第1話「目が覚めたら記憶がないんだが?」
俺には記憶がない。
目が覚めたら俺はここにいた。
ここがどこなのか、自分が誰なのかわからない。
服装を見ると汚れた布を一枚羽織っているだけで他に持ち物はない。
もちろん下着は履いていない。何故か落ち着かないな。スースーする。
これからどうしようと考えようとしたら、自分が空腹であることに気づいた。
『食べ物を探さなければ』
本能的にそう思った。
遠くの方に灯りが見える。集落だろうか。頼んでみたら食べ物を恵んでくれるかもしれない。
俺は集落まで歩き、ひとつの家のドアをたたいた。
しばらくすると人のよさそうな老人が現れた。
老人 ゼペル
年齢67歳
能力 世話焼き(初級)
おじいさんの上に文字が表示された。
なんだこれは・・・・・・!?
「こんな夜更けにどうしたかのう、旅のお方」
「すいません。おなか減って死にそうなので食べ物分けてください」
綺麗な土下座を決めながら俺はそういった。
俺は命とプライドを天秤にかけたら真っ先に命を優先するタイプ・・・・・・だと思う。
身体が反射的に動いたのだ。
「腹が減っておるのか。ほれほれ顔を上げて家にはいりなされ」
ホッホとおじいさんは優しい笑顔で笑うと俺を家に招き入れた。
おじいさんの上にはさっきの文字はなかった。
あれはなんだったのだろうか。
「ところでお前さんはどこから来たんじゃ?」
「え、自分ですか? 自分は……」
おじいさんが振舞ってくれた熱いミルクを啜り、俺は言いにくそうに口ごもった。
「言いにくいのなら言わなくていいんじゃよ」
おじいさんが優しい口調でそういった。なぜだか無性に泣きそうになるのを抑え込み、
「言いにくいわけではないんですよ。
ただ…………一切覚えていないだけなんです」
と、無理やり笑顔を作った。
「そうか……お前さんは『迷い子』だったんじゃな」
迷い子? なんだそれは。
「あの……」
「みなまで言わんでも分かっておる。『迷い子』について知りたいんじゃろう?」
「はい。教えていただけませんか?」
「よかろう」
おじいさんは立ち上がり、爛々と輝くランプを手に取ると、俺に向かって手招きをした。
「ついて来なされ」
目を突くような暗闇の中、おじいさんのあとをついていく。
すると、こじんまりとした納屋がランプの灯りの先に浮かび上がってきた。
「少し待っておれ」
ガチャガチャと鍵を差し込む音がしたあと、ガチャリという解錠した音が聞こえた。
開いた扉の中に入ると、おじいさんが箱のようなものの中を漁っていた。
なにをしているんだろう? 俺は不審に思い、おじいさんの方へ「何をしてるんです?」と近づいていった。そして、おじいさんの手元を覗き込もうとした時。急に箱の中を漁る手が止まり――。
くるっとこちらを向いた老人の顔は無表情そのものだった。その片手には禍々しい肉切り包丁が握られており、カタカタと小刻みに震えていた。
「な、なにする気なんですか!?」
その光景にパニックになりながら、俺はふと老人の上にあった文字を見た。すると――。
老人 ゼペル
年齢67歳
能力 狂戦士
なんで!!! さっきと書いてあることが全く違う!!