存在と見ているクロームでは違う。

魔族(アクチノイド)》であるが故に心強いキュリーという存在が、《魔族(アクチノイド)》であるという事実こそがこの状況下において、こうも悪質に作用してくる。

「その魔女が今までどれだけのことをしてきたのかを知れば、考えも変わろう。その女もそれだけのことはしでかしているぞ?」

 クロームは黙したまま動かない。

 正義も悪も入り乱れたこの混沌とした事態。何よりも正義を信奉するクロームだからこそ、惑っているのだろう。

 ランタンはクロームの価値観を揺らがせる。クロームが信じた正義である《始原の箱庭(アペイロン)》に属しながら、絶対的な正義でもなく、また悪でもない。正義の行いを悪行の上でなし、また倫理の破綻した行いを正義を方便として行う。何よりこいつの行動原理には善意も悪意もない。

 中庸と呼ぶには禍々しく、混沌と呼ぶには理性的な有り様。そしてこの場には、似通った性質にあって対照的なキュリーという存在までいる。

 正邪の区分けが曖昧な二人を前にして、クロームはどちらを倒すべきものとすべきなのか戸惑っている。

「…………」

「クロームッ! そんなピエロにハメられんなっ! 誰がどうこうじゃねぇ! お前の思う正しさはどっちなんだ!」

 俺は叫ぶ。

 俺はキュリーが実際にどれだけの力を持った《魔族(アクチノイド)》なのか知らない。クロームとランタンを相手取ってなお、無事に切り抜けるだけの力を持っている可能性はある。

 それでも俺はキュリーの身に危機が迫るのを黙って見過ごせなかった。

 なんとしてもクロームを説得しなければならない。

「勇者になりたいのだろう?『ゆうしゃ』くん? そのためになすべきことは君が一番知っているはずだが?」

 クロームは動かない。

 ランタンはその気になれば、この場所から逃げることも難しくはないはず。それでもクロームを言葉で惑わしているのは何故だ?

 本当にキュリーを殺すべきだと考えているのか、それともクロームの苦悩させこいつにとっては娯楽でしかないのか。

 クロームの剣が揺れる。その切っ先が、キュリーへと突き付けられる。

「……すまんな、魔女よ」

 眼前の剣を見て、キュリーは諦観混じりに湿った笑みを零した。

「いいさ。仕方のないことだ」

 一瞬。クロームの姿が霞む。

 次の瞬間には、キュリーは飛び下がり、クロームの一太刀が空を裂いていた。

「貴様には恩がある。いくら《魔族(アクチノイド)》とはいえ慈悲を以て葬ろう」

 キュリーの周囲に無数の閃き。【旧きアカシックブレイド】によって生み出された無数の剣がキュリーへと殺到する。

 飛来する剣をかいくぐり、魔術による障壁で弾き、キュリーは転がり出るように大聖堂の中心へと走り抜けた。

 そこに待ち受けていたのは悠然と佇む道化師。

「よいぞ、『ゆうしゃ』——それでこそ、だ」

 ランタンが指を鳴らす。

 俺が放った弾丸をランタンは紙一重の距離で躱し、ランタンの火の魔術がキュリーを取り囲むように逆巻く。

 咄嗟にランタンから距離を置くように後ろへ飛ぶキュリー。翻った黒い髪が、橙の光を受けて艶やかに輝いた。

 キュリーの背後には剣を振り抜かんとするクロームの姿がある。まずい。

 息を呑む。

 クロームの剣がキュリーへと迫る。

 まずい……! まずい……!

 振り抜かれた神速の斬撃が空を断つ。

 クロームの背後にはキュリー、ランタンは即座に距離を取り、クロームを凝視している。

 キュリーでさえも唖然としている。ランタンはただ黙したままだ。ただ、クロームだけが剣のように鋭い眼光で敵を睨んでいた。

「どういうつもりだ?『ゆうしゃ』くん」

「分からぬ貴様ではあるまい」

 空間を迸る白光。

 数え切れない剣がランタンを包囲していく。

「これは、これは。そこの戦動者といい『ゆうしゃ』といい面白い選択ばかりをするものだ」

 剣が精製される煌めきを照明とするように、ランタンは白い手袋を嵌めた手を叩く。

 クロームを振り抜いた剣を引き正眼の構えを取る。

「《魔族(アクチノイド)》よ」

 振り返らずにクロームがキュリーを呼ぶ。

「貴様は唾棄すべき存在だ。倒すべき悪だ。何より貴様らを私は度し難い。それでも今はこいつの醜悪さが際立つ。これは今夜だけの酔狂だ。俺の憎悪が止められるうちに片付けるぞ」

 クロームは己の心で倒すべき敵を決定した。

 勇者だから、《箱庭》の一員だから、という理由ではなく、クロームはクローム自身の心に従ったのだ。

 キュリーは一度、目を瞠り、しかしそっと穏やかに目を細める。

「なるほど。一夜限り、楽しませてもらおうではないかっ!」

 黒い髪が翻る。キュリーの裸身が躍り出た。

 紅く薄い唇が動く。紡がれる言葉は聞き慣れない言語。

 プラナたち魔術師が使う詠唱のそれではない。感覚的には独自発展した東洋の言語に似た響きを感じるが、それとはまた違うものにも思える。

 展開された魔導陣も八角。直線と曲線によって描かれた紋章ではなく、東洋の文字めいた記号か何かが刻まれている。

 特異な魔導陣から噴出するのは蒼い炎。周囲を逆巻くように襲いかかる炎にランタンが即座に障壁を展開するが、全くの別方向から飛来した剣が障壁を一瞬にして破壊する。

 咄嗟に身を引き剣を避けたランタンに追い縋るように炎が迫る。

 飛来する無数の剣を指先で叩き落とし、ランタンが再度炎に対して障壁を生み出した。

 キュリーの唇がまた動く。

 障壁の目前に迫った蒼い炎が障壁を蹴った。文字通り、炎の四肢が紅き半透明の壁を蹴り、後方へと宙返りしながら下がる。大蛇のようであった炎がいつの間にか、豹のようにしなやかな体躯を持っていた。

 蒼き炎の豹が吠える。発声器官も有さぬプラズマの塊が豹めいたしゃがれた怒鳴を響かせながら、ランタンへと疾駆する。

 ランタンは素早く魔導陣を形成、水の矢が放つ。駆けるままに豹の背が膨張し、表皮を突き破るようにして炎が噴出。炎は巨大な人の手となり、迫り来る水の矢を振り払った。灼熱の炎に一瞬にして水は蒸発し、蒸気を引き千切り豹が駆ける。

 豹がランタンに飛び込む瞬間、その体が崩壊し、炎の幕が堰を切って流れ込むようにランタンへと傾れていく。

 前方に引き出されたマントが翻り、迫り来る炎を包み込むように受け止めた。燃え盛る炎を包んだマントがマント自体を包み込み、最後には何も残らず消え失せる。

 後ろへ引き下がりながらランタンが指を鳴らすと、どこからともなく現れた黒いコウモリが道化師の背中に群がり、いつの間にかマントとなっていた。

「ジャック=O=ランタンの舞台作法第三十一条三項、身だしなみは常に完璧でなければならない」

 謳うように呟いたランタンの背後にクロームが肉薄、空間自体を切り裂かんほどに冴え冴えとした一撃を、宙返りの動作だけで避ける。

 着地点に迫ったキュリーを見ることなく、空中で手だけを下に向け、発動した火の鞭が撓りキュリーを退けた。

「ジャック=O=ランタンの舞台作法第八十四条一項。物語では数が多い奴ほど負ける」

 剣を納めたクロームの両手にそれぞれ巨大な包丁のような大剣と短剣が顕現。着地したばかりのランタンへと斬りかかる。

 ランタンの指先が剣を受け、次ぐ短剣での小さな払いは身を横にして躱す。即座にクロームの懐に潜り込み肘が腹部へと叩き込まれる。

「ジャック=O=ランタンの舞台作法第十四条三項。強そうな武器を持っている者もまず負ける」

「能書きを垂れ流している場合かっ!」

 腹部に痛みに顔を歪めながらもクロームは怯まない。大剣を引いてからの即座の横薙ぎ。ランタンは足を畳むようにして飛び上がり、大剣の横っ面へ猫のようにしなやかな動きで着地する。飛びかかるキュリーを着地と同時に蹴り飛ばし、ランタンは顎に指をかけて笑う。

 前面に障壁を展開し受け止めたキュリーは床を滑るように着地し、何事か呟く。ぼんやりとした光を放ち続ける龍石を撫でたかと思うと、撫でられたパネルの光が強まり、伝播していくように次々パネルが光を増していく。光が伸びる先には、すでにクロームと打ち合っているランタンの姿。

 光り輝いた龍石が変化し、三つの刃となって迫る。一つ目の刃を避け、続く二つ目を容易く掴み取り、三つ目を叩き落とした。

 冴え冴えとした衝突音。

「どうしたのだ、魔女よ! 小手先だけの手品で私は倒せんぞっ!」

 手に取った刀身から柄まで龍石でできた剣でクロームの剣を弾き返す。ランタンの手元で剣がくるりと回転し、逆手に持った剣がクロームの顔面へ振るわれる。

 割り込んだキュリーの掲げた掌に障壁が展開。ランタンの剣を弾く。強引に後ろへ下げられたクロームが数歩後ろへとよろめいた。

「ジャック=O=ランタンの舞台作法第十六条一項。正義も悪もルールばかりで大変だ」

 龍石製の剣を放り投げ、ランタンが指を鳴らす。

 一瞬にして、大聖堂の床全体を覆い尽くすほど巨大な魔導陣が構築される。

 俺の足下にまでかかるほどの大きさ。これを即座に構築できるランタンの思考速度よりも、一体こんなものから何がひり出されるのかという恐怖感に胃がふわっと浮いた気がした。

「下がれっ!」

 危機感を抱き、キュリーが叫ぶ。クロームは素早く飛び下がり、俺の元へ駆け込んだキュリーは、気を失っているセシウやリーシャも覆う結界を構築する。

 俺に隣り合うようにしゃがみ込んだキュリーの横顔。そんなに日は経っていないというのに久々のように思えてならない。

 今まで見たこともない切迫した表情。穏やかで気楽そうな笑みはなく、鋭くランタンを見据えている。見慣れない顔にも思えた。

 大聖堂全体が揺れる。魔導陣が金色の光を放つ。

 火、水、風、土、またはそれらに当てはまらない無色の魔術。どれにも当てはまらない魔導陣の光。

「エーテルを集約しているのか……!」

「だろうな……」

 本来、人が扱うことのできない第六魔術。この世全ての根源たる元素を用いた、万物全ての祖たる元素——エーテルを用いた超常の力。

 クロームの【旧き剣】同様、一般的に魔法と呼ばれる神の御業。

 巨大な魔導陣の中心から何かが沸き立つ。

 エーテルによって精製されていくのは後方へと生え伸びる二つの角。爬虫類を思わせる、しかしそれよりも遙かに硬質な鱗。金色の巨大な眼球には縦長の瞳孔。

 長く伸びた口には大理石めいた牙が並ぶ。

 現れたのは二つの龍の頭。左の龍の額に載り、ランタンは優雅に俺たちを見下ろしている。

 木の幹のように太い長大な首が続き、それらさらに構築された一つの体へと繋がった。

 龍の双頭が大聖堂の天井を突き破り、轟音を立てて巨大な瓦礫が俺たちへ降り注ぐ。

 キュリーが空へ手を翳すと、無数の瓦礫全ての表面に文字のような何かが浮かび上がり、鎖のように絡みついた。落下していく大質量が連なる文字に縛り上げられ、時が止まったかのように停止する。

 体中に巨大な黄金と宝石の装飾品を巻き付けた龍の咆哮が衝撃となって結界を叩く。

「おい、結界やべぇんじゃねぇのか!」

「見ての通りとしか言い様がないな。伝説級の古の龍の咆哮だ。結界が無力化されていないだけでも私は褒められるべきさ」

 苦々しくキュリーが答える。

「あんなものを相手取るなら、こちらも伝説級の何かがなければ話にならないからな」

「つまりマジでやべぇってことじゃねぇのか?」

「今のままではな」

 額に汗を浮かべながら、苦しげでありながらキュリーは俺に歯を見せて笑いかけた。

 巨大な翼が空を叩く。龍の巨体が常時展開されている風の魔術によって浮遊する。

 奇妙な鳴き声。キュリーの使役する巨大な黒鳥が旋回するように大聖堂の周りを飛び、龍へと突進していく。あれだけ巨大に見えた鳥が、龍と比較すればごく普通のサイズに見えてしまう。

 龍が唸り、金色の目に宿った光が瞬いたと思えば、鳥の体が内側から破裂し、肉片と血飛沫が雨や霰のように飛び散った。

「ジャック=O=ランタンの舞台作法第百八条。結末に悩んだら、全て消し飛ばせ。まあ、舞台作法など先程考えたデマカセだがな」

 双頭の口腔に光が灯る。白い炎が歯の隙間から漏れ溢れていた。

 血の気が引く。

 どう見たってやばいのが来る。

 どんな命知らずだって、本能で察知するだろう。

 隣のキュリーは先程から詠唱を続け、何かを準備している。

「さあ、ど派手なフィナーレといこうではないか!」

 龍の口腔から炎が放たれる。衝撃に龍の膨大な質量さえもが後ろへと下がるほどの衝撃。

 キュリーの詠唱が完了し、巨大な魔導陣が大聖堂の上部全体を覆うように展開される。続いて六つの巨大な剣が、切っ先を中心に向けるようにして同心円状に展開され、結界と重なり合う。それは剣を花片とした鉄が大輪の花を咲かせたようでさえあった。

 展開された八角の魔導陣の中央にある閉ざされた目が見開かれ、二重の盾が龍の放った白熱の息吹を受け止める。

 結界を挟んだ向こう側にいる俺たちに叩きつけられる重圧。視界全体が真昼のように明るくなる。

 突然の明暗差に目が膨張するかのように痛み、いっそ増していく光に俺たちの色が陰影が漂白されていく。

 炎の唸りが、拮抗する結界の軋みが、大聖堂を埋め尽くす。熱風に髪が翻り、息をするだけで喉が焼ける。

 空は炎の海となり、夜空さえも焦げていく。

 眩すぎる光、結界に、剣に亀裂が走った。

 罅から入り込んだ炎が液体のように滴り落ち、どんな炎に焼かれても決して溶けることのないはずの龍石が蒸気を立てる。

 そして俺たちの視界は圧倒的な白に埋め尽くされた。

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