#316 不思議な占い師
一度来た道を帰るのだから、迷う気は全くしなかった。私は初めて来る道を戻るときのほうが好きだ。最初見たときの風景に安心しながら、新たな発見が出来るからだ。
買い物が終わってあとは帰るだけだ。気分が上がって、ハミングでもしながらスキップしたくなる。そんな道中、いきなり聞こえるはずのない言葉が聞こえてきた。
"Lu mianasti?"
軽い足取りが急に止まった。リパライン語がこの世界で聞こえてくるはずがない。きっと何かの聞き間違いだ。そう自分に言い聞かせるように首を振って、帰路に戻ろうとした瞬間、もう一度その声は聞こえた。
"Mili, lu mianasti."
私の目は完全に声が聞こえてきた方――路地裏の方に吸い寄せられていた。リパライン語が聞こえてくることがあるのだとすれば、相手はシェルケンだろう。でも、こんなところまでシェルケンが入ってきているなんて聞いてない話だ。
気づいたときには足が路地裏の方に向かっていた。危険なのは分かっていたけど、それよりも寄り道をする好奇心の方が勝っていた。
暗くて空気の淀んだ路地裏の突き当りに妙なテントが張られていた。全体的に紫色の布地で出来たテントで、いかにも怪しげな感じを醸し出していた。
"......Co sties mi lurn?
テントから距離をおいて、意を決して声を掛けてみる。一秒、二秒……三秒。返事は返ってこない。やっぱり気のせいだったかな。そう思って踵を返そうとした途端、声が返ってきた。
"En ja plax, lu mianasti."
"Pa, g'es galifarlon notul,......"
"Harmie co lkurf da. mi es hermelerste las dea do."
"Hermelersti? Mal, co es niv xelkener?"
見えてもないのにテントの中の人物が大げさに首を振ったような気がした。
"Xelken xel ken. Xel niv dalle la lex las plax dea. Fai sysito, enerlst shrlo ja."
"Ja......"
恐る恐るテントの中へと入っていくと、更に暗い場所が現れた。中は思ったより広いように感じた。紫色の側面から天井にかけて、キラキラと何かが小さな輝きを見せている。その様子はとても神秘的なものだった。
その奥の方に同じく紫色のベールを被った人物が座っていた。彼は座ったまま微動だにしなかったが、それでも強い視線を向けられているのを感じる。
神妙な時間が静寂と共に経過していく。
"Harmie sties mi lurn?"
"Ar, selene mi hermel co celx edixa miss infavenorti virotein."
"Firlex,......?"
とは言ったものの、納得がいく説明ではなかった。シェルケンでもないのに何故この人はリパライン語が話せるのか。さっぱり不思議だった。
占い師はカードを何処からか取り出して、テーブルの上に置いた。両手でそのカードを混ぜて、立てて、一つの山にまたまとめた。そして、その山札の上から一枚カードを引いて、私の前に置く。
羽のついた人がシャーツニアーに着るようなフラニザを身に着けて、カップからカップに水を注いでいるような絵が書かれていた。
"Ers la irvej."
"Deliu mi...... irvej fhasfa lurn?"
"Ar, niv. La lex kantet irvejoce ja."
"......?"
占い師の声ははっきりと何かを理解しているようだったけど、私には何も思い当たるふしが無かった。節制しすぎているもの……そんなことはないだろう。むしろ今の生活は贅沢だし、節約の必要性すら感じる。
"Co letix kotiel ja."
"H, harmie co qune la lex......!"
"Mer, jol mi molkka."
占い師は肩をすくめる。
"Mole co le ekce destek fai untirk. Jol co es velenece."
"La lex celde lu......"
(今までも十分能動的だったと思うんだけど、これ以上能動的に翠に関わっていくのって……)
顔が熱くなってくる。この占い師は一体何をしろというのだろうか。顔が見えない占い師は「フッフッフッ」と笑い出す。
"Mag, mi celes icveo co'st fqa'it."
そういって、占い師が取り出したのは小さくて細い木の棒のようなものだった。
"Fqa es......?"
"Fgir es co'd surul filx arte'el."
"Pa......"
まだ文句があるのか、とでもいいたげに占い師は頭を振った。しかし、私はそのさきを続ける。
"Mi lus fqa fua harmie?"
"Fhur, firlex, mi kanti gelx shrlo arcies."
そういって、占い師はこのニホンの興味深い文化について語り始めたのであった。




