第18話「隣にアリスのいる幸せ後編」
更新遅れました。申し訳ございません( ;∀;)
「痛っ」
殴られた左の頬が痛い。口の中は切れているだろう。
私は自分の無力さを嘆いた。
私にもっと力があればこんなことにはならなかったはずだ。
お父さん、お母さん……
この状況は私の力不足が生み出してしまったもの。
この世界は弱肉強食なの。
たとえ、こいつらに辱めを受けて殺されたって、
それは自業自得。
だってそうでしょ。
私はあの時に強くなるって決めたんだから……。
アリスはぐったりと諦め半分でうつろな目をしながら辺りを見回す。
薄暗いこの空間の中にはあの二人が腰掛につかっている大きなタルが二つ。
片方のタルにはゴルザが腕を組んで座り、うつらうつらとしていた。
その足元を見るとザップが虫の息で肩で息をしていた。かなり痛めつけられて立ち上がる体力すらなさそうだ。
「おい、ザップ。俺たち兄弟は俺がルールだろ?違うか?」
そう言いながらゴルザはザップの首を絞める。
ザップは拘束から抜け出そうとしてゴルザの顔面を殴りつけるがゴルザはそれに動じずにザップの首を締め上げる。
脳への酸素が少なくなってザップの口から泡があふれてきたのをみてゴルザは満足そうに続けた
「俺がルールだ」
ザップの首をつかみながら壁に投げつける。ザップは結構な勢いをつけて壁に叩きつけられる。
ザップはゴルザを睨み付ける。その態度が気に入らなかったのか、ゴルザはザップの顔面をなんども靴で踏みつぶした。
しばらくしてザップが動かなくなるのを確認するとタルに座って眠り始めたのだった。
そんな光景を見たアリスは次は自分の番だ。私は死ぬんだと自暴自棄になっていた。
「殺しなさいよ!私のことも!」
「お前は殺さん」
「なんでよ!」
「金になるからだ」
ゴルザは淡々と答える。
──そうか、私は奴隷として売り払われるのか。
私のような成長過程の少女の奴隷を買う貴族がいることを噂で聞いたことがある。
何でもその貴族は18歳未満の少女にしか性的興奮を覚えないらしく身寄りのない奴隷少女を買い漁っては自分に侍らせていると聞く。
私もそんなことをされるのかと思うととても気分が良いものではないが、命に代えられるならプライドなど糞喰らえだ。
生きていれば必ず復讐するチャンスが訪れることを私は知っている。
次の瞬間、空間が光に包まれた。
一瞬何が起こったのか自分でも分からなかった。
それは私の唯一仕えるスキルによく似た光だった。
光が収まるとその空間には穴があいていた。
その穴からは、太陽の優しい光と優しい顔をした青年が現れた。
──ヤマダ視点
俺は血の付いたアリスの杖を見て動揺する。
なんだよ。クソッ……。
アリスだって冒険者になりたてじゃないか。
俺とそんなに変わらないんだ。
俺はアリスを過信しすぎていた、普段から見せる尊大な態度を熟練者のソレと勘違いしていたのだ。
アイツだってまだ子供だ。俺と大差ないはずだ。
どうすればいい。わからない。
アリスはなんて言ってた?
思い出せない。
俺はどこに行けばいい?
不安だ。
この世界で唯一心を許せる人間。アリス……
たった一人の少女の行方不明は俺を殺すのに十分すぎるものだった。
俺はまたミスを犯すのか。
……また?
俺に記憶はないはずだ。
わからない。
どうすればいいんだ、アリス。
教えてくれ……。
「……ろ」
「…い……けろ」
「じ……に……いかけろ」
そうだ、アリスは言っていた。
「自分に問いかけろ」
自分自身に問いかけろ。
俺には何ができる。
ヤマダ
年齢18歳
スキル観察眼(中級)
複写(初級)
俺のステータスを自身の観察眼で調べたところ新たなスキルが発現していた。
そして観察眼の熟練度も中級にレベルアップしている。
自らの観察眼でスキルの詳しい使い方を把握する。
俺はすぐに観察眼(中級)をアリスの杖に使用する。すると、付着した血痕が赤く光り出した。
辺りを見回すと同じく赤く光っている箇所が点々と続いているのが見えた。
俺はこの先にアリスがいると確信した。
血痕の光を辿っていくとそこは古びた建物だった。
家と呼べる容貌ではなく、むき出しの石で作られたそれは牢屋のようにも見えた。
壁は黒く汚れており、ツタが生い茂っている。
見ているだけでジメジメとしてくるような、嫌な感じがする。
血痕はこの先に続いている。
しかし、この建物には入口がなかった。
アリスはそこにいる。感覚でそれがわかるのに、あと一歩で辿り着けない。
アリスならどうする?
フフッ……
あいつならこうするはずだ…!
俺はもっている杖に力を込めて壁に杖撃術(初級)を使用した。
たかが初級レベルなので何回も使うことになると思ったが、壁は鈍い音を立てて一撃で壊れた。
壁を壊すと同時に光の加護(初級)を発動して中を光で照らす。
しかし、そのスキルは異常な威力をもって眩い閃光となって室内を発光させた。
発光が終わるとそこには顔が痛々しいほどに腫れたアリスが涙を流しながらこちらを見ていた。