第6話「記憶を失っているからって、何やっても許されると思うなよ」
ありがたくも名前を付けてくれるというアリス。
しかし、彼女の顔を見た瞬間から、なぜか背中につたう冷や汗が止まらない。
記憶はバッサリと抜け落ちてる俺だが。こんなこと、はじめてなんじゃないかと思う。
いやいやいやいや。顔を見ただけで、嫌な予感なんて、命の恩人
――ましてや、名前を付けてくれるアリスに失礼だろ。
俺よ。見てみろよ。あのアリスの笑顔。
そして碧い瞳もキラッキラしてやがる。月並みな表現だが、まるで宝石のようだ。
あんないい顔のアリスに嫌な予感するとかどうかしてるよなハッハッハッハー。
「やめておいたほうが――」と歯切れの悪いもう一人の俺を「うるさい! 俺は幼女に名づけ親になってもらうんだ!!」と一蹴し、アリスのほうに向き直る。
「それで? どういう名前を付けてくれるんだ?」
邪念 (?)を捨てた俺はニコニコとアリスに問いかけた。
まあ、ここまで見てくれている皆さんはお察しだと思うが、俺はこの選択を後悔することとなる(後日談)。
「……よし。いいわ! 決めた! あなたの名前は『ヤマダ』よ! 」
ビシッ、と腰に手を当てて人差し指を立てるアリス。
ドヤ顔も相まって、命の恩人とか関係なく、無性に殴りたくなった。
そして、付けられた名前はヤマダ。
…………うそん。
「いいかい? アリス。俺はね? 記憶喪失だけど別に常識とか言語を忘れているわけではないんだ。分かるね?」
教師が教え子に噛んで含めるようにして言い聞かせる。
「そんなこと分かってるわよ」
「じゃあなんで『ヤマダ』にしたのかな? ん?」
にっこりと笑いかけてはいるが、多分、いま自分の目は据わっているであろう。
「え? そんなに嫌?」
少し瞳をうるうるとさせるアリス。
「に、似合うかなって思ってぇ。うぅ……うぇ……〜」
からの泣きそうなアリス。
うん! とりあえず悪意がないことだけは伝わった。でも、それが一番タチが悪い!!
別に「ヤマダ」が気に入らない訳では無いのだ。ただ、姓と名があるところを全部含めて「ヤマダ」だと彼女は言い張るのだ。
それどころか、姓と名の話をすると「じゃあ『ヤマダ・ヤマダ』か『ヤ・マダ』どっちがいい?」と天使(悪魔)のような笑顔で聞いてくる。
お手上げである。
そして全てをひっくるめて出た結論が
「『ヤマダ』のみでお願いします!」
だった。
「そう。気に入ってくれたのねっ! 私も自信があったのよぉ〜案外チョロいのねヤマダ」
と、ホクホク顔である。
「え?今、最後になんかいった?」
俺がそう聞き返すとアリスは、え?何も言ってないよ?と言わんばかりの天使のような笑顔を作り
「名前、付けてあげたんだから。これからよろしくねっ。ヤマダ!」
と、俺に言った。
…………俺、もう、つかれたよ。
「おう! よろしくなっ!!!」
「急にテンション高いわね……」
もう、ヤブレカブレである。
俺はこの名前(十字架)を背負って生きていくと決めました!!!