第5話「ハロワ・・・・・・懐かしい響きだ」
ゼペルの家からランプを持ちアリスの待っているところまで急いだ。
「アリス。大丈夫か」
ランプという灯りを得たことでアリスは落ち着きを取り戻したようだ。
しかし、アリスには光の加護のスキルがあったはずだ。
「アリス、スキルで灯りを作り出せばよかったんじゃないか?」
「できないのよ……。スキルは使用者の精神状態によって効力が大きく左右されるわ」
「つまり、暗闇に対する恐怖からアリスはスキルを行使できなかった?」
「そうなのよ……!ってそうじゃなーい!た、たまたまなんだから!さっきの戦闘で疲れちゃったのよ!」
ゼペルをタコ殴りにしていたアリスを思い出す。
あれ、途中からノリノリで殴っていたような気もする。
まあアリス本人がそういうなら、そうなんだろう。アリスの中ではな。
「そういえば、この世界でああいうことって日常茶飯事なのか?」
「ああいうこと?」
「いや、ほら。人のよさそうなおじいさんが急に俺を殺そうとしてきたじゃん」
アリスは俺の言葉を聞いて首を傾げた。
「おじいさんって……あれは悪鬼よ。ギルドに討伐依頼のクエストが提示されていたのよ」
「ギルド?クエスト?」
「そうね。記憶をなくしてしまっているんだものね。分からなくて当然ね。今この世界は魔王に支配されているわ」
魔王という聞きなれない単語に俺は唾を飲み込む。
「魔王?」
「そう、魔王。魔族の王。少し昔話をする必要がありそうね」
――かつて
いにしえよりうまれし やみがせかいをつつみしとき
えらばれしものあらわれり
そのものりゅうと ちからをあわせ
おおいなるやみを
ほろぼさんとす――
「これはこの世界の有名なおとぎ話ね。つまり、魔王が現れたから勇者がそれを倒すって話よ」
「ずいぶん簡単にまとめてくれたな。なんとなくニュアンスは伝わったよ。ただ、その昔話によると魔王は勇者が倒したんじゃないのか?」
「ええ、倒したと言われているわ」
「じゃあなんで今魔王に支配されてるの?」
「魔王は何度でも蘇るのよ」
「へぇ。じゃあ倒しても倒しても何度も蘇って・・・・・・ってそれじゃあ倒す意味ないじゃないか!」
「そうね。人種は魔王を倒すことを諦めたわ。ただ、意味だけの問題でもないのよ」
「と、言うと?」
「魔王の討伐には勇者が必要なのよ。勇者は強大な闇の力に立ち向かえる唯一の人種」
「だったら、勇者を見つけちまえばいいんじゃないか?」
「無理よ。勇者は魔王と違って蘇らないもの」
平然と言ってのけたアリスの顔には無理している様子もなくただ、あるがままの現実を受け入れているようだった。
「あぁ、そういえばギルドについてだったわね。ギルドとは地方ごとの警備をおこなっている団体よ。基本的に魔物討伐の仕事はギルドを通して受けることになるわ。その仕事のことをクエストと呼ぶの。クエストには難易度があって難易度が高いものほど報酬が良いものになるわ」
「つまり、ギルドはハロワ?」
「ハロワって?」
「ん?... ... ごめんなんでもない」
自然と自分の口から出た言葉にどこか懐かしさを覚えた。
もしかしたら俺の記憶の断片なのかもしれない。
ハロワ......どういう意味なのだろうか。
「そういえば、あなた名前がないのは不便ね。私が良い名前を考えてあげるわ!」
そう言った彼女の顔は何か悪いことを考えていそうな顔だった。