第13話「ロリ魔法使いはご機嫌ナナメ」
こんにちわ。ヤマダです。
今、絶賛、緑の波に飲まれそうなヤマダです。
ええ。もうね。
猛ダッシュですよ。
肺が痛くて死にそうです。ゼーゼーヒューヒューです。
というか、死ぬかもしれません。
草に塗れて死ぬ。
名前がヤマダ(草)の僕にはお似合いの最期かもしれませんね。
「ねぇ! ヤマダ!! 聞いてるの!?」
「ゼェ……ゼェ……あ? それどころじゃねぇよ!」
「全く、だらしないわね」
汗まみれで走っている俺の横には、涼しげな顔をして走っているアリスがいた。
「随分と……余裕そうだな……オェ」
「あんたはもう死にかけね。ホントに使えない奴隷」
やれやれ、と肩を竦め、
「いい? 1回しか言わないわよ? 」
そう言い、アスラン草のことについて語り始めた。
アスラン草とはアスラン平原に生息する魔草の1種である。様々な条件が重なった結果、生まれた魔草で現在確認されているのはアスラン平原だけである。
成長のために必要な栄養分を土壌に蓄えるために、熱源体(モンスターや人、他の植物)を取り込む。そして、太陽の光により青々とした緑を保っている。
これらを枯らすためには「核」となるアスラン草を、地中から抜きさらなければならない。
「核」となるアスラン草のひと房はその生命力から「万物のオアシス」と呼ばれ、万能な治療薬として重宝されている。
「――魔草辞典より」
アリスが一気に言い終えた。
「暗記してんのかよ!?」
疲れも忘れて叫んでいた。
「そうよ? これぐらい誰にでも出来るでしょ?」
あっけらかんとした表情のアリス。
かれこれ10分位走り回っているが疲れを感じさせない。
もしかして、こいつ天才か?
「ヤマダ。ここからはあんたの仕事よ。その『観察眼』を使って、『核』を見つけるの」
「わかった。やってみる」
深呼吸をして目に意識を集中させる。
すると、ぼんやりとではあるが「核」らしきものが赤く浮いて見える。しかし、走りながらだと集中出来ず、すぐに掻き消えてしまう。
「くそッ……あの赤いのか。視界がブレる」
「眼で追ってはダメよ」
「でもお前いま、眼を使うって」
観察眼を使用する度に俺の眼には疲労が蓄積され、瞬きの回数が多くなる。
体力も限界だ。俺はその日、アスラン草を倒すことはおろか、近付くことすらできなかった。
ーー目覚めると夜だった。
焚火の近くにはアリスが膝を抱えて座っていた。
俺には灰色のローブがかかっており、アリスが自らのローブを俺のために使ってくれたことが分かった。
「目、覚めた?」
アリスがどこか優しさが含まれた声色で俺に話しかける。
「あぁ」
いつもなら何かおちょくった返しで場を和ませようとする俺もこの時だけはそんな気分になれなかった。
「ごめんね。ヤマダ」
ふとアリスが焚火から顔を上げ俺にそんなことを言う。
俺は面食らったが特に何も言い返しはせずにアリスの言葉の続きを待った。
「アンタが初めての実戦だったのを忘れていたわ。
もちろんあの悪鬼はノーカンよ」
「俺も、どこか自分を過信しすぎていたのかもしれない」
「実戦は常に危険と隣り合わせなの。今日のアンタは死んでもおかしくなかった。
アタシの認識が甘かったせいよ。」
俺はどこかやるせない気持ちを飲み込んで近くにあった木の枝を焚火に放り込む。
パチパチと火のはぜる音が悲しげに夜闇に溶けていくのを感じた。