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38時限目 少年、殲滅する

放課後


エルトは一度家に戻り、スオンを連れて、再び学園の正門に来た


「おーい、エルト。こっちだぞ!」

大きく手を振るイアン


その隣には


「久しぶりだな、エルト君」


現ベゲット男爵家当主 ロアン=フェン=ベゲットも来ていた


「お久しぶりです、ロアンさん。お忙しいところすみません」

「構わないよ。ところで、君の隣の女の子は?」


と、その()()()はエルトたちと距離を置いて変身した


「な、ななな…、ど、ドラゴン!?」

「僕の相棒のスオンです」


「はじめまして、スオンです。以後、お見知りおきを」


スオンはまた人間の姿に変身した


「驚いたな…、噂で耳にしていたんだが、まさか本当に引き連れているとは…」

「驚かしてしまって、すみません」


ロアンはすぐに冷静さを取り戻す


「いやいや、いいよ。で、本題に入ろうか?イアンからうちが手放すことになった家を見たいと聞いたんだが、本当か?」

「はい、ちょっとした事情で家を探してまして…」

「そうか。ちなみにだが、どんな家なのかは息子から聞いているか?」

「いえ、特には。そこまで聞かなかった僕も悪いかなと…」


ロアンは少し笑った


「君は息子のせいにはなるべくしたくないか…。お人よしすぎるというか、誠実すぎるというか…」


男爵は軽く咳払い


「で、どんな家なのか簡単に言うと、私が趣味として集めている剣や弓などが保管している倉庫代わりみたいな家だ。だが、武器集めに専念しすぎたせいか男爵としての仕事を疎かにしてしまってね…。当然、家内や息子たちからこっぴどく叱られたよ…。武器集めをするのはやめて、その家を取り壊そうと決めたんだが、イアンが残すべきだと言い張っててね…、ちょっと困ってるんだ」

「父さん、取り壊すにも新しく家を建てるにも費用が掛かりますし、何より、男爵家の財力の余裕はないんですよね?」

「だからって、そのまま残すわけにもいかないし、何ならお前の貯蓄から何割か出してもらおうか?」

「あんたって人は…」


前にもふれたとおり、男爵家の家計は火の車状態


しかし、目の前の二人は口喧嘩


「二人とも、落ち着いてください」


エルトは冷静だった


「言い争っても何もいいことはないでしょ?とにかく、その家を見たいので案内していただけますか?」

「わ、分かった…。お恥ずかしいところを見せてしまって、申し訳ない…」


一行はその家へと向かった




一方、放課後の教室に残っていた姫たちは


「なあ、エルトと一緒に行かんでよかったんか?」


珍しく、フィルラーが不安そうな顔でエディールに訊いた


「これはエルト自身の問題よ。私たちで解決することじゃないわ」

「そやけど、その家って決めなかったらどないするつもりなん?あんたら、エルトに協力するってはっきり言うたよな?」

「うっ…、それは…」

「それやったら、その保険も必要とちゃうんか?」


フィルラーの正論にエディールは何も言い返せなかった


「落ち着けよ、フィルラー。とにかく決めるのはあいつだ。あたしがエルトの立場だったら、みんなに頼らず自分で探そうとするけどな。多分、あいつも同じだと思うぜ」

「それもそうやな…。堪忍な、エディール」


その場の不穏な空気は何とか収まった



日が沈むころ


エルト一行は目的の家に着いた


だが、その家は壁や屋根がボロボロの状態だった


しかし、男爵の最初の一言は


「おかしい…、最後に来たのは一昨日で、その時はきれいだったはずだ…。この2日でこんなに様変わりするなんてありえない…」


どうも腑に落ちない様子だった


「スオン、気付いた?」

「うん、家の中に誰かいる」

「それも、複数にね」


親子は二人の会話に驚いていた


自分たちは他人の魔力を感知できない


正確には、感知する訓練をほとんどしてこなかった


スオンはさらに話を続ける


「この感じ、()()()()()()()()()()()()

「考えられるとすれば一つだな」


二人は正体が何なのか気付いているようだが


ロアンは分からないでいた

「ま、待ってくれ…。君たちだけで話を進められてもこちらが付いていけない。だから、あの家に誰がいるのか教えてくれ!」


エルトは間をおいて


「男爵、あの家に潜んでいるのは生きた屍(アンデッド)です」

「あ、生きた屍(アンデッド)!?」


生きた屍(アンデッド)


その名の通り、死体が不自然な状態で生き返ったもの


腐敗臭などが酷く、周囲の草木を枯らすほどだ


その家がボロボロなのもアンデッドの仕業なのだ


「おい、アンデッドって確か闇の回復(ダークネス・ヒール)で死体を生き返らせるんだったよな…?」

「その通りです。しかし、その魔法の使用は禁じられているはずです。しかも、このタイミングでというのが気になりますが、まずは、アンデッドを殲滅しないと」


と、アンデッドの軍勢がドアを蹴破り、エルトたちに襲ってきた

アンデッドは日光に弱く、日が沈んだ頃になると活発になる


「「ヒィィィイイイイィイ!!!???」」


親子二人はすでに怯えていた


エルトとスオンは戦闘態勢に入った


「行くぞ!」

「うん!」


二手に分かれて、エルトはデュアル・ランスで、スオンはドラゴンの姿でアンデッドの首を次々と刎ねていく


「す、すげぇ…」

「あの二人、怖くないのか…?」


親子二人はただ茫然と見ていた


その時


ヒュンとエルトに向かって何かが飛んできた


少年は瞬時によける


木の幹に刺さったのは矢


まさか


エルトは矢を放った相手を探す


ドアの前に黄金の弓を持ったアンデッドがいた


「そ、その弓は、私が最初に手に入れた伝説の弓矢だぞ!!」


ロアンは必死に叫んでいた


しかし、その弓もボロボロ状態

あと1、2回放てるくらいだとエルトは読んだ


アンデッドの数も減っていき、残るは弓を持ったアンデッドまで追い込んだ


だが、予想外な展開が


ドアの奥から十数のアンデッドが出てきて、そのアンデッドを囲むように防御態勢に入ったのだ


「統率のとれたアンデッドがいるなんて聞いたことがない…」

「うん…」


エルトとスオンも闇の回復(ダークネス・ヒール)で生き返ったアンデッドは、ただ襲うだけのアンデッドだと学んだ


しかし、あの弓を持ったアンデッドはほかのアンデッドを従えて行動している


もしかして、闇の回復(ダークネス・ヒール)を超える魔法が存在するのか?


スオンは魔法を使おうとしても、アンデッドたちが家の真ん前にいるため、下手をすれば家を壊してしまう可能性が高い


「エルト、どうすればいい?」

「大丈夫、僕に任せて」


少年は一度息を深く吸い込み、呼吸を整える


構える姿勢を見せるが、数秒経っても()()()()()


スオンはエルトの持つデュアル・ランスを見る


さっきとは違って大量の血がついていた


「まさか…」


アンデッドの方を見ると、あの()()を含めた全ての首がゆっくりとずり落ちていく


「い、いつの間に…」


そう、先ほどのエルトの動きは()()なのだ


魔力がほぼないエルトが、複数の敵を正確に、一瞬で仕留めることなんて可能なのか?


とはいえ、まだ油断はできない


エルトはドアをゆっくりと開き中を覗く


誰もいない、気配も感じない


殲滅したと認識した


「エルトは強いな…」


イアンは先ほどのエルトの戦いを見て、自分はこれほど心と体が強い彼をいじめていたなんてと思うと自分が弱いだけだと自責の念に駆られた



ランタンで明かりをつけると


男爵がコレクションにしていた武器はほとんどがボロボロの状態だった


「なんてことだ…、私が大事に集めてきた…、こ、コレクションが…」


ロアンはその場で跪き、泣いた

どうも、茂美坂 時治です

随時更新します

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