第3話「俺のスキルは見ることだけ?」
俺は少女に見つめられることに耐えられずに沈黙を破った。
「あ、ありがとう」
「……」
どうするんだ……会話が続かねえ。
少女の目は小柄な身体とは反対に強い意志を感じられた。
「あなた、名前は?」
しばらくすると少女は俺に向かってそう問いかけた。
「ごめん。わからない」
「どこからきたの?」
「わからない」
「記憶がないの?」
「そうみたい」
「あなた、『迷い子』なのね」
「迷い子?それって何?」
「迷い子とは大いなる使命を背負うものとされているわ。この世界の伝承よ。私が知っているのはそれだけ」
いきなり使命なんていわれたって俺には何も分からない。
ただ、この少女は嘘をついているようには見えない。
「私の名前はアリス。冒険者よ」
冒険者 アリス
年齢15歳
スキル■■■■■
■■■■■
少女の上の文字が更新された。
つまりこういうことか。相手の情報を得るとその文字は更新されていく。
俺はもしかしたら自分にもそれが出ているのではないかと思い、少女に尋ねた。
「アリス。俺の頭の上に何か見えないか?」
少女は首をかしげて考え込むしぐさを見せると言葉を発した。
「見えないわね。あなたもしかして観察眼の持ち主なの?」
「観察眼?」
「そう。人にはそれぞれ自分の個性にあった能力を持っているわ。例えば私なら光魔法に得意系統があるわね」
そういって彼女が 光の加護よと詠唱を行うと彼女の指先に光の球体が現れた。
「私は……光の加護を受けているのよ。だからこの魔法が使えるの」
少女はなぜか俯きながら力なくそう言った。
「あなたは人を観察する能力に長けているのね。観察眼を持つ者は巨万な富を築くと言われているわ」
巨万な富か……人を観察することができるとはその人の長所と弱点を知ることができるということだ。
「つまり、経営者に向いてる?」
「んーそうね。商業ギルドなんかに登録したらすぐにでもトップクラスになれると思うわ」
彼女は人差し指を顎にあてながらそう言った。
「俺は、大いなる使命を背負う迷い子なんだよな?それでいて経営者の才能があるだと!? そうか! つまり俺にこの世界の経営を救ってほしいということだな!」
そういって自分の能力を自分自身に使ってみる
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年齢18歳
スキル 観察眼(初級)
「初級……?」
観察眼の後ろに書かれている文字について疑問が浮かんだ。
「アリス、初級ってなんなんだ」
「それはスキルの熟練度のことね」
「熟練度?」
「そう、要はスキルは成長するのよ。スキルには三段階の成長があってそれぞれ初級、中級、上級と分けられているわ。初級はそのスキルの最低限の効力を発揮することができること、中級は初級卯よりスキルを自在に使いこなし応用ができるようになること、上級はスキルの使用者に適正があると中級を遥かに凌ぐレベルでスキルが扱えるようになるらしいわ」
「なるほど?つまり、熟練度によってそのスキルの効果が変わってくるってこと?」
「えぇ。そのとおりよ」
「熟練度はどうやってあげるの?」
「熟練度の上がり方には個人差があるわ。多くの場合はそのスキルを何度も使い続けることで中級までは上げることができるわね」
「じゃあ中級から上級は?」
「それは、偉業を成し遂げることだと、されているわ...」
アリスの歯切れが悪いことを俺は疑問に思った。
「されている?」
「いないのよ。もうこの世界に上級魔法を使える者は……」
彼女は悲しげにそう呟いた。