第2話「いや、いきなり展開おかしくね」
さっきまで優しかったおじいさんの姿はそこにはもうなかった。
「いや、まってまってまって。何が起こってるの!!!」
「俺なんか気に障ることした!?」
おじいさんは俺の言葉など意にも介さずに肉切り包丁を振り上げて容赦なく振り下ろした。
あっ、これ死ぬな。と、自らの死をなんとなく悟った。
ここで走馬燈などが記憶喪失の俺に流れるはずもなく、単純に頭の中が真っ白になった。
と、いうより視界も真っ白になった。
「ヴォオオアア」
おじいさんは慟哭した。
目の前が真っ白になって視界を奪われた俺は誰かに手を引かれた。
人間、体に突然力が加わると踏ん張ることってできないんだな......。
自分の体が引っ張られた方向に傾いて地面に右肩を強打した。
視界が正常に戻るにはそんなにも時間はかからなかった。
ぼんやりとした輪郭が鮮明になるとそこには杖を構えた少女がいた。
少女は小柄な身体に灰色のローブを羽織り、黄金の鷹が装飾された杖を構えながらおじいさんと相対していた。
『悪鬼ゼペル......危険度ランクF、報酬金720ラルト』
そう呟くと少女は地面を勢いよく蹴っておじいさんに杖で殴りかかった。
『えっ!?それ呪文用じゃなくて打撃武器なの!?』
俺が驚いてるのと同様におじいさんも驚いているようだ。
悪鬼 ゼペル
年齢 609歳
スキル 狂戦士
危険度ランク F
頭上の文字が変化していた...。
どういうことなんだ。
少女に視点を合わせてみると少女の頭上にも文字が浮かんだ。
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年齢 ▪️▪️
スキル ▪️▪️▪️▪️▪️▪️
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なーんもわかんねぇ...
ローブの少女はおじいさんを殴り続ける。
おじいさんの動きは遅く少女の動きには対応しきれていなかった。
攻防を繰り返していたというよりは少女は杖で一方的におじいさんを殴り続けていたという印象だ。
しばらくして少女がおじいさんを殴るのをやめるとおじいさんは黒い霧となって霧散した。
少女は無言で俺を見つめる。なんだか非常に照れくさい。
ただ、彼女の深い青に染まった瞳はただ静かに俺を見つめ続けていた。