#354 異世界の社会問題を読んで理解しろって?
"Mi'd ferlk es vean.anfilerdia zu duxien fal yuesleone'd FLA. Mi veles deroko fua lerssestana'd kantier fal fqa."
淡々と喋る銀髪碧眼の男の声色はなんだか冷たいものを感じさせた。鋭い目つきや硬い表情を見ると、自然にこちらも緊張してくる。
"Mal, plasi untirk'i cossa's at plax. Ers co ler."
前列に座っていた男性が立ち上がる。
特徴的な容姿を見ていると、やはり外交官なのだろうと思う。銀色の髪はリパラオネ人のそれとは違い、少し灰色じみていて、肌は少し不健康そうな青白い色、何と言ってもその目が灰色じみた燻銀のような色なのが大きな違いだった。
気になるのは服装が上下ジャージのようなものだったことだ。失礼かもしれないが、ダサいだけでなく明らかにこの場にあっていないような気がする。
"Mi veles stieso dlorti'a dinorlek altelis. Sties mi leusj altelis.Mi klie lerj dzi'erre'd cesnertera'd emiunxterla. Mi ilyr kademes fon lkurftlesselyr."
ニェーチはそれを聞いて、「ほうほう」といった感じで頷いてみせた。
"Dzerr at es yuesleone niv ad ete'd icco."
"Hm......"
ニェーチと俺もそれに続いて自己紹介をした。淡々と進む自己紹介にヴェアンは上手いとか評価することもなく、その鋭い視線を向け続けるだけだった。
"Lirs, jol cene coss ankaalon lkurf lineparine. Pa, jol lerssestan io mi tisod niv mels diunangvirlo xale la lex. Cun, Lerssestan es fua xelicorje."
そう言いながら、ヴェアンは手元のバッグから書類を取り出して、俺たちに配り始めた。書いてあるのは確かにリパライン語だ。今回の授業のテクストだろうか?
"Sysnul io coss verkon akranti fgir. Mal, wioll mi nun mels firlexerl. Cene coss melfert fal levip mal lkurf eter mels la lex."
"Hmm......"
唸るニェーチ、一方で俺は何だその程度か、と思ってしまった。
長文を読み込むのは、日本で何回もやったことだ。それに今回は辞書だって使っていいし、他の外交官のヘルプだって受けられる。
こんなのは楽勝だと思っていた。この時点では。
* * *
(わ、分からん……)
文章を読み始めてから10分が経過した。手元には開いた辞書もある。詳解辞典だからということもあって、明確な意味を取るのは難しいのはいつものことだ。
しかし、問題はそんな生易しいものではなかった。
題名に次ぐ最初の文は次のようなものだ。
"volciera es panqa fon fafsirless fal yuesleone'd no."
分からないのは "volciera" という単語だけだ。楽勝だと思って、この単語を引いて出てきたのが以下の説明だ。
"【ftl.e】: neffarfelelon tisodo vasprard cecioj cilci fai volci."
うむ、まだまだ分かる気はしない。更に辞書で調べていって分かったことは "cilci" というのはケートニアーかネートニアーか――つまり異能を使える人種かどうかということ、 "volci" というのはそのシルシごとにある社会の偏見であったり、役割とされている物事、 "vasprard" は人が生きる上で大切ななにかであることが分かった。
つまり、さっきの "volciera" の説明は「社会的な偏見に基づいて異能人種であるかどうかで人の大切な何かを特別に扱ってしまうこと」ということになる。
すなわち、この文章はユエスレオネの社会問題を扱っているわけだが、そもそも地球にケートニアーやネートニアーが存在しないので読んでいて実感が持てないのだ。例えば、ユエスレオネ連邦の「首相」や軍人など重職はケートニアーが占めているとされ、これが問題になっているらしい。確かに、ネートニアーだからというだけで昇進などに影響が出るのなら問題だが、軍人などは特にケートニアーのほうが戦闘力が高いところを考えるとむしろネートニアーが出て来にくい職業なのではないだろうか。
(というか、ヴェアンはこれを俺たちに読ませてどうしようってんだ?)
アルテリスやニェーチの方を見ると、彼らも同じように苦い表情をしていた。語学は出来るが、国内問題にまではそこまで手を付けていなかったのだろうか。
"Mer, co firlex kranteerl?"
ニェーチに尋ねると、彼女はすぐには答えずに手に持ったペンで紙をこつこつと叩きながらため息を付いた。
"Ers snietij ja. Selene jol mi letix le loler liestu fua akrantio."
そう言いながら彼女は文書とにらめっこを続けるのであった。




