第40話「老婆属性ないんでマジで赦してください」
その時なんてものは、待ってるだけじゃやってこないことを俺は知った。
もうかれこれ1週間くらい経ってるんじゃね?ってくらいには俺は待ったけど何の音沙汰もない。
食事すら配給されない、この閉ざされた空間で俺はずっと点在し続けた。
特にやることもないので常に魔力を身体中に巡らせて遊んでいた。
肉体的な疲労を得てしまえば、それは死へと直結する恐れがあるが、精神的な運動ならそれはない。
それに、俺は常人より魔力総量が多いみたいだし、少しばかり遊んだって問題ないさ、と自らの魔力を身体中の隅々に巡らせ、新しい魔術ができないか、脱出する術はないかと模索をした。
外では、どれほどの時間が経ったのかわからないけど、脱出することは容易に思えた。
なあに、簡単なことだ。魔力コントロールが少しばかり上昇したので自らの思うところに魔力を移動させることができるようになったのだ。
俗にいう、属性付与と呼ばれるものなのだが、この時の彼はそんな単語すら知らない。
「まあ、俺のことは忘れられたような気もするし、さっさと脱出しよう。」
俺は自らの魔力の0.01%を右拳に集中させる。するも、ほんのりと右拳が光を帯びる。
そのまま優しくドアを人差し指で弾く。
ダァンッ! と爆発音と共にドアが消し飛ぶ。
すぐに、大勢の足音が近寄ってくる。
どうせ勝てない相手じゃない。俺はそう思い、相手を待つ。
鎧甲冑を纏った騎士らしき者共が俺を取り囲む。
何かを語りかけてくるわけでもなければ、攻撃を仕掛けてくるわけでもない。牽制をしているわけでもない、ただ、誰かをじっと待つように俺との間合いを取る。
俺からすれば、そんなものは間合いとは呼べないお粗末なものだとは思うが、何か目的があるなら知っておいた方がいいし、殺すことの容易さからしても脅威としては考えられない。
後のことも考えて、敵は何を考えているのか、目的を明瞭にした方がいいだろうと思った。
しばらくすると、俺を誘拐したあの老婆が姿を現した。
「ずいぶんと時間がかかったのう」
言葉を放つのその姿に殺気はない。
だが、一度は不意を取った相手なのだ。俺が油断するはずもなかろうよ。
「まるで、俺なら一人で抜け出すことが分かっていたかのようだな?」
俺は探りをいれるような声色で老婆を睨み返す。
「ふぉふぉっ、そりゃあその魔力総量からすればなあ。おのずと見えてくる」
なんだこいつ、見えるのかーー?
「お主、迷い子じゃろう?」
その単語を聞いた瞬間、何かが俺の脳裏をよぎった。
「*?>*」
「+?+」
音と微かに認識ができるそれは俺の意識が明確に捉えようと努力をするたびに霧散する。
「無理に思い出さなくてもええ。まだ、時間じゃないんじゃろ」
老婆はしわがれたその声を鳴らし、前髪を後ろに書き上げる。耳に着いた漆黒に輝くイヤリングが黒猫の形を模しており嫌に特徴的である。
「ところで、あなたは?」
「わしか? 当ててみろ」
老婆はニタアと笑いを強める。
「敵」
「ふむ」
「敵ではないのですか?」
「まあ、味方でもないがの」
「なら、なんのために僕にこんなことを?」
「お主に、興味がわいたんじゃよ」
そういった老婆の顔が誰かに重なった気がした。
続きます・・・