第34話「俺、乳離するよ」
「-と、いうわけで学校に行くことになったのですが」
「なにが、と、いうわけなんですか!!!! 坊ちゃま! なんでフランに相談してくれなかったんですか」
「まぁ、乳母離れというか……」
俺だって苦しいのだ。
フランは優しい。俺のことを際限なく甘やかしてくれる、俺の立場なら働かなくても一生自堕落な生活を送ることもできるだろう。
しかし、それではダメなのだ。
このままでは俺はフラン無しでは生きられなくなる。
今はいい、だがフランには家族がある。
フランがいなくなってしまった後に残る無能なんてことにはなりたくない。
それに母様と父様は俺に対して期待を寄せている。
パラディン家の長男としての振る舞いを今後覚えていく必要があるだろう。
それに、俺には才能がある。
父様は常日頃から「力あるものはそれを使う義務がある」と豪語しており、優秀な一人息子がニートにでもなってしまったら間違い無く勘当されるだろう。
それを避けるためにも、俺は精進しなくてはいけない。
誰かのためとかそういうのではなくて、自分自身のために。
「僕は成長したいんです」
「坊ちゃまは今のままでもすごいですよ」
「フラン、ありがとうございます。しかし、父様はさらにすごいですよ」
「たしかにルシオ様は王直属の護衛団長様であらせられますが……」
「僕もいずれはそうなるのです。不甲斐ない隊長には付いていけないでしょう」
「しかし、坊ちゃまは剣も握ったこともないじゃないですか」
「それは、これから握ればいいのです。それに父様も5歳で学校に通い始めたと伺いました」
「ルシオ様は天才であらせられますから……」
「じゃあ僕はどうなんですか? フラン」
「天才です」
「なら、文句はこれでおしまいですね。いままでお世話になりましたフラン。いつか、僕が出世したら頼ってください。僕はフランを家族だと思っていますよ」
そういって俺は自室に戻り、母様の書庫からもちだした治癒魔法上級術大全を読みふける。
それから、一週間後に俺は学園に入学することになるのだが、この一週間本当につらかった。
毎朝6時、アルトゥスの朝ははやい。
毎朝この時間になるとフランがこっそり部屋のドアを開けて俺のベッドに侵入してくるのだ。
俺がそれを華麗にかわしフランのパンツを剥ぎ取る。
そして胸ポケットに無意識に仕舞い込む。
なぜだかわからないが女性パンツを胸元に仕込ませておくと気分がいい。
そして7時から父様と一緒に広すぎる庭で木剣の素振りを行う。
父様はもちろん真剣を振り両腕に5キロずつ錘をつけている。
とりあえず100回は振るようにしているが、父様は俺が100回振り終わるまでに1000回は振り終わってしまう。
やっぱり父様はすごいや。
そんな一朝一夕で追いつけるような人じゃないことくらいわかっている。
超える壁は高いほうがいい。
その後、朝食を取ってまた訓練。基礎体力を付けるための走り込みだ。
さすがにこれは父様についていけそうにないので、フランとアホみたいに広い家の庭で鬼ごっこをしている。
朝パンツを剥ぎ取ったお返しだと言って、俺のズボンとパンツを剥ぎ取って、
「ほら! 返して欲しければ追いついて見なさい! フッヒィー! 」とか、いいながら挑発してくる。
だから俺は今フルティンだ。
ちなみに、フルティン状態で走ると大切なものが心なく揺れてとても走りにくいし、虚しい。
それをみてフランは
「あーら、可愛い子象さんがこんにちはってしてまちゅねー!」
と、盛大に煽ってくる。
あぁ、俺のことを貶すのは全然いいさ......
だがッ! 俺の息子の事は悪く言わせねぇ‼︎‼︎
「フゥウウウウウラァァアアンンンン‼︎!」
と、俺はフランに持久力を鍛え続けられた。
そして午後は座学。
王宮医務局長様の授業である。
「やっぱり、アルは天才ね!」
母親は俗にいう親バカだ。それに褒めて伸ばす授業をする傾向もあり、午後の座学はもう、母親とべたべたする5歳児なのであった。
「母様。これくらい常識ですよ」
「んもうっ。普通の子は5歳で魔法の定理なんて理解しないわよ」
「はやく、実践をしましょう。今覚えた知識を使ってみたいのです」
「普通、一回聞いただけじゃ理解できないような事を話してるのに... ...ね」
そこから庭に出てフランとラウンド2である。
しかし、この場合は母様の監視のもとに行う実践戦闘訓練である。
フランが魔法を使えないことをいい事に俺は距離を取ってフランを一方的に攻撃しようとするが、フランはすぐさま距離を詰めて俺に魔法を撃たせようとしない。持久力ではフランに敵わないため、近距離戦闘に持ち込まれた時点で俺の負けが確定する。
そうして、何度も負けては挑んでの繰り返しをしていると俺はいつも体力が尽きて眠ってしまう。
気がつくと俺はベッドの上で目が覚める。
傍を見るとフランベッドで突っ伏して寝息を立てている。
俺はフランを自分のベッドに寝かせると、机に向かい母様の執筆した治癒魔法書に目を通す。
「二系統の魔法を使えるのは世界に数人... ...か」
そう言って俺は両手でお椀の形にする。
イメージするものは冷たさ。そして潤い。
すると、お椀を作った手の何もない空間から水が沸き始めた。
俺はそれを乾いた喉に通す。
「三系統使える僕は、果たして人間なのでしょうか... ...」
闇に浮かんだ半月はいつもと変わらずに俺をみているような気がした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。