#297 リパラオネ人に見えますか?
"Fhur...... e mol niv ja......"
そう言って、レフィはベンチに座り込んだ。隣にはガルスが居る。すっかり懐いた様子だが、二人共倦んだ表情になっていた。
学園内を歩き回ってガルスの両親を探し始めてから30分は経過していた。とりあえず、二人で練習所のある棟を隅々まで見てみたがガルスの特徴に合うような、或いは彼が見知っているような仕草をする気配はなかった。棟の外に出たものの、レフィもどこを探そうか途方に暮れている様子だった。それだけこの学園内は広いのだろう。
俺もガルスを挟むようにしてベンチに座った。
"Deliu miss celes melferto lerssergaler'st dalle elx tisoderl ja?"
"Cene niv mi fanken si fal la lexel."
"Mer, p'ers vynut fal fhasfa, co tisod mels ete'd melfertal?"
"Mer......"
考え始めたレフィのツインテールを隣りにいたガルスが引っ張る。彼女が「んにぃ!」と変な声を出すとガルスはすぐに手を離して、申し訳無さそうな顔をした。
"eleferguz......! ahoshndzukh?nshurndarmghoshm......"
"Harmie?"
ガルスがあたふたして言った言葉に対してレフィが怪訝そうな顔をして訊いたことで彼は更に焦り始めた。そんな二人を横目に、俺は言葉を訊いただけで分節できないことから、それがリパライン語なのではなく彼の――"ladira"の――言葉なのだと分かった。
俺はガルスの肩を軽く触って彼を落ち着かせながら、レフィに視線を送る。
"Co firlex niv ladira'd lkurftless ja?"
"Lirs, dyine'd ladira'd lkurftless mol setj. Mi at firlex laprysten......"
彼女が言い淀んだところで微妙な空気が漂ってきた。何か不吉なものを感じて、話題を変えようという直感が働く。
"Ladira lkurf loler lkurftless?"
"Ar...... Ja, rabbija adit caipaop, rkharvanur, hjefy'r, listarme, et mol cixj ladira fal dyinestan filx faikleone'd larta. Siss letix sisse'd flurjnna lkurftless."
"Ar, firlex,......"
納得で息が漏れる。クラディアは確か、デュインという地域があるのはアレークウィという場所だと言っていた。ユエスレオネがあるのはファイクレオネで、そこからウェールフープの技術を使って世界の間を飛んでいるという話だったはずだ。つまり、異世界の異世界というのは本当だったのだ。そのうえで、彼は"ladira"、つまり"filx faikleone'd larta"ということになる。つまり、その意味は「先住民族」あたりということなのだろう。"rabbija"から"listarme"まで並列された意味の分からない名詞は恐らく先住民族たちの名前に当たるのだろう。
そこまで考えついたところで、ガルスの耳が何かを聞き取ったようにぴくっと動いた。彼はさっとレフィの方を見上げた。
"ahoshtghabiyar?"
"Ar, jopp......"
"ghabiyakh?n!"
ガルスは自分のことを指して、"ghabiyakh?n"と何回か言うと目を逸らして少し考える表情になる。一瞬の後に今度は俺たち二人を指して"lipalen?kh?n"と言った。
それを聞いたレフィは目を見開いて驚いていた。
"Metista si lkurf eso si'st rabbija'ct?"
"La lex metista es julesn. Mi tisod."
そう答えると不自然な間が空いた。レフィは少し寂しそうな表情でガルスから視線を逸している。
"Cene niv co firlex rabbija'd lkurftless?"
"Mer...... Ja...... la lex es julesn."
"Ydicel niv, lefhisti. Cene niv lineparine'i lkurf elx xeler's at co'st fasta co."
目に見えて落ち込み気味のレフィに少しおどけながら冗談を言ってみせる。それでもレフィの顔色は晴れなかった。
"Xatvasti,"
"Harmie?"
"Co xel mi fal lipalain larta?"
懇願するような目で俺を見上げていた。間に座っているガルスは静かに二人の会話を観察している。さて、どう答えたものだろう。
そう一度は考えこもうとしたが、特にいい案が浮かんでくる感触もしなかった。素直に答えれば良いだろう。
"...... Cene niv mi lkurf fynet iulo pelx wioll liaxa niv mi nili fua eso co'st lipalain larta ol ete'ct."
そう答えると彼女は嬉しそうに口元を綻ばせた。レフィの目にぱあっと光が集まったように見えた。広陵とした海のような蒼い瞳がキラキラと光を反射している。
レフィは立ち上がって、こちらを見据えた。
"Lecu miss fas melfertesko ja!"
何を言ったのかは良く分からなかったが、レフィはどうやら元気を取り戻したようだ。それだけで何だか、自分まで元気が出てきたような気がした。




