第23話「強くなったのはアンタだけだと思った?」
テパード岩石地帯はアンテロの町を出てアスランの森、アスラン平原を抜けた先にある。
この地域は過去に魔王が降り立ったとされる地域であり、その時の魔王が根城にしていた魔王城が今では誰一人といない古城となって佇んでいる。
魔王が滅んだ後に冒険者がこぞって魔王城の宝を盗み去ったので金にならない場所として有名である。
今では、アンテロの冒険者では討伐不可能なほど強い魔物がでる場所として危険区域に指定されるとともに冒険者からも不人気スポットナンバーワンを記録し続けている。
リング曰く、金にもならないのに命をかけるのは冒険者じゃなくて自殺者だと。
そんなところの調査をさせるなんて怪しすぎる...
ぶっちゃけ魔物の襲撃に見せかけて俺らを殺すためとかじゃないのか?なんて邪推をしてしまう。
テパード岩石地帯には切り立った崖がいくつも点在していた。その崖の所々には空洞があり、そこにはキラーアントが巣を作って生息をしている。
冒険者が訪れることもなく天敵もいない状態でのうのうと生きてきたキラーアントはかつての凶暴さはないにしろ、圧倒的な数を誇る。キラーアントが一匹いたらあと百匹いることを疑え。「101匹アントちゃん」なんて言葉があるくらいだ。巨大なアリの体格に黒よりの茶色の光沢を帯びたその巨体はなにかおぞましさを覚えるほどだ。
「んで、俺らはここを調査すればいいのか?」
辺りを見回しているが何もない。
あるのはチーズのように空洞が空いてる崖だけ。
「そうね。ここらへんのお宝は大昔に先代の冒険者達によって取り尽くされているわね。何を調べるのかしら」
「だよなあ。まぁ、気になるのはあの城くらいだろうけど」
そう言って俺はかつて魔王が君臨したとされる旧魔王城を見やる。
「あそこの敵は強いから、私たちじゃ相手にならないわよ」
「んー。じゃあとりあえずキラーアントでも狩っとく?」
「いいわね。そうしましょう」
そんな軽い返事の中、俺たちはキラーアント狩りを始めた。
キラーアント狩りを始めて数時間。俺たちの連携は完璧だった。身体に傷一つつけることなくキラーアントの大群を屠っていく。もうかれこれ1000匹は倒しているはずだ、だが一向にキラーアントの数は減らない。倒せば倒すほど、数が増えて来ている気がする。
「あぁ、もう!キリがないわね!」
アリスはそういうと少し離れて詠唱を始める。
「我、光の使者なり」
「荒れ狂う魔を浄化するものなり」
「その神光にて、払え、払え、払え」
「聖なる一撃にて神威を示せ」
「光撃」
アリスの唱えた詠唱をは杖の先から光の球体を作り出す。その球体は上空まで登り、爆ぜた。
それが爆ぜると同時に周囲500m程が光の柱に包まれた。
光が収まり、辺りを見回すと、そこにいたはずのキラーアントの大群は忽然と姿を消していた。
「いま、何したんだ?」
「私もあの戦いで成長していたのよ。新しいスキルを覚えていたわ」
って、なにこれ強過ぎん?
「破壊神にでもなったの?」
「失礼ね!これは光の攻撃呪文よ!」
アリスはポカポカと俺の胸を殴る。ジャレているのか、大した痛みはない。
アリスも成長したのだろう。あれほどの魔法を出せるのはここらへんの魔術師だとアリスだけだ。俺はアリスに観察眼を使用した。
アリス
年齢15歳
スキル 光の加護(中級)
光撃(初級)
杖撃術(中級)
瞬歩(初級)
たしかに成長を感じる。俺の複写同様に光撃はどうやら光の加護の派生スキルだろう。魔物に対する範囲攻撃を持つことが嬉しく思う。固定発射台になってくれれば強いのだろうが、アリスは前に出たがるだろう。なにか考えが必要だな... ...。
それに続いて、
太古の竜撃杖
使用者の能力の単純倍加能力。魔術の最適化。
発動速度の最適化。 古の血の増幅。
アリスの持っている杖にも俺の観察眼が適用された。
「アリス。その杖、どうしたんだ?」
「秘密よ」
そういったアリスの顔はどこか悲しげだった。