#345 誤解と救出
しばらくしてから、ドアが開いてその奥からフィレナが現れた。見知った人間が戻ってきたことに安堵しながらも、彼女が何だか焦っている様子なのが気になった。肩で息をしながら、ナイフを取り出すと俺を縛っていた縄を切っていった。
"Edixa fhasfa voles?"
"Nisse's mi'st lkurferl'i jat niv edixa mal mi'st taster'ct eso'i firlex! Misse's jeteson malefikina niv fie......"
拘束が解けて、身体が自由になった瞬間、背後のドアが乱暴に蹴破られる。
"Pusnist, fgir'd qasti!"
黒服連中が部屋の前に殺到していた。フィレナは交渉に失敗したのだろうか。睨みつけられている辺り、どうやら敵扱いされてしまっているようだ。
ここで死んでは、シャリヤを助けることも無理だ。一旦引く以外に方法はなさそうに見える。
「こうなったら強行突破しかないな――Ban missen tonir l'es birleen alefis io mi xlais Dexafelk!"
火炎がシェルケンたちを薙ぎ払う。フィレナの腕を掴み、飛び出して開けた道を行く。
"Jei! Deliu harmue miss tydiest fua tydiesto eski fqa!?"
走りながら、フィレナに吠える。彼女は困惑していたが、すぐにハッとして周囲を見渡した。
"Restut! Fgir'd restutu's es feyertz!"
フィレナに言われたとおり、左に曲がる。その先に行くと広い会堂のようなところに出た。フィレナはその突き当りに位置する道を指差す。どうやら、通り抜けろということらしかった。
しかし、その暗闇からぬるっと黒マントの集団が現れる。思わず走っていた足が止まり、道を引き返そうと後ろを向くがそちらにもすでに追っ手が付いてきていた。
"Tasto's lusus! Jisesn fal fqa!"
黒服の一人がそう叫ぶと、シェルケンたちは皆こちらに向けて手を翳す。ウェールフープを発動してここで俺たち二人を始末するつもりらしい。
(ここで死ぬわけにはいかない……!)
必至に周囲の状況を頭に叩き込む。閉所、床は平たく木製、出入り口は両方とも敵で塞がれている。しかし、幾ら考えてもこの状況から抜け出せる策が思いつかなかった。
"Reto!"
一人の号令と共にシェルケンたちの手に力が籠もる。
もうダメだ――そう思ったそのとき、シェルケンたちの背後から声が聞こえた。
"Ulesn!"
反射的にフィレナの頭を地面に押し込みながら、俺も姿勢を低くする。その瞬間立て続けに小銃の銃撃音が出入り口の奥から聞こえてきた。なすすべもなく倒れていくシェルケンたちを越えて出てきたのは、青色の旗の刺繍を胸につけ、軍服に身を包んだ銀髪蒼眼の男だった。
"Ers yuesleone'd elminal ―― ghh!"
男を指差して警告したシェルケンは真っ先に頭を撃ち抜かれた。小銃を構えた男たちが慣れた手付きでシェルケンたちを射殺していく。二十秒も掛からないうちに前後の出入り口は黒服の死体で埋め尽くされた。
"Qastanasti, ers vynut?"
"J, ja...... Pa, harmae coss es ja?"
"Miss m'es yuesleone'd elminala'd acen avimens, klie fua sesnudo undestan lerj xelkene'd ceco."
"F, firlex,"
ユエスレオネ兵が侵略を受けた地球のためにやってきた、ということになる。すんと頭の中に入ってくる内容ではなかったが、少なくとも敵ではないらしい。
しかし、俺にはそんなことよりも知りたいことがあった。
"Lirs, coss xel niv xalija!?"
"Xalijasti? Ni es xelken?"
"Niv, ci es mi'd jurleten larta."
ユエスレオネ兵たちはお互い顔を合わせながら、首を振る。シャリヤには出会ってもないようだ。
「おいおい、何でこんなところに日本人が居るんだ」
そんな彼らの後ろから、ゆったりとした足取りで近づく影があった。褐色の肌にショートの黒い髪、切れ長の目は策士を思わせる風貌だ。見覚えがあるなんてものではない。
それはまさに――
「インド先輩じゃないですか!」
「はあ? インド……なんだって?」
目の前に現れたインド先輩――浅上慧はすっとぼけたかのようにそんなことを言っていた。ユエスレオネ兵たちはそんな彼に警戒心を全く見せていなかった。一体どういうことなのだろう。
「シェルケンに協力してたんじゃなかったんですか」
「それは誤解だ。俺はただシェルケンの内部で情報を集めていただけだ。自分の身を護りつつ、奴らが本格的に攻撃することを避け、ユエスレオネを引き込んでこの紛争を終わらせる。それが目的だった。というか、お前は何者だ」
「本当に覚えてないんですね……」
レフィが言いそうなことを浅上に言う日が来るとは、思わなかった。浅上の胡乱そうな視線は俺を得体のしれないものと捉えているようだった。
「まあいい、忙しくなるのはこれからだ。お前も付き合え」




