37時限目 少年、姫たちに相談する
「え?マスター、いきなりどうしたの?」
オレイアスの発言に戸惑うエルト
「お主、ずっとこの家で過ごせると思っておるのか?思っているなら、大間違いじゃ!妾だっていつまで生きられるか分からぬ。それはお主も同じことじゃ」
「それはそうかもしれないけど…、こんな突然に…」
「驚くのも無理はないかの。じゃが、お主は料理や家事など生きていくために必要なことをこの家で学んだではないか」
「えっと…」
エルトはまだ混乱している様子だ
「つまり、別々に暮らすのはどうかという話じゃ」
「それって…」
「ハァ…、まだ分からぬか?」
呆れるオレイアス
「人はいずれ自立することになる。妾とて、お主や精霊に出会うまでずっと一人で生きてきたからの。元々、妾とお主は血が繋がっていない赤の他人じゃ。このままずっとお主を預かるというのもおかしな話じゃ」
「そうだった…、僕とマスターは…」
「一緒に暮らしてきて家族のように思えたか。不思議じゃの。が、これが現実じゃ。お主とて、そう思ったんじゃないか?」
エルトは本当の家族を失い、人一倍悲しみや苦しみを抱えながら生きている
一度は自殺を試みるも、オレイアスに拾われ、命が救われた
彼は生きるという大切さ、そして何より、命は何物にも代えがたい一番大切な存在だと学んだ
ずっとオレイアスと暮らしてきて、そんな思いが少しずつ薄れていったのかもしれない
彼女の言葉で自分は甘えて生きてきただけと分かった
でも、ずっと甘えるというのも変だ
何事にも限度というものがある
「うん…、マスターの言うとおりだね…。あ、でも…」
「ん?何か問題でもあったかの?」
「王都で暮らすのはいいけど、家賃とかお金の事も絡んでくるし…。これ以上、マスターに迷惑をかけたくないし…」
「お主はどうするつもりなんじゃ?」
「学業に励みつつ、どこかでアルバイトしてお金をためてそれで家賃とかを払えたら…」
「いい心構えじゃが、それで十分に生きていけるとは到底思えんぞ」
「うっ…」
と、オレイアスは大きく膨らんだ複数の袋を取り出す
「それは…?」
「お主がずっと貯めてきた金じゃ」
「え?僕貯めた記憶ないけど…」
「何を言っとる?お主が市場で卸してきて、その時に受け取った金じゃろうが!」
「あ、ああ…」
そう、エルトは7歳の時から畑仕事を手伝い始めた
そうこうしているうちに、自分だけの野菜を作ろうを決心し、独自の栽培を始めた
最初は上手くいかなかったが、徐々にコツをつかみ、1年足らずでほとんどの野菜の栽培に成功した
これにはオレイアスも驚いていた
エルトは市場で受け取った金をオレイアスに預けていたが、彼女はエルトのためにと思い何も使わず貯めていたのだ
「こんなに貯まってたんだ…」
袋の中身を見てエルトは唖然とした
「ちなみに、どれくらいの額…?」
「ざっと計算して金貨1000枚分かの」
「金貨1000枚分!!!???」
あまりの額に驚くしかなかった
10億円相当の金を約8年間貯め続けてきた結果だ
エルトは知らず知らずのうちに金持ちになっていた
「……」
エルトはあんぐりとしたまま動かなかった
その様子を見たオレイアスは彼が落ち着くまで何も言わなかった
数分後、エルトは冷静になった
「まだ夢でも見てる気分だよ…」
頬とつねり、痛いと感じる
「でも、これだけの額僕が管理するのも大変だな…」
「じゃあ、私もエルトと一緒に暮らす~♪」
ひょこッと後ろからスオンが出てきた
エルトは驚いた
「スオン!?いつからそこに!?」
「最初からずーっとドアの前にいたよ♪いつ私の名前を呼んでくれるのかなって思ってたけど全然呼んでくれなかったから、私の事なんか眼中になかったってことだよね?」
どうして相棒の存在に気付かなかった?
「ごめん、全然気づかなかった…」
「ま、エルトはどうするんだろうなって気になってたから許すよ」
スオンは袋の中身を見て
「それにしても、これだけの金額を貯めたなんてすごいね。それだけオレイアスさんはエルトの事を大事に思ってるんだね」
「こ、これ…、そういう事をストレートに言うでない!」
オレイアスはちょっとだけ顔を赤くした
褒められるのが苦手なんだと二人は思った
「スオンがいれば心強いよ」
「住む場所はどうする?」
「そうだな…」
「お姫様に相談するってのはどう?」
「エディール様とラディール様に?」
「だって、あの二人ならエルトのために全力で協力しそうな姿が思い浮かぶもん」
エルトは否定しなかった
事実、彼の護衛を提案したのだってその二人なのだ
「ありがとう、スオン。明日学園で相談してみるよ」
☆
翌日の昼休み
エルトは姫たちと食堂で昼食をとっていた
彼はすぐに相談の内容とその理由を言った
「なるほどね、事情は分かったわ」
「そういう事でしたら、協力しますよ」
バルムス姉妹は快諾した
「それで、エルトはどういう家を探してるのかしら?」
「まず、スオンと住むことを前提に―――」
と、姫たちは急に固まった
「えっと…、どうされました?」
「あなた、スオンと住むの?」
「ええ、それが何か?」
「全裸でエルトの足元で寝ていたあのスオンと住むの!?」
エディールは思わず大声をあげてしまう
当然、周囲の視線も姫たちに集中した
「い、今…、全裸とか言わなかったか?」
「聞こえた、そのスオンって子、エルトといかがわしいことしたのかな…?」
ひそひそ話があちらこちらで聞こえる
「ご、ごめんなさい…、エルト…」
エディールは顔を赤くして謝る
このままでは話に尾ひれがついてややこしくなってしまう
と、ラディールが立ち上がり
「皆さん、誤解のないように言いますが、そのスオンという子はドラゴンです。そして、そのドラゴンは人間の女性の姿にも変身できます。ただ、その時は人間に変身したときに誤って全裸になってしまったというだけです」
ああ、そういう事か
皆は納得してくれたようだった
しかし
「ラディール様、それって、言い換えるとエルトと一緒に寝たということにもなりませんか?」
ある生徒の発言で、状況は一変した
「えっと…それは…」
どう言葉を紡げばいいのか戸惑うラディール
その様子から
「やっぱり、エルトと寝たんですね」
何の返事もない、というよりかは微動だにしない
「キャアア!!ラディール様ったら、大胆!!」
「ちょっ…!?」
と、女子たちがラディールに近寄り
「ラディール様、エルトと何をしたんですか?」
「もしかして、夜のアレとか?」
「正直に言ってくださってもいいんですよ?」
逆にラディールの話に尾ひれがついてしまった
「ちょっ…、エルト!お姉さま!助けてください!!」
そういわれましても…
自分たちがラディールを助ければ今度はこっちが質問攻めに遭わされる
二人は今の状況を冷静に分析していた
「まったく、何をしてらっしゃるのやら…」
「ホントですよ…。特にエルト、お前羨ましすぎるぞ…」
聞き覚えのある男の声
「イアンとクルム?」
二人は、以前よりもしおらしくなっていた
あの事件以降、二人とその両親はエルトに謝罪した
その後、両親にこっぴどく叱られ学園の休園に加え、1週間の社会奉仕活動を言い渡された
以降、エルトはおろか姫たちに話すこともなかったのだ
「お久しぶりです、姫様。俺たちもちょうど皆さんの近くにいたので話は聞かせてもらいましたよ。とりあえず、場所を変えましょうか?」
イアンはエルトたちと中庭へ向かった
ラディールを除いて
☆
「それで、皆さんはエルトが住む家の条件に付いて話し合っていたんですよね?」
イアンが訊く
「ええ…、途中で私が余計なことを言ってしまったんだけど…」
「それはいいとして、エルトはどんな家を探してるんだ?」
皆は興味津々だが
「その前に、二人が話しかけてきたってことは、貴族の事ですから、あまり使われなくなった家があるとか?」
「ははっ、お見通しだったか…。エルトの言う通り、男爵家が持っている別荘を一軒手放すことになったんだ。できれば残した方がいいってのが俺の意見なんだけど、親父は手放したらすぐに解体すべきだと言ってるんだ」
「でも、それだと解体費用もかなり掛かるんじゃないかしら?」
「そうなんです…。解体するにも、その工事にかかわる人たちを雇わないといけないし、費用も出さないとだしと、貴族と言っても金の使い道には限度がありますからね…」
と本音を暴露するイアン
「なるほど、男爵家の状況をなるべく逼迫させないように、エルトにその家を譲ろうとしているわけね…」
「ウグッ…、さらっと言わないでほしいです…」
「でも、僕も興味ありますし、放課後、その家を見せていただいても?」
エルトも本音で伝えた
「本当か!?じゃあ、親父にも話をつけておくから!」
あ、スオンも連れてきた方がいいかな?
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します




