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#332 シュライスと「命ずる」


 俺とシャリヤの二人は某有名ファミレスチェーン店に来ていた。店員に席へと案内され、移動する。隣に座るシャリヤは何故かそわそわしていた。


"Mer, cenesti"

"Hm.......?"


 メニューを見ながら、適当に相槌を打つと彼女は妙なことを訊いてきた。


"Nihonavirle io stiesel la <xlais> es harmie?"

"La lex es...... 命じる ja."

"Mal, stiesel fqa es?"


 シャリヤは指差したのは俺が見ていたメニューだ。見開きの反対側、ホイップと苺が飾られたパフェがその指の先にあった。


"Jopp...... Fqa es プレミアムパフェ?"

"Firlex,"

"Pa, harmie co nun la lex?"


 そう訊いた瞬間、シャリヤは目の前にあったボタンを押していた。店員を呼び出すための良くあるやつだ。奥の方から「は~い」と間延びした声が聞こえてくる。


(シャリヤよ。俺、まだ決まってないんだが……)


 そんな心の呟きをよそに彼女のそわそわは更に強まって感じられた。何をそんなに緊張することがあろうか、と思っていたが一通りのやり取りを俯瞰して俺は彼女の意図に気づいた。


"Xalijasti, jopp, mer, la lex es――"

"Ers vynut, cenesti. Mi ekce lersse nihonavirle gelx cene mi at xlais!"


 自信満々の様子でそう言い放つシャリヤ。いや、その意気は良いのだが、この言葉を聞いた時点で大失敗は予想できていた。


"Metista la lexe'd kraxaiun――"

「ご注文お伺いします」


 今度は注文を受けに来た店員の言葉に遮られてしまった。そして、シャリヤは胸を張って、得意顔で、人差し指まで立てちゃって言ってしまったのであった。


「私はプレミアムパフェを命じる!」


 他の席からくすっという感じの笑い声が聞こえる。一方の店員は笑いを耐えようとしているのか口元がぴくぴくしていた。ああ、言ってしまった。予測できていたのに、と俺は額に手をついて天井を仰ぎたい気持ちになっていた。


「ご、ご注文は以上でしょうか」

「あ、俺はえーっと」


 メニューに目を巡らせると期間限定と大きく書かれた商品が目に入ってきた。


「えっと、この激辛ごまみそ担々麺ってやつで」

「かしこまりました」


 伝票を胸ポケットに入れると店員は背を向けて去っていった。背を向けた瞬間、堰を切ったように鼻で笑ったのはしょうがないことだと感じた。

 ただしかし、当人は不満げな顔で腕を組んでいた。


"Edixa mi lkurf xorln iulo?"

"Mer, ny nunerl es la ja ja."


 シャリヤはむっとした顔になる。


"Pa, <xlais> es niv 命じる fal nihonavirle?"

"lineparine'd <xlais> kantet iulo zu kantet qa'd kraxaiunu'st fal nihonavirle."


 シャリヤはむっとした顔から、思案顔に変わる。

 こういうことは往々にしてよくあることだ。ある言語のある単語の意味範疇が別の言語のある単語の意味範疇と完全に一致することは珍しい。果たして、私達は "liberty" の訳語を複数出して、そのうえで「自由」という語を使ってまで「まだ原語の意義を表すに不充分」とした福沢諭吉の言葉を軽視することは出来るだろうか。

 辞書が必要なのは、言語間での単語の意味は一対一対応になることがごくごく稀だからだ。単語帳のように一対一で言葉を理解すると、今のようなことが起こる。


"Xlaiso fenxerger'ct veles stieso 注文する fal nihonavirle. 命ずる es...... xale xlaiso leusj anfi'e?"

"Arti...... nihonavirle es snietij ja."


 シャリヤは疲れたような顔になってそういった。今日はこの娘の誕生日なのに何故か疲れさせてしまったような気がする。ううむ……。

 そんなことを話しているうちにパフェと担々麺がやってくる。シャリヤはパフェに目を輝かせていたが、俺の前には真っ赤なスープの担々麺が現れていた。


(別に辛いもの好きってわけじゃないのだけどな……)


 そう思いつつ、一口麺を啜る。見た目通りの辛さだ。辛いがそれが食欲を増してくれる上に麺に絡みつくスープがこれまた美味しい。次へ次へと箸が伸びてしまう。

 夢中で麺を啜っていると、横から視線が感じられた。シャリヤがじっとこちらを見つめている。


"Fgir es doisn?"

"Mer, ja."


 分けてあげたいところだが、以前ペペロンチーノの辛味でヒーヒー言い出しそうになっていたシャリヤに果たしてこの辛味を耐えることが出来るのだろうか?

 思案していたところ、シャリヤは横からスプーンを伸ばしてスープを一口飲んでしまった。数秒間、彼女の表情は固まり、そして次の瞬間。


"Ers set phertarrarsiten!"


 口に手を当て、お冷を手繰り寄せる。やはり、シャリヤは辛いものが苦手みたいだ。涙目になった彼女を宥めつつ、さっき彼女の口をついて出た不明語を考えていた。

 おそらく "phertarrasiten" という単語は「辛い」という意味なのだろうが "phertars" や "phertarsvirle" によく似ているのが気になった。もしかしたら、関係があるのかも知れない。これについて訊くのはまた今度にしよう。舌がしびれた状態のシャリヤに今訊くのは憚られる。


"えぇす くんろあぅお せぅで ひ......"


 シャリヤは舌が回らないままリパライン語を話そうとしていた。俺はそんな彼女を微笑ましげに見つめていた。


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Xace fua co'd la vxorlnajten!
Co's fgirrg'i sulilo at alpileon veles la slaxers. Xace.
Fiteteselesal folx lecu isal nyey(小説家になろう 勝手にランキング)'l tysne!
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