エデンの国で! 決死戦闘開始!
「ムサシ! 起きてください! 来ます!」
エバの声で先ほどまでぼんやりとしていた頭が冴えてきた。
そして、起きあがろうと、地面に手をつけた時、大きな影が、俺の下に映し出される。
「クソ!」
まずい! そう思い、俺は力いっぱい横に跳ねた。着地の瞬間、枝を下敷きにしたのか、肺の中の空気が外へ押し出される。
ついさっき俺のいた場所に、どしゃっというそれなりに重量のある音が聞こえ、視線を向けると、そこにはどう猛な牙をむき出しにしたヴルガーが俺を睨みつけていた。
黒い艶やかな体毛と、血走った黄色い眼光が俺を射ぬいた。それはまさに、捕食者が獲物に向ける視線。肉を食らい、己の食欲を満たすことだけを目的とした単純で、狂暴な意思。
ヴルガーは、口からは涎をたらし、今にでもとびかかってきそうな雰囲気だ。
そして、まだ呼吸も整っていない内に、その雰囲気は現実のものとなり、目の前にいるヴルガーは、鋭い爪をたてて俺に向かって跳躍した。
一瞬だった。
奴が、ほんの少し屈んだと思ったら、俺の視界には白く尖った爪と黒い前足で埋め尽くされていた。
死ぬ……、そう思ったとき。突然、視界からヴルガーの姿が消え、かわりに銀のスカートをひらりと踊らせるエバが見えた。
どうやら、エバがヴルガーを突き飛ばしたらしい。
ぎゃぅっとうめき声が聞こえ、ヴルガーは地面にたたきつけられていた。
「ムサシ! 立ってください! 私がひきつけますから、その間に逃げて!」
エバは、数発ボーガンから弾丸を打ち出した。
銃身からは、発射のたびに白い煙が沸き立ち、空に昇っていく。
エバの声に、俺の固まった体が再び動き出した。手も足も感覚がなくて、呼吸さえまともにできているのかわからない。
俺は、腰が抜け、はいずりながらヴルガーたちとは逆方向に移動した。そして、倒れていた木の後ろに隠れて、震える足を力いっぱい握りしめる。
「ひ! はぁはぁはぁはっ! はぁはぁ! クソ!」
クソ! クソクソクソォ! こええ。こええよクソ!
俺は心も体も恐怖に蝕まれながら、倒木の陰から頭をだして、エバの様子を伺った。
エバは、最初の発砲で一頭を仕留めていたようだが、二頭のヴルガーの俊敏な動きについていけず、それ以降は、決定打を撃ち込めていないようだ。
跳ね回るように動き、常に射線から外れるような移動をしている。あいつらは、エバの武器がどんなものなのか理解しているようだ。
だが、ヴルガーもまた不用意に近づこうとはせず、じりじりとエバとの距離を詰めている。
このままじゃ、エバがやられるのは、時間の問題だ……。
「クソ! クソ! どうすればいい! どうすりゃいいんだよ!? 考えろ、考えろ!」
こうして、悩んでいる間にも、エバの命はどんどん追い詰められていく。
力がない自分を呪った。怯える自分が小さく見えた。野生の暴力を感じた。
ただただ、焦りと恐怖がないまぜになり、俺は、ざらついた黒い土を握りしめることしかできなかった。
「熱ッ!」
俺の手に、何かが触れて、焼けるような痛みが走る。
見るとそこには、先ほど有毒だと説明された黄色い水が、地面のくぼみに溜まっていた。
どうやら、土を握ったときに、流れてきたらしい。
「はぁはぁ。そうだ、これを使えば!」
俺は、腰に巻いたベルトから、カートリッジを2つ取り出して、それぞれの蓋を開いた。
そして、中に黄色い液体を慎重に入れて、剣の峰に取り付ける。
カシィンと、軽快な音を立て、カートリッジは取り付けられた。中の液体に、いくつかの気泡が浮かび、剣の穴から黄色い液体が数的垂れ始める。
冷静に考えれば、これで特段有利になるわけじゃない。けれど、武器を強化できたことが俺に再び立ち上がる勇気をくれた。
それを確認してから、俺は、まだ力の入らない足を無理やり立たせて、エバのもとへと駆け出した。
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