#352 「まあいっか」の精神は幸運を呼ぶ
"Zu, co es arsa'd larta!?"
ニェーチは頭の上にある耳をピクピクと動かしながら、俺の答えに食いついた。というか、その耳動くのか。結構精巧な仕組みになっている付け耳らしい。
「アース人」ということは「地球人」ということなんだろう。何故そこだけ英語なのやら見当は付かないが、アメリカも日本とは別で独自に動いているので影響を及ぼしているのだろう。
"Mer, metista ja. Lirs, lecu miss xlais knloanerl?"
"Ar, jexi'ert!"
視線をメニューに戻す。そういえば、料理名はあまり聞いたことが無い。
"Mer, selene co knloan harmie? Mi lolerrgon mol niv fal fqa. Selene mi veles kantio mels vynut knloanerl."
"Vynut knloanerlesti? Mi qune niv."
"Co es niv yuesleonerger?"
ニェーチはそれを聞いて、一瞬きょとんとするもすぐに笑い出した。
"Co xel eso mi feat rattemme ja! Niv, mi es nirnengxapacher."
"La lex es niv yuesleone'd icco?"
"Metista co qune niv?"
"Jol arser metista qune niv als."
"Mer, lecu miss xlais fanxenj."
そう言いながら、ニェーチは俺の手元にあるメニューを取る。手を上げて、背後に "fenxergersti!" と元気よく呼ぶと、来たウェイターに幾らか注文してしまった。
メニューが去っていく。知ってるものがあれば精査したかったが、まあしょうがない。
"Edixa harmie co xlais?"
"Jopp, Mi firlex niv."
"Harmie?"
"Cun, mi kin leiju lap!"
得も言われぬ悪寒が走る。適当なものを注文されて、いくらになるか分からない上にそもそも自分の好みのメニューが出てくるかもわからない。おまけにここは異世界だ。ヤバいゲテモノ料理が出てくる可能性も否定できない。PMCFに行ったときのことを思い出す。ビビッドカラーの緑色の麺類、あれはトラウマになりかけた。
数分後、やってきた料理は至極普通のものであった。野菜の煮込みのようなものと、ライス、サラダに緑色のスムージー。家庭的なんだか映えを意識しているんだからよくわからないが、とにかく食うのに躊躇するようなものではない。
"Bli'ercha! Jol cene fqa metista knloan!"
"...... Co xlais eski sietival fal alsil?"
"Ja, Edioll cene niv mi knloan xlaiserl pesta no ja."
"Firlex,......"
ニェーチは明るさを顔に湛えながら、運ばれてきたものに手を付け始める。なんとなくだが、「せっかく外食してるんだから、少しくらいスリルが無いと!」とか言い出しそうだ。
さて、情報を整理しよう。
彼女はユエスレオネ連邦に所属している国の出身じゃないようだ。ニーネンシャプチという国はPMCFと同じようにユエスレオネ連邦と関係している国なのだろう。となると、何のためにこの国に来たのかが気になってくる。
運ばれてきたスムージーを一口飲んでから、俺はニェーチに向き直る。
"Harmie co klie yuesleone'c? Ers fua xelo icco?"
「観光」という意味の単語が分からなかったので代替表現を使う。
ニェーチの方は疑問を聞いて首を傾げていたので、伝わったかどうか不安だったが、ややあってこくりと一人頷いて答え始めた。
"Mi m'es xelicorje, klie yuesleone'c fua icco. Pa, niss lkurf ny la lex mi'c. Mi lersse lineparine gelx jol cene niv mi metista nat duxien la lex."
"Metista...... Co letix lineparine'd anfi'e pa veles lkurfo la lex?"
ニェーチは驚いた様子で瞳を瞬く。
"Harmie co qune mels la lex?"
"Lirs, mi es larta xale xelicorje fal ars."
理解していなかった "xelicorje" の意味が大体理解できた。
彼女はニーネンシャプチからやってきた「外交官」なのである。そして、俺と同じようにリパライン語能力があるのにも関わらず強制的に研修所に通わされ、ノルマが達成できなければ帰らさせられる。そういうことになっているのだ。
食事を楽しみながら、自分のこれまでの顛末を彼女に説明する。シャリヤのこと、日本の大使館職員の一人であること、そして語学研修所のこと。
ニェーチは静かに全てを聞いた後に、こくこくと頷きながら腕を組んだ。
"Firlex, co at es ja...... Lecu miss anfi'eirot festa no fal lerssergal!"
"Ja. Mal, cene niv mi at lkurf als lineparine. Fi miss letix nunerl, miscaon celdin."
"Jexi'ert!"
俺の差し出した手をニェーチは掴む。
こうして、俺は研修所仲間を作ることに成功したのであった。




