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#301 両手の可能性


 大きなフィールドだった。運動場のような区画の外側には鬱蒼とした森が広がっている。

 登録が済んだ生徒たちは既に殴り合いを始めていた。決闘のときのような敵味方の区分はもはや意味をなさず、自分たちのペア以外は全てが敵であるような戦いが目の前で繰り広げられていた。文字通りの乱戦だ、不利なペアは寄ってたかって攻撃され、何でもありの無秩序でしかなかった。

 レフィはこちらを一瞥してから、静かに森の方へと下がっていく。


"Lecu miss lern fqa ler, xatvasti. No io elmil es niv."

"mi firlex"


 振れる桃色のツインテールの後を追い、森の中へと歩を進める。そんな俺達を戦いに夢中な生徒たちは全く気にしていなかった。レフィの魂胆としては彼らをして戦うに値しない生徒たちがある程度減るまで待つということだったのだろう。

 森に足を踏み入れるとごそっと目線の先の方で物音がした。先を行くレフィの体が強ばる。音の方に斜に構え、誰かの出現に備えた。そんな俺達の前に現れたのは、エレーナだった。


"Ar, cenesti......"


 彼女は俺を見ると、至極冷静にそう呟いた。彼女の背後にはペアらしき男子生徒が立っている。

 レフィはエレーナと俺を交互に見てから、怪訝そうな顔をする。


"Co qune ci?"

"Mer, Ers xale la lex."


 エレーナのペアは手元に猟銃のようなものを持ち合わせていた。その銃口はこちらに向いている。


"Cene fqa'd elm io paz veles jato luso ja?"

"Ja, pa metista la lex es werlfurpen paz. Jol es niv farfel'd paz."

"firlex,"


 恐らく、ウェールフープの銃、ということは"farfel"は「普通」ということになるだろうか。普通の銃ではないとはどういうことなのだろう。そこのところは良くわからないが、とりあえずという感じで引き金に指をかけている。誤発でもすればこちらに危害が加わる状態だ。

 腕を伸ばしてそれを制止しようとするが、そこでレトラに居た頃のことを思い出して体が止まった。幾ら危害を加えようとしていない素振りをしていても、それが異世界人に通じるとは限らないのだ。服従を示して手を上げて、撃たれたあのときのように。


"Pusnist la lex."


 エレーナはそんな彼を制するように言うと、ペアの男の方は無言で銃を下げた。それでも敵対的な視線をこちらに向け続けていた。


"Deliu miss at elm miscaonj fal zelk?"

"Femarle es la lex. Mal......"


 エレーナはこちらを真っ直ぐ見据えながら、厳しい表情になる。


"Jol niv co celdin xalija felx mi lap mol fua ci ja."

"Jol mi...... text qa'd mors at."


 レフィを一瞥すると彼女は自信に満ちた顔で黙ってエレーナを見つめていた。さっきの答えを引用することは彼女との連帯感を強めていた。

 当のエレーナはそれが不愉快に聞こえたのか、顔を歪めた。オブシディアンブラックの瞳が咎めるように鋭くこちらを見ている。


"Cene niv larta letix jurleten mors fal panqa'd latas ja, cenesti."

"Niv, cene mi es la lex'i. Selene mi es la lex'i."

"...... Firlex,"


 エレーナは瞑目した。双方とも黙り込む時間が暫く流れた。背後から聞こえる野蛮な乱闘騒ぎさえ聞こえなければ、静かな森なんだろうと思った。

 永遠とも思えるようなその時間を割くようにエレーナは唇を動かした。


" edixa mi firlex co tisodel ja. Pa, mi jat niv la lex. Undestan io als es niv cirla filx miss ja."

"Miss at es niv cirla. Harmie co tisod mels la lex?"

"......Fi co furnkie niv tisodel, elmo leus elx shrlo qante ny la lex. Cene co lap celdin als faller eustira......!"


 瞬間、背後から物が焼け焦げるような音が聞こえる。振り向いたのは生理的な反応だった。自分の背中に立っていた木に大きな焼きごてを押されたような後が付いている。生の木が燃える匂いはそれほど良いものではない。これが直撃していれば、自分の皮膚はただでは済まないだろう。


"Wioll mi niv tenta co fal xeu. Elm nioj."


 エレーナの手には白煙がまとわりついていた。ペアの男子生徒も銃を持ち直して、再びこちらに向ける。どうやら、戦いは避けられないようだった。


"Miss tysnen niss, lefhisti."


 レフィは手元にスパークを生じさせながら、頷きで答えた。

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