#333 メヤクウェーツと不思議な声
"Mer, mi'd lexxisnen p'es, mi des efan banerdex. Mi tisod la lex......"
ファミレスを出てきたときにぼそっとそんなことをシャリヤが呟く。少し不満げな声色だったが、パフェを満喫した結果か、口元は満足気にほころんでいた。
"Harmie es efan banerdex?"
"Jopp, <deso efan banerdex> m'es meiaqerz, la lex kantet veleso issydujo."
"Firlex, meiaqerzestan es xale <fenxeo baneart>?"
"Ja, jexi'ert."
シャリヤの答えを聞いて、考えをまとめる。
"meiaqerz" というのはおそらく「イディオム、熟語」という意味の単語だろう。確認のために出した "fenxe baneart" が字義通りの意味ではないことは明白だ。ということは、同じ "meiaqerz" とされた "des efan banerdex" も字義通りではない意味がある。それが "veleso issydujo" だったのだ。
整理終了。確かにせっかくの誕生日というのにこれだけではどうにも華がない。はてさてどうしたものだろう。そんなことを考えながら歩いていたせいか、適当な路地に入ってしまう。まあ、歩いているうちにやりたいことが思いつくか、見つかるだろうとそのまま進んでいると、耳に聞き慣れない声が飛び込んできた。
"Fgir'd qasti."
立ち止まって、シャリヤとお互いに顔を見合わせる。
"Edixa...... co lkurf fhasfa?"
彼女は首を振って否定する。聞き慣れたシャリヤの言葉ではなかったのは分かっていたが、とりあえず確認するほかなかった。
"Ytartastan es dalle la lex ja, cenesti."
"La lexesti......"
"Dosytil io mi senost ytarta fon lkurfer lineparine zu miss qune niv ja."
「おつかい」のときにシャリヤが出会ったリパライン語を話す謎の人物。そのことを話しているのだろうと察しが行った。俺の声でもシャリヤの声でもない、第三者の "ytarta" 「声」。文脈で不明語が理解できた。
シャリヤは路地の周りを見回していた。その視線は狭い通用路のようなところで止まる。彼女はそこに吸い込まれるように進んでいく。
"Xalijasti, mili!"
彼女の腕を掴んで、引き寄せる。
"Miss qune niv ni mag tydiesto es malef......!"
"Pa, No io tydiest niv melx wioll liaxa metista mol niv."
"Hmm......"
確かに今対面しなければ今度会うことが出来るのはいつになるか分かったものではない。シェルケンではないと自称し、対面したシャリヤに耳かきを渡した存在。それに興味がないわけではない。
しかし、シャリヤを呼び寄せたのが俺を引き寄せる手段だとしたら? 恋愛指南なんぞする奴と油断させておいて、実力行使に出られたらどうするのか?
そんなことを考えていると、再び聞き覚えのない声が耳に入ってきた。
"Hm, co at firlex lineparine ja?"
どうやら俺のことはあまり良く知らなかったようだ。不思議なことだったが、姿が見えないのに声だけははっきりと聞こえた。ここからでも会話できるならそれに越したことはない。
俺は角度的に視界の届かない通用路の奥に視線をやりつつ、ゆっくりと口を開いた。
"Co sties miss fua harmie?"
"Xerf iulo xale kanteterl las mol niv. Edixa mi vxorlnes mal sties. La lex lap."
"Harmie co vxorlnes.?"
相手は「根掘り葉掘り聞くなあ」とでも言いたげにわざとらしくため息をした。そして、いきなりドスの利いた声になって先を続けた。
"Mi melfert firlexer lineparine melx selene qune voleso fal no."
"......"
お互いに沈黙の時間が続いた。
その間、俺は色々と考え込んでしまった。相手も俺たちを「リパライン語を理解する良く分からない人間」として認知している?
街中の人混みからシャリヤを見つけて声を掛けたのは、その容姿からだろう。リパラオネ人の容姿の特徴がわかるのはファイクレオネに馴染んでいる必要があるはずだ。それではやはりシェルケンか? にしては、今の状況が分かっていないことが引っかかる。
俺は唾を飲み込む、これ以上考えていても仕方がないことだ。相手が少しでも妙な動きをすれば、その時はウェールフープを使って焼き尽くすまで。もう行動は決まっていた。
シャリヤの腕を掴んだまま薄暗い通用路に意を決して踏み込む。困惑する顔が俺を見上げる。
"Mol pesta mi, Xalijasti."
彼女は無言でこくこくと頷いた。蒼い眼が俺の背中を追いかけていた。




