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#308 多分、ゴジラの鳴き声はそうじゃない


 俺とシャリヤは首が痛くなるくらいに目の前の建物を見上げていた。

 ビル街の中にそびえ立つガラス張りの建物、それが谷山の用意したホテルだった。


 回転式ドアを越えて中に入っていくと、ロビーから高級そうな雰囲気が充満していた。こういう感想を抱くのは自分が庶民的であるという証拠だ。横にいるシャリヤも居心地が悪い顔をしていた。


「大丈夫、いずれ慣れるさ」


 出会った際の野戦服から代わって、似合わないスーツ姿になっていた谷山は事あるごとにそういうのだった。

 カウンターでチェックインをして、谷山に部屋まで送ってもらう。部屋の鍵を開け、カードキーを指したところで彼は仕事があると言って、世間話一つせず帰って行ってしまった。

 忙しい人間だと、思ったが彼は帰り際一枚の茶封筒を渡していた。試しに翻訳してみて欲しいというものらしいが、ホテルまでの移動で疲れ切ってやる気は今更起きなかった。


 ダブルベッドに背中を投げる。柔らかい感触が体を支えた。両手を伸ばして開放感を楽しむ。うむ、悪くはない。


"Selene mi nun panqa'd iulo......"


 シャリヤがベッドの下のほうに腰掛けつつ、心配そうに髪を弄びながら尋ねる。


"Miss sietiv fal fqa?"

"Metista ja, deliu miss sietiv fal ekce liestu."


 俺の返答にシャリヤは少し寂しそうに俯いた。ここは彼女にとって故郷や仲間と遠く離れた異世界だ。だが、きっと彼女は弱音を吐くことは無いだろう。俺がずっとその立場だったからだ。

 シャリヤは強い人間だ。だが、同時にその強さはレジリエントな強さではなく脆い強さだ。だから、俺が支えてやらないと。

 シャリヤの手に俺の手を重ねる。


"Xalijasti, c'ers vynut, mi mol. Ydicelerl mol niv."


 手の暖かさが馴染んでいくとともに心も穏やかになっていく。

 シャリヤは顔を上げてニコッと微笑んでくれた。彼女もベッドに倒れ込んで、俺の真横に仰向けになった。甘い香りが鼻腔を刺激する。


"Xace, Jol mi anfi'erlen. Lirs......"


 腕枕の上のシャリヤがこちらに向いた。愛らしい蒼色の瞳が俺を見つめている。


"Sulaunal es fqa lap?"

"Selene niv co sulaun mi'tj?"


 冗談めかして言うと、シャリヤは真に受けたのか頬を赤くしてしまった。そんな反応をされると、こっちまで恥ずかしくなってくる。

 俺が言葉に困っていると、シャリヤは寝返りを打ってそっぽを向いてしまった。


"Ffffi co lkurf xale la lex, mi sulaun co'tj......"

"Xalijasti?"

"Mi es niv xale la rerot!"

"Hmm......"


 なんだか変なスイッチを押してしまったらしい。恥ずかしげに何やらぶつぶつ小声で呟くシャリヤの冷却を待ちつつ、ランプ台の上に置いた茶封筒に目をやった。

 試しに翻訳してみて欲しい、という話だった。一体どういう文章を翻訳させられるのだろう。ふと、気になって茶封筒に手が伸びた。同時にシャリヤが再び寝返りを打ってこちらを向いた。俺の手にある封筒が気になっているようだ。


"Harmie fgir es?"

"Ers akrunfterl. Si derok mi fua akrunfto lineparine."

"Ers el nihonavirle?"


 シャリヤはどうしてそんな必要があるのかと言わんばかりに不思議そうにそう訊いてきた。


"Ja, edixa si lkurf elmo nihona'd larta'it fhasfa'st zu lkurf lineparine."

"Harmae fhasfa es?"

"Mi ad si at qune niv. Fqa'i akranti mal metista firlex."


 茶封筒を照明に向けて掲げる。透けた中身を二人でじっと見つめた。


"Cenesti, lecu pen ja."

"Firlex."


 両手で開けようとすると、シャリヤを抱き寄せるような姿勢になってしまう。彼女は嬉し恥ずかしそうに俺に体を寄せつつ、茶封筒が開かれるのを見ていた。

 中身はペラ一枚の紙だった。大きな写真が印刷されており、右下に青字のボールペンで日付と何らかの符号が付されていた。写真にはスキャナーで読み込んだような紙に、タイプライターなんかで焼き付けたようなリパーシェが並んでいた。びっしりという感じではなく、ある程度形式的な文章のようだ。


「えっと "xlaiso mels arzarga'd stevypoust :" ?」


 題名を読み上げる。しかし、単語が分からない以上、内容も分からなかった。いま谷山に訳を訊かれたら、「何かに関しての何か、って書いてますね!」と答えるしかない。何もわからないと言っているのと同義だ。滑稽すぎる。

 翻訳を安請け合いしたことに後悔を覚えながら、一緒に文章を見ているシャリヤの様子を伺う。

 彼女は不安げな表情をしていた。


"Xalijasti, ers vynut?"

"Fqa es xelken kranteerl......"

"Ar......"


 シェルケン、その言葉が過去から記憶を引きずり出した。

 ターフ・ヴィール・イェスカとユミリアの敵にして、地球へ侵攻した者たちだ。八ヶ崎翔太の話では、地球は蹂躙されたはずだったが今の状況を見るとそういうわけではないらしい。


"Zu, xelken kile fua elmo?"

"Metista, niss kantet verleto'c penul lineparine. Mag, niss m'elm ete'd unde'd larta'c, arses penul lineparine fal nilirserss."

"Firlex,"


 話の文脈からして "arses" は「強制する、強いる」という意味だろう。シェルケンは異世界に侵攻して、支配した現地人に古いリパライン語を強制しているらしい。地球はその対象になったということか。

 谷山は自衛隊が交戦して、今は睨み合いの状態だと言っていた。だが、ファイクレオネの人間である以上、そこにはケートニアーが居るはずだ。ウェールフープというデタラメを使ってくる相手との戦闘で相手を一時撤退させるまで追い込んだということになる。

 しかし、彼らはまだここに居る。基地を建て、攻めるべき時を見極めているのだ。


"Cirla io miss mol vintifala'c?"


 シャリヤは紙から目をそらしつつ言う。 "vintifal" というのはおそらく「安全な場所」という意味なのだろう。

 確かに危険なのかもしれない。しかし、希望が無いわけではない。


"Xalijasti, miss akrunft xelken kranteerl melx jol fqa is vintifal."

"Pa......"

"Ers vynut. Nihona'd sesnuderss nilirs niv celx edixa niss molkka godzila!"

"Godzi......?"


 きょとんとするシャリヤ、俺は起き上がってそんな彼女に覆いかぶさるように「がおー!」とゴジラの真似(?)をしてみせる。ゴジラの鳴き声は「がおー」なのか少々の疑問はあるが、まあ励ますためだ。多少の違いには目を瞑ってもらおう。

 シャリヤはそんな俺の仕草を見て、こわばっていた表情を緩めた。


"Xace, cenesti, liaxa mi ekce ydicel niv."

"La lex es vynut. Co es le vynut fal snerienen liestu."


 そんな会話を交わしつつ二人でニコニコしていると、背後のドアがガチャリと音を立てて開いた。

 玄関の先には谷山が立っていた。


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Xace fua co'd la vxorlnajten!
Co's fgirrg'i sulilo at alpileon veles la slaxers. Xace.
Fiteteselesal folx lecu isal nyey(小説家になろう 勝手にランキング)'l tysne!
cont_access.php?citi_cont_id=499590840&size=88
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