#363 警備人事の漏洩
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Alesterse
【ftl.e】Ers lartass ol alarta zu letix set cecenasch tisoderl.
【ftl.e】Ers werlfurplessene'd terselyr'd panqa. La lex melses dera'c at.
[meu]
Panqa'd klirma io Xelken.valtoal m'es xelkene'd alesterse, MLFF es rattemme'd alesterse.
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これが最初の単語の語釈だ。二つの意味があるみたいだが、後の方はさっぱりだ。しかし、最初の方で大体意味がわかってくる。すなわち「過激派」という意味だろう。
さらなる説明には例――おそらく "klirma" は「例」という単語だ――として "xelken" の過激派と "rattemme" の過激派が挙げられている。
(というか、この辞書では、初っ端から "MLFF" が過激派扱いされているな)
立場の違いというものなのだろう。誰かを助けるための運動も外から見れば何やら危うい集団に見られることもある。偏見をもって喋るのは簡単だが、様々な情報を集めてゆっくりと語ることは思っているよりも難しい。しかし奇妙なのは、先の文章には "MLFF'd alesterse" が挙げられていることだった。
つまり、イプラジットリーヤが述べていたMLFF内部の強硬派のことを指しているのだろう。関係節を取り除いた最初の一文は "MLFF'd alesterse'c melses tanijama.cucumu's." ということになる。
(警備担当がわざわざ過激派に関わるか?)
もちろん、ヴェアンか、その裏にいる何者かが出鱈目を書いている可能性は捨てきれない。しかし、ニェーチやアルテリスの焦る様を思い出すと、やはりこの文書には幾らかの信頼性が生まれてくる。
関係節以下は、所属を表すと仮定して、第二文の不明な語を調べてみよう。前も言ったように、反接で繋がっているものが重要なキーになりそうだ。
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Dznojuli'o
【ftl.a】Ers lartass ol alarta zu lertases.
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肝心な "lertases" が分からないが、似たような単語なら知っている。 "lertasal" と "lertasen"「宗教的教えの」だ。
そういえばこれらはイェスカに関わるところで出てきた単語だった。確かフィレナがシャリヤに関して "jeska tisodeler" であるか聞いていたように、イェスカたちはどちらかといえば政治家だったはずだ。だったら "lertasal" は「政党」で "lertasen" は「政治的な」になるのではないだろうか。その共通項である "lertas" は「政治」を意味し、動詞を作る語尾 "-es" が付いた "lertases" は「政治をする、統治する」という意味になるだろう。
となってくると以前見た辞書に載っていた "lertasal" の語釈にあった "parcdirxel" も語義が怪しくなってくる。
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Parcdirxel
【ftl.e】Ers esel parcax'it.
Parcax
【ftl.a】Ers icco ol marl ol lartass'i celdino mal texto tisodel'it. La lex kantet dalle "lertas".
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なるほど "parcax" は "lertas" と同じ意味で「政治」を指し、それのやり方を指すのが "parcdirxel" ということらしい。大分長い間誤解していたが、これで解消だ。やはり、じっくり辞書を引くことは大切だ。
今度は "dznojuli'o" の後に来る "rattel" を引いてみよう。
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Rattel
【ftl.e】Ers olossergerl.
【ftl.e】Ers larta'st larta'ct melseso.
【ftl.e】Ers mele larta ol icco.
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"mele" は "melen" に近い。"melen" が「意味的な近さ」を表すなら "mele" は「場所や物の近さ」を表すのだろうか。もしそうなら、一番下の語釈は「近くに居る人・近くの国」つまり「隣人・隣国」という意味になるだろう。
二文目の "mal" までの部分はこれで理解できた。つまり、「しかし、彼は政府との(人間)関係も持っている」というところだろう。MLFFの過激派とコンタクトしているが、その一方でユエスレオネの政府関係者ともコネがある。読めば読むほど、それに何の問題があるのか不思議になってくる。MLFFは大使館に詰めてきた。警備計画を立てなければならない谷山は彼らが去った後に、過激派とコンタクトして情報を集めつつ、ユエスレオネ連邦政府とも警備の内容について打ち合わせを行っていったということだけの話だ。
問題は、外部に漏れていないはずの警備人事が漏れていることだ。明日、語学研修所に向かうときに豊雨にある程度の情報を明かして、情報流出の根源を探らせるべきだろう。
そんなことを考えていると、突如腹が鳴った。
「……外にでも出かけるか」
それまでの読解の緊張感は解けていた。俺は上着と財布を取って、玄関を目指すのだった。




