第29話「女王アリとの遭遇」
「この先に強い反応がある」
ルインのその含みをもたせた言い方にその場にいる全員が唾を飲み込んだ。
「女王か?」
「たぶんそう。ただ... ...」
「ただ?」
「それ以外の反応も感じる」
「集落の者じゃないのか?」
「うぅん... ... わからない」
「そうか、ここで話していても拉致があかないな。とりあえず行ってみよう」
俺たちは道を進むことにした。
50メートルほど進むと、天井が高い空洞にでた。それは、いままでのジメジメとした洞窟とは違いとても乾燥していた。周囲を見渡すと白く長細いタマゴのようなものが埋め尽くされていた。
「奴らのタマゴか...」
「そうみたいね。気持ち悪い。ねぇ、消し飛ばしていい?いい?」
アリスは魔法使いたいんですけど、と言いたいような目を俺に向ける。
「ダメだ。洞窟が崩れたらどうする?まだ、杖を取り返していないんだろう」
アリスはしばらく考えると、
「それもそうね」
と、おとなしく引き下がった。
「ルイン。反応は?」
「まって」
そういうとルインは闇の加護を使用し、索敵を行う。
それにしてもやけに静かだ。
ここまでは一本道だった。迷いようがない。
それにさっきルインは女王アリの存在を感じ取っていた。
だが、ここに来てからその消息がわからない。
なぜだ?
俺なら、相手に気づかせないようにする時は...
「おい! これは罠だ!」 「上よ!」
俺とルインの声が重なって空洞に響いた。
上を見るとそれは通常のキラーアントの5倍はあろうかという体躯のキラーアントがいた。
「やっとおでましかよ。女王アリさんよォ」
俺がロングスタッフを抜くと女王アリは上空から滑空してきた。滑空というより寧ろ落下に近い形だったが、それでも当たったら一溜まりもないことはすぐにわかった。
「リンク!援護!」
「ほらよッ!」
リンクが俺に向けて何かスキルを行使する。
それを受けた俺は身体が羽のように軽くなり、反応速度が上昇したのを実感した。
「ルイン!闇の洗礼の詠唱準備を!」
「まかせて」
「ヤマダ!早くしなさい!もって5分よ!」
アリスは瞬歩を使用して女王アリのタゲを取ってもらってる。とはいえ、一撃でもくらったら即死なので全ての攻撃を回避しなくてはいけない。そんな状況で回避し続けるアリス。控えめに言って最高のパフォーマンスをしているのが分かる。
一つのパターンが崩れたらすぐに全滅だろう。
なんだよこのヒリヒリした緊張感。
最高に心地いいじゃねえか。
「闇の洗礼!」
ルインの闇の洗礼がキラーアントの顔面にヒットする。
キラーアントの視界が封じられると同時に明らかにその動きが精細さに欠いていることが見て取れた。
俺は号令をかける。
「行け!今だ!たたみかけろ!」
俺は瞬歩を行使してキラーアントの顔面部分まで跳躍する。そこに思いっきり、杖撃術を叩き込む。
1回どころではなく、何度もだ!
5回目をフルパワーで叩き込んだところでロングスタッフが悲鳴をあげてへし折れた。
「クソッ... ...誰か繋いでくれ!」
「ふん。任せなさい」
アリスも瞬歩で跳躍を行い。キラーアントの顔面に拳を叩き込んでいく。
「さすがに硬いわね」
アリスは左手の拳に血を滲ませながら、舌を打つ。
「クソッ...火力が足りねえか」
俺は次の一手を考える。
その時、
「ヴァッ...!」
「アリス!」
「ヤマダ!止まるな!攻撃を、つ、つづ、け、て...」
アリスが致命傷を負った。脇腹は深く抉れ、鮮血が飛び散った。
「リンク!アリスの治療を!」
「もうやってる!クソッ!血が止まらない!」
どうする。どうする。どうしたらいい?
俺はなんて無力なんだ。
どうしたら。どうしたらいい!!
誰か、助けてくれ!!! 誰か!
ーー問いかけろ。
誰に?
ーー自分自身に
無理だ。
ーー諦めるな。
そりゃ諦めもするだろ。
ーー信じろ。
何を
ーー自分自身を
どうしたらいいんだよ!!!
それっきり、自分の中に響いていた声は消えた。
なんなんだ...
落ち着け、落ち着いて考えるんだ。
戦線を離脱するべきか。
いや、負傷したアリスを抱えての撤退は難しいだろう。
下手をしたら全滅をするかもしれない。
なら、アリスを見捨てる?
そんなのは、論外だ。
ならどうする?
決まってる。
全員助けてハッピーエンドだ。
俺はリンクを見て不敵に笑った。