31 長い夜 ①
読んでいただき、ありがとうございます!
今回のお話は途中で視点変更があります。
シルコットに礼を言ったあと、招待客の人たちに茶番に付き合ってもらったことを詫びると、お兄様が国政に携わった理由がよくわかったと言われた。
父は国王の座にふさわしくなかった。お祖父様が早くに亡くなったことで、未熟なまま王位を継いだのかもしれないけれど、約二十年経っても自分の過ちに気づけていないのだからどうしようもない。
後ほど場所を変えて食事会を開く予定だが、シルコットや招待客には、王城内にある客室に案内してもらった。
そのため、大広間には私とイディス様、お兄様とナナだけになった。
「ダリア、お疲れ様」
「正確にはまだ終わっていません。それに、ゼラス卿のこともありますし」
声をかけてくれたイディス様にそう答えたあと、微笑んでみせる。
「焦らずに一つずつ片付けていくつもりです」
「そうだね。ゼラス卿については、ダリアはもう手を放しても良い案件な気がするけど、君が引導を渡したいんだろう?」
ゼラス卿は未だに私に執着している。まだ、私の心が彼に戻ると思っているのだから驚きよね。
自分がされたら許せるのかしら。彼のことだから、反対の立場なら激怒するはずだわ。それがわからないということは、相手の立場になって考えられない人なんでしょうね。
「会って話さないと納得してもらえないでしょうし、彼には返したいものがあるんです」
「返したいもの?」
「はい。私には必要ないものです」
「……そうか。二人では会わないよね?」
「もちろんです!」
無理矢理、自分のものにしようとしてくる可能性のある人と二人きりなんて絶対に無理だ。
ゼラス卿が二人きりでなければ会わないと言うのなら、こちらは一生会わなくても良い。
「どうしても会うのですか? あんな人、ずっと苦しませておいたら良いんです」
不服そうなナナに苦笑する。
「優しさで会うんじゃないわ。私の自己満足よ」
「それなら良いのですけれど、逆恨みされませんか?」
「父のような人間ではないわ」
私が彼を好きになったのは、優しい人だったから。
配偶者か恋人に暴力をふるわれていた人が『優しいところもあるんです』って言っちゃうような感じと思われてしまうけれど、それに似た感情なのだろうか。
だけど、私はよりを戻したいわけじゃない。
自分の手でケリをつけたい。そうすることで、自分が強くなれた気がするから。
「自分の納得がいくようにすればいい。他人の意見を聞いているだけでは、あとで悔いが残るだけだからな」
お兄様が優しい笑みを浮かべて、背中を押してくれた。
私の人生なんだもの。多少の苦労や我慢は必要かもしれないけど、最終的には自分が笑っていられるものにしたい。
「ナナ、心配してくれているのにごめんね」
「いえ。関係を断ち切るためには、彼の場合は直接伝えたほうが良いとも思いました」
「ありがとう。ゼラス卿と話す時はナナに一緒にいてもらおうかしら」
「お任せください。シルバートレイでダリア様をお守りします!」
「シルバートレイ?」
シルバートレイって飲み物や食べ物を運んでくる時にメイドが使うものよね。
どうして、シルバートレイが出てくるのかしら。
「ロフェス王国では流行っているそうだ」
聞き返した私に、お兄様が苦笑して答えた。
「よくわからないけれど、無理はしないでね」
「承知いたしました」
話を終えて、王城に戻って少しした頃、もう夜になるというのに父たちが、船頭や航海士たちの反対を押し切って、船を出港させたという連絡が入ったのだった。
◇◆◇◆◇◆
(ラムラside)
イディス様に私の思いは伝わらなかった。彼は私の初恋の相手だ。こんなにも思っているのに、どうして振り向いてくれないの。
ロフェス王国の港に着き、出港を待っている間、私は船の客室でずっと泣いていた。
私は私なりに国に尽くしたつもりだった。だけど、私だって人間だし幸せになりたい。
みんな、自分の幸せを優先するがために誰かを傷つけているんじゃないの? それが私にとってダリアだっただけなのに……。
ダリアだって私を傷つけているのに、どうして許されるの?
泣き続けていたら、喉が渇いてきた。
侍女もメイドも誰一人いなくなったから、何か飲もうと思ったら自分で調達しなければならない。
椅子から立ち上がった時、船が動き出した。揺れるので通路の壁に手を当てて歩いていくと、不機嫌そうなお父様と出くわした。
「お父様……」
いつもならば優しい笑顔を向けてくれる。それなのに今は違った。
私を睨みつけただけで、何も言わずに歩き去っていく。
……どうしてこんなことになってしまったの?
乗組員に飲み物がほしいと言うと、突然の出港だったので、飲食物は積み込まれてないと言われた。それだけでなく、護衛の兵士もいないそうだ。
ロフェス王国とユーザス王国の間の海域は夜は海賊が出ることで有名だ。危険なので、兵士たちは明日の朝の出港にしようと訴えたけれど、お父様が聞き入れず、兵士を乗せないまま出港させてしまったそうだ。
海賊というと、お父様が手を組もうとした人たちがいたわよね。その人たちは、お父様のことを恨んでいないのかしら。
そんな疑問が頭に浮かんだ。
乗組員が分けてくれた水で、喉を潤したあと、私は泣くことはやめて眠りにつくことにした。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
「うわあああっ!」
お父様の悲鳴が聞こえて私は、ベッドから飛び起きた。
「やめろ! なんなんだ!」
「大人しくしろ!」
言い争うが声が聞こえてきた。恐る恐る扉に近づき、覗き窓から廊下を確認する。
その瞬間、私の視界に入ってきたのは、人相の悪い男たちの姿だった。




